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世界を滅ぼす方法(第4回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第4回/全6回)

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第14章 手繰り合わせて 見えぬものも見えるように


 微妙に事情通と思われる人物が、空京にいるらしい。
 携帯電話を片手に、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、ようやく訪れたパートナーの姿に、安堵と呆れと諦観が混ざり合った溜め息を吐いた。
「合流するのにここまで手間がかかるとは思いませんでしたよ」
「ごっ……ごめんなさぁい……」
 どこか憔悴しきってやつれた様子のアニムス・ポルタ(あにむす・ぽるた)は、泣き声まじりで謝る。
 合流場所を間違え、携帯で連絡を取り合いながら落ち合おうとしたのに、何故か全く別の場所から救援を求められ、合流までにはそれはそれは手間取った。

「それで、『名刺』は預かってきてくれましたか」
 前回、その人物から名刺を貰ったというシルバ・フォードから、名刺を受けとってきて欲しいと頼まれていたアニムスは、
「うっ、うん、勿論、抜かりはありません!」
と、本人に行き付くまでに10人くらい人間違いをしたことなど別にわざわざ言うことじゃないですよね、と内心でごまかしながら、その名刺を取り出した。
「どうしてどもっているんです」
 嫌な予感がしたウィングは、差し出された名刺がどことなく汚れて、くたびれているのを見て、無言でアニムスを見つめる。
「ええええええーっと、……ここに来るまでに3回ほど、風に飛ばしてしまって……あっでもちゃんと見付けてこうして持ってきたわけですし、あのでも、3回目はちょっと泥溜まりの中に落としてしまって、洗って乾かしたからちょっとゴワゴワになっちゃいましたけど……」
 心なしか小さくなりながら、ごにょごにょとアニムスが説明するのに、ウィングは深い溜め息をひとつついて、それ以上追及するのをやめた。
「まあいいです。
 それより、この名刺の持ち主は空京にいるらしいんですが……。居場所は」
 名刺は白紙だった。
 魔力を込めてみたりするといいのだろうか、と、言葉を続けるより先に、名刺から、何かがぽうっと浮かび上がった。
「……矢印?」
 矢印は、くるくる回ってぴたりと止まり、空京の方向を指し示す。
「……風見鶏みたいですね」
 くすりと笑って、アニムスが言った。

 それから2人は空京に向かい、名刺に従って進んで、件の人物も程なく見付けることができた。
 空京の町からは少し外れた場所にひっそりと建っている、個人の家屋にしてはやや大きく、屋敷というには小さい、という感じの家だ。
「誰です?」
 警戒を示しつつの誰何の声に、名刺を見せて彼の知り合いですと言うと、ドアはあっさり開かれ、アニムスがシルバから聞いていた通りの30代くらいの男が現れた。

「助手がちょっと、長期の休暇中なものだから、おかまいできなくて済まないね」
 居間だと言う、物置だか研究室だか解らないような部屋に通されて、出されたお茶を飲み、2人はそれを吐き出した。
「あれっ、口に合わなかったかい?」
「合わなかったというか……これは一体何ですか」
 げほげほとむせながら、ウィングが訊ねる。
「おかしいな? 普通のお茶なんだけど」
 紅茶の缶を持って首を傾げる彼に、普通の紅茶をあそこまで酷い味に淹れられるこの人は何者だと別の意味で驚いた。
「……まあ、それはともかく……実は訊きたいことがあって来たんですが。
 貴方は錬金術師ですか?」
「いや? 違う、私はただの研究者だよ。
 貧乏なんでバイトで別のこともやったりするけど、ゴーレムの研究を主にしていてね。
 普通のゴーレムとは違う画期的なところといえば……」
「あ、あの、私達、聖地の石を、探してるんですけどっ」
 このテのウンチク話は長くなる。
 彼女にしては素晴らしい機転で、咄嗟にアニムスが話を変えた。
「ん? それで錬金術師を探しているというわけかい?」
「ええ。”力場”の力を括る柱で、地脈の制御をする石です。
 話を聞いて、錬金術師が練成する『賢者の石』と似ているのでは、と思ったのですが」
「ああ、あれかあ……”核”だね。
 でも賢者の石って、金を作る為の触媒とか、不老不死の霊薬とか言われてるあれだよね?
 それとは根本的に違うような気がするけどなあ」
「核?」
「アトラスの力を抽出した結晶でしょ。
 うん、聖地の場所によって鍵とか種とか印とか言われているみたいだけど、総称して”核”って言うと思うよ?
 触媒とか霊薬とかにも使えるとは思うけど、純粋に単なる力の塊だと思うけど」
「詳しい……」
 けろりと言われた言葉に、呆然とアニムスが呟く。
「ひょっとして、その作成方法も知っていたりしますか」
 ウィングが訊ねると、彼は迷うように視線を宙にさ迷わせた。
「……あんまり、こういうのペラペラ喋って広めたりするの、よくないような気がするなあ」
「悪用はしません。
 魔境化されてしまった聖地を、再び元に戻す為の方法として、有効かもしれないと考えているんです」
 うーん、と首を斜めにして考えた男は、やがて、まあいっか、と呟いて、
「簡単に手に入れられるものでもないんだけど、方法は単純。時と、場所と、物が合えばいいって言うよ」
 言いながら、彼は部屋の隅にある何か解らない物体に手をやって何かを確認し、不思議そうな顔をするウィングに
「あ、これは暦ね」
 万年暦なんだよと言って、近くの紙を引っ張り出して、何かを書き始めた。
「時っていうのは、おおよそ500年に一度、場所はアトラス火山の火口、物は、媒体となるもの。純粋なものであればいいと言われてる」
 言いながら、何かの計算をしているらしく、ガリガリやった末に、
「あれ、今年だ」
と呟いた。
「今年?」
「うん、でももう過ぎてる。次は500年後だね」
 その言葉はウィングを失望させた。
 その時、がたんと玄関の方から音がして、彼はびくりと反応した。
 外を窺って、やれやれ気のせいか、と小さな溜め息をひとつつく。
「何かあったんですか?」
 きょとん、とアニムスが首を傾げると、
「いや? 別に怖いことなんて無いんだけどね?」
と彼は虚勢丸解りの笑顔を見せた。
「……ただ、暫く前に、何だか怖そうな5人組が来てさあ……。
 最近物騒になったよね、本当……」
 しみじみと言う男に、ウィングとアニムスは顔を見合わせた。



