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リアクション
【2】
もうすぐ10月。光陰矢の如しとはよく言ったもので1年なんかあっという間だ。
さて、10月と言えばあのイベント。そう、10月13日のさつまいもの日……あ、違うの? そうそう、ハロウィンである。
久世 沙幸(くぜ・さゆき)、沢渡 真言(さわたり・まこと)、アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)の仲良し3人娘は今年のハロウィン衣装を探そうと空京のコスプレショップに繰り出していた。なんてことのない普通の休日……のはずだった。
店内にはたくさんのハロウィン衣装、ジャックオーランタン、吸血鬼、フランケンシュタイン、ゾンビ……。
3人はきゃっきゃっと衣装選びに夢中になっていた。
「ほら、真言にはこんなのが似合うんじゃないかな!」
沙幸がすすめるセクシーな魔女っ子コスチュームに真言は、ええー……と、困り顔。
「あ、あのー……ザックリ背中が空いてますよ?」
恥ずかしそうにする真言だが、実際着てみると、もじもじしてるのも相まって可愛くていい感じである。
「ほら、似合うー」
「で、でもやっぱり……背中がすーすーして恥ずかしいです……」
壁に背を向ける彼女に、パシャシャとフラッシュの雨。
デジタル一眼ARMERIAを構えたアルメリアが、上から下から、様々な角度から写真を撮りまくる。
「いいねいいねー、可愛いよー。うんじゃあ思い切っちゃおうか」
「ろ、ローアングルはやめてください。み、見えちゃう……」
短めのスカートの裾をきゅっと掴む。
「あははっ、真言ちゃん顔赤くなってる。可愛いなー」
端から見てても微笑ましく思える楽しい休日を過ごしていたはず……だったのに!
パリパリっと世界にノイズが走った瞬間、お店にいたお客も店員も煙のように消えてしまって、急にしんと静まり返った。
「え……?」
ここは空京にして空京にあらず、現実のようで現実にあらず、変態コレクションのヴァーチャル世界。
AIによって変態事案を確認された人たちが現在進行形で放り込まれて囚われている世界なのだ。
「ええっ、私達が変ムス? どういうことなの??」
沙幸が尋ねると空間に画面が開き、簡素な子どもの落書きのようなーー(・▽・)ーーこんなAIの顔が出てきた。
『こんにちは。新しい変ムスの皆さん。以下の変態事案が確認されましたため、変ムスとして登録させて頂きました』
沙幸、友達をコスプレさせた。レアリティ【コモン】。
真言、魔女っ子の格好をした。レアリティ【コモン】。
アルメリア、友達を激写した。レアリティ【コモン】。
「……なにこのコモンって?」
コモンとは、カードゲーム等における希少価値を現す用語のひとつ。
コモンが最も価値が低く、次いでアンコモン、そこからレア、スーパーレアと価値が上がっていくのだ。
「変態よばわりされた上に価値が低いって……」
二重に複雑である。
「ひゃっひゃっひゃっ、どーやら新しいお友達が増えたみたいだなぁ……!」
モヒカンでぺろぺろとナイフの舐めるナイフマニアとスキンヘッドで全身迷彩柄のガンマニアの変ムスが現れた。
「なにこの人たち……?」
『変コレは変ムスを集めて戦わせるゲームです。変ムス同士が遭遇したのでバトルスタートとなります』
「ふぅん…………え!?」
「と言うことは……この人達と戦うの?」
真言とアルメリアは目を丸くした。
『勿論。皆さんの健闘を祈ります』
2人の悪そうな変ムスは問答無用で襲いかかってきた。
「……下がってくださいっ!」
真言が2人を守る。
常に持ち歩いている鋼糸武器『憂うフィルフィオーナ』を繰り出し、敵変ムスを攻撃!
