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リアクション
第3章 封印の祠へ(祠)
「カンナ様が突然プリンス・オブ・セイバーを継ぐものを決める大会を開くって言い出したみたいだし、花壇に広がりつつある茨、そして封印の祠に何かあったって言うキアの言葉……ちょっとタイミングが良すぎないかな?」
ひょっとして何か関係があるのかしら、と考えた久世 沙幸(くぜ・さゆき)は藍玉 美海(あいだま・みうみ)と共に図書館を訪れていた。
「わっ、『プリンス・オブ・セイバーの冒険』だって」
調べ物で簡単に見つかったのは、プリンス関連の資料である。
というか、子供向け絵本になっている辺り、パラミタではメジャーっぽい。
「とはいえ、信憑性はイマイチかしら……?」
剣で湖を空にしたとか、山を二つに分けたとか、さすがに誇張だろう。
「もっとこう、専門的な資料はないのかしら?」
と沙幸が考えたのを見計らったように。
「沙幸さん、閉架図書を調べる許可取れましたわ」
「わ、さすが美海ねーさま♪」
頼りになるわ、沙幸は美海に飛びついた。
とはいえ。
「封印の祠、封印の祠……ないわね」
「同じような遺跡の名前はありますけど、どれも場所はこの近辺ではありませんしねぇ」
封印の祠に関しての記述は、いっそ清々しいほど何も無かった。
祠の存在も、何が封印されているのかも、まるでそれが知られては困る事のように。
「……実際、そうなのでしょうね」
少し考え、美海が言った。
危険なものとして封印されていた剣の花嫁や機晶姫でさえ、偶然や運命によって蒼空学園の生徒達と契約していたりする。
まして知られてはならない存在を記す事は、封印した者にとっては致命的だろう。
「あっでもここ! 昔から時折不思議な事が起こるって、近くの森の辺じゃないの?」
封印の祠というキーワードを追うのを諦めた沙幸は、代わりにこの周囲の地域を中心に書物を繰り、目を止めた。
「見かけない魔物が発見されたとか、突然木が枯れるとか、不気味な声がするとか……怪談じみているけど、この場所ってやっぱり」
「勇さんが言っていた場所ですわね……確立は高いと見て良いでしょう」
「うん。じゃ、ちょっと外で電話してくるから」
とりあえず一報と、携帯を手に出て行く沙幸の後ろ姿を愛しげに見つめてから、美海は手元の本に目を落とした。
「誰かが念入りに読んだ形跡がありますわね。本当に……何事もなければ良いのですが」
「雪狼が暴れているのって、キノコの時と同じな感じじゃない? 原因を解明しなくちゃ」
秋の頃、お化けキノコを退治した森。
今度も何か原因があるのかも!?、と疑う羽入 勇(はにゅう・いさみ)は即座に立ちあがり。
「分かってますか、勇? 相手は狼なのですよ?」
パートナーのラルフ・アンガー(らるふ・あんがー)に即座に諭された。
「勿論、分かってるけど?」
「……危険、なのですよ」
「うん、分かってるわ」
「危険も危険だけど羽入さん、大会優勝者の写真撮らないといけないんじゃないの?」
心配そうなラルフと、気遣うにゃん丸に、勇はキッパリと答えた。
「でも、祠の方が一大事だもの。放っておけないわ」
その答えに思わず目頭を押さえるにゃん丸。
「リリィより百倍いい娘だ……。うっ、うっ……」
「ラスボスでも出たら言って。あんたなら一人で大丈夫、信じてるわ!
