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一会→十会 —雌雄分かつ時—

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【魔法世界の城 南の塔・3】


「あはは……ちょっと無理、しちゃいました」
 先程よりは――闇のアレクの魔法を受けた直後の時よりは――いくらか元気そうな顔で豊美ちゃんが笑った。

 結局、豊美ちゃんが倒れた後ネージュが必死に治療を行ったおかげで、大事には至らなかった。闇の魔法使い達を退けた影響か、辺りの瘴気も払拭され、この一帯に限っては平穏を取り戻していた。
 しかし、契約者側の受けた被害もなかなかに大きかった。縁とさゆみは治療を受け一命を取り留めたがこれ以上の戦闘行為は不可能であり、豊美ちゃんも似たような状態。ネージュは皆の治療で疲れたのか、今は豊美ちゃんの膝でスヤスヤと寝息を立てていた。満足に動けるのはアッシュとフィッツ、この戦いでは温存していたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)ラブ・リトル(らぶ・りとる)のわずか四名であった。
「アッシュさん、どうか先に行ってください。私はここで、皆さんの帰りを待っています」
「何を言うんだ! 共にヴァルデマールを倒すと誓ったではないか。
 動けないというのなら私が背負ってでも――」
「はいはい、気持ちは分かるけど、ね」
 豊美ちゃんに迫るコアを押し留め、ラブが豊美ちゃんの目の前でツン、と胸を張って言った。
「任せといて! みんなでヴァルデマールをぶっ飛ばして、みんなで帰ってくるから!」
 その声を聞いて、豊美ちゃんは安心した顔を見せた。
「豊美ちゃん、ここまでありがとう。必ずヴァルデマールを倒して、魔法世界に……パラミタと地球にも、平和を届けると約束する」
 アッシュが豊美ちゃんの意思を引き継いで、そして振り返り先へ進もうとした矢先、背後から「待って」と声がかかった。アッシュが振り返ると、アデリーヌに支えられてさゆみが、何度かアッシュを見ては目を逸らすのを繰り返した後、スッ、と息を吸ってアッシュを見て言った。
「魔法が当たりそうになった時、助けてくれて……その、ありがとう」
 さゆみの声を聞いたアッシュが驚いたような顔をして、それを見たさゆみの表情が険しくなっていくのに気付いて、慌てて言葉を紡ぐ。
「そんな、お礼なんて。……僕は君に酷い思いをさせていたから。
 ほんの少しでもいい、力になれたらいい、そう思っていただけだ」
「あの事は……えっと……私の思い込みが強すぎたのが原因よ。
 アッシュが悪い……わけじゃない。私の方こそ……うん、ごめんなさい」
 頭を下げたさゆみは、自分の内につっかえていたものがスッ、と抜けて行く感覚を得た。頭の中に「もっと早く言っていたら」という思いが浮かんだが、さゆみは自嘲気味に笑って考えを打ち消す。
「私は豊美ちゃんと、ここに居る事にするわ。……勝って、終わりにしてくれるんでしょ?」
「……ああ!」
 見上げてそう口にするさゆみへ、アッシュもどこかスッキリとした顔で頷いた。

「決着を、付けられたのですね。立派ですわ、さゆみ」
「あんな時じゃなきゃ言えないわ。まだ、ケジメを付けられたわけじゃないけど、とりあえずは一歩、でしょ。
 あー……もうダメ、起きてられない。ちょっとだけ寝てもいい、アデリーヌ?」
「ええ、どうぞ」
 微笑んだアデリーヌの膝に頭を載せて、さゆみが身体を横たえすぐに深い眠りに落ちた。
(良かったですね、さゆみさん、アッシュさん)
 二人の『仲直り』を、我が事のように豊美ちゃんが喜んだ。