ところが、空気を斬り裂き迫る糸をぺいっとナイフマニアはいとも容易く弾いてしまった。
これには誰よりも真言本人が驚いた。見た目は可愛らしい乙女の真言だが、こう見えて熟練の技を習得した戦士なのだ。そんじょそこらの契約者では太刀打ち出来ないレベルである。なのに、明らかにパラ実の下っ端チンピラみたいなナイフマニアにいなされてしまった。
「わかってねぇなぁ。ここじゃこれのみがモノを言うのよ」
ナイフマニアの横に画面が開くと、そこにはレアリティ【アンコモン】の文字が。
同じくガンマニアも【アンコモン】。変態力では彼らのほうが上なのだ。
「ひゃっはーーーっ!!」
「きゃああああああああああああああああーーーっ!!」
ナイフマニアの乱れ斬り裂き、ガンマニアのハッピートリガーの前に、3人はあっという間にやられてしまった。
もしここが現実なら、この3人ほどの力があれば目の前の2人なんてちょちょいのちょいで挽き肉にしてハンバーグに出来るのに。
「か、適わないよ。だって私たち普通なんだもん……!」
沙幸は言った。
「そうですよ、私たち変態なんかじゃありません! 私だってこの服装はあくまでアルメリアさんや沙幸さんとハロウィンを楽しむための仮装の為であって、けして普段からこんな派手な格好をしているわけではないので……!」
『では普段は何を着られているんです?』
AIが真言に尋ねる。
「え、普段ですか? 執事服ですけど……」
ピロリロリン♪
「……なんですか今の音?」
『変態値が加算された音です』
「ちょっと待ってください、おかしいですよ! 執事なんだから執事服を普通に着てても変じゃないんですからね! これが変だというのであれば、1時間ほど正座で説教をさせた上に、私の修行のお手伝いをさせますよ!」
「そうよ。ワタシも変態じゃないわ。見えそうだけど見えてなかったりするのはあっても年齢制限がかかりそうな写真は撮ってないわよ……少しきわどい感じのものは、確かにあったかもしれないけれど、仕方ないわよね、だってその、恥ずかしそうな表情とか仕草とか可愛かったんだもの」
アルメリアはそう言ってカメラのファインダー越しに敵変ムスを見る。
「男の子でも女の子でも可愛ければ写真に撮っておさめたいんだけど、可愛くないなぁ……。こうなったら、ピンチに緊張する沙幸ちゃんと真言ちゃんの姿を記念に撮るしかないよね。ローアングルから太ももナメで。うん、いいよぉ、可愛いよぉ……ぱしゃぱしゃ」
「あ、アルメリアさん、こんな時に……って、なんでローアングルばっかりなんですか!」
またしても真言はスカートを押さえる。
「だって恥ずかしがる顔がかわいいんだもん♪ あ、ちゃんとあとで写真送るからねっ」
ーーもちろん自分用にも残しておくけどね。せっかく貴重な体験をしたのだから思い出として、ね?
ピロリロリン♪
アルメリアにも変態値が加算されたようである。
「なによ、変態値って。私たちは変態じゃないんだから。変態なんて言われたって、友達だもん、コスプレさせたりなんて普通のことだし……それに私だってコスするんだもん。友達にさせたんだから自分だってするのは当然でしょう」
沙幸はラックにかけてあった衣装から大ババ様風コスチュームを手に取った。
「あ……露出度高いの取っちゃった。ちょっと抵抗あるけど一回手に取ったんだから着るしかないよね……」
ダダダッと試着室に駆け込み着替える沙幸。
またダダダッと戻ってきた彼女は「どお?」と変身した姿を見せる。
布面積が極端に少ないコスチュームは服というか紐。股上の浅いパンツに、横ちち、下ちち、出血(筆者の鼻血)大サービスの衣装である。
これにはナイフマニアもガンマニアも、ぶしゅっと鼻血を噴いた。
「おい、ねーちゃん! 露出狂かよ!」
「へ、変態だ……」
「変態じゃないもん! ハロウィンなんだし、これぐらい普通でしょ!」
それはブラジルのハロウィンかなにかだろうか。
チャーラッチャラー♪
「……ん? なにこの音?」
『レアリティアップです。おめでとうございます』
沙幸は【コモン→アンコモン】に!
「れ、レア度が上がってるー。だから、これくらい普通だってば。よーしわかった。だったらもっと普通だって言う証拠見せちゃうんだもん」
「あの、沙幸さん?」
「ちょっとごめんね」
おもむろに真言の衣装に付いていたマントを外すと、指先で彼女の背中をつつつとなぞった。
「……はぁぁん! ちょ、なんで背中を触っているんですかね!? やめてください背中は……背中はっ!」
「あっ、ずるいわよ沙幸ちゃん! ワタシも真言ちゃんの背中触っちゃうんだから!」
アルメリアも一緒につつつ。
「はあん……!」
「ほーら、友達同士だし、女の子同士だし、これくらい普通のことなんだからね! だから変態じゃないもん!!」
真言をなぶってなぶって嬲り倒す……!!
チャーラッチャラー♪
「!?」
『おめでとうございます。以下の変態事案が確認され、大幅に変態値が加算されました』
沙幸、友達にさせただけじゃなく自分もキワドイコスプレした上に友達を嬲った。レアリティ【レア】。
真言、友達に嬲られて悦んだ。レアリティ【レア】。
アルメリア、友達と一緒になって友達を嬲って遊んだ。レアリティ【レア】。
「ど、どんどん変態になってく……!!」
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