その脳裏に浮かぶ、送り出した時のリリーの晴れやかな顔。
義彦に向ける目がハートマーク……ではなくお金マークにキラキラしていたのは絶対、気のせいではないだろう。
「……うん、そうだよな、こんな健気な羽入さんは守ってやらないとな」
なんだか自分が酷く不幸に思えたにゃん丸は、それを振り払うように、勇の護衛を心に誓うのだった。
それは勿論、もう一人。
ラルフもまた同じだった。
「ラルフ……分かってくれるよね」
「……仕方ありません。勇が言い出したら聞かない事は、分かってますから」
向けられた屈託のない笑顔から、ラルフはいかにも渋々といった風に顔を背ける。
サラリと流れ落ちる長い青い髪に隠され、その表情は窺いしれなかった、けれど。
「ラルフ、ありがとね」
照れてる照れてる♪、なんて思いつつ勇はもう一度繰り返し。
「仕方ありません、かくなる上は勇を何としても守り抜かなくては……!」
ラルフは鈍感で純なパートナーにその覚悟を強めたのだった。
そうして、祠へ向かう道すがら。
「プリンス・オブ・セイバーを決める大会に出たかったのに、出たかったのに、出たかったのに……」
「いやまぁ、あれだ……もうすぐ目的地に着くからな、レイナ」
閃崎 静麻(せんざき・しずま)はエンドレスで続くレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)の恨み節を、既に途中から聞き流していた。
だがしかし、もうそろそろ気を引き締めた方がいいか、と一応声を掛ける……レイナにちゃんと認識されているかは謎だが。
「とりあえず異常はないようだな……今の所は」
空から先行しているクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)とクァイトス・サンダーボルト(くぁいとす・さんだーぼると)からの連絡がない所を見ると、そういう事なのだろう。
「あっちのキンキラキンは随分と大会とやらに出たかったらしいねぇ。巽だってホントはそうなんじゃないの?」
「大会は力試し位の動機でしたし、どう考えても困っている知人の手助け優先でしょう?」
風森 巽(かぜもり・たつみ)はフゥ・バイェン(ふぅ・ばいぇん)からの揶揄に、やんわりと首を振った。
「ふぅん、随分とイイ子ちゃんのお答えジャン? まぁこちとら、大会なんぞを黙って見学するよか、こっちの方が楽しそうだけどぉ?」
「何だ何だ、随分としょぼくれてるな」
静麻はそして、こちらもどんどん暗くなっていく陸斗の背を叩いた。
「別に……」
言いつつ溜め息をつく陸斗を横目で見、静麻は口の端を上げた。
「まぁ、義彦はイケメンで、女の前だけかも知れないが性格が良くて、剣の腕が立つ。雛子も最初は勘違いでも正式に付き合っちまうかもなー」
静麻のからかいに、面白いように素っ転ぶ陸斗。
「ちょっ!?、閃崎殿! 大丈夫です陸斗殿、観世院殿が万が一優勝したとしても、雛子殿と付き合うとは限りませんよ」
寸前で襟首を引っつかむ事に成功した藍澤 黎(あいざわ・れい)がすかさずフォローするが。
「まぁなぁ。だけどさ、優勝出来なくても、義彦は雛子に手当てして貰ってお礼と称して……デートなんかもやっちまうかもしれないよな」
静麻から追い打ちを掛けられ何を想像したのか、顔を青くしたり赤くしたり忙しい。
「陸斗くん、そんな信号機みたいな器用な顔マネしてないで、落ち着きや」
と、七枷 陣(ななかせ・じん)が励ましにかかった。
「まぁアレや。観世院が付き合って縲怩ニか言ってたけどさ。雛子ちゃんの反応淡泊やったし、恋愛的な意味で言われたとは思って無いんちゃうか?」
「……そ、そうだよな! やっぱりそうだよな?!」
「いやだが、義彦はその辺りの手管は長けてるだろうし……自分が2人も恋人いるからって、適当言ってるだろ」
「いやいやいやいや! 恋人二人とか今、全然カンケーないやん?!」
静麻の静かながら的確な突っ込みに、思わずリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)を窺う陣。
幸い聞かれはしなかったらしい……セーフ!
