天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

横山ミツエの演義劇場版~波羅蜜多大甲子園~

リアクション公開中!

横山ミツエの演義劇場版~波羅蜜多大甲子園~

リアクション

 109から最後に出てきたのは、買い物のために中に入っていた川村 まりあ(かわむら・ )葛葉 明(くずのは・めい)だった。
「あの人達、渋谷の不良だよ!」
「何? てめぇら無事か?」
「へーきへーき!」
「いっぱい夏物買えたよ。あ、そういえばミツエを殺るとか何とか言ってような」
 明のもらした言葉に、109を支えるガイアの指がめり込んだ。
 竜司がじっと見上げる。
 その時、ヨシオの慌てふためく声が聞こえてきて、後輩の危機に竜司はハッとした。
「良雄! グラブでぶん殴れ! ガイア、オレ達も行くぜ!」
 竜司は中央の乱闘に飛び込んでいったが、ガイアはうつむいたまま動かなかった。

「何かあると思ってはいたが……こんなこととはな!」
 シャンバラでも名の知れた者達が集まったこの試合に、危機めいたものを感じていたガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)の対応は早かった。
 そして、渋谷系不良ファッションの集団の目的がミツエであることに最初に気づいたのもガイウスだった。
「イリーナ、トゥルペ! 来るぞ!」
 迷彩塗装で背景に紛れていたガイウスの叫びに一瞬驚いた二人だったが、すぐにミツエを背にかばう。
「スタンドの客層がおかしいという報告は本当だったか」
 レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)のことだが、スタンドから乱闘に加わる者は今のところいないようだ。
 突っ込んできた不良の鉄パイプを片手剣型の光条兵器で弾いたイリーナは、冷えた眼差しで問いかけた。
「おまえ達、何者だ?」
「オレの名前は日本太郎でーす!」
 ふざけた返答の彼をイリーナは瞬時に殴って沈めた。
「イリーナ、ミツエさんを奥へ!」
 応援用のボンボンを投げ捨てたトゥルペが星輝銃で不良達を威嚇射撃で牽制しながら叫ぶ。
 イリーナは自分が盾になるようにミツエをかばいながら、守るのに適した位置へと移動していった。
「おまえら試合の邪魔すんじゃねぇ!」
「その通りよ和希! ボッコボコにして追い払っちゃいなさい!」
「ミツエ、いいからこっちへ」
 ドラゴンアーツでおもしろいように不良達を宙に飛ばす和希を応援するミツエが、加勢するように火の玉を飛ばす。
 それをイリーナが宥めてできるだけ安全なところへ引きずった。
 一番に飛び込んでいった竜司も大暴れしていた。
「しゃがめ良雄!」
「ヒャア!」
 反射的に頭を抱えて伏せたヨシオの頭上を、振り回された竜司のバットが不良数人をなぎ倒していく。
「先輩……! アダッ」
 竜司の力強さに感動したヨシオが勢い良く立ち上がった時、彼の首を絞めようと手を伸ばしていた不良の顎と頭のてっぺんが激突した。
 不良はノックアウト。
 ヨシオは再び頭を抱えて転げまわっている。
「やるじゃねぇか」
 竜司は笑っていた。
 別の場所では、馨が乱闘を止めようと声を枯らして叫んでいた。
「今は試合中だ、部外者は出て行け! 喧嘩なら後でいくらでも相手してやる!」
「こうなったらもうやるしかないよ。……怪しいと思ってたんだよね、あの109」
 スッと隣に桐生円が現れ、両手に構えた奪魂のカーマインで、試合をメチャクチャしてくれた苛立ちをぶつけていった。
 しかし、乱闘をどうにか止めようと思っていたのはマリーも同じだった。
 秋葉原四十八星華の一員としてかどうかはともかく、歌声で荒ぶる者達の心を静めようとしながら、空中◯彌チョップでも沈めていく。
 どちらかと言えばチョップのほうが効果があった。
 歌のほうは残念ながら歌なのか念仏なのか微妙なところだ。
 そのマリーの鼻先を火の玉が過ぎっていく。
