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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第6回/全6回)

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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第6回/全6回)

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第2章 竜騎士の舞うとき

 空中でワイヴァーンが舞っている。しかしその姿は今までのものとは大きく異なっている。ゆっくりと蒼穹を飛ぶ姿は今の所は優雅と呼んでもいい。だが、そこから鋭角的なものが危険を感じさせている。菅野 葉月(すがの・はづき)はゴーグルをぐいっとかけ直すと手綱を握り直した。
 「そろそろですか」
 菅野の乗るワイヴァーンは胴体下部に小型の機関銃が装備されている。だが、特徴的なのはそこから長く伸びた銃身である。パイロットから見て右下側に長く前に向かって伸びている。機関銃は小銃と同口径の軽機関銃であり、右側に銃身、左側に弾薬ボックスで重量バランスをとっている。ワイヴァーンの腹のところで発射すると炎にワイヴァーンが驚いてしまうため、銃身を長く伸ばして使用するようにしている。シルエットだけ見るならば、伝承にある、竜に跨る騎士、ランスを構えた竜騎士のような姿である。これにより、実験的に戦闘機として使用できる可能性を探ろうと言うのだ。向こう側にワイヴァーンが一機現れた。
 「割と不用心ね」
 菅野のワイヴァーンは雲に紛れるように飛んでいる。人間の目は地上で歩くためにある。カメレオンの様にあちこちを同時に見るようにはなっていない。そのため、空中では案外と死角が多い。空中戦では敵の位置を見失うと言うことは割と起こる。音で気付かれないように滑空するようにして雲に紛れて上にくる。もう少しというところで相手は速度を上げた。
 「気づいた……?でも遅いのよね」
 タン!っと首筋を蹴ると一気に降下する。相手の姿が見る見る大きくなる。相手はモン族……モモンガパイロットだ。
 急降下しつつ一撃を加える。相手は旋回してこれをよける。航空機と違って操縦桿がないので手綱の所にスイッチが括り付けられている。一度相手の下に潜り込んだ格好になったが、そのまま急上昇する。急降下で得られた速度を再び高度に変換する。相手は右回りで後ろをとろうと追いかけてくる。但し、相手は横旋回、菅野は上下回転のベクトルだ。菅野は相手側の横回転を刃物で断ち切るような軌道で突入を掛ける。相手側も負けじと斜め上に上がってくる。ちょうど上から斜めに切り込む菅野と下から切り上げる相手が正対する位置に来た。そこで相手は機銃を発射するが、菅野は左右の羽根を捻って本を閉じるような動作でパタンと横にひっくり返ってスライドさせる。上下が逆転した。相手の火線は菅野の右側をむなしく通り過ぎる。一方、菅野は相手を前にとらえている。素早く機銃スイッチの引き金を引く。一斉射が加えられ相手側に盛大にペイントがはじけた。
 「一機撃墜!」

