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君を待ってる~剣を掲げて~(第1回/全3回)

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第2章 バトルロイヤル(校庭)
「剣の大会ですか……面白そうですね」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)はパートナーである紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)紫桜 瑠璃(しざくら・るり)を連れだってやってきた。
「遥遠は参加してみてはどうですか?」
「はい、そのつもりです! 遙遠と一緒に参加です!」
「……え、遙遠も出ろと?」
 大きく頷かれ、顔をやや引きつらせる遙遠。
 それでも、遙遠が否と言わないと信じている遥遠の顔を見ていると、最早選択肢は一つしかないわけで。
「剣は普段使わないのですが……そりゃ使えないわけじゃないですけど……。ああ……じゃあこのバットを使って参加しますよ。これなら普段の立ち回りとあまり変わりませんしね」
 果たして告げると、遥遠は(遙遠目線からすると)とても嬉しそうに頷いた。
「参加する限り狙うは優勝です!」
「そうですね。協力して優勝目指しましょう、遥遠」
 けれど、その時二人は気付いた。
 瑠璃が妙にニコニコ嬉しそうに、大きく頷いた事に。
「……こっそり参加申請出しちゃったの! えへへ縲怩アれで参加できるの!」
 瑠璃には分かっていた。言えば遙遠と遥遠から「危ない」と反対されるだろう事が。
 それでも、一緒に出たかったんですもん。
「って瑠璃、いつの間に参加申込を……しょうがないですね……」
「でも、無理しちゃ駄目ですよ?」
「危なくなったらすぐ外に出てくださいね?」
 二人に念を押された瑠璃は、しっかりと頷くのだった。
「何故自分はここにいるのでしょう?」
「そりゃ、これから大会に出るからでしょ」
赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は胸を張るクコ・赤嶺(くこ・あかみね)に、ちょっとだけ途方に暮れた。
「大会? 霜月とワタシ達は花壇に行くのでは……?」
「うん、確かに花壇も手伝いたいわよね。でもね、アイリス……霜月のかっこいいとこ見たくない?」
 同じく小首を傾げたアイリス・零式(あいりす・ぜろしき)だったが、やはりクコに言われ考えた。
(「霜月のカッコいいところ、霜月のカッコいいところ……」)
 そういえば、パッと思い浮かばない。
 なので、仕方ないだろう。
 霜月の超カッコいいトコ☆、見たい!、とアイリスが思ったとしても。
「霜月、頑張るであります! ワタシも頑張って応援するであります!」
「霜月よ、主に拒否権はないのじゃ。とはいえ、大会に参加するとなれば、わしを持つ者に相応しい実力を見せねば許さぬぞ」
更にグラフ・ガルベルグ著 『深海祭祀書』(ぐらふがるべるぐちょ・しんかいさいししょ)に止めを刺されては、抗弁は封じられたも同然だった。
「……分かりました、参加します」
「かっこいいところを見せてね」
 とはいえ、クコやアイリスに期待の眼差しを向けられては、そう悪い気はしないわけで。
「力は尽くします」
 やる気を奮い立たせた。
「そっちも大変だな」
「ええ、お互い頑張りましょう」
「遙遠も負けませんよ」
 それでも、似たような立場らしい山葉涼司や遙遠とついつい励まし合う霜月だった。

「ミラさん、私……私は自分を変える為にも、この大会で最後まで勝ち残りたいです」
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は決意を口にすると、驚いた顔をしたミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)に小さく微笑んだ。
 今まで自分の意志が弱かった為に、パートナー達に心配をかける事もあったと、詩穂は知っていた。
