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砂上楼閣 第一部(第2回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第2回/全4回)
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「邪魔するぜ」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は、ショットガンの先っぽで軽く首筋を叩きながら、のそりと貴賓室の扉をくぐった。百合園生高潮 津波(たかしお・つなみ)を拘束したシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)達が後に続く。
 外務大臣の護衛のため、貴賓室に詰めていたクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)達の表情に緊張が走った。
 無意識のうちに手にしたバスターソードを強く握りしめる。
「…人質を取るとは卑怯な。お前には騎士としての誇りはないのかっ!」
 クライスは武尊を睨み付ける。
 しかし、武尊も動じない。
 ふふんと鼻で笑うと、顎をしゃくるようにしてクライスに話しかけた。
「んなもんあるわけねぇだろが。むしろ卑怯ってのは最高の誉め言葉なんだよ。この女を助けたければ、アンタの後ろに隠れてるお偉いさんと交換だ」
 光の人工精霊が津波の顔をふわりと撫でる。それは火傷をさせるほどのものではなかったが、産毛が焼ける匂いが微かに漂う。
「どうする? 俺は気が短ぇんだ。さっさと決めてもらおうか」
 ギリリと歯を食いしばるクライスを押しのけるように、ハイサム外務大臣が一歩前に進み出た。
「よかろう」
「ダメです、大臣! 下がってください!」
 すかさずランスを構えたローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)が止めるが、ハイサムは静かに首を左右に振った。
「若者の命には替えられませんよ」
「良い心がけだな、オッサン」
「私は逃げない。だから君たちも早くそちらのお嬢さんを離しなさい」
 一歩一歩ゆっくりと武尊へと近づいていくハイサムの背中を、ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)もまた断腸の思いで見守った。
「長居は無用だな」
 ハイサムが逃げないと踏んだのだろう。ハイサムに銃口を向けた武尊は「付いてくるよう」指示を出すと、シルヴァ達を引き連れ、貴賓室を後にする。
 ハイサムの身柄を確保されてしまっては、クライス達は手も足も出ない。後先かまわず斬りつけたくなる衝動を無理矢理抑えつけながら、ハイサムを連行する武尊達の後に続く。
 しかし、甲板へと続く階段を登り切ったとき、クライスは、聞き覚えのある音を耳にした。
 ブンブンとプロペラが回る音…雪之丞率いる救援隊が到着したのだ。予想外に早い到着となったのは、偏に雪之丞のパートナーであるブルーノがいち早く連絡を入れたからだ。
「遅くなったな」
 飛空艇に結びつけられた縄梯子につかまったシャンバラ教導団員の林田 樹(はやしだ・いつき)は、武尊達の足下を狙ってアサルトカービンを連射する。
「それでは、私も行きますか」
 樹のパートナーの一人緒方 章(おがた・あきら)は、手にしたランスを閃かせヒラリと甲板に舞いおりた。
「あんころ餅だけに良いところはあげません!」
 何故か緒方を「あんころ餅」と呼ぶジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)も後に続く。
 この瞬間、一気に情勢は逆転する。
「お前ら絶対に許さへん!」
 武器を奪われ、それまで事の成り行きを見守るしかできなかったミゲル・アルバレス(みげる・あるばれす)ジョヴァンニ・デッレ・バンデネーレ(じょばんに・でっればんでねーれ)が、武尊に向かって猛然と飛びついた。
「人を傷つけることを厭わない貴方達の行為を認めるわけにはいかない!」
 クライスは素早く前方に飛び出すと、剣を一閃させ、武尊が持っていたショットガンの銃口に斬りつける。
 ガキンという金属のぶつかる鈍い音が響き、ショットガンの銃口がグインと曲がる。
 すかさずヒロイックアサルトを発動させたジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)は、大上段に構えた長大なランスを、すべてを粉砕するかの如く勢いと共にシルヴァ達目がけて一気に叩き落とした。
 咄嗟に飛び上がりジィーンの必殺の一撃を交わしたシルヴァだが、その表情は苦い。
「形勢が悪くなりましたね」
 武尊は小さく舌打ちをしたものの、決断を迷わなかった。
「ずらかるぞ!」
 そう言うや否や武尊や猫井は光学迷彩で姿を消した。シルヴァは隠れ身を発動した。
 しかし、プリーストであるルインには身を隠す手段がない。
「今、助けマスよ〜!」
 すると、どこからともなく現れたサミュエルが、薔薇学生達に向かって煙幕を投げつけた。
「逃がすか!」
 散り散りに逃げ出した天魔衆達を追いかけようとする薔薇学生達を、縄梯子から甲板へと降りてきた雪之丞が制する。
「深い追いは必要ない。今は大臣の安全を第一に考えなさい!」