「あなたばかり目立とうったってダメだからねっ」
 今まで退屈のあまり居眠りしていたクリムリッテ・フォン・ミストリカだ。喧嘩の気配にパッチリと目覚め、ここが見せ場と飛び込んできたのだ。
 その先に、マリーがいたというわけだ。
 クリムリッテは手近なスパナを両手に持った不良をビシッと指差して言う。
「そこの怪しいヤツ! 貴方には黙秘権があります。結局燃やされきったら黙ることになるけどね! ってことで燃えちゃえー!」
 笑い声さえたてながら火術を放つクリムリッテの姿は、まさに活火山。
 乱闘に乗じて誰かが鷹山剛次を狙うか、と危惧した黒鉄亜矢こと崩城亜璃珠は、何もせずにさっさと安全な場所へ避難した剛次の横で忘却の槍の柄を握り締める。
 バズラ・キマクはどうしたかというと、派手な喧嘩に血が騒いだのか嬉々として加わっていった。
「おまえの学校の生徒が混ざっているようだが、助けに行かなくていいのか?」
「そんなヤワじゃありませんわよ、最近の乙女は」
 亜璃珠の視線の先では円が二丁拳銃を巧みに操り、イングリット・ローゼンベルグが三本のバットを振り回しながら楽しげにニャーニャーと騒いでいた。
 彼女達に近づける者はそうそういないだろう。
 それからふと、視線はイコンに移る。
「踏み潰されそうね」
「自業自得だな」
 剛次は興味なさそうに鼻を鳴らした。
 そのイコンを操って喧嘩に参加しているのは天貴彩羽と天貴彩華である。
 さすがに気合と根性と見栄の不良達も、ビームサーベルを相手にする気はなかったようだ。
 イコンが一歩踏み出すごとに、ワッと蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
 が、どこにでもお調子者はいるもので、背後から接近した一人が足を伝ってよじ登ろうとしていた。
 気づいた彩華が「無礼者〜」と足を振り回すと、不良は弧を描いてスタンドに飛ばされた。
 落ちていく不良はミストラル・フォーセットにより打ち払われた。
「何なのこの連中」
 と、ゴミでも見るような目で言うメニエス・レインの横で、ナガン ウェルロッドが戦闘準備を整えていた。
 持参していたトローリーケースから機関銃を取り出し、設置している。
 舎弟達も各々斬り込む準備や射撃体勢をとっていた。
「ここもそろそろヤバイぜェ。ミストラル・フォーセットがぶっ飛ばしちゃったからなァ」
「その前からぶっ飛ばされてきたのよ」
「連中にとっちゃどっちでもいいんだよ」
 ナガンの言うとおり、地上への降り口から手に手に武器を持った不良達があふれてきていた。
「上ってくる前に潰す!」
 そしてグラウンドのほうを援護する。
 ギャハハハハハ!
 と、気が狂ったように笑いながら機関銃で撃ちまくるナガンのせいで、メニエスは完全にとばっちりを受けることになってしまった。
 飛んでくる石だの火炎瓶だのは全てミストラルが防いでくれるが、限度というものがある。
 メニエスの目に凶暴な光が宿った。
「そんなに死にたいか!」
 彼女が指差す先で強烈な氷の嵐が巻き起こった。
 朱黎明はスタンドにあがったブリザードに、いっそう周囲を警戒した。
「とうとうスタンドにまで……」
 ニマには指一本触れさせない、と拳銃型光条兵器を握り締める。
 ふと目に入ったグラウンドで、熾月瑛菜が鞭を振るって応戦していた。
 一人なのかと心配になったが、傍にはグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーがいるのを見て安堵する。
「妾の大切な友を傷つけることは断じて赦さぬ!」
 瑛菜を囲もうとする不良達を、グロリアーナの則天去私が一掃した。
「ありがと! 助かったよ」
「礼などいらぬよ。さあ、突破するぞ!」
 突き進むグロリアーナに続いて瑛菜も走り出した。
 グラウンド全体に広がった喧嘩の嵐の中、ヴェルチェ・クライウォルフはドージェを探した。
 助けるためではない。倒すためである。
「いた」
 と呟いた彼女の横を、凄いスピードで何者かが駆け抜けていく。

