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横山ミツエの演義劇場版~波羅蜜多大甲子園~

リアクション公開中!

横山ミツエの演義劇場版~波羅蜜多大甲子園~

リアクション



孫呉・?水関・アウトローズ対ミツエチーム


 ミツエチームの対戦相手は、孫呉チーム、?水関タイガース、波羅蜜多アウトローズの混合チームだった。通称としてアウトローズと呼ばれている。
 呼びかけたのは孫 尚香(そん・しょうこう)で、孫呉にまつわる人や孫呉に協力的な人、または孫呉に関連するチームを結成あるいは所属を希望する人がいないかな、と探していたのが最初だった。そして?水関タイガースを見つけ、目的は違うが波羅蜜多アウトローズのメンバーにも出会い、誘ったのである。
 そこでは、野球のルールにあまり詳しくないメンバーを集めてラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)がわかりやすく説明していた。
 パートナー契約を結んでだいぶ経つのに、未だに驚かされる羽高 魅世瑠(はだか・みせる)だったが、彼女は今、監督を務めることになった孫 堅(そん・けん)から残念な話を聞かされていた。
 魅世瑠達は四人一組で選手登録を申請したが認められなかったのだ。一人は一人として登録するように言われた。
「そういうわけだから、四人分の登録を済ませてきた。おまえ達の作戦がやりやすいよう、ポジションは近くにしておいたが……」
「了解。ま、始まっちまえばどうとでもなるさ」
 魅世瑠はあっけらかんと笑ってみせた。

 ミツエチームにいるガイアの巨大さに感心しているシルト・キルヒナー(しると・きるひなー)と、彼女をやさしく見守るエルミル・フィッツジェラルド(えるみる・ふぃっつじぇらるど)を、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が訪ねた。
「Hi.Missエルミル・フィッツジェラルド、でいいかしら。私はローザ。ローザマリア・クライツァール。貴方の兄と先日よりお付き合いさせていただいているわ」
「そうだったんですか。こんにちは」
 微笑むエルミルに、ローザマリアは心配が杞憂だったと感じた。もしかしたらエルミルが何か気にしているかもしれないと思って来たのだが、そのような気配はない。
「よかったらキャッチボールでもしましょ? 試合、出るんでしょう?」
「機会があれば代打程度ですけれど」
 言いながらグラブを用意するエルミル。
 シルトは、雑談しながら二人の間を飛び交うボールを楽しげに目で追いかけた。


 アウトローズの先攻で試合が始まった。
 先発ピッチャーはサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)。気合を入れるため、波羅蜜多セーラー服で挑む。
 対する一番バッターは孫尚香。
 サレンに握られたセリヌンティウスは珍しそうに「ほぅ」と声をあげる。
「弓がバットの代わりとは……どうやって打つつもりなのだ?」
「あの弦でセリヌンティウスさんをスライスする気っスかねぇ」
「なぬ!? ちょっと待て」
「行くっスよ〜」
 サレンはセリヌンティウスを振りかぶり、キャッチャーの教導団水泳部員Aが構えるミットへ第一球を投げた。
 弓をどう使うのか、様子見も兼ねて、しかし決してあなどらずに選んだ球種はチェンジアップ※。
(※速球と同じ腕の振りだが、速球よりも回転が少なく球速も遅く、減速しつつ沈んでいく球)
 ついでに投げたと同時に遠当てで弓の破壊も試みる。
 直感でそれを感じたのか、孫尚香はサッと弓を引いた。
 球は水泳部員Aの構えたところに吸い込まれ、球審がストライクを叫ぶ。
 わずかに震える弓の先に、孫尚香はサレンを睨んだ。
 サレンもまた、対戦相手の感の良さに闘志を燃やす。
 次に選んだのは速球。
 緩い球の後なのでかなり速く見えるはずだ。
 それでも孫尚香の振った弓はファールにした。