けれど、詩穂は十二星華にまつわる事件に関わって、痛感した。
自分自身がもっと、しっかりしないといけない事を。
だから、願う。
これからは自分の意志を強く持って、パートナー達を逆に引っ張っていける様になりたい、と。
そして、この大会への参加は、その為の第一歩だった。
「優希様、ついにご自身の意志で動かれる事を決意されたようですね」
その迷いのない静かな瞳と微笑みに、ミラベルは一つ頷き。
「ならば、わたくしも保護者としてではなく主に仕えるヴァルキリーとして、優希様に勝利への道を切り開いて見せますわ」
 誇らしげにそう、宣誓した。
「ここですね、祭りの場所は☆」
 会場の熱気に一つ深呼吸をし、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は顔を上げた。
「ところで、以前の花壇や封印のことは気にならないの?」
「そうですね。詩穂様はどうして大会に出場されるのですか? 以前に騒動があった花壇や封印が気にならないのですか?」
 それが不思議で、アリーセ・リヒテンベルク(ありーせ・りひてんべるく)セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は訊いてみた。
「プリンス・オブ・セイバーを手にすれば、以前の影龍を完全に倒せるかもしれない。だから、詩穂は戦います……花壇や祠を調査してくれに行っているみんなのためにも」
 環菜の思惑は分からないが、詩穂としては称号目目当ての連中に優勝を渡すわけにはいかなかった。
その理由は、セルフィーナもアリーセも納得出来るものだったから。
「そうなのですか、かしこまりました。皆さんのためにも必ず優勝して下さい」
「そうなんだー、悪い奴を倒すための手段として、まずここで優勝しなくちゃね☆ 『プリンス・オブ・セイバー』を『プリンセス・オブ・セイバー』にしちゃって来てねー☆」
 二人は口々に詩穂にエールを送り。
「……」
クトゥルフ崇拝の書・ルルイエテキスト(くとぅるふすうはいのしょ・るるいえてきすと)はその深い叡智を湛えた瞳で、ただ静かに見守っていた。

「判定は厳格に行いますが、選手間の諍いについては、競技規則に触れない限りは介入しません」
 大会委員長・輝樹は皆の顔を見まわし、声を張った。
「戦闘不能もしくは失格になった選手にたいする追い打ちや挑発行為は、厳しく取り締まります」
 そして何より、と輝樹は口調を強めた。
「これは殺し合いではありません……それだけはくれぐれも肝に銘じて下さい」
「お……お兄ちゃん、いいんちょーさんあんな事、言ってるよ……?」
「自分の力を試すにはちょうど良さそうじゃないか。……豪華特典ってのも気になるしな」
「……よくそんなに落ち着いていられるね」
 高周波ブレードとライトブレードを手にした葉月 ショウ(はづき・しょう)を、パートナーであるガッシュ・エルフィード(がっしゅ・えるふぃーど)は尊敬の眼差しで見あげた。
 回りを見れば強そうな相手ばかり……とは一概には言えないが、皆やる気も殺気も十分高くて自分など膝が震えそうになってしまうのに。
 それでも、ガッシュは堪えしっかりと告げた。
「ちょっと怖いけど……でも僕が、お兄ちゃんの背中を守るよ」
「おう、頼りにしてる」
 ショウが自分に寄せてくれる信頼を知っているから。
「ではこれより、大会を開始します!」
 そして、スタートを告げる輝樹の声が、響いた。
「大切な人を守るために、誰も悲しませないために……!」
戦闘開始直後、神野 永太(じんの・えいた)はフィールドの端に移動している燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)の周囲に氷術を放ち、床を凍らせた。
ザインに近づくものが体制を崩し、ザインに攻撃がおよばぬように、だ。
「本当は、ザインには出場して欲しくなかったんだがな」
 どうしても、と押し切られてしまったし、始まってしまったのだから今更後悔するつもりはない。
 ただ、何があっても守る、だけだ。