 アリシア・ミスティフォッグ(ありしあ・みすてぃふぉっぐ)はやや斜めに身体を傾けている。こうすると、ゆっくりと旋回できるからだ。
 「馬の扱いに近いのかしら」
 騎馬民族の優秀な者は手綱を使わず、体重と脚裁きで馬を操ることが出来る。知っている者が見ればその動きに近いと言える。ミスティフォッグは菅野が一機撃墜したことから対抗心メラメラである。自分も負けてはいられない。
 「さあ、早く来なさい、あたしはカモを待っているのよ。HEY!カモーン!」
 そう叫んでいるところにカモ?がやってきた。
 「ふーっふっふ。さあ、行くわよおって……動きなさいよ」
 そう言ってワイヴァーンを蹴飛ばす。ミスティフォッグは出来るだけワイヴァーンに任せようという横着操縦だ。
 そのまま切り込んでいって一斉射を加える。針のような火線が次々と相手に向かう。しかしながら相手はこの道十数年のモモンガパイロットだ。ワイヴァーンの操縦自体は相手の方が上である。もっとも、いわゆる戦闘慣れしていないので、そこがミスティフォッグの付け目である。ひょいとよける相手に追尾を掛ける。早く勝負を掛けないと、技術が上の相手には不利である。そのまま追いかけていって再び斉射である。
 「それそれそれ、いけいけいけ、落ちろ落ちろ落ちろ〜〜〜!」
 これでもかこれでもかと斉射を加える。もっとも、弾数には限りがあるのでむやみに撃つと弾切れを起こす。
 「このこのこのこのこのこの」
 すっかり目をつり上げて追いかけるが回転に入ると火線が外側に逸れてしまう。そこにブレーキを掛けた相手は斜め上から射撃してきた。これをミスティフォッグは体重移動でかわす。
 「そーれ!こんな機動はどう?」
 例の背後をとる機動を行うため、手綱を引っ張って態勢を立て直そうとしたら左翼に引っかかった。片方の翼が巻き込まれてたたまれてしまう。しかしながらもう片方の翼は生きているので揚力がないわけではない。くるくると円を描きながら降下した。しかし、急降下ではない。この場合、定点を基本とした螺旋運動だ。振り回されるミスティフォッグであるが、結果として周囲に弾をばらまくこととなった。ちょうど、軌道を横切ろうとした相手がくらってしまう、相手はそのまま降下していく。ようやく手綱を外して回復したミスティフォッグ、怪我の功名である。状況を判断して眉を寄せる。
 「ん〜と、ま、いっか。私凄いということで!」
 そう言って降下しながら考え込んだ。片翼で円を描きながら降下するというのは通常の航空機では撃墜された状況であるが、ワイヴァーンの場合、意図的にこれを行えれば空戦機動として使用することも不可能ではない。航空機では無理であろう。

