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世界を再起する方法(第2回/全3回)

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世界を再起する方法(第2回/全3回)

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 緋桜ケイ達と、魔法医師のところまで付き合い、医師に挨拶をした後で、コハクは”結晶”を得る為に松永亜夢達とモーリオンに向かおうとするが、その旅支度をしているところで、メニエス・レイン(めにえす・れいん)と行き会った。


 オリヴィエ博士宅襲撃後、メニエスはグロスとは別行動を取ることにした。
「何だ、俺に協力するんじゃないのか」
 一緒に来ればいい、というグロスに、
「グロス様はお強いのだから。我々が固まっている必要もないでしょう」
とメニエスは微笑む。
 強い、と言われていい気分になりこそすれ、その慇懃無礼な口調に、グロスは気づかなかった。
「分散して捜索範囲を広げた方が、女王器も確実に手に入るはずよ。グロス様のためにも」
 ふむ、とグロスは考え込む。
「うん、確かにそうだな……うむ」
 よし、とグロスは頷き、
「じゃあ、そっちで女王器を手に入れた時は、すぐに連絡を入れろよ」
と命令した後、二手に分かれてツァンダ地方に向かう。
 笑顔で答えるその下で、「誰があんたなんかに渡すものですか」とメニエスが思っていたことなど、無論知る由もなかった。


「あら、偶然ね」
 偵察していた上空からコハクの姿を見付け、メニエスは大胆に彼の前に降り立った。
 傍らには、パートナーのミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)も控えている。
「ていうか、これってもう運命なんじゃないかしらね! 元気だった? コハク」
 にっこりと微笑みかけるメニエスに、コハクは表情を強張らせる。
 隣りにいたリネン・エルフトが前に進み出ながら武器を構えた。
 それを見て、随分ピリピリしてるわね、とメニエスは感じ取る。
「別に攻撃しに来たわけじゃないんだから、そういうの止めてよ」
「じゃあ、何しに来たってんだ?」
 ラルク・クローディスが、身構えながら問い質すと、メニエスは肩を竦めた。
「女王器」
 ぴく、とコハク達の眉が動く。
 これは、ビンゴかしら? とメニエスはほくそ笑んだ。
「あんたもあれを狙ってんの?」
 リネンのパートナー、ベスティエ・メソニクス(べすてぃえ・めそにくす)が、全く、もてもてだね、と肩を竦める。
「そう、やっぱり知ってるのね? あなた達が持ってるのかしら」
 くすくすとメニエスは笑った。
 女王器とコハクが繋がっていることは、グロス経由で情報を得ていたメニエスは知らなかった。
 会ったついででカマをかけてみただけだ。だが、これは思いがけない収穫だった。
「いっけね。うっかり口が滑っちゃった」
 ベスティエは悪びれずに笑いながら首を傾げて見せたが、
「持ってるの? それとも知ってるだけ?」
と問われて、
「さあね〜。ツァンダで見たような気はするけどさ」
ととぼける。
 どうも、彼等の手には無いらしい、とメニエスが判断した時、ミストラルが、袖の下に隠していた武器を出して構えた。

 背後から、様子を窺っていた志位 大地(しい・だいち)が飛び込んだのだ。
 大地は隙をついての一撃必殺を狙っていたが、ミストラルがそれを阻んだ。
 メニエスは時に大胆な行動を取るが、常にその周囲をミストラルが警戒を怠らない。
 ミストラルが常に傍らで警戒していてこその、メニエスの大胆さなのだ。
 ち、と大地は舌打ちを打った。
「物騒ですわね、こんな街中で!」
 両手に装備した七首を振り抜き、大地は辛うじてそれを躱す。
「物騒とはどちらのことですかね」
 これ以上、メニエスを野放しにはできない、と大地は思ったのだ。
 ここで何とか、メニエスの行動を妨害できないかと考え、上空から偵察しているメニエスの姿を見付けてから、ずっと後を追っていたのである。
 コハク達と対面し、会話しているところを好機と狙い、石化の短剣を用いて攻め込んだのだが、失敗に終わってしまった。
 切り結ぶ大地とミストラルの横から、大地のパートナー、シーラ・カンス(しーら・かんす)が援護に飛び込む。
「失敗してしまいましたねえ」
「痛恨の極みですよ」
 大地とシーラの同時攻撃に、ミストラルが飛び退いて距離を置く。
「たまには、私も大暴れさせてもらおうかしらぁ」
 シーラがふふっと笑った。
 相手が2人になったことで、傍観を決め込んでいたメニエスも臨戦体勢に入りかけたが、ふとコハク達を見やった。
「何やってんだこんな街中で!」
と、ラルク達も動こうとしている。
 一般人の誰が巻き込まれようが気にはしないが、面倒なことにはなりそうだった。
「仕方ないわ、ミストラル。引くわよ」
 指示にミストラルは、メニエスが差し出した箒にまたがる。
 メニエスがその後ろにまたがった。
「逃がしません!」
 初撃を防がれ、目論みは破られたものの、ここでメニエスを足止めしておきたいという考えは諦めていない。
 小型飛空艇に飛び乗って後を追おうとした大地だったが、くるりと後ろを振り返ったメニエスが魔法を撃つ構えを見せる。
 速度が落ちることになっても2人乗りにしたのは、速度で逃げるのではなく、追っ手を撃退するためだった。
 ここで大技など使われたら、地上を巻き込む。
 大地は眉を寄せて、追撃を諦めた。
「じゃあね、コハク。また会えるといいわね!」
 メニエスはそう言い残して、飛び去って行く。
 コハク達の緊張が、ほっと解けた。
「逃げられました」
と、地上に戻ってきた大地が無念そうに言う。
「お前等、あんまり無茶すんなよ」
「町の中だからこそ、油断を誘えると思ったんですがね」
 ラルクに軽くたしなめられて、大地は困った顔で謝った。