「二人!? 彼女が2人も……!?」
「ってあかんやん! んな大声上げるなよ!?」
ビュンっ、と陸斗の口を塞ぎつつ、やはりリーズを窺いつつ声をひそめる陣。
「そ、そりゃあ二人もその、か……彼女いるとかオレ自身ねーよって思うけど。まぁ……それでも二人とも好き……だから」
「あれ? 陣くん、陸斗くんと何のナイショ話?」
「……おやリーズサン。悩めるセーショーネンからの相談を受けてたわけですヨ、ハイ」
恋人の一人であるリーズの笑顔に、ギギギと不自然な笑顔を浮かべる陣。
かなりぎこちなかったが、リーズは気付かなかったらしい。
というか、他に興味があったのだ・
「うんうん、そうだよね。好きな子にハッキリ好きって言えないのはちょっとダメだよ陸斗くん」
瞳をきらっきらさせながらのアドバイスは、さすが恋愛の先輩である。
「好きって……そんな、簡単には……」
「ダメダメ! ライバル登場!、な今は特にだよ。自分の想いに気付けたら一歩前進。想いを言葉に出来たら三歩前進! なんだからさ!」
「まぁリーズの言う事も分からんでは無いがの? 陸斗はきっと初心なのじゃよ、察してやれ」
ガンガン行こうよ!、なリーズに圧倒される陸斗を救ったのは、ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)だった。
とはいえ、リーズの勢いは止まらない。
「ん〜でも、あんまりマゴマゴしてたら、ヘタレキャラが定着しちゃうぞ〜? にはは♪」
「……ヘタれ、キャラ?」
助けを求める陸斗から、黎も陣も巽も視線を逸らしてしまう。
あまりにピンポイントだったので、ついうっかりと。
自然、肩を落とす陸斗に優しい声を掛けるジュディ。
「そんなに落ち込むでない陸斗よ。人には向き不向きというものがあっての……?♪」
優しいけれど楽しげなそれは、救いというより更なる追い討ちであった。
「……弄るのも程々にしておけ、その内辛さに耐えかねて首を吊ってしまいそうな勢いだぞ」
さすがにこれ以上は、とリーズとジュディを止めたのは、仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)。
これは本気で援軍である。
「恥じらい足を止めるのは簡単だ。だが機を逃せば一生後悔するハメになるぞ」
しかもこの援軍は、親切な忠告までしてくれたのだ。
「当たって砕けるかもしれない。だが私は、どういう結果になろうと後悔のない選択を選ぶのを推奨する。……とは言えあくまで選ぶのは陸斗、君次第だがね」
「何だキア、随分と元気ないんだな」
陸斗と雛子、義彦の会話になってからずっと落ちつか無げなキアに緋山 政敏(ひやま・まさとし)はふと、声を掛けた。
「うっううん? 別に……ただちょっと、祠が気になるかなって」
慌てて首を振るが、勢い良すぎるのが何ともらしくなく挙動不審だ。
「本気で調子悪いみたいね、大丈夫?」
「その祠ってそんなに重要なものが封印されてるの?」
政敏のパートナーであるカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)とリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)は全くの心配から問いかけた。
けれど、それは中々痛い所をついたらしい。
「何かあるのでしたら、早めに教えて下さいよ、キアさん。この間みたいな大騒動はコリゴリですから」
「話せない事は無理に詮索しないが、事情が少しでも分かれば、事態に対応できるかもしれない」
押し黙るキアに、巽は控えめながらハッキリと、黎は冷静に諭すように、告げた。
「……うん、いやそうなんだけど。正直あたしも、どうなってんのか分からないのよね」
ドストライクで痛い所をぶッ刺されたキアは、意を決した……というより釈然としない事をまとめるように口を開いた。
「封印の祠に封印されているのは、……そうね、夜魅みたいな存在?、ちょっと違うか。大いなる災い……もう闇龍とか言っていいと思うけど……その力を受けて変質した剣なの」
「剣?」
「ええ。それ自体もまぁ問題と言ったら問題なんだけど、ここ暫く随分と大人しかったし、これは遂に浄化されたかしらって感じであまり気にしてなかったんだけど」
「いや待てキア、封印の祠に何かあって俺達、向かってるんだよな、わざわざ。義彦をぶッ倒す貴重な機会を捨ててまで!」
「ごめん、それ嘘……正確には嘘だった、かしら」
陸斗の顎がカクン、と落ちる。
巽も政敏もそれは同じだが……どうやら続きがあるらしい。
「本当はね、祠に何かあったかも?、って適当にこじつけて祠に行くのが目的だったの。本当の目的は、問題の剣を封印してた封印具を取りに行く事だったってわけ」
勿論、問題の剣がまだくたばってなくて、暴れやがった事も考えて、戦える人員は欲しかったけど、と何だか妙に殺伐とキア。
「世界情勢的にも微妙だったし、いざという時の言い訳が必要だったしね。ただ、問題は……」
「その嘘が嘘じゃなくなっちゃったって事?」
リーンに、キアは頷いた。
事前のリーンの調査では、確かに森の奥で雪狼の姿が確認されているのだ。