 聖地クリソプレイスは現在どういう状況になっているのだろう。
 魔境化しようとしている場所を、完全に放置するというわけにもいかないと、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)の進言が通り、しかし教導団内では現在様々な大きな活動がある為、少数精鋭で調査チームが組まれることになり、勿論アリーセもその一員に加わった。
「個人的に行ってもよかったんですけど」
 遊びに行くわけでもないのに無断欠席扱いされるのも面白くないので、きちんと手続きを取った。
 まではいいのだが。
「ほらアリーセ、ちゃんと防寒具の用意は済んだのか?
 魔物も多く出現するというし、ちゃんと備えておかないと!
 周り雪ばっかりだと道に迷うかもしれないからな、コンパスコンパス」
 1人どたばたと準備に追われている、パートナーの久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)が、何の力も必要ないのに、よいしょ、と掛け声をかけながら、アリーセに上着をかける。
「……うざいっ!」
 アリーセはばさりと上着を払い落としながら言い放った。
「な、何だよう、パパはアリーセを心配して……」
「心配しなくても、ちゃんと自分で防寒装備も食料の準備も済ませてあります。
 それと、パパとかやめて下さい。悪寒が走ります」
「……ツンデレな愛が痛いぜ……。
 すっかり何でも1人でできる子になっちまったんだな……」
 子供の成長を寂しがるグスタフに、
「最初から1人で出来ます。
 戯言はいいですから、それより自分の準備をさっさとして下さい」
とばっさり切り捨てる。
「……アリーセ、自分の準備は済ませたのに、俺の準備してくんなかったのか?」
 恐る恐る言ってみれば、じろりと冷たく睨み付けられ、思わず謝ってしまったグスタフは勿論、アリーセが自分の準備をしてくれないことを解っていて、既にしっかり準備済な自分がちょっぴり寂しいのだった。