 フルカウントの後も孫尚香はねばったが、最後には緩急のある投球に翻弄されてアウトになってしまった。
 二番は試合前に意外な博識さを披露したラズ。
 彼女の出で立ちにセリヌンティウスが興奮した。
 胸パットに褌。
 それがラズの格好だった。
 よく見れば魅世瑠もフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)も同じ格好をしている。
 しかもみんな抜群のスタイルだ。
「あのおなごの胸にそっと投げよ」
「思いっ切り行くっスよー」
 サレンはきれいに無視して速球で勝負を挑んだ。
 ラズはバッティングにはあまり自信がなかった。
 だから、打席に立つ前に「ふつうにがんばってくるねー」とチームメイトに言ってきたのだ。
 そのリラックスしたところが良かったのか、打球はライトの久世 沙幸(くぜ・さゆき)前まで飛んでいった。
 驚きつつも一塁へダッシュする。
 二塁へは無理そうだと見たラズが一塁ベースを踏んだ時、ボコッという音と同時に姿が掻き消えた。
 選手達もスタンドも大きくどよめく。
 そんな中、ただ一人、目を輝かせてクスクス笑っている人物がいた。
 一塁手のヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)だ。
「備えあれば憂いなし、よね♪」
 一塁ベースがあったところに大きな穴があいている。人が一人入れそうな。
 走塁の邪魔をしてやろうとヴェルチェが密かに掘ったものだ。
 穴を覗き込むヴェルチェ。
 中には消えたラズが頬をふくらませて見上げていた。
「ふふふ、これで進塁できな」
「コラーッ!」
 勝ち誇ったヴェルチェの声に塁審の怒声がかぶった。
 顔を真っ赤にした塁審がヴェルチェに詰め寄る。
「ベースに落とし穴を作ってはイカン! 今すぐ埋めなさい! 二塁と三塁もだ!」
「あら。……あらあらあら」
 塁審が無言で指差すほうを見れば、各ベースの審判が身をもってそれを証明していた。
 まったく悪びれた様子もなく舌を出したヴェルチェは、審判の監視のもと各ベースをもとに戻した。
 ちょっとした中断の後、次の打者はシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)
 スタンドの一部から野太い声の声援が沸き起こる。
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)の呼びかけに集まった舎弟達だ。彼らに混ざって孫堅やエルミルがスカウトした野良英霊もいる。
 この後のガートルードに繋げたい、シルヴェスターはサレンの投球に集中した。
 これまでのサレンの投球内容から、球種は速球とチェンジアップらしいことがわかった。しかし、二種類とはいえタイミングよく使い分けられればバッターは振り回されてしまう。
 シルヴェスターは慎重に球を見極めようとした。
 そして、これだ、と思ってバットを振り当たった直後に「イカン」と息を飲む。
 打球はサードとショートの中間くらいに高く上がった。
 後はもう、お見合いでもして落としてくれ、と願うしかないのだが、残念ながらそれは叶わずショートの緋月・西園(ひづき・にしぞの)が頭上に掲げたグラブで受け止めてしまった。
 グラブの中のセリヌンティウスに緋月は妖しく微笑んで囁く。
「椿って、サラシ巻いててわからないけど、けっこう胸大きいのよ?」
「……ほぅ」
「何話してんだ? 疲れたのか、緋月」
 緋月を心配した泉 椿(いずみ・つばき)がサードへ戻りかけた足をもう一度緋月へ向けた。
 何でもないわ、と緋月は笑ってごまかすと三人を氷術で冷やした。
 セリヌンティウスをサレンに戻した緋月が椿に言う。
「あのボール、胸の大きな女の子に弱いみたいよ」
「え? そうなのか? ……しかしサラシを取るわけにもいかねぇだろ。お嫁に行けなくなっちゃうぜ……」
 やや逃げ腰の椿の目は、緋月に「妙な考えを起こすなよ」と訴えていた。
 四番ガートルード。
 本来すらりとした長身の彼女は、今回は特別に劇場版スタイルでの登場だ。