「それに……どれだけ強くなったのか、ザインに見て欲しいし、な」
永太はそして、フィールドに氷術を放つと、人間大の氷柱を何本も作り出したのだった。

「剣士レイディス、いざ参るっ!」
 輝樹の開始宣言と同時にレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)もまた動いていた。
「絶対勝利、絶対優勝ッ! 日ごろの修行の成果、見せてやるぜっ!! 」
 気合と共に、正面に構えたバスタードソードをショウへと突き出す。
(「パラミタに来て……もう半年以上、か」)
 鋭い一撃を放ちつつ、レイディスはふと感慨を抱いていた。
 半年以上、剣士として修行してきたレイディスにとって、この大会は良い機会だった。
 そして何より。
(「見てろよ親父。絶対ぇに勝ち残ってやるからなっ!」)
 その難い決意を、レイディスは剣に乗せた。
 その、気迫。
「っ!?」
虚を突かれたわけではない。
 ただその速い一撃にわずか、ショウの反応が遅れ。
 だが。
「怖い、でも……でも、僕だって!」
 認識するより前に、ガッシュは咄嗟に紋章の盾を突き出していた。
 重い一撃、悲鳴をあげる腕を堪えつつ、帯電した獲物で反撃を試みる。
 が、それはレイディスにワンステップでかわされ。
「よくやった、ガッシュ! こっちだって、そう簡単にはやらせないさ!」
それでも態勢を整えたショウが、高周波ブレードとライトブレードの二刀流でもって迎え撃つ。
「それはこっちのセリフだ!」
 ショウのライトブレードをバスタードソードで受け流し、反対側から襲い来る高周波ブレードを身体を捻りながらかわしつつ。
 ショウのわき腹狙いで回し蹴りを繰りだす。
「っ!? 」
ショウのギブアップを聞いた瞬間、ガッシュは隠し持っていた白の剣をへと投げた。
と同時に取りだした忍びの短刀を手に、バーストダッシュを使用。
レイディスの懐に飛び込み、帯電状態からの轟雷閃を放った!

 戦場に響く歌声。
「永太……気を付けて」
 祈りを込めて歌うは、ザイエンデだ。
「サンキュ、ザイン」
 勇気づけられた永太は、作り出した氷柱や隠れ身の効果を活かし気配を消すと、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)の死角に回り込んだ。
「避けろ!」
「分かってます」
 だが、死角よりの攻撃は、シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)の警告の一瞬前に避けられた。
 全方位に意識を張るガートルードに死角はない。
「だが、次はどうかな」
 けれど永太もまた、反撃より先に氷柱の影へと距離を取る。
「厄介ですね」
「もう弱音を吐くか?」
「まさか」
 ガートルードとウィッカーは視線を交わし合うと、動いた。
「ザインを守るくらい、強くなるんだ!」
 ヒットアンドアウェイを繰り返す永太と、強化した身体能力でもって堅実に守りつつ、隙を窺うガートルードと。
 他方、愛用の高周波ブレードを手に接近を試みるウィッカーと、グレートソードを振るい近づけんとするザイエンデと。
 刹那の拮抗を崩したのは、遂に永太を捉えたガートルード。
 永太は光術の閃光で目くらましを狙う……が。
「……無駄です」
 光術の目くらましを警戒していたガートルードは、目を閉じていた。
「終わりです」
 剣で強かに打ちつけられ、凍りついた地に崩れ落ちつつ。
「永太!」
 永太の目に映ったのは、顔色を変えたザイエンデと、隙をつき攻撃を仕掛けるウィッカーだった。
「ザインには、指一本触れさせない!」
 咄嗟に放った炎術は、ザイエンデの足元……氷を溶かし。
 真意を悟ったザイエンデは轟雷閃の刃をそこに……水と化したそこに突き立てた。
「簡単にやられると思うては困る!」
 同じく気付いたウィッカーはソニックブレードを使いつつジャンプし、固定具付き脚部装甲で地に身体を縫いとめていたザイエンデに身体ごとぶつかった。
 勢いで、固定具がはじけ飛び。
 両機晶姫は感電する事無く、諸共に地面に倒れ込む。
 ザイエンデがいたのはフィールド端……つまり、フィールドアウトだった。