 地下都市、聖地クリソプレイスは、どんよりとした空気がこもっていた。
「……密度が濃くて重い感じがするな……。
 毒ってわけじゃないが、呼吸してると腹に溜まって体が重くなっていく気がする」
 気分悪ぃ、と顔を顰めながら、アリーセの後ろを歩くグスタフが、これが瘴気ってやつか、と独りごちる。
「呼吸が可能ということは、守り人が今も毒素を抑えているわけですか」
ということは、ヘリオドールは、未だ無事で魔境化の広がりを抑え続けているということか。
 アリーセは、周囲の状況を確認しながら、その記録はグスタフに任せ、”柱”の場所に向かう。
 あちこちに、外にはいない種類の魔物の類いもはびこっているようだった。
 町を呑み込むようにして、植物とも機械とも生物とも表現できない得体の知れない、闇属性と解るものが道を分断している。
 それはじわじわと成長しようとしているのを抑え付けられ、拡がろうとしているのを燻らせているようにも感じられた。
 やがて辿り着いた柱の場所で、2人はヘリオドールを発見した。
 華奢な少女の姿に、グスタフは眉を顰める。
 こんな子供が、と胸が痛んだ。
 機晶姫は必ずしも外見と年齢は一致しないが、性格は比較的、一致することが多い。
 柱に殆ど呑み込まれたような、同化したような姿に、
「なあ、何とか助けてやれねえかな?」
とアリーセに訊ねる。
「ヒールでもかけてみたらどうですか」
 アリーセとて、その方法を知るわけもなく、そう言ってみると、そうだな、とグスタフはヘリオドールにヒールをかけた。
 石のように動かなかったヘリオドールの閉じられた目がぴくりと動く。
「……誰……」
「大丈夫か? 俺らは敵じゃねえ。
 辛そうだな……代われるものなら代わってやりてえが」
「いいえ……ありがとう、とても、楽に……なり、ました……」
 グスタフのヒールに礼を言ったヘリオドールに、アリーセは密かにSPリチャージをかけた。
「非常事態で咄嗟にこうするしかなかったんだろうが……何か、この事態を切り抜ける方法はないのか?」
 ヘリオドールは黙って目を伏せた。
 守り人として生きてきた彼女が知ることは、地脈の力の流れを制御する方法と、その為のこの場所と”鍵”を護る使命だけだ。
 せめてこの場に”鍵”とやらがあれば違うんだろうが、とグスタフは思う。
「……詳しいことは私も知らないけれど、別の聖地で、一旦魔境化しかけた後で沈静化する事例も報告されているそうです。
 少しずつではあるようですけど、この事態を何とかする方法に近づいていると思います」
 グスタフが、目を見開いてアリーセを見た後、にんまりと笑った。
 嬉しそう、なのだろうが、底意地が悪そうな笑みにしか見えないのはアリーセの錯覚か。
「誤解しないでください」
 別に安心させようとした訳ではなく、効率を考えてのことだ。
 何の希望もないより、可能性を示した方が、少しでも長く耐えられるに決まっている。
「うんうん」
と、にまにま笑って頷くグスタフは、焼け石に水だろうと思っても、全ての力でヘリオドールにヒールを施したのだった。



「ここはいつも賑やかだな」
 空京で、学生達の溜まり場ともなっている、情報交換に最適な店、『ミス・スウェンソンのドーナツ屋』、通称ミスドは、今日も雑多な学生達が訪れていた。
「いつもの店が満員だったから、仕方ないね」
 パートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)の言葉に、ノートパソコンのキーボードを叩きながら黒崎 天音(くろさき・あまね)が答える。
 賑わしいがしかし、ここなら必ず座れる席があるのが、ミスドの不思議なところだ。
 そして情報を集めるのにここほど最適な場所はなかった。
 敢えてこちらから働きかけなくても、今も
「おい、こないだの事件はどうなったんだ!?」
「お前知らないのかよ、地下通路は遺跡に繋がってたんだぜ!」
 などという会話が色々と店内を飛び交っている。
 混乱しないのが不思議だ。
 賑やかな場所はあまり好まないものの、珍しく訪れてみたミスドで、天音達2人は、そんな中でコハク達の噂について興味を抱いているわけである。
「面白そうなことが起きてるみたいだね」
と、聞えてくる噂話の中から、ひとつ共通するものをパソコンに打ち込んで行く。

 空京で保護された、片翼を失った少年がイルミンスールへ旅立ち、大規模な森林火災を2度も引き起こして聖地を消滅させたらしい。
 ヒラニプラ南部の氷雪地帯でも、彼等に関わる事件があったようだ。
 作業に勤しむ天音を、ブルーズは退屈そうに見やって、ドーナツを口の中に放り込み、もぐもぐと咀嚼した。
 いつものことだが、手持ち無沙汰だ。
 というか暇だ。これはいわゆる放置プレイというやつか。
「何」
と視線に気付いてブルーズに顔を向けるが、その手が止まっていないのを見て、ブルーズは苦笑した。
「……何でもないぜ」
「という顔ではないね」
 仕方ないね、と天音はパソコンをいじる手を止めた。
「コーヒーのおかわり。それと君と同じドーナツを僕にもひとつ」
 相手をしてくれる気になったらしい。
 ちょっと気分が浮上したが、しかし結局、ここでの話題は先程の天音の作業に帰順してしまうのだった。
「その事件に関わるつもりか?」
「どうしようね……この事件は僕の好奇心を満足させてくれるだろうか?」
 小さく肩を竦めて嘯いた時、ミスドの入口の扉が、乱暴に開かれた。