 後ろでツインテールに結った髪が風に揺れる。
 いかにも負けず嫌いです、といった気の強そうな瞳がサレンを挑発的に見据えた。
「さあ来い!」
 ニッと笑って構えると、スタンドの舎弟からいっそう大きな声援が送られてくる。
 ガートルードは初球から狙っていった。
 減速しつつやや左側に落ちていく球にタイミングを合わせて振られたバットは、先のほうにそれを捉えてレフトライン際へ飛んだ。
 審判がフェアを示す。
 フェンス際まで転がった球を虹キリンが慌てて拾い、緋月を中継して水泳部員Bへ返されるもラズの足のほうが速かった。
 ガートルードは二塁まで進む。
 スタンドはワッと盛り上がり、ラズは喜ぶ魅世瑠やフローレンス、アルダト達にポコポコと叩かれながら囲まれていた。
 続いての打者に、サレンは思わず「おぉーっ」と声をあげた。
 蒼澄 雪香(あおすみ・せつか)蒼澄 光(あおすみ・ひかり)の操るイコンだったからだ。
 バットはなんとビームサーベルだ。
「さすがにあれは遠慮したいのだが……」
「腕が鳴るっス!」
「おまえ、我を嫌っておらぬか? ン?」
「気のせいっスよ〜」
 イコンとの勝負に鼻歌をうたい出しそうなほど気分が高揚しているサレンには、何を言っても無駄なようだ。
 そしてそんな彼女に応じるように、イコンはスタンドへビームサーベルの先を向けた。
 まるでホームランを宣言するように。
 しかし本当のところ、雪香はホームランを狙っていたわけではない。
 ちょっとやってみたかっただけだ。
 雪香の挑戦を受けて真剣味を増したサレンに、光は緊張して肩に力が入ってしまった。
 そんな光に雪香が発破をかける。
「心配いらないわよ、光! イコンの力を持ってすれば、不可能なんてないはずよ。さあ、来るわよ!」
「う、うん……わかった。やってみるよ……」
「その意気よ!」
 精神感応で話しをする光に対し、ハキハキと声に出している雪香。二人は実の姉弟である。
(お姉ちゃんはこれは友達を作る良い機会だって言うけど……知らない人は、ほんと怖いよ……)
 光にとって、姉以外の人は恐怖の対象であった。
 いつも守ってくれる雪香のために、少しでも役立とうと光も集中する。
 二人は呼吸を合わせてバット代わりのビームサーベルを構えた。
 まるでこれから相手を斬りにいくように上段に。
 セリヌンティウスが何か叫んだが、サレンは思いっ切り投げた。
 ビームサーベルがセリヌンティウスを真上から叩きつける、と思われたが、さすがに本人が嫌がって直前でスピードを緩める。
 結果、ビームサーベルの先端がセリヌンティウスをかすり、激しくバックスピンしながら高く打ち上げられた。
 そのスピードがあまりにも速かったため、一瞬見失いそうになったが、やがて落下してきた生首はサレンがキャッチした。
 振り下ろされたビームサーベルは本塁にめり込んでいる。
 球審はスリーアウトを宣言すると、本塁の代えを持ってくるようにスタッフに指示した。


 回は1−0のまま中盤まで進んだ。
 ミツエチームの攻撃で、バッターは七番DHの夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)
 対するアウトローズのバッテリーはガートルードとシルヴェスターである。
 野球初心者の夏候惇は、水橋 エリス(みずばし・えりす)に事前にルールを教えてもらっていたが、いまいち理解できないまま試合に臨んでいる。
 これまでの試合の様子からの見よう見まねである。
 そのエリスはスタンドで観戦しているのだが、まるで夏候惇の心情を間近で感じているように、ハラハラしながら見つめていた。
 劇場版仕様のガートルードは身長は年相応だが、胸は発育が良かった。しかも今日は暑いのでビキニで参加している。
 投げる前に、セリヌンティウスをキュッと抱きしめる。周りからは祈っているように見えるだろう。
「ふ……我がそういつまでもおっぱいにつられていると思うなよ」
「でも、ウィッカーのところへ行ってくれるよね。ほら、あそこだよ」
