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君を待ってる~剣を掲げて~(第1回/全3回)

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第9章 その奥に眠るもの(花壇……そして)
「雛子ちゃん、それ……」
息を呑むアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)に、雛子は仄かに微笑んだ。
「一度、リネンさんに消していただいたんですけど……この間からまた、浮き上がってきて。最初はうっすらと、だったんですけど……」
「もっと早く言ってくれれば良かったのに……」
 微笑みながら、小刻みに震えている手を、そっと握る。
(「雛子ちゃんを害すれば扉が壊れるのならば、その逆は? 封印が破れ、扉が破壊されれば雛子ちゃんも……」)
 嫌な想像を、必死に頭から追い出そうとしながら。
「きっと、この花達は雛子ちゃんのことを強く想って咲いているんだと、私は思うよ」
 励ましを込めて、アリアは剣を握った。
きっと今、花達は雛子を護る為に命を振り絞って咲いているんだと、アリアは信じたかった。
「だから今は、迷わずこの花達を、みんなを護る!」
 本当は、もっとちゃんと調査とかした方が良いのかもしれないけど。
 だが、時間を掛けてはいけない気がした。
「……やりましょう」
 アリアの気持ちを汲んで、真人が翔が綺人がみんなが、頷いた。
「想いの光よ、みんなを、花達を護って!」
アリアの展開する、護国の聖域。
花達や花壇を守る仲間達への茨の侵攻、瘴気の影響を少しでも軽減しようと祈りを込めた。
けれど、足りない。
近づくには辿りつくには、足りないから!
「埒があかなそうね……援護をお願いしますっ!」
「バニッシュを使って花壇の茨を焼いて、浄化してみるね」
 タイミングを図り、ミミはバニッシュを放った。
「光の攻撃だから、多分効くと思うんだけど……」
 果たして放たれた光は、茨を駆逐する。
「茨自体は悪しきものじゃないんだよね?」
「瘴気だけを狙ってみるか」
 綺人に応え、ユーリがやはりバニッシュを使う。
「瘴気が薄められるかもしれない」
 月夜は光術で瘴気を散らし。
 刀真もまた、光条兵器でもって道を開く。
「何だ……? 中央に何かいる? いやこれは在る?」
 コミュニティスキル【捜索】を用いていた壮太が眉根を寄せる横。
「と言う事はやはり……」
 白花がポツリ呟き。
 そしてそうして。
 花壇の中心。
アリアは『それ』を見る。
花壇に空いた、深淵に続く空間。
ゆらゆら、ゆらゆらと揺れる、尾。
扉ではない。
扉の奥のモノと、雛子は繋がっていた。
故にそのライン……絆を通じて、それは外に出ようとしていた。
「……光」
 だがそこに、アリアは異質なモノを視る。
「深淵の闇の中、瞬く光」
「やはり……貴方はそこにいたのですね」
 呟きは、月夜の直ぐ横でもれた。
 力を使わず、ただ何かを確認するようにじっとアリアを見ていた、封印の巫女。
「貴方が雛子さんを求めているのは気付いていました。ですが、それはダメです。雛子さんは貴方に応えられない」
 それを他ならぬ彼が望んだから……白花は呟く。
 彼女に届かないと、分かっていても。
「白花?」
「雛子さんは今、一方的に契約を結ばされている状態です。このままでは、もちません」
 そしておそらく、雛子が命を落とせば……影龍は復活する。
「ちゃんと話して下さい、白花。雛子さんは『何』と契約しているのですか? 扉ではないのですか?」
 刀真に、白花は迷いつつ頷いた。
 大切なパートナー。
 だが、自分が本当の意味では刀真のパートナーになれていない事を白花は知っている。
 何故なら、自分は……。
 刀真がじっと白花を見ていた。
 だから白花は、勤めて感情を出さぬようにしつつ、告げた。
「影龍と……それから、魔剣に」
 そのあまりに意外な単語に、呆気にとられたのは刀真だけではない。
 そして一番驚いたのは、当の雛子だっただろう。
「……はい?」
「雛子さんは彼の……『プリンス・オブ・セイバー』の血を引く人ですから」
 雛子の身体が揺れた。
 あまりに衝撃的だったから……否!
「うわっ!?」
 地面が揺れていた。
 足元が崩れそうな……地の底から何かが近づいているような、そんな嫌な振動。
 そして。
 そして。
 そうして。

 蒼空学園のあちこちで、6本の光の柱が立ち。
 それを、蒼空学園を覆い尽くすように。
 闇のカーテンが、蒼空学園を取り囲んだ。


「刀真さん達に知らせなくちゃ」
 知りえた事を連絡しようとした沙幸は、繋がらない携帯を不思議そうに見つめ。
 次いで、訪れた地震に翻弄された。
「沙幸!」
 そして、見る。
 美海の指さす先。蒼空学園を取り囲む闇を。

「影龍は復活させるよ」
 邪剣の言葉と共に、光の柱がミシリ、と軋んだ。
 目を凝らせば、光の柱に巻きつく漆黒の蛇に気付くだろう。
「封印の宝珠は届かない、結界なんて張らせない。この学園を贄に、影龍は復活するんだ」
 邪剣は宣言した。
 にこにこと、とても楽しげに。

「環菜……コレはやばいですよ」
 より一層激しさを増す揺れ。
 胸中でもらす刀真の瞳に、地面に手をつく白花の姿が映った。
「白花、影龍を浄化するのに君が犠牲になる事を俺は許しません……自分で何とかしようとは考えないで下さい」
 以前見たのと同じ表情に、刀真は優しく微笑んだ。
「君と初めて会った時の剣の誓い、もう一度しましょうか?」
「大丈夫です、刀真さんを悲しませる事はしませんから」
 返された微笑みもまた、ひどく優しかった。
「私は刀真さんやにゃん丸さん……皆さんを信じてますから。だから今はただ、この封印を維持するだけです」
 言うその背に、光の羽根が出現する。
 触れた場所から広がる光。
 そして、地震が弱まった。

「とにかく、あの闇のカーテンを破壊する事。それから、楔を壊そうとしている蛇ね」
 矢継ぎ早に指示を出す環菜。
 とはいえ、空間の断絶が電磁波か何かなのか、電子機器が不安定であまり頼れない現状では、それにも一苦労だ。
「揺れが収まった……?」
 ルオシンに抱きしめられ守られていたコトノハを、腕の中の夜魅が見あげた。
「あたし、コトノハやルオシン大好きだよ」
 するりとそこを……守ってくれた温かな腕を抜けだし。
「ジュジュもそーたも真人も政敏もアリアもみんなみんな大好き」
 夜魅は笑い。
 床に両手を付いた。
 その背に広がるは、白花と良く似た……漆黒の翼。
「だから、あたしも……あたしも大好きなみんなを守りたいんだ」
 揺れは、止まった。
 とりあえず、今は。
 封印を破壊しようとする力と、守ろうとする意志と。
 せめぎ合うその只中に、蒼空学園は在った。

担当マスターより

▼担当マスター

藤崎ゆう

▼マスターコメント

 大変お待たせいたしました、藤崎です。
 闇龍復活に伴い、蒼空学園での動きも慌ただしくなっております。
 また次回、お会いできる事を願っています。