「こっ! ここが困った時に助けてくれるところかっ!?
 いやっ、警察とやらに行った方がいいのかっ!?
 誰か……誰か親分を助けてくれるのかっ!?」
 20代後半から30代前半くらいの、酷く狼狽した様子のシャンバラ人が飛び込む。
「ちょっと、落ち着いてください、どうしたんですか?」
「おやっ、親分がっ、攫われちまったんだっ!
 パラ実を名乗る蛮族の奴等にっ……!」
 近くの学生が話しかけ、男は脳内ぐちゃぐちゃになりながら涙目で訴える。

「……賑わしいというか、騒がしいね」
 そんな様子を見やった後、天音は再び前を向いてコーヒーに口をつけ、ブルーズはそんな天音に苦笑した。
 
 
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

ハルカ「4回めリアをお届けするのです!」
コハク「ついに折り返し地点を過ぎました」
リシア「折り返しを迎えてついに定員割れしたわね!」
コハク「いきなり辛辣だね……」
リシア「今回からLC人数制限なんて入れて、さぞかし怒られるんじゃないかと怯えてたマスターがどっかにいたけど、誰も全然文句言わなかったわね!」
ハルカ「みんな優しいのです」
コハク「ご理解とご協力ありがとうございます。不甲斐ないマスターでごめんなさい」
ハルカ「ところで今回、各舞台の位置関係が今いちよくわからない、というご意見があったのです」
リシア「地図を見ればいいじゃない!」
ハルカ「地図です?」
コハク「画面上部にアイコンが並んでいるよね。
一番右の「外へ」をクリックすると、シャンバラ地方のワールドマップが見れるよ」
ハルカ「こんなところに地図があったですか」
リシア「これより細かい地図はマスターも持ってないらしいから、まあシチュエイションというか、何となくというか、適当でいいんじゃない?」
コハク「……セレスタインが載ってない……」
リシア「そんな最果ての忘れられた島なんて載ってるわけないでしょ!
そんなことよりあんた達、キャンペーンシナリオのメインNPCのくせに、NPC登録しないの?」
ハルカ「NPC登録?」
リシア「ステータス画面とか見れるやつ」
ハルカ「でも、ハルカまだ学校に入ってないので、登録できないのです」
コハク「僕も学生じゃないし……パートナーもいないし……」
リシア「そんなあんた達の為にあたしが解決策を聞いてきてあげたわ! これですぐにでもNPC登録ができるわよ!」
ハルカ「わあ! そしたらののさんとかみっちゃんとかヒーローさんとかくまさんとかみんなに『大好き』ってつけられるです!」
コハク「関連付けに”大好き”ってあったかな……?」
リシア「てゆーかみっちゃんて誰よ?」
ハルカ「お守りくれたのです」
コハク「………………みっちゃん?」
ハルカ「わくわくどうすれば登録できるです?」
リシア「パラ実は編入試験も何もなくて、「自分はパラ実生だ」と名乗った瞬間からパラ実生徒になれるらしいわよ。
あんたらパラ実生になればいいじゃない。はい問題解決。NPC登録できるわよ!」
ハルカ「ハルカ魔法使いじゃなくてヤンキーになるですか?」
リシア「いいじゃん。あんたと一緒にいるパラ実のどっかんバストの女も大喜びで後輩の面倒みてくれるんじゃないの?」
ハルカ「どっかんバスト」
コハク「どっかんバスト」
ハルカ「レベさんのことです?」
コハク「……お、怒られるよ……」
リシア「胸の大きさじゃ負けるけど露出は勝ってるわ! 
あんたも、パートナーなんて周りに大勢いる奴らの誰かのLCになればいいじゃない。
2人でも3人でも契約できるんでしょ?」
コハク「……えっ」
リシア「! あら今一瞬ドキッとかしたわね!
何よ何よ、誰の顔を思い浮かべたの今! ドーナツの君? 誰だかに似てるとかって慕ってる年上? 同い年のダチ? それとも」
コハク「う、え、えーと……」
ハルカ「そういうさぞくさんはNPC登録しないです? 契約して誰かのパートナーになればいいです」
リシア「は? 冗談、あたしは地球人となんか契約しないわよ! てゆーか砂賊言うな!! 
それよりコハク! ほら白状しなさいよ誰にホの字よ!?」
コハク「……う、うううう、わああぁぁぁぁ」
ハルカ「……逃げちゃったのです」
リシア「ちっ ひ弱な」
ハルカ「コハクいなくなっちゃったので、また次回なのです」
リシア「あたしがいるじゃんよ」
ハルカ「よかったらまた、次のリアでお会いするのです!」
リシア「無視すんな!」
ハルカ「ホの字って言い方は古いのです」
リシア「余計なところに突っ込むな!!」