 囁くガートルードは、こぼれそうな胸の谷間を見せているキャッチャーのシルヴェスターがよく見えるようにセリヌンティウスを回した。
「あの胸が受け止めてくれるから、打たれないでね」
 ガートルードはセリヌンティウスの耳元で囁くと、大きく振りかぶる時にはもう真剣そのものだった。
 味方にもかけたパワーブレスの勢いも借りて、外見からは想像もつかない剛速球が繰り出される。
 夏候惇が打席に立つのは二度目だが、一打席目は三振だった。
 次は当てたいと気合のこもっていた彼女だが、わずかに振り遅れてバットは空を切る。
 そして、セリヌンティウスはシルヴェスターのやわらかそうで豊かな胸に抱きとめられていた。
「かわいー奴じゃ」
 顔立ちが端正故に微笑むと何とも言えなく色っぽくなるシルヴェスター。彼女に一撫でされ、セリヌンティウスはガートルードに返される。
 どこかうっとりした表情のセリヌンティウスに、やや呆れを見せる夏候惇。
 改めて二球目。
 今度は振り遅れまいと意気込んだ夏候惇のバットは、初めて当たった。
 痛烈な当たりのそれは、しかしピッチャーにまっすぐ飛んでいく。
 投げた直後で、まだ態勢の崩れているガートルードだったが、反射的に出したグラブに運良く球が飛び込んできた。
「う〜む、難しいものだ……」
 夏候惇は次の対策を考えながらベンチに戻っていった。
 スタンドのエリスも似たように息をついた。
 八番は本人の希望で沙幸。守備はライト。
「ライパチ君って言うんだっけ? 何だか呼び方が微妙にかっこいいよねっ」
 と、ニコニコして言うものだから、ライパチの意味を知っている者は何も言わずに彼女の希望通りにさせた。
 ちなみにライパチとは、草野球や少年野球において守備も打撃もあまり上手くない選手のことを指す。
「どこに飛んでいくかな……っと!」
 初球から力いっぱい振ったバットはセリヌンティウスをライト方向に飛ばした。
 バットを握る手に伝わってきた嫌に生々しい感触に一瞬眉を寄せながらも、沙幸は一塁へと全力で走る。
 球は孫尚香の前に落ちてシングルヒットとなった。
 駆け抜けたベースに戻った沙幸は、いまだ手のに残る感触に小さく呻く。
「いい音もしないし……ま、生首ってそんなもんかな」
 何とも鈍い音だった、と沙幸は思い出していた。
 九番は虹キリンに代わって夏侯 淵(かこう・えん)が打席に立った。
「塁に出て、ルカがホームランを打って三点だ」
 夏侯淵は自分に言い聞かせるようにバットへ呟くと、ガートルードがどんな球を投げてくるつもりなのか見極めようとした。
 今までベンチで見てみて、変化球が多いことがわかった。
 確率的に初球はカーブでくるのでは、という夏侯淵の読みは当たった。
 縦の大きなカーブだった。
 ストライクをとられたが、当てるのはちょっと難しい。
 だが、消極的になっていては、ガートルードのコントロールの良さであっという間に三振をとられてしまう。
 夏侯淵は内野の守備位置を確認すると、バントで攻めた。
 予想外だったことと転がった位置が良かったことで、一、二塁とすることができた。
「ルカ、任せたぞ!」
 次の打者であるルカルカ・ルー(るかるか・るー)に、夏侯淵は一塁から声援を送った。
 試合前、ルカルカはバットをどうするかでちょっとした騒ぎを起こした。
 最初は戦車の砲筒にしようと思ったのだが、教導団から「待て」と言われた。
 仕方ないので甲子園で代わりを探そうと思って来たところで目についたのは、電柱。
 ところが。
「公共物の破壊はまずいわ」
 と、ミツエに止められてしまったため、ふつうのバットで出場している。
「ま、これでも充分よ」
 何度か素振りをして感触を確かめる。
 夏侯淵の声援に小さく微笑みを返し、構えた。
 ファールで追い込まれてしまったが、ルカルカに焦りはなかった。
 タイミングが合ってきている、という手応えがあったからだ。
 それとは別に。
 ──何となく、次は打てる。
 そんな不思議な予感があった。
 そしてバットは球を芯で捉え、誰が見ても場外ホームランというくらいに高く伸びていく。