「ドージェ!」
 と、叫んで猛然と突っかかっていくのは鬼崎 朔(きざき・さく)
 進路にいる邪魔者はすべて刀で切り伏せ、その突き刺すような殺気に振り向いたドージェへ、朔は駆けるスピードを緩めることなく、それどころかいっそう速さを増して切っ先を向けた。
「貴様さえいなければ……!」
 朔の刀はあっさりとドージェの脇腹に突き刺さった。
 そのあっけなさに一瞬朔の心が止まる。
 だが瞬きの後には再び憎しみに支配された。
 燃えるような赤い瞳で睨み上げ、呪うように恨みを吐く。
「……貴様がたとえ、このパラミタでどれほどの偉業や、結果的に人助けをしてきたとしても……貴様がしてきたことは変わりない」
 朔の脳裏にドージェを憎む原因となった過去がよみがえる。まるで昨日のことのように。
 ドージェが紛争地域で暴れていた頃、朔の住んでいた町に一日滞在したことにより、軍に関係を疑われて町を焼かれたのだ。
 その時、朔は家族も故郷も失った。
 すべてをなくしたその後のことは──思い出したくもない。
「貴様が……貴様という”存在”がいなければ! あの時、誰も不幸にはならなかった! 誰も死ななかった! ドージェ……貴様は神なんかじゃない、ただの人殺しだ!」
 激情のすべてをぶつけてもまだ足りない、というように朔はもう一度ドージェに斬りつける。
 今度もドージェは黙ってそれを受けた。
 やがてドージェから返ってきたのは、仕返しの拳ではなく静かな声だった。
「これでいいのか?」
 気がすんだか、という意味だ。
 朔は呆然と仇を見上げる。
 数秒の後、ドージェは朔に背を向けると無造作に不良達を払いのけてマレーナのもとへ行ってしまった。

