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リアクション
「ふむ、薔薇学連中に私の存在がばれたか」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)から報告を受けたレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)はしばし考え込んだ。
遺跡に向かったシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)とルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)から、薔薇学勢と接触したとの報告も入っている。すぐさま遺跡へと急行したい所だが、自分の存在が知られた以上、手を拱いているわけにはいかないのも事実だ。
囮捜査だと言い張っても、襲撃に参加した事実がある以上、薔薇学勢はもちろんのこと教導団側もすんなりと認めるとは思えない。
「となると、ここからはタイムレースだな」
レオンハルトが顎を撫でながら呟いた言葉は、ルカルカに聞かせるものではない。
あくまでも思考をまとめるための独り言だ。
まずは外務大臣が空賊「に」襲われたという事実を薔薇学の騒動が収束する前に発信しなくてはならない。事を薔薇学及びジェイダスの不祥事に置き換えるためだ。
次に自らが所属する教導団に責を問われぬためには、情報を発信される時点で「空賊」すなわち「第六天魔衆」が滅んでいなくてはならない。
これら2つの条件を揃えるためにも、地球人排斥運動をさらに激化させ、長引かせる必要があった。同時に第六天魔衆には相応の戦果を挙げてもらう必要があった。地球人排斥派の旗印となった天魔衆一党を教導団員である自分が鎮圧するからこそ、薔薇学の責を問える大義名分となるのだから。
戦略としては間違っていない。しかし、戦術レベルで見ると、様々な点で抜けがある。レオンハルトが自らの行動を正当化するには、まだまだやるべきことが山積みであった。
何はさておき今は、遺跡確保に動き出した天魔衆に力を貸すのが最善であろう。
自ら功績を求め、暗躍する者はレオンハルトだけではなかった。
レオンハルトとルカルカの会話を物陰から聞き耳を立てていたのは…彼と同じく教導団に所属する松平 岩造(まつだいら・がんぞう)とドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)、沙 鈴(しゃ・りん)と綺羅 瑠璃(きら・るー)だ。
林田 樹(はやしだ・いつき)や佐野 亮司(さの・りょうじ)から話を聞いた彼らは、天魔衆の中核にレオンハルトがいることに疑問を覚えた。
教導団内部におけるレオンハルトの立場は、獅子小隊を率いる隊長である。
小隊とはいえ、一軍を率いる者が何故、天魔衆などに荷担しているのか。佐野の話では囮調査ということだが、それもどこまで本当なのか怪しい話である。
レオンハルト率いる獅子小隊の存在については、ハイサム外務大臣や薔薇学勢の耳にも入っている。この事態を隠蔽するのは不可能だろう。
潜入調査というレオンハルトの主張を査閲もなしに容認してしまえば、教導団の規律を低下させることになる。
中でも教導団内で獅子小隊と対立関係にある岩造に至っては、レオンハルトを拘束し、問答無用で査問委員会にかけるつもりである。
「…あれはルカルカとそのパートナーか?」
彼らが身を隠す岩陰の向こうでは、ルカルカのパートナーであるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)もレオンハルトと合流を果たしていた。
「うむ、念のためこれも写真に撮っておくか」
岩造は軍人らしく直情的な男だが、査問会を招集するためには証拠が必要なことくらい理解している。
それ故、カメラやICレコーダーを用意し、証拠集めに奔走しているというわけだ。
「例え勧告を出しても、速やかに原隊復帰するとも思えないですし。指名手配やパラ実送りの可能性もなきにしもあらず…ですわね」
自分たちが提出した資料を上層部がどう判断するかは分からないが。
教導団の規律を守るためにも、自分たちの団内の立場を強化するためにも、目の上のたんこぶである獅子小隊には消えてもらわなくてはならない。
一台のバイクがパラミタの大空を舞う。
バイクの分際で宙を飛ぶという暴挙に出た者の名はハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)。
彼には空を飛ぶなどという特殊機能はない。否、なかったはずだ。
しかし、織田 信長(おだ・のぶなが)が決死のダイビングを決断したそのとき。
彼の目に迷いはなかった。
「やるじゃねぇかオッサン、ハーリーフライングモデルってか〜!!!」
同乗者の一人である南 鮪(みなみ・まぐろ)は、信長が時折、ハーリーのメンテナンスを行っていたのは知っていた。
そのときに飛行用の装置か何かを着けていたのだろう、と信じて疑いもしなかったのだが。
その期待はあっさりと裏切られた。
「儂は何もしとらんぞ! お主が何もしない故、日々磨いてやっただけじゃ」
「ちょおおっと待てぇぇえええええええ!!!!!!」
「我が愛馬ならば気合いで何とかするだろうよ!!」
ハーリーが大空を「飛ぶ」という幻想は儚くも壊れ去った。
あくまでも「落下しているだけ」という現実を突きつけられた瞬間、ハーリーの乗客たちの叫びが大空に響く。
「無理無理絶対無理〜〜〜!!!」
「し…白…ぎ…く、ぐ…ぐる…じぃ…」
白菊 珂慧(しらぎく・かけい)は必死で鮪にかじり付くあまり、いつの間にか首を絞めていたらしい。
まさに命綱なしのバンジージャンプである。
このままパラミタの空を突き抜け、太平洋へと落下する覚悟を決めたそのとき、だった。
腹に響くように低いエンジン音が響き渡る。
「天意は我にあり!」
信長とハーリーの目には、自分たちに近づいてくる一台の飛空挺の姿が映っていた。
永楽銭の旗印を掲げた飛空挺は、一気に加速し距離を縮めると、ハーリーの落下地点を狙って旋回する。
「お迎えにまいりましたわよ!」
それは空京で個人所有の飛空挺を強奪し、信長たちを迎えに来た藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)と宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)であった。
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