 大きな当たりにスタンドも沸きあがった。
 ガートルードも悔しそうに見送った時、魅世瑠達が動いた。
 フローレンス、ラズ、アルダトの三人が立て続けに遠当てを球に向けて放つ。
 球の球速と飛距離は多少は落ちたが、それは場外がスタンドに変わった程度だ。
 そうしながら魅世瑠のほうへ駆けていくと、腰を落として待っていた魅世瑠とフローレンスにラズの三人が手を組んだ。
 その手を足場に、一番身軽なアルダトが空高く飛び上がる。
 目一杯手を伸ばしたアルダトのグラブは、セリヌンティウスを捕まえた。
「やりましたわ……あっ」
 球の飛ぶ威力にアルダトの体がスタンドへと引っ張られていく。
 それを見たフローレンスが、何としてでもホームランは阻止する、と決意してアルダトに「すまねぇ!」と短く断ってから遠当てを放った。
 アルダトから小さく悲鳴が上がる。
 その分、彼女の犠牲の甲斐あって球の軌道が変わった。スタンドには入りそうだが、ファールになるだろう。
 しかし、スタンドに落下するなどアルダトのプライドが許さなかったのか、バサリと彼女の背から漆黒の蝙蝠の羽が広がる。彼女は蝙蝠型の獣人である。
 アルダトは魅世瑠達のもとまで飛んで戻ると、
「これで、アウトですわね」
 と、色っぽく笑んで芝生の上に舞い降りた。
「アルダト、悪かったな。大丈夫か? ……あっ、タンコブがっ」
 心配そうにアルダトを見るフローレンスが彼女の額を見て慌てる。
 フローレンスはすぐにヒールで癒していった。
 アルダトは礼を言うと、胸に抱いたセリヌンティウスを妖しい手つきで撫でた。
「ふふふ……こうして生首を抱えるなんて、サロメのようですわね」
「どちらも良い戦いであったな」
 珍しくまともなことを言ったセリヌンティウスに、四人は目を丸くした。
 二番は水泳部員Aに代わってミツエが出た。
 今度こそホームランよ、と意気込んでいたミツエだったが、二球続けてのファールであっさり追い込まれてしまう。
 だが、ミツエのしつこさを知っているガートルードとシルヴェスターは、念入りにサイン交換をし、次の球を決める。
 セリヌンティウスに”お願い”することも忘れていないが、今までの彼の態度から果たして効果があるのかは謎だ。
 ガートルードは打ちとってやるつもりで投げた。
 鈍い音と醜い悲鳴と共に外野へ飛んでいくセリヌンティウス。ライト線際でバウンドした。
 沙幸と夏侯淵が塁を回り、ミツエチームに二点が入る。
 ミツエも一塁を蹴って二塁に走った。
 その二塁の守備は朝野 未沙(あさの・みさ)
 ライトの孫尚香からの返球よりも、ミツエに向かって両腕を広げている。
 まるで抱きしめようとしているかのように。
 ハッとしたミツエはクルッと未沙に背を向けて一塁に戻っていく。
「どうしたのミツエさん! 二塁はここだよ、さあ!」
「ちょっと、追いかけてこないでよっ。あっ、こらっ」
 一塁に戻ったミツエを、未沙が後ろから抱きしめる。
 そして、未沙のいけない手はミツエの胸元に伸びていく。
「やめなさいって言ってるでしょ!?」
 その時、ジタバタと暴れるミツエの肘が偶然未沙の鳩尾にきまってしまった。
 ウッ、と呻いて崩れ落ちる未沙に、さすがにミツエも慌ててその体を支える。
「あんたが悪いとはいえ、これは事故よ。大丈夫?」
 自分が悪いとは微塵も思っていないミツエの発言だったが、未沙はズキズキとした痛みを抱えながらもこの状況を楽しむことにした。
「あたし、もうダメかも……。ミツエさん、最後におっぱいタッチさせて……イタッ」
 ミツエは未沙を支えていた腕を離した。
 地面に後頭部を打つ未沙。
「さあ、試合続行よ!」
 ミツエは何事もなかったかのように言った。
 審判にも促されてセカンド守備に戻った未沙だが、次のバッターであるヴェルチェが打てばミツエは再び自分のほうへ走ってくるしかないことに気づくと、うっすらと笑みを浮かべる。
 そしてそのヴェルチェは、さらなる追加点を狙っていたのだが、ここはガートルードの腕とシルヴェスターのリードでゴロを打たされ、この回の攻撃は終わった。