卍卍卍


 わざわざ渋谷から来たという不良軍団は一掃されたが、グラウンドは見るも無残に荒らされ、とても試合ができる状態ではなかった。
 一番悔しがっていたのは久かもしれない。
「何なんだよ、こいつらはよォ! 渋谷から来ただァ? かんけーねーだろ!」
 久はドージェと野球ができることを本当に楽しみにしていたのだ。こんな機会は二度とこないかもしれないと思い、ドージェともチームを組んだみんなとも心から楽しんで良い思い出にしたかったのだ。
 それを、こんな形で壊された。
 試合に臨んだ者達も同じ気持ちだ。
 一人、尋問のために捕らえた不良へ、怒りを押し殺した声でミツエは尋ねた。
「これは誰の命令なの? ガイアに109で運ばせるなんて、何を考えているの?」
 周りをパラ実生中心の強面達に囲まれながらも、何故か彼は余裕だった。
「へへへ……この日本の不良の頂点に立つ恐ろしい方だ。全日本番長連合を一ひねりしたな……」
「どこのどいつよ」
「てめぇで調べな」
「もういいわ」
 ミツエは憎々しげに不良の顔面を蹴りつけて気絶させた。
「こいつら、まりあや明が言ってた通り、渋谷のどこにでもいる不良ね。チーマーもいるかもしれないけど小物よ。前に全日本番長連合に負けたあたし達がまたここに来てるのを知って、からかいに来たんだわ」
「仕方のない輩ですね」
 朱黎明が車椅子にニマを乗せてスタンドから降りてきていた。彼としても、この喧嘩の理由が気になったのだろう。それともう一つ。
 朱黎明はドージェを呼ぶと、自分の携帯を掲げてみせた。
「ニマ様のお写真をお送りします」
「ニマ……」
 目を閉じたままのニマをドージェは寂しそうに見つめる。
 動かないドージェの代わりに、マレーナがドージェの携帯に朱黎明から画像を受け取った。それは、眠ったままではあるが今のニマだった。
「何故、ニマ様はあなたを倒してほしいなどとおっしゃったのでしょうね」
「ドージェをパラ実から追い出したかっただけよ」
 答えたのはミツエだったが、その内容は衝撃的すぎた。
 何か知っていそうなミツエに、朱黎明はその意味を問い質そうとしたが、その前にミツエが口を開いた。
「あんたが心配しなくても、あの程度の不良なんか見ての通りよ。何が来たって問題ないわね。だから、行きたいところにどこへでも行けばいいわ」
 突き放すように言うミツエにドージェの視線が移る。
 それに、とミツエがニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「あんたはあたしに素晴らしい贈り物をくれたわ」
 身に覚えのないドージェは、何のことかとミツエを見つめる。
「あたし専用のイコン、ほしかったのよね! でもお金がなくってさ、今日の試合で」
「うわぁぁぁああ!」
 叫んだのはヨシオだった。まるでその先は言ってはいけない、というように。
 ミツエはドージェ関連に全財産を賭けていたのだった。
 相変わらず身勝手なミツエが周囲を呆れさせている中、乱闘で傷を負った人達の手当てにあたっていた関谷 未憂(せきや・みゆう)は、何となくミツエの背が寂しそうに見えた。
 ふと視線をずらせば瑛菜がいた。
 擦り傷でも作ったのか眉を寄せている。唾つけて適当にしておこうという彼女の手を、未憂がそっと止める。
「手当てしますね、瑛菜さん」
「あれ、何であたしの名前……」
 初対面だよね、と不思議がる瑛菜に、未憂は一瞬だけメガネをかけて背に流している髪を両手で二つに分けてみせた。
 見覚えのある顔になった未憂に、瑛菜がアッと声をあげる。
「実は新入生ではなく他校生なんです……ごめんなさい」
「そうだったんだ。どこの学校?」
「イルミンスールですけど、今日は神楽崎分校生として来ました」
「そっか。別に怒ってないから気にしないで。未憂はケガしてない?」
「離れてたから」
 よかった、と瑛菜は微笑んだ。
 未憂の手当てが終わると、プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)が彼女の後ろから恥ずかしそうに顔を出してチョコレートを差し出す。
「ショコラティエのチョコです。どうぞ」
 代わりに未憂が言った。
 瑛菜はそれを受け取ると、プリムへ「ありがとう」と礼を言って笑顔を見せた。
 回りも落ち着いてきたようで、リン・リーファ(りん・りーふぁ)がみんなの疲れを癒そうとカチワリを配って回っている。
 氷術で作っているので、切らすことなく作ることができた。
 日が翳ってきたとはいえ、まだまだ気温は三十度を超えている。
 氷の冷たさに誰もがホッと一息をついた。
 リンからもらった氷を口の中で転がしながら、駿河北斗がドージェの前に立つ。
 彼は何かを言おうとして何度か口を開閉させた後、少し照れくさそうにドージェを見上げた。
「えーと……割と偉そうなこと言ったし、試合もこんなになっちまったけど、今日すげぇ楽しかった。だから……また遊ぼうな、ドージェ!」
 満面の笑みを浮かべて北斗は片手を上げると、ヒョイと飛び上がる。
 彼の意を察したドージェも片手を上げ、二人はハイタッチを交わした。
 と、そこに。
「これで最後じゃないからね!」
 腰に手をあてた七瀬 巡がふんぞり返ってドージェを挑戦的に見上げている。
「ボクはまだまだせーちょーきだし、今度対戦する時はもっとすごい球投げれるようになってるし!」
 ビシッと指差して宣言する。
「そうだな。今日は楽しかった。最後まで試合はできなかったが……」
 その時、久はドージェがほのかに笑んでいるように見えた。瞬きの後には消えてしまっていたが。
 それから、と、ドージェは朱黎明とミツエを見る。
「……ニマを頼む」
 二人は黙って頷いた。

卍卍卍


 後日、試合の記録を撮った動画や写真がそれぞれの撮影者の手により編集され、ネットなどに掲載された。
 その中には、MVPの発表もあった。

 ドージェに代わり、パラ実総長に選ばれたのは夢野久である。

 一番驚いていたのは本人だったとか。

担当マスターより

▼担当マスター

冷泉みのり

▼マスターコメント

 大変お待たせしました。
 公開予定日よりの遅延、申し訳ありません。
 『横山ミツエの演義劇場版〜波羅蜜多大甲子園〜』をお届けいたします。
 初めましての方もこんにちはの方も、ご参加くださりありがとうございました。
 今回は【野球】ですので学校紹介の【瞑須暴瑠】より少しルールを引き締めました。
 あまり変わってないかもしれませんが。

 今後の予定ですが、9月からキャンペーンシナリオを開始いたします。
 引き続きよろしくお願いいたします。

 最後に、この劇場版にご参加の皆様に『横山ミツエの演義0巻』をお送りいたします。
 お帰りの新幹線の中でお楽しみくださいませ。