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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 最終回

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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 最終回
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校長を狙う凶刃


 鷹山剛次という人物を、司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)は彼なりに評価していた。
 果断さと冷徹さで現実を見据え、無法の荒野を統治してきた。
 その方法を『最良』であったとは思わないが、『最適』ではあった、と司馬懿は見ている。
 本懐を遂げるために生徒会をあっさりと捨てたことも、見事な割り切りであった、と。
 人は欲張りで、一度手に入れた大きな力はなかなか手放すことができない。
 しかし剛次は、目標のためにはどんなものでも踏み台する覚悟があった。
 また、パートナーのバズラ・キマクにしても、感情さえきちんとコントロールできるようになれば、将来良将になると司馬懿は思っていた。
 そんな二人の未来が薄暗くなっていることが、とても。
「惜しい、実に惜しい。あれほど才あふれる若者が二人も、歴史の中に埋もれようとしている──!」
「そのために僕達がいるのだろう。違うか?」
 シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)はそう言い残して、剛次とバズラのために道を作りに駆けた。
 戦場に必ず現れるジークフリートの名は、それなりに広まりつつあった。
 鬼神の如き戦いぶりに逃げ出す者も多く、また立ちふさがる者も多い。
「邪魔する者は排除する──覚悟!」
 高周波ブレードを使った等活地獄で新生徒会軍勢を薙ぎ払うシグルズの後を、剛次とバズラは横からの攻撃に備えながら走る。
 しかし、その心配は必要なかっただろう。
 司馬懿が防御に適した形に配下を置いていたのだから。
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が最後尾についていた。
 直進する一軍を突き崩そうと羽高 魅世瑠(はだか・みせる)達が行く手を阻んだ。
「キミかい? 剛次を校長のとこへ連れて行こうとしてるのは。……ふぅん」
 相手の強さを値踏みするように見た魅世瑠は、不足なしと感じたか目つきを変えた。
 シグルズも武器を構え直す。
「君は鷹山に味方していたのではないのか?」
「剛次への義理は果たした。今のあたしは、新生徒会軍についた一介のE級四天王だ」
 魅世瑠は神楽崎分校のことは言わなかった。
 司馬懿は剛次をうかがったが、彼は何の感情も表していない。
 敵になるも味方になるも、その者次第。利害が一致するかどうかだと考える剛次にとっては、ごく当たり前のことだった。重要なのはそこではなく、目標を達成できるかどうかなのだ。
「押し通る!」
「させるかよ!」
 シグルズと魅世瑠が打ち合う間に、司馬懿はこの場を切り抜ける隙をうかがう。
 まだここには来ていない魅世瑠の契約者達が集まってくる前に脱しないと、二人を石原校長の前に連れて行くことが不可能になってしまうだろう。
「あそこから行こう」
 アルツールがギャザリングヘクスで強化したファイアストームで進路をこじ開けた。
 シグルズは、魅世瑠と配下の壁になるよう立ち位置を取る。
 司馬懿の合図で剛次とバズラを守りつつ、部隊はできた隙間へ雪崩れ込んでいった。

 剛次とバズラが石原肥満の首を取りに来たという知らせは、すぐに本人の耳に届いた。
「あ……わ、わしは殺されてしまうのか……。姫宮君の作る、新しいパラ実を見ることもなく、わしは……」
 動揺する校長に夏野 夢見(なつの・ゆめみ)が落ち着いた声で「大丈夫ですよ」と、震える背を撫でた。
「校長先生は守りますから」
「おお〜、なんと勇敢な若者よ」
 感激した校長は、夢見の手をとると額に押し当てるようにして感謝の意を示した。
 何となく手を撫で回されているような気がして、夢見はそっとその手を外した。
 校長の前を去った夢見は、彼女の号令を待つ配下達を見渡す。
「パラ実生徒じゃないあたしのもとに集まってくれてありがとう。あたし達の狙いはバズラだよ」
「それはいいけどよォ、焼肉の約束は覚えてんだろうな。肉を買う金がねぇとかいう理由で忘れたふりなんてしやがったら、バズラの代わりにおめぇを叩きのめして売り飛ばしてやるからな」
 過激な発言だが、それだけ楽しみにしていたのだろう。そう言った彼が牙攻裏塞島で誅殺槍を手にした董卓と戦った時の配下だということはすぐにわかった。
 焼肉目当てとはいえ、また来てくれたことを夢見は嬉しく思った。
「やるよ、焼肉パーティ。バーベキューパーティのほうがいいかな。みんなで材料持ち寄ってやろうね」
「何!? おごりじゃねぇのか!」
「ごめんね。あの時、言い忘れてたみたい。でも、みんなで持ち寄ったほうがいろんな食材が集まって楽しいと思うな」
「なっ、何て奴だ!」
 このタヌキめ、と文句を言いながらも彼が夢見の前から去る気配はない。彼なりにパーティを楽しみにしているようだ。
 彼は、夢見が用意した極上肉を最初に自分に食べさせることを勝手に約束した。
 そして夢見が率いる隊は向かった先でミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)の隊とぶつかった。
「バズラちゃんには、指一本触れさせないよー」
 方天戟を担いで現れたミネルバに、夢見は黒薔薇の銃を握り締めた。

 その様子を戦場からだいぶ離れた小高い岩場で、スナイパーライフルに取り付けたスコープから覗いていた桐生 円(きりゅう・まどか)は、次にオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)を探そうとして諦めた。
 スコープで見える範囲はあまりに狭かった。
 ミネルバを見つけることができたのは偶然だ。
 円は石原校長を探す。
 戦場から離れているとはいえ、円は用心して光学迷彩で姿を隠していたから、ここで校長を狙撃し、敵方に居場所の見当をつけられても見つからずに逃げられるだろうと踏んでいる。
 また、距離はあってもヒロイックアサルトで身体能力などを上げているため、狙いを外すことは考えていない。
 その頃オリヴィアは、配下が倒した新生徒会軍の一人を吸精幻夜で操ろうとしていた。
 オリヴィアは、ぼんやりと夢を見ているような顔の彼にナイフを持たせると、耳元で甘く囁く。
「石原校長の近くに行きなさい。そしてお腹を刺しなさい」
 彼はふらふらと味方陣営へ引き返していった。

 夢見の力強い言葉に一度は落ち着きを取り戻したものの、少しずつ大きくなっていく戦いの音に石原校長は再びそわそわし始めていた。
 立ったり座ったり、うろうろしたりと忙しい。
「そんなに心配するなよ」
 そんな校長にスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)が呑気に声をかける。
「みんなが守ってくれるって」
 夏野とかストルイピンとか……と名前をあげるが、校長はあっちを見たりこっちを見たりでまったく話しを聞いていない。
「確かに、ちょっと危ないか……」
 と、席を立ったスレヴィは校長に近寄ると腕を掴んで引き寄せ、光学迷彩を使った。
 そして、もう少し離れたところへ連れて行く。
「ほら、もう誰にも見えてないから」
「本当か? 本当の本当の本当か?」
「黙って隠れていれば大丈夫」
 彼は万が一のためと大半が校長を落ち着かせるためにそうしただけだったのだが、このためにミネルバの放った刺客と円は標的を見失うことになったのだった。