「……先生」
「やれやれ、意外と速い退場じゃのぅ」
「先生の分も勝ち残ります」
「うむ」
 言葉少なに交わし、再び戦いへと戻るガートルード。
「そちらはケガはないようですな」
「救助隊でーす。殴らないでくださ縲怩「」
 永太とザイエンデは、玲とレオポルディナによって救護スペースに運ばれる。
「ごめん……大丈夫だったか、ザイン」
「わたくしこそ……」
「お前達の敗因は目立ち過ぎた事じゃな」
 互いに自分を責める二人に、ウィッカーが慰めるように告げた。
「派手な事をすれば、自然と周囲の目を引きつけ、敵を呼び寄せる。バトルロイヤルでは致命的だ」
「そっか。まだまだって事、だよな……ザインを守れるようになるには」
 これからも頑張る、誓う永太に、
「でも……かっこ良かったです」
 ザイエンデは小さく小さく、口元に笑みを浮かべた。
「んんん、みんな派手だねぇ。確かにこれ普通に戦っても、見てるほうはおもろくないよなあきっと」
 開始早々、東條 カガチ(とうじょう・かがち)はそんな事を考えていた。
「カガチがんばって!」
 パワーブレスを伴う柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)の応援も聞こえるし。
「ここは答えなきゃ男じゃないって感じ?」
 口の端を釣り上げるとカガチは、曲芸よろしく飛んだりしゃがんだりしつつ攻撃を仕掛ける。
「正々堂々と……って感じじゃないですが……」
 あれってアリかな?、思いつつ風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)は武器を構えた。
「いやいや、これでも真面目だよ?」
 軽口とは裏腹に、カガチの攻撃は容赦ない。
 バック転から飛んでくるバスタードソードの切っ先を受け止めつつ、優斗の背を冷たいものが流れた。
 かろうじて押し返すとカガチのバランスが崩れた……いや、わざとだ。
 追走した優斗の足が、払われ。
 ついで剣の攻撃がきた。
「剣か刀の所持が条件なだけで、剣だけで戦えってわけじゃあ、ないよねえ?」
「……確かに」
 獲物を……木刀を手にした優斗の笑みが矢強張っているのは仕方ない。
 ふざけた態度だが、対峙した相手は随分とデキる男だった。
「というか、獲物はそれでОKなのかな?」
「いいんです。万が一相手をケガさせたら嫌ですから」
「ん〜、いいねぇ。そういうの、青くてさ」
 口元を歪めるカガチ。
 踏み込みは速かった。
 カウンターを狙う優斗をあざ笑うかのように、軌跡が変わる。
(「受け切れないっ!」)
 そう、覚悟した時。
 足が前に出た。
 踏み込む、カガチの懐深く。
 剣と木刀が、互いの肩を切り裂き、打つ。
「へぇ……楽しくなってきたな」
カガチは鈍い痛みを訴える肩を軽くすくめ、楽しげに笑んだ。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々、てねえ。さあて踊ろうか、阿呆になって、さ」
「成る程。でも、僕も……この戦いを通して、剣の無限の可能性……その境地に一歩でも近づけそうな気がします」
 言いつつ、優斗は血のにじむ腕で再び木刀を構えた。

「あっちもこっちもどこもかしこも、強いよなぁ」
 そんな中、渋井 誠治(しぶい・せいじ)はどこか落ち着かない気持ちで、周囲を見回していた。
 手にしたのは、優斗と同じく木刀。
 但し、剣術に関してはほぼ素人同然である。
 それでも、誠治はこの場所に立つ事を望んだ。
「強くなりたい」
 その気持ちに強く、突き動かされ。
「ね、そこのキミ。わたしと手合わせしてくれる?」
 と。
 声をかけられた。
 剣を手にした少女には、微かに見覚えがあった。
 義彦と同じように環菜にスカウトされ蒼空学園に最近入学した内の、確か一人だ。
(「って事は、かなり腕が立つって事か」)
 思いつつ、背を向けて逃げ出す気にならなかったのは、少女がどこか……自分と似ている気がしたからだろうか。
「……いいぜ」
 一対一は避けようと思ってきたけれど。
