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リアクション
「この樹海に、遺跡があるんだよね?」
「そうだよ。未羅ちゃんの記憶を取り戻す手がかりが見つかるといいね!」
蒼空学園の朝野 未沙(あさの・みさ)は、地上で騒ぎになっていることも知らず、パートナーの機晶姫朝野 未羅(あさの・みら)と共に小型飛空艇で樹海の上空を飛んでいた。二人とも樹海への立ち入り自粛勧告が出ていることを知らないので、希望いっぱい夢いっぱい、ちゃんと理由を言ってお願いすれば、きっと遺跡の中へ連れて行ってもらえるはず!と思っている。
しかし、遺跡の上空を飛んでいた、教導団の校章が胴体と翼にペイントされた二機のセスナは、二人の方へ飛んで来ると、周囲を取り囲むように旋回しながら退去するよう呼びかけて来た。
『現在、当地域は鏖殺寺院との交戦状態にあります。危険が予想されるますので、早急に退去して下さい。なお、降下した場合は敵勢力と判断します』
「あたしは、機晶姫や機晶石について色々と詳しいことを知りたいと思っています。ここの遺跡のような場所になら、何かしらの研究材料があると思うんです。
どんなに些細な事でも構いません、あたしに機晶姫や機晶石、古代の兵器に関することを研究をさせてください。研究した結果についての資料を出せ、と言うのならお出します。あたしにシャンバラ教導団のお手伝いをさせてください!!」
未沙は叫んだ。だが、セスナのパイロットは退去するようにと繰り返しながら、飛空艇を樹海の外へ押し出すようにセスナを旋回させて来た。どうやら、操縦席まで未沙の声は届いていないらしい。
「ねえ、未沙お姉ちゃん、どうしよう……このままじゃいられないし、でも降りたら敵だと思われて攻撃されちゃうんだよね?」
未羅が困り顔で訊ねる。未沙はセスナを見た。セスナには、機銃が搭載されている。射撃の精度がどの程度のものかは判らないが、飛空艇とセスナのスピードの差を考えると、強行突破はかなりの危険を伴うだろうと思われた。
「お願いします、遺跡に入らせてください!」
美沙は何度か繰り返したが、セスナのパイロットは攻撃こそして来ないものの、二人を追い出そうとするのを止めない。
「……しかたないなぁ……帰ろう、未羅ちゃん」
美沙は未羅を促して、樹海の外へ機首を向けた。
『小型飛空艇、退去完了しました。上空の哨戒を続けます』
「了解。ご苦労だったな」
セスナのパイロット早瀬 咲希(はやせ・さき)からの報告を受けて、林は彼女をねぎらうと、待機させていた義勇隊の生徒たちを見た。
「義勇隊の諸君には、とりあえず壕を掘るのを手伝ってもらう。彼らの指示に従うように」
黒い腕章の生徒たちに誘導され、義勇隊の生徒たちはバリケードの外へ出た。
バリケードの外では、教導団の生徒たちが既に壕を掘り始めていた。
「ロープを張ってある中を、断面が楔形になるように掘ります。深さは膝くらいまで。掘った土は土嚢袋に詰めて、バリケードの前面に積んで下さい」
バリケード構築を指揮している戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が、地面に細長い長方形に張られたロープを指差して言う。
「……なるほどなあ。底を狭く掘れば、足をつくスペースがなくて、壕が浅くても効果があるな」
バチツル(先端がのみのように平面になっているツルハシ)を手に取りながら、蒼空学園の久多 隆光(くた・たかみつ)は呟いた。
「俺たちが考え付くことなら、教導団の生徒はとっくに考えついてるってことか……」
「この壕、ちゃんと配置も考えてありますよね」
薔薇の学舎のクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が壕を掘ることになっている場所全体を見回して言った。壕は横に長く一本になっているのではなく、あちこちに切れ目があるが、その切れ目が一直線に重ならないようになっている。クライスが考えていた、罠の薄い場所を作ってそこに敵を誘引する作戦と、考え方は同じだ。しかし、補給部隊が拠点に出入りしている状態なので、この方が安全かつ効率がいい。
「やっぱり、こういうことは教導団が一枚上手だなあ」
イルミンスール魔法学校高月 芳樹(たかつき・よしき)は、感心しながらスコップで足元を掘ろうとした。だが、ガツン!と何かにつかえて、地表から10cmもない所から先にスコップの先が入らない。
「ここはバリケードを構築するのに使った木が生えていた場所で、土の中に木の根が残ってるんです。重機が持って来られれば早いんですが、補給路が……」
小次郎が苦笑した。兵站担当の生徒から補給路を整備するよう要請は出ているが、敵にも利用されてしまう恐れがあるため、今は見合わせられているのだ。
「なので、バチツルで木の根を切ってから、その後スコップで土を出してください。よろしくお願いします」
そう言って、小次郎は自分の作業に戻って行く。
「……ごめん、バチツルは僕には無理だ」
バチツルを持ってみた芳樹が言った。
「じゃあ、スコップと土嚢作りをお願いします」
小柄で童顔なのに軽々とバチツルを持つクライスを見て、色々と複雑なものを感じた芳樹だった。