 派手に射撃をしているミスティフォッグの様子を見上げていた小鳥遊 律(たかなし・りつ)はこれでもかと射撃するミスティフォッグの様子に相変わらず無表情である。
 「今日は……機嫌が良いようですね」
 小鳥遊は整備に余念がない。無口、無表情ではあるのだが、黙々と仕事をこなす姿が割と好評である。モン族辺りも山で地道に地道に労働する場合が多い。モン族的には「おとなしいが働き者の娘さん」で通っているようだ。そこに降り立った菅野とミスティフォッグが戻ってきた。
 「使ってみてどうかな?」
 角田 明弘(かどた・あきひろ)少佐が聞くと二人とも微妙な顔をする。
 「直線では使えますが……」
 「旋回時には外側にぶれてしまうし」
 金属と言っても弾力がある。長い棒状だと旋回時に銃身がしなるため、弾道が外側に逸れてしまうのだ。
 「地上掃射には使えるが肝心の空戦では今ひとつか……」
 搭載量に限りがあるため、弾数は限られている。搭載機銃は空戦に使いたいところだ。
 「何とか改良できれば、機銃搭載による戦闘機化が現実のものとなる」
 「改良しどころでしょうか?」
 「うまくいけば使えるのは事実だ」
 「律……何か方法はない?」
 「……補正する手段があれば……」
 一筋縄ではいかないが、空中で戦うとなれば、現状では機銃が最有力だ。
 「前線では、急降下爆撃で成果を上げたって聞いたけど?」
 お茶を運んできたミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)はちょっと小首をかしげた。
 「ああ〜。敵の物資集積所を爆撃したって言ってたわね」
 「航空部隊の本懐ですね」
 ミスティフォッグの言葉に菅野もちょこんと座ったまま言う。敵の後方を強襲して拠点を攻撃する、航空部隊の晴れ姿である。皆も早く参加したいところだ。
 「でも、敵もそろそろ手を打ってくると思うし、機銃は必要よねっ!」
 「やっぱり、そう思う?」
 元気よく言うコーミアであるが菅野は心配そうだ。
 「……報告は聞いています。敵も手を打ってくると思います」
 小鳥遊もそろそろ敵が航空部隊に対抗する手段を講じてくると感じているようだ。
 「小鳥遊〜、改良しよ?」
 コーミアは小鳥遊を巻き込んで機銃装備の改良へと動いている。
 「……ミサイルが使えれば……」
 「ミサイルは難しい……ワイヴァーンに搭載できるサイズに炸薬と推進剤を搭載すると誘導システム一式を組み込むには小さすぎる」
 角田は首を振る。現状ではやはり対空兵器は機銃が最有力だ。
 「そうなるとロケット弾ですけど、それじゃ、ワイヴァーンのお腹では撃てないですよね?」
 「ロケット弾を用いる場合、切り離してある程度離れたところで推進剤に点火して撃つ事になる。命中率が格段に落ちる。もし、使用するならきちんと目標に向かって攻撃コースをとった後、切り離して何とか……と言うところだろうな」
 「それだと、ロケット弾というより、航空魚雷に近いわね」
 ミスティフォッグが肩をすくめる。
 「でも、それはそれで使えますよね?」
 ある程度改良の余地はある。そしてそれらをどう上手く組み合わせて使いこなすかが皆の課題である。そこに一機のワイヴァーンが飛んでくる。
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)のワイヴァーンだ。ポーターは地上攻撃装備の実験である。
 「よーし、よし」
 ポーターはやや低空でワイヴァーンを侵入させる。前方に目標が見える。自由落下を利用するので位置関係と高度は把握していなければならない。ちらりと腹下をみると、じゃらじゃらと投下用の焼夷弾?がはみ出しているのが見える。
 「目標確認、6,5,……」
 目標手前数十メートル、目測ではあるが、高度から落下時間を割り出し、慣性で進む距離を計算に入れる。
 「2,1、投下!」
 紐をぐいと引くと、枠組みをころころと小さな陶器の壺が転がっていく、それらは弧を描いて次々と落下し、地面に叩きつけられる。すると次々破裂するや、炎を上げた。周辺一面は燃え上がっている。
 「成功よねっ!」
 飛び上がって喜んだのはセシリア・ライト(せしりあ・らいと)だ。陶器の壺には油と火種が仕込んである。要するに火炎瓶の様なものだ。これを一斉に数十ばらまいて周辺を焼いてしまおうと言うものだ。
 「機銃と、爆弾と、これで空陸両方に対応できればいいね」
 ライトはこれらの装備、特に機銃が今後、敵側も航空部隊を投入することを睨んでのことと考えている。
 回り込んでポーターが帰ってきた。滑走路上ではフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が管制指示をしている。要するに指示用の棒を持って位置を指示しているのだ。一応、ワイヴァーンはホバリング着地できるが、誘導はあるに越したことはない。また、常に広い平地に着地出来るとは限らない。管制誘導指示の訓練をやっておく必要は充分にある。
 着地したワイヴァーンに手早く金具を取り付ける。
 「うまくいったようですね」
 「そうでもないわぁ。強力だけどもぉ。機動飛行ができないもの」
 アヴェーヌの笑顔にやや憂鬱な感じでポーターは返答した。
 「機動飛行が出来ない?」
 「水平爆撃の要領で落っことすにはいいんだけどぉ。あの装備のままだと宙返りとか出来ないの」
 下手に危ない機動を行うと誘爆したりする。攻撃機が通常、宙返り出来ないのと同じである。
 「じゃあ、取り扱い注意……ですか」
 「難しいわぁ。航空戦は」
  すでに機銃と急降下爆撃用の爆弾、さらに焼夷弾と、いろいろ装備が整って来ている。しかし、それぞれに一長一短がある。どの装備で出撃するか?どう使うか?互いにどう連携するか?それらが求められていると言うことだ。
 「おそらく、今後の戦いは敵の航空攻撃を戦闘機で防ぎ、隙を突いて地上攻撃するような戦いになると思うの。だから私達は次の次元を見据えていかないとならないわね」
 そういうポーターの目にまもなく沈もうとしている夕日が見えていた。