 誠治は知らず、木刀を構えた。
 直後、少女が滑るように動き……だが、それは決して対処できない程ではなかった。
 剣を受け止めた木刀が、僅かに削れる。
「あっ、やっぱ剣にまだ慣れてない感じ……よくこの大会に出たね」
 どこか嬉しそうなセリフは、一歩間違えれば嫌味にも聞こえるだろうが。
 そんな気配は微塵も感じられなかったから。
「今は弱いけど、これから少しずつ強くなるんだ……」
 剣を押し戻しつつ、誠治は言った。
「オレは強くなんなきゃいけないんだ」
 クイーンヴァンガードに所属する誠治は、願っている。
強くなって、女王候補であるミルザムをきちんと護衛出来るクイーンヴァンガードになりたい、と……「シャンバラの平和のために」。
「一緒いっしょ、同志ね、わたし達」
 少女は嬉しそうにそう笑んだ時。
「志は立派だが、いかんせん実力が追いついてねぇな……まっ、そりゃお前さん達が一番良く分かってるだろうがな」
「いいの! わたしも彼も、これから強くなるんだから!」
「……お?」
 試合中だという事もつい忘れ、誠治は少女をマジマジと見つめる。
「……喋る剣なんて珍しいよな」
「てやんでぇ! こちとら由緒正しい魔剣でい。難癖つけるたぁ、いい度胸じゃねぇか!?」
「ハガネマル! ごめんね、こいつ口が悪くて」
 謝る少女の手の中、剣が抗議するように、切っ先が上下左右に動いている。
「へぇ、それって魔剣なんだ」
 とりあえず、その時誠治が思ったのは。
(「この魔剣、ガラ悪いな」)
 であった。
「とりあえず、強い相手と戦いたいとは思っていましたが……」
 端っこで、呑気に煙草休憩としゃれこんでいた橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、襲ってきた蒼空学園の生徒を軽くあしらいつつ、誠治達の戦いを眺めていた。
 本人達は真剣だろうが、見ている分には随分と面白い。
 自分の実力の無さを知りつつ、それでも何とか少しでも先に高みに進みたいという姿勢は微笑ましいが。
「……ふむ」
 少し考えてから、恭司は介入する事にした。
「環菜会長の思惑は分からないですが、わざわざ彼女達をスカウトしてここで戦わせる事に何か意味があるなら……思惑に乗ってみますか」
呟きと共に。
奈落の鉄鎖が、誠治達に襲いかかった。
「きゃっ!? 重っ?!」
「慌てんな……って、オレを放り投げようとしただろう、今!?」
「ごっごめん、重いからつい……」
「このドアホゥっ! こんな序盤でやられたら、あのおっかねぇねーちゃんにどう言い訳するつもりなんでぇ!?」
「敵からの攻撃だ、落ち着いて対処……ってどうしたら!?」
「……やれやれ、とにかく平常心を持った方がいいですよ」
 純白のスーツと手袋。
 この場に似合わない優美な装いをしたエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、そんな二人と一本を諭すと、恭司を牽制するように対峙した。
 ずっと疑問に思っていた。
 山葉涼司のパートナーである花音さんは12星華なので特別な光条兵器持ち。
 高見沢理子は言わずと知れた魔剣の持ち主だし。
 スカウトされたという腕が未熟なこの少女もまた、魔剣の持ち主という。
 そして、観世院義彦。
「環菜会長は魔剣を集めて一体何をするつもりなのでしょうかね」
「さて……ですが、それはもう始まっているようですよ」
 恭司は虚空を見つめた。
 闘気と戦意、熱が、上空で渦を巻いている。
 多分何か意味があるのだ、戦い合う事……剣と剣、心と心を打ち合わせる事に。
「成る程。では……やりますか?」
「ええ」
 かくしてエメと恭司は剣を打ち合わせた。
 ぶつかり合い美しい火花を飛び散らせる、剣と剣。
「すげぇ……だけど、オレだって……!」
「思いと弛まぬ研鑚と……強くなりてぇ意志さえあればお前さんは強くなれる、きっとな」
「そっかな」
 魔剣は上下に動いた……肯定の意味なのだろう。
 だから。
「オレ達も仕合おうぜ」
「ええ!」
 頷き、誠治は木刀を構えた。
 先ほどよりホンの少し、様になった構えで。