「どうして、みすみす敵に情報を教えてしまったりしたんですの?」
 ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)は、自分と同じ、リネン・エルフトのパートナー、ベスティエに不満をぶつけた。
 わざわざ、女王器はツァンダにある、などと。
「はあ? いいじゃん、あれくらい。
 どーせ、ちょっと調べればすぐに解ることだよ」
「ですからって……」
 悪びれないベスティエに、これ以上言っても無駄だと思ったのか、口を噤んだものの、尚不満げなユーベルに、ベスティエはふふんと笑った。
「ま、いい感じに危なっかしくなってきたんじゃない」
 小さな呟きは、誰の耳にも入らない。
 さあて、面白くなってきた。

◇ ◇ ◇


 マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)は、トレジャーハンター、リシアの活動範囲であるという、アトラス火山を訪れた。
 アトラス火山の周囲に広がる砂漠には、幾つかの大きな遺跡が埋もれている。
 リシアはずっと、そこを縄張りとしているという噂なのだった。
 噂を辿って遺跡付近を歩いていると、ズドドドド……という地鳴りのようなものが聞こえ始める。
 音の方を見てみると、巨大な毛玉の大群が近づいて来るのだった。
「珍しいわね! こんなところを一人旅?」
 巨大毛玉は、2メートルほどもある巨大なネズミで、先頭のネズミの背には人が乗っていた。
 20代半ばほどの、まあ一応美女と言っていい容貌の女である。
 恥ずかしげもなく、肌も露なビキニ鎧を身につけていた。
「悪いけど、ここを通る人にはカンパをお願いしているのよね!
 ちょっと身ぐるみ置いてって貰えないかしら」
「……話に聞いた通りだね。あんたがリシア?」
 リシアはトレジャーハンターというより、むしろ砂賊としての噂が広まっているのだった。
 砂賊なんかではない、とリシアは主張しているのだが。
「……あたしを知ってるの? 見た憶えはないけど?」
「初対面だよ。怪しい者じゃない。
 ちょっと、あんたに訊きたいことがあるんだ」
 表情に不審さを滲ませたリシアに、マッシュはにこりと笑いかける。
「訊きたいこと?」
 警戒しているのか、リシアは巨大ネズミから下りようとせず、その背に跨ったまま訊ねた。
「石化の剣のことさ。ソードオブバジリスク。
 元々はあんたが持っていたって聞いたから。俺も、それが欲しいんだよね」
「あれはひとつしか持ってなかったわよ。
 戻って来てないし、もう持ってないわ」
 持ってたとしたって、大事なお宝をくれてやったりしないけどね! という呟きは、マッシュの耳には届かなかった。
「情報をくれればいいよ。何処にあるものなんだい?」
「知らないわね」
 リシアは肩を竦めた。
「どこかの宝箱に入ってるんじゃないの? あたしだってそうやって見付けたわ!」
「あれ一本きり、という剣ではないんだね?」
「そこまで伝説級の剣じゃないわね。
 生憎、あたしの狙いはもっと大きいの。
 過程で見付けた物も勿論あたしのものだけど!」
 くるり、と、リシアはネズミの向きを旋回させた。
「あの剣の話をして、あたしを知ってるってことは、あの連中の知り合いなのね? 今回は大目にみといてあげるわよ! 全く、とんだ無駄足だわ!」
 あたしもお人よしになったものだわ、地球人相手に!
 とぶつくさ言っているが、要は強盗はしない、ということなだろう。
「……そりゃどうも」
 走り去るリシアに肩を竦めて呟きながら、無駄足はこっちもだよ、とマッシュは溜め息を吐いた。