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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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リアクション


●旅立ち(departure)

 窓の外は一面の紅葉だ。
 風が吹くたび、茜色がはらはらと舞う。
 枝から離れない葉もある。落ちて、そのまま地面を目指す葉がある。あるいは落ちる途上で吹きあげられ、いずこかへ天翔けゆく葉もある。
 時は2024年の秋。
 現在ここ、イルミンスール魔法学校の校長室で熱心に話し込んでいるのは、この部屋の主エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)とそのパートナーアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)、そして生徒の赤城 花音(あかぎ・かのん)赤城 リュート(あかぎ・りゅーと)の四人だった。
「イルミンの今後への提案だけど……」
 ハーブティーのカップを置いて花音は言った。
「『摩訶不思議&アドベンチャー』って感じのノリで良いんじゃないかな? ボクたちは……そう思うんだ。世界にはまだまだ、スリルな秘密とか愉快な奇蹟とか、そういった冒険(アドベンチャー)に満ちあふれている。これをイルミンのイメージにしていっては、って思うんだけどどうかな?」
 と熱っぽく語る妻をフォローするようにリュートが言う。
「ああ、あの……花音の提案はちょっと感覚的すぎるかもしれませんが、大意はわかっていただけるのではないでしょうか? イルミンスールは冒険を求める若者を応援し育成する学校でいてほしいというのは、僕も同感です。魔法の研究を続けるのはもちろんですけれど、魔法を極めるのもロマンチックなことですし、『冒険』だと言えると思います」
「その提言や大いによし、じゃよ。いくら世に太平が訪れたといっても、ロマンを忘れてしまってはいかんからのう……心しておきたいものじゃ」
 アーデルハイトはうなずいた。エリザベートも同感のようだ。
「ところで、ふたりのこれからを聞きたいのですぅ」
「あ、そうだった! 進路指導だったよね、今日♪」
 花音は頓狂な声を出す。話し込んでいるうちに、秋のお茶会を楽しんでいるような気持ちになっていたのだ。
「まあ、ここは教育機関で、我々は教師じゃからなあ」
 はっは、と笑ってアーデルハイトはその先を促した。
「さて、ボクの目指す道は……」
 コホンと咳払いして花音は言った。
 名前も忘れられた星の再生を目指したい、と。
「たしかに今は……世界の危機を乗り越えることができたよね。でも、根本的なところが変わっていないのなら……数千年の先に……また同じような危機が巡って来るのかもしれない。だから……今、行動を開始したいんだよ」
「それは大きな話ですねぇ〜」
 エリザベートは興味津々の様子で、話しながら身を乗り出した。
「僕たちも、宙に浮いた話だとは思ってはいますよ」
 リュートが言葉を添える。
「ただ、地球でも大陸が移動することが常識化したのは、せいぜいここ百年ほどのことだったと思います。僕たちが目指すところも、それくらいのスケールでの調査になりそうですね」
「なんの、私も長生きしておる。スケールが長大だとは思うが、長大なことはけっして悪いことではないぞ。歴史をふりかえってみても先駆者、つまりパイオニアというのは、当時の世間からすれば大きすぎることを言うものなのじゃ」
「大きいことはいいことなのですぅ」
 アーデルハイトもエリザベートも、リュートの言葉を支持した。
 さすがおふたりとも人間が大きい! と花音は笑って、
「今はまだ仮説になるんだろうけど、地球とパラミタが魂の循環の関係にあるというのは感覚として理解できる。でも、循環するのが惑星と大陸というのは……釣り合いが取れないんじゃないか、って違和感はがあるんだ。
 だから、ボクたち『チーム花音』はこの違和感を解き明かすための調査をしたいんだよ。まず、本格的な調査隊を編成できるような新発見をすることからスタートしたいね」
 ヒートアップしてきたのだろう。花音は腰を浮かし、両手で身振り手振りを行いながら話を続けた。目はきらきらと輝いている。
「ボクたち『チーム花音』はアーティストとして……まず、パラミタ横断ツアーライブを企画していてね。世界が安定して、これからはパラミタ各地を巡る機会が増えそうなのも、ちょうどいい機会だと思うんだ。そう言えば理子代王も……諸国漫遊へ向かいたいらしい、って聞いたことがあるね……便乗するのも楽しいかも♪」
「つまり、花音のパラミタ横断ツアーライブと、並行しての冒険となるということです。どうやら居が定まることはしばらくなさそう……あぁ……僕も忙しいです」
 リュートは笑った。どうやらおめでたの話があったとしても、それはもう少し先、落ち着けたときになりそうだ。
「疲れたときは、申師匠の構える休養地ニルミナスでゆるりとすごしましょう。イルミンにはウィンが待機してくれます。また、征服王は同行して頂けます」
「なるほど、後のことも先のことも、それほど不安になることはなさそうですねぇ」
「それに、なんと言っても楽しそうじゃ。私も今の立場がなければ、ついて行きたいくらいじゃわえ」
 ありがとう、と花音はこたえた。
「未来を描きながら……今も楽しまないとね♪ 最愛の夫のリュートとともに……色々と忙しくなるけど……きっと充実した日々になりそうだよ! それに、作曲もどんどん頑張るよ☆」
「うちの本業はアーティストです! ここはブレません!」
 そういうリュートの顔はとても誇らしげだ。
「話はよーくわかった。旅とステージと調査の日々か……まったく、うらやましいことこのうえないのう。我らは喜んで送り出すとしよう」
 アーデルハイトは立ち、
「それでは、しばしのお別れなのですぅ。また、戻ったらお土産話を聞かせてほしいのですよぅ」
 エリザベートも立った。
 エリザベートが差し出した手を花音が、リュートの手をアーデルハイトが握った。
「さらば、とは言うまいよ。また会おう、と言うことにしようか」
「それではまた会いましょうですぅ〜」
 ふたりに見送られ、花音とリュートは校長室から、イルミンスールから、未来へ向けて歩み出す。
「はい。新たな冒険へ……旅立ちます」
「さあ、行かなくちゃ! ……だね☆♪」

 未来にはなにが待っているのだろう。
 どんな人生になるのだろう。
 幸せばかりではあるまい。ときには逆風に吹かれるだろうし、困難に直面することもあるはずだ。
 けれどためらってはいられない。花音とリュートは手を取り合って進む。
 自分たちの足で歩かなければ、なにも得られはしないのだ。