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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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 そろそろ日が暮れかけて来た頃、見張り台から配食を知らせるラッパが鳴り響いた。
 「はーいっ、みなさぁん、お食事ができましたよぉーっ!」
 義勇隊付きの後鳥羽樹理が、フライパンをおたまでがんがん叩きながら知らせに来る。
 「……って言っても、レトルトや缶詰をあっためただけですけどねー」
 義勇隊の生徒たちが宿営地に戻ると、大きな中華鍋に沸かされた湯の中に、レトルトのパックや缶詰が沈んでいた。
 「こっちが和食、こっちが中華、こっちが洋食でぇ、あと、えーっと、あ、お食事にとくべつな制限がある人は申し出てくださいねぇ、だそうです」
 「……なんじゃ、てっきり中華だけかと思ったが、色々用意してあるんじゃな」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)のパートナー、魔女の悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が目を丸くした。そう言えば、教導団の本校を出発する前に、経理科を名乗る生徒に、食事や装備品に関するアンケートを書かされた記憶がある。
 「はぁい、そうなんですぅ。だって、『腹が減っては戦は出来ぬ!』って言うじゃないですかぁ。だから、食べられない人が出ないように、給養部隊っていうお食事を作る専門の部隊と、技術科が力をあわせて、いろんな種類の戦闘糧食を揃えてあるんですよぉ。樹理ちゃんのオススメは、『教導団カレー』の甘口と缶詰たくあん、食後にアップルコンポートの取り合わせですぅ。ちなみに、教導団のひとたちと、お食事の内容はかわりません。樹理ちゃん、ちゃんとこうへいにしてあげてください、っておねがいしましたから!」
 「何と、甘いものまであるのか!」
 カナタは思わず叫んだ。樹理はにっこりと能天気に笑った。
 「はい! つかれたときにはぎぶみーちょこれーと、ですよねー。今回はえっと……なんていったかなー、むずかしいなまえの、おりょうりにつかう機械があるんですけど、それがはこんでこられないので、給養部隊のひとたちは来てなくて、レトルトばっかりで、あんまり種類がないんですけどぉ」
 道理で、出発の時に個人で食糧を用意する必要はないと言われたわけだ、とカナタは思った。もっとも、荷物を個人で用意させないのには、危険物の持ち込みを禁止する意味もあるのだ。実際、自作レールガンの材料を持ち込もうとした茅野 菫(ちの・すみれ)とパートナーの吸血鬼パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)は、出発前に材料をすべて没収された上、厳重な注意を受けた。教導団としては、レールガンが上手く行っても行かなくても、まだ信用出来ない人間に自由にそんなものを作らせたり持たせるわけには行かないし、それ以上に
 『教導団の作戦を利用してただ実験をしたいだけの他校生は、義勇隊には不要!』
 なのである。
 「ほら、樹理、一生懸命お世話はいいけど、あんまりくっちゃべってると、あたいたちのご飯がなくなるよ?」
 樹理のパートナーのマノファ・タウレトアが、教導団の生徒たちの輪から樹理を呼んだ。樹理に近付く義勇隊員に怪しい奴が居れば水原ゆかりに報告しようと考えてはいるが、それにしてもあまり馴れ馴れしくするのもどうか、という気がしたのだ。
 「わー、まってまって!」
 樹理は慌てて、自分の食事を受け取りに行く。

 「……ふむ、なかなか良いシーンが撮影出来ましたな」
 夕食風景を撮影していたミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)は、満足そうに息をついた。
 「都合が悪い部分は後でカットしてしまえば良いですが、良いシーンを『やらせ』で撮影してもしばれたら、何かと面倒なことになりますものね」
 パートナーの吸血鬼アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)も微笑む。
 「志願者へのインタビューの方も、義勇隊を肯定的にとらえる内容がほとんどでした。危険を承知で志願した他校生と、それを受け入れ、共にテロリストと戦おうとする教導団……良い内容の映画が出来そうです」
 「最近の教導団は、何かと他校に恐れられることが多くなって来たように思いますからな。我々の映画でそういったイメージを払拭したいものです」
 映画のタイトルは『六校の勝利』とでもしましょうか、とミヒャエルは呟く。

 「失礼いたします、こちらに査問委員の方はいらっしゃいますでしょうか?」
 「ちょーっと、査問委員長さんと話したいことがあるんだけどさぁ」
 食事が終わった頃、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)と、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)とパートナーの剣の花嫁フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)は、義勇隊付きの教導団の生徒たちの所へ行った。
 「委員長は今ここには居ませんが……呼んで来ましょう」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)が立ち上がり、無線機で妲己を呼んだ。
 「何でしょう?」
 十分ほどして現れた妲己に、ジュリエットは百合園の生徒らしく優美に一礼した。
 「お呼び立てして申し訳ございません。実は、折り入ってお願いがございますの。私たちを督戦隊の分隊として、義勇隊の監視に当たらせて頂けませんか」
 「一旦組んだ以上、裏切るってのは許せないんでね。あんたたちだけじゃなく、義勇隊の中にも監視する人間が居たら便利じゃね?」
 「林教官は、教導団の生徒と義勇隊を過度に交わらせないようにしています。他校生の中に協力者が居るのは、何かと都合が良いと思いますが」
 ゆかりが賛成の意を示す。
 「いいでしょう。あなたがたを督戦隊の分隊に任命します」
 妲己はあっさりと、三人の提案を認めた。
 「あなたのパートナーは、分隊に入れなくて良いのかしら?」
 「はい、わたくしが督戦隊に入るのに反対して、仲違いしたということにしておきます」
 ジュリエットは、他の義勇隊の生徒たちと一緒にいるパートナーの剣の花嫁、ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)の方を見た。
 「わかりました。それではこれより、教導団に忠誠を誓い、その職務を果たしてください」
 妲己はそう言って三人を帰した。
 「……正直、こんなにあっさりと認めて頂けるとは思いませんでした」
 三人の後姿を見送り、ゆかりは言った。
 「教導団の信用を得ようとするなら、督戦隊になって仲間を監視するのが一番明確で手っ取り早い方法ですもの。そう言い出す他校生が居るのではないかと予測はしていました」
 妲己は静かに微笑む。
 「でも、信用できるかどうか判断するのは、この先、彼女たちがどう行動するかを見てからです。水原さん、くれぐれも、彼女たちに不用意に重要な情報を流さないように。また、監視を怠らないようにして下さい」
 「了解しました」
 ゆかりが敬礼すると、妲己はうなずいて立ち去って行った。
 (私が彼女たちに教えることと教えないことがあるように、私もきっと、委員長や専任の査問委員たちから教えられていないことが沢山あるんでしょうね……)
 その後姿を見て、ゆかりは心の中で呟いた。