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リアクション
【4】
「さあさ皆の衆、寄ってらっしゃい見てらっしゃい」
空の家『あわび家』。海の家らしい簡素なお店の店先でマネキ・ング(まねき・んぐ)は呼び込みをしている。
「当店自慢の焼きアワビは如何かな。雲島に来てこれを食べずに家路に着くのは損であるぞ。食べれば天国。開運間違いなし」
朗々と宣伝文句を喋る招き猫に惹かれ、お客さんが一人二人と集まってきた。
そんな彼らをもくもくと店の外にまで溢れる白い煙が捕まえる。
焼きアワビ名人のセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が丹誠込めて焼くアワビの煙&薫りが腹ぺこヤングの食欲をくすぐるのだ。
「またアワビを焼くことになるとは。この夏で随分アワビとの仲も深まったな……」
セリスは遠い目で海を見た。
「すみません。アワビ、5個ください」
「ありがとうございます。当店の焼きアワビは最高ですよ」
接客担当のメビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)が笑顔でお客さんを迎える。
「アワビは醤油、バター、ガーリックとお味を選べますけど、どれにします?」
「ええと……じゃあバターで」
「かしこまりました」セリスのほうを向き「バターアワビ5個入りましたー」
「……了解」
焼き網に並んだアワビに、バターを乗せ醤油をすこし、芳ばしい薫りがしてきたところでサッと網から上げる。
外はほんのすこし焦げ目が付き、中はふっくらとそして貝の濃厚なエキスを逃さず閉じ込めてある。
「バターアワビ、出来たぞ」
お客さんははふはふとアワビを頬張った。はふはふしてるので言葉はないが、その素敵な笑顔が全てを代弁している。
セリスとメビウスは顔を見合わせて微笑んだ。
「あら、美味しそう〜」
そこに、天学の水着を着たリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が通りかかった。
鼻をひくひくさせ、美味すぎる煙に誘われるように、店の前に。
「とってもいい薫りね〜。煙だけで白いご飯食べられそう〜。ねぇお嬢さん、私にもアワビくださいな〜」
「ありがとうございます」
「メビウス」
ふとセリスが言った。
「店頭の材料が切れた。冷蔵庫からアワビ持ってきてくれないか」
「はーい。ちょっと待ってて」
そう言って、メビウスは店の奥にある冷蔵庫……いや冷 蔵子(ひやの・くらこ)の元に。
360度完全にただの冷蔵庫だが、こう見えて彼女、機晶姫なのだ。
「食材とデザートの保管ならおまかせデス。空の家の冷蔵庫として職務を全うしているのデス」
「……ねぇ蔵子」
中を覗き込んだメビウスは眉を寄せた。
「気のせいかな、入れておいたデザートの数が減ってる気がするんだけど」
「ほ、本当デス?」
結露で出来た水滴なのか、それとも冷や汗なのか、蔵庫のボディにふつふつと水が噴き出た。
「し、知らないデス。ワタシは無実デス。常識で考えれば犯人は“ヤス”デス」
「蔵子……」
「よーし、BBQコンロ設置したわよ」
フレリア・アルカトル(ふれりあ・あるかとる)とヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)はBBQの準備をしていた。
ヴェルリアは天学水着に水色のパーカーを、フレリアは天学水着の上にピンクのパーカーを羽織っている。
実はあわび家では、焼きアワビの販売のほか、お客さんがBBQを楽しめるよう用品の貸し出しもしているのである。
「次は野菜を切って下ごしらえをしましょうか」
「OK」
ヴェルリアとフレリアは野菜を食べやすい大きさにカットし、鉄串に刺して並べていった。
ピーマン、ナス、とうもろこし、しいたけ、ししとう……鮮やかな色の野菜はとっても美味しそうだ。
フレリアはふと食材から顔を上げて、きょろきょろと辺りを見た。
「……ところで、さっきから姿が見えないけど、リーラはどこ?」
「真司と一緒に買い出しに行ったんじゃないですか?」
「真司はひとりで行ったわよ」
フレリアはため息。
「……ったくあいつ、どっかでサボってるわね。帰ってきたら文句言ってやらないと……って言ってるそばから帰ってきた」
「ただいま〜。準備できたみたいね〜」
両手に袋を持ったリーラが帰ってきた。
「ただいま〜……じゃないわよ。どこ行ってたのよ」
「どこって買い出しに決まってるじゃない〜。どうせ真司が買ってくる分だけじゃ足んないし〜」
リーラは袋を置いた。中には大小様々なたくさんの飲み物が入っている。
「なにその大量の飲みものは?」
「お土産♪ 喉渇いたでしょ、どうぞ」
リーラは缶を投げてよこした。
「あと、焼きアワビも買ってきたから〜」
「こんなもので誤摩化され……」
「真司もまだ戻ってくる気配はないですし、先に乾杯しちゃいましょうか」
「ちょ、ちょっとヴェルリア!?」
フレリアを余所に、ヴェルリアとリーラは乾杯した。
「……なんか妙な苦味がありますが、このジュース美味しいですね」
「気に入った? どんどん飲んでね〜」
フレリアはやれやれと肩をすくめた。
「……ったく」
プシュッと缶を開けて一口飲む。
「……ひっく。あによこれ?」
その一口でフレリアの目が据わった。
ヴェルリアのほうも顔を赤くしてぽーっとぼんやりしている。
「あなた達、お酒よわいのね〜」
「さ、酒れすって!?」
「せっかくのバカンスだもの。どうせなら色んなお酒を試そうと思って買ってきたの」
取り出したのは、本格雲焼酎『蔵人』。
魔法で雲から精製したというまこと不思議なお酒。雲を掴むようにとらえどころのない口当たりが特徴だ。
それからコンロンはミカヅキジマ名産の老酒『ながねこ』。
フルーティな甘みが女性に人気の品だが、輸送の関係でシャンバラでは手に入りづらいレアな一本だ。
「あとこっちはシボラのパパリコーレ族が成人儀式の時に開ける特別な赤ワインなんだけど……」
「しょんなことはどうでもいいのよら」
右へおっとっと、左へおっとっと。生まれたての子鹿のような足取りで、フレリアはふらふら。
「大体あんらふらふらしすぎなのらよ。ふりまわしゃれるこっちの身にもー……」
「そんなふらふらしてる人に言われても〜」
「う、うるしゃいのよら!」
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