「それに何か……どんどん嫌な感じがしてくるのよね。祠の周りに張った結界が破られた感じはしないってのに」
「焦っても仕方がない。 先ずは一つ一つ見極めて行こうぜ」
「とりあえず、雪狼が本当にいるのか、ね」
政敏とカチェアはそう、焦りを見せるキアを励ましたのだった。
「雪狼かえ……動物好きの端くれとして、黙って退治されるのを見てるわけにはいかぬっ」
そんな会話を聞くともなしに聞きながら、セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は決意していた。
対峙する気満々の静麻達と違って、セシリアの目的は雪狼を止める事……助ける事だった。
雪狼が暴れているには何か原因があるに違いないと、そう感じていた。
「がおーも仲間として気になるじゃろう?」
問うが、乗せてくれている大型騎狼からの反応はなく。
「……あんまり興味なさそうじゃな。薄情じゃのうお」
ちょっとだけすねながら、セシリアはがおーの首元を撫でてやった。
「……ねぇユア、僕たちが目指していたのは花壇の筈でしたよね?」
「うん、そうだけど?」
「ならどうして、僕達は学園の外を歩いているのでしょう?」
新川 涼(しんかわ・りょう)の疑問にユア・トリーティア(ゆあ・とりーてぃあ)はキョロキョロと周囲を見まわしてから。
「……迷っちゃったかな、てへ♪」
可愛らしく小首を傾げて見せた。
「そうですか、薄々そんな気はしていたのですけど……」
そういえばユアは方向音痴だった、それもとんでもないくらいの。
でなければ、蒼空学園内の花壇を目指していた筈が、森の前に立っているわけがない……というか考え事をしていた涼も悪いのだが。
「とにかく蒼空学園に戻って……ユア?」
「ね、涼……今、聞こえなかった? 悲しい……とても悲しい、遠吠えが」
そこに現れたのは陸斗達一行だった。
「うん、これはアレだよ涼。陸斗達を手伝いなさいって事なんだよ」
手短に話を聞いたユアはそう言いだし、涼は一つ溜め息をつくと頷いた。
「そうだね僕も……気になりますし」
「みんな、こっちこっち」
件の森で、皆を先導したのは勇だった。
以前訪れた頃は紅葉が見事だった景色は随分と寂しく様変わりしていて。
それでも、一度訪れた場所だ。
地図を片手にした勇が迷うはずもなかった。
ただ。
「……あの時は、ここで途切れていたわ。木々が、生い茂って」
森の最奥だった筈のそこには、空間があった。
人が二人通れるくらいの、道。
更なる奥へと続く、その道を見てキアが固い声で言った。
「……ごめん、学園に連絡してくれる?」
「オッケー。刀真達に電話しておく……で、何て?」
「悪い方の予想が当たった、そちらも気を付けて、と」
「ここが、隠された空間」
森の奥に広がる空間。
ひっそりと静かな……静かすぎる静寂に満たされている筈の場所は、勇が思っていたよりずっと、広く開けていた。
問題の祠らしい建物はなく。
代わりに地面に空いた、一つ穴。
「あれが入口……なのよね?」
「勇、下がって……!」
ラルフが言うが、勇とて分かっている。
あの祠に突進するような無謀なマネはしない、出来ない。
何故なら、そこに……その穴を守るように真っ白な狼達がいるのだから。
十頭ほどの群れは、侵入者たちを見かけ、低いうなり声と共に臨戦態勢に入り。
「ガゥッ!?」
「速いっ?!」
間髪いれず、地面を蹴った……時!
バ、バババババ。
森の木々、葉を切り裂き上空より降り注ぐ銃弾。
「……」
それは気付いたクァイトスからの一斉射撃。
巡航型攻撃飛空挺形態と化した機晶姫は、自在に空を駆りつつ、雪狼たちの接近を的確に阻む。
「羽入勇、下がって」
同時に銃撃を追うように滑り込んだクリュティが、勇とラルフを護るように立ち。
そして。
「……リネン・ザ・ウェイク」
上空より銃撃が降り注いだ。
と共に舞い降りる影二つ。
「【『シャーウッドの森』空賊団】……見参。援護するわ、陸斗」
リネン・エルフト(りねん・えるふと)はユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)より光条兵器を受け取ると、そのまま狼との距離を詰め、斬りつけた。
「リネン、無理はしちゃダメよ」
パワーブレスで支援しつつ、牽制の為の炎を呼び出そうとしたユーベルは、ギクリと身を強張らせた。
「プリンス・オブ・セイバーねぇ……また懐かしい話だよ」
いつから居たのだろう?
気づけばすぐ後ろにベスティエ・メソニクス(べすてぃえ・めそにくす)が居た。
同じリネンのパートナーながら、ユーベルは怯えずにはいられない。
なのにベスティエの方はそんなユーベルに何ら関心を見せる事無く……当然だ、彼は自分を光条兵器の付属品くらいにしか捉えていないのだから……それがまた恐ろしかった。
神出鬼没を常とする獣人はそして、一度祠があると思しき方向を見やり。
「アレを取りに来たという事は……なるほど、面白い事になりそうだ」
リネンの助太刀へと、その身を躍らせたのだった。
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