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第6章 通りすがりのサンタさん

 24日の日中、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)に誘われて空京のレストランに食事に来ていた。
「クリスマスのコースとか、予約はしてないんだ。好きなものを頼んでくれよな!」
「はい。……ええっと、グラタンと、ポトフが食べたいです。飲み物は……」
 ちらりとアレナは康之の顔を見てから「……葡萄ジュースで」と言った。
「もしかしてワイン飲みたかったか? 1杯くらいなら酔わないと思うし、もしもの時も送っていくから大丈夫だぜ?」
 康之はそう微笑むが、アレナは首を左右に振った。
「お酒、飲むと良い気分になるんです。普段出来ないことができたり。今日は特別な日なので、飲みたいなとも思うんですけれど、でも今晩、まだ用事があるので、やめておきます」
「そっか。それじゃ、同じジュースで乾杯しよう!」
 康之は葡萄ジュースとパスタとサラダ、スープを注文し、先に届いたジュースで2人は乾杯をした。
「今日さ、菓子の詰め合わせを買った時『靴下ポスト』ってのをもらったんだ」
「あっ、康之さんも貰ったんですか」
 康之の言葉に、アレナは目をキラキラ輝かせる。
「お、アレナも貰ったのか。最近は粋なサービスをしてるもんだなぁ」
「はい! 玄関のドアノブにかけておくと、サンタさんがプレゼント入れてくれるそうです。楽しみです……。康之さん家にもサンタさんプレゼント持ってきてくれますよ!」
 アレナはとても嬉しそうだった。
「うんうん。でも、俺はもう『贈る側』になったからサンタは来ないんだ」
 康之がそう言うとアレナは不思議そうな顔をする。
「というのも、俺がまだ孤児院にいた頃なんだが、そこでは毎年クリスマスになると先生が寝ているチビ達にプレゼントを置いてたんだ」
「先生が、サンタさん……だったのですね」
 頷いて、康之は話を続けていく。
「だけどある年だけ俺が代わりにその役目をやった事があるんだ。
 ホントはその時だけのつもりだったんだが、次の日の朝にチビ達が喜んでるの見たらすっげぇ嬉しくなってな。それ以来俺がサンタをするようになったってわけだ」
「康之さん、サンタになったのですね」
「ああ。だから、俺のところにサンタさんは来ない。サンタさんがサンタさんにプレゼントあげるわけにいかないだろ?」
「そうなんですか……。サンタさんは良い子にプレゼントをくれるんですよね」
「そうだ。しかし、康之サンタは今年も良い子のアレナにプレゼントしたかったものはあげられそうにないんだ。すまん!」
 康之の言葉に、アレナは笑顔で首を左右に振った。
「ずっと、終わらない方が、いのかも……しれません」
 その言葉の意味は、康之にはよくわからなかった。
 アレナ自身も、自分の気持ちがよく分かっていなかった。
 最高のプレゼントをもらうということが、終着点のようにも思えて。
 彼の一生かかっても、という言葉通り。
 ずっと、ずっと。康之がプレゼントを……自分のことを考えていてくれることを、とても幸せで、掛け替えのないことだとアレナは漠然と感じている。
「だけど、俺がプレゼントできなかった分、他のサンタさんがプレゼントしてくれるはずだ!」
「はい!」
 康之の笑顔の言葉に、アレナも笑顔で返事をして。
 街の賑やかさと、イルミネーションに負けない明るさと輝きを放ちながら、2人は楽しい時間を過ごした。

 その日の夜、アレナは優子達とのディナーを楽しんだ後。1人、自分の部屋に戻った。
「ただいまです、クマーちゃん」
 椅子に座らせてあったぬぐるみを抱き上げて寝室に連れて行き。
 お風呂に入って寝間着に着替えた後、一緒にベッドに入って眠りに落ちた。
 そして、翌朝。クリスマス当日。
 寝間着のまま、アレナはドアにかけてあったクリスマスポストを見にいった。
「サンタさん、来てくれましたでしょう、か」
 中には、サンタのシールが貼られた箱入りのお菓子、と――。
「クマー……ちゃん?」
 大きなクマのぬいぐるみが入っていた。
『クマーだけ寂しいから相方をあげよう。一年間頑張ったご褒美じゃ。ハッピークリスマス!
 通りすがりのサンタより(´ω`)b』
 一緒に入っていたメモをアレナはびっくりした顔で確認して。
「……クマーちゃん……。大変、です。妹ちゃんが来ましたよっ!」
 アレナはクマー2号を抱き締めて、寝室にいるクマーの元に駆けて行った。
「通りすがりのサンタさんが連れてきてくれたんです。……はい、お菓子は仲良く半分こ、ですよ」
 ベッドに並べて座らせて。
 アレナは2つのクマのぬいぐるみの頭を、愛しげに大切そうに撫でた。