校長室
人形師×魂×古代兵器の三重奏~白兎は紅に染まる~
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22 限界を超えて 戦いは本来ならば、一撃必殺。どのような強者でも連戦すれば次第に疲弊していくのは必定。 それは兎と戦い続ける契約者達も同じ事であった。最初は圧倒的に契約者達が押していた。しかし、時が経つにつれ、数によって押し込まれてしまっている。 ガルディアは治療スペースを猛然と目指す群れと対峙していた。無策に近づけば斬り捨てられる為か、兎は波状攻撃を仕掛ける。それは本能のなせる技なのだろうか。 波状攻撃は次第にガルディアの残り少ない体力を奪う。動きも次第に緩慢となり、兎から一撃もらってしまう事も増えてきた。肩や腕には傷が目立つようになる。 「くっ……継戦能力低下……危険域まであと数分といった所か」 片膝をついた彼の目の前には数百を超えるであろう兎の群れ。それらはゆっくりとにじり寄ってくる。 ここを突破されるわけにはいかない。ならば、委ねよう……今一度、殺戮の力に。 彼は刀を鞘にしまうと目を閉じて深く深呼吸。次の瞬間、目をあけた彼の瞳は紅色に染まっていた。 髪も赤く変色し、うっすらと紅いオーラを纏っている。掌から紅い刀身の刀を引きずり出すとそれを兎達へと向けた。 兎達は足を止め、目の前の人物の異変に気付く。彼らは悟る。本能的に。戦ってはいけない相手だと。 地を蹴ったガルディアは、空中から斬り下ろすように兎達の群れを急襲する。紅い軌跡を描いて、彼は舞う。流れるような動きで。 一太刀で群れを斬り飛ばし、その半数を葬った。胴体から上を失った兎達の身体から激しい血の奔流が迸る。赤い雨が、辺りに降り注いだ。 血を滴らせる紅色の刀を携えて彼はゆっくりと歩く。一歩一歩確実に。目標を破壊する、その一点だけを胸に。 紅い戦鬼に果敢にも挑んだ兎が一匹。壁を蹴り上空から牙を剥いて襲い掛かるが、胸部を一突きにされ、断末魔を上げる間もなく絶命する。 刀を振るって亡骸を放り捨てると、彼は刀身を突き出すように構え、回転しながら兎達へと突進する。 床や壁ごと大きく削り取りながら、紅い竜巻ともいえるそれは兎を葬る殺戮マシーンとかした。 逃げ惑う兎を容赦なく肉塊へと変え、鮮血を撒き散らす。 無慈悲な紅い竜巻はものの数分で数百ともいえる兎の一団を綺麗さっぱり掃除する。 紅色を失い、元の姿へと戻ったガルディアは壁を背にして荒くなった呼吸を整えようとしていた。 「はぁはぁ……がっ……うっ……はぁはぁ」 体のいたる所が悲鳴を上げている。限界機動、限界駆動等、危険を知らせるアラームが彼の頭の中に響き渡る。 先程の力はシステムのオーバーロードのような物。戦況を覆す火事場の馬鹿力とはなりえるが、消耗は激しく使用後はほとんど身動きが取れなくなってしまうのであった。 それを消耗した身で使用したのだ。そのツケはかなり大きく、腕や足が壊れて弾け飛んでいない事が奇跡に近い状態であった。 また近づく別の兎の群れを発見し、彼は刀を支えによろよろと立ち上がろうとするがそれを制止する者達がいた。 遠野 歌菜(とおの・かな)と月崎 羽純(つきざき・はすみ)である。 二人も決して無傷とは言えないが、動けないガルディアよりは状態は幾分かいいと言える。 「あのぐらいの数なら……私達だけでもできますっ!」 「だが、休んでいるわけには……ぐっあ……」 立ち上がろうとするガルディアの肩を押さえる羽純。 「無理をするな。連戦に次ぐ連戦。他の者よりも戦い続けているお前は、一番疲弊している。大技の後くらいは少し休め」 無言のままガルディアはしばし考えると、一言、頼むとだけ告げ、壁に背を預け乱れた呼吸を整える事に専念した。 ガルディアからその場の守りを受け継いだ二人は向かってくる兎達と対峙する。先程の数百単位の群れとは違い、せいぜい数十程度の数。落ち着いて対処すれば負けることはない。 歌菜は目を閉じると静かに歌を口ずさみ始める。エクスプレス・ザ・ワールド。極限まで高めた芸術による攻撃。 歌によって紡がれた事象は、局所的に現実世界へと干渉を始める。ゆっくり、そして確実に。 集中し歌を紡ぐ歌菜を守る為、羽純は彼女の前に立ちはだかる。 飛び掛かり襲いくる兎を氷の壁を盾の様に展開し弾き飛ばす。鋭利な牙とぶつかった氷の壁はすぐにダメになり、ほぼ使い捨てとなっていた。 それでも隙を狙って近距離に突進してくるような兎はショックウェーブを放って退場を願った。 「悪いな、歌姫へのお触りは……ご遠慮願おう」 羽純が兎を吹き飛ばし、時間を稼いでいる間にも歌による事象の変化は続く。足元の床には複雑な紋様の魔方陣が描かれていき、それは兎の群れを囲むように展開を完了しようとしていた。 歌がクライマックスの部分に入ると、局所的であった事象の変化が一気に発動する。 床に描かれた魔方陣が明滅し、無数の剣を顕現化させた。それらは床から突きだし、縦横無尽に跳ね回っていた兎達を串刺しにする。身動きが取れずにもがく兎達の頭上に床の物と同じ魔法陣が高速で展開された。 それらはまるで群れを大きな檻で囲むように一つ、また一つとその数を増やしていく。 囲みきった所で、一斉に槍が上空の魔方陣から放たれる。それらは容赦なく降り注ぎ、群れを刃の檻で閉じ込めた。数刻の後それらは消失し、無残に貫かれ穴だらけとなった兎達の亡骸だけが残された。 歌菜と羽純はあとから到着した別の契約者にガルディアを治療スペースへ後退させるように頼むと、その場の守りに徹した。