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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

リアクション


■ツアンダ5
 段々と樹木の迷路が入り組んできて、小回りの効かないヘビー仕様の機体には厳しい状況になっていた。
 アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)は、ややスピードを落として、木々の間を危なげ無く進んでいた。
(今、何位ぐらいなのかしら……)
 コースなど、あってないようなものだった。とりあえず、抜けるべき方向だけを確認して進んでいる。他の選手たちも同様だろう。森に入るまでそばに居た他の選手たちは、ちょっと見当たらなくなって久しい。こういう時、互いに連携している選手たちは便利だなぁ、とか頭の隅で思いつつ。
「通信妨害が巧く行ってれば、面白いことになったのよねぇ」
 ボヤく。レース状況の中継のこともあってか通信に関しては警備が厳しく、手が出せなかった。
「残念」
 今更ながら、そんな感想を呟く――と、アルメリアは後方に迫る音に気づいて、ちらりとそちらの方を確認した。
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)を乗せた機体。
「ふぅん。東側か……それに、可愛い」
 目を細める。
 木々は入り組んでいる。相手の機体は、ノーマル仕様。加えて、ちょうど自身はこの森のコースに慣れてきたところ。
「申し分ないわね」
 ころ、と小さく笑って、アルメリアは、スピードを調整し始めた。
 カレン機へ併走するような形になって、行き去る木々の間から、彼女たちの方へと笑顔を向ける。
「ご機嫌よう」
「へっ? あ、うん、こんにちわ!」
 カレンが驚いたように大きく瞬きをしてから、笑顔を返してくる。後ろに乗っているジュレールの方は警戒の強い眼差しでこちらを見ていた。
 気にせず、アルメリアは続けた。
「ねえ、せっかくだから遊んでいかない? 可愛い子ちゃん」
「へ?」
「カレンッ!」
 先に気づいたのはジュレールの方だった。カレン機が通らざるを得ない木々の隙間、そこへアルメリアの放った氷術が薄壁を張る。
「うわわわっっ!」
「くっ!」
 ジュレールが氷壁へレールガンを放つのと、ほぼ同時に、アルメリアは加速していた。
 重い銃撃音と涼し気な氷砕の音の中をくぐって、カレンが木々の隙間を通り抜けた、そのタイミングを狙って、先回りしていたアルメリアの機体がカレンたちの飛空艇を弾き飛ばす。
「っぅああ!?」
「このッ!」
 数本の樹の幹を擦りながら機体を保ち、飛空艇の迷彩柄がアルメリア側へなるように駆るカレンの後ろで、ジュレールが体を無理にひねりながら、アルメリアへとレールガンを放つ。
「ワタシ、可愛い子をいぢるのが大好きだけど、その逆って苦手なのよね」
 くす、と笑みをこぼしながら、アルメリアは木々の影を渡って、飛び来るレールガンを逃れた。なんとか体勢を整えられそうなカレンたちを後方に残し、森の奥へと先行していく。
「また、遊んでねー。お団子ちゃんもー」
 後ろの方へと言い放ち、アルメリアは機嫌の良い鼻歌と共に、苔生した倒木の下をひゅるんっと抜けた。
 

『アルメリア、中々鮮やかな妨害でしたねぇ』
『カレン機の対応も良かったですね。もし氷壁の粉砕が間に合わなければ、もっとダメージは大きかったでしょう。サポートのジュレールに多少の読みがあったのか。素早い対応でした』
『えー、さて、ブーストを交えて徐々に上がってきているのは、黒崎機とブルーズ機。じわじわと、慎重ながら順位を上げてきています。そして、大きく追い上げを見せ始めているのは――パティ&エイミーの機体!』

◇ 
 煙の軌道を描きながら、ランチャー弾頭が太く張り出した木の枝々の重なりを吹っ飛ばす。
「っし、次ィ!」
 後部席でエイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)が次発の機晶ランチャーの準備を整えている間に、パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)は飛空艇を、今しがた造られたばかりのルートへと滑らせた。
 砕けた木片の中を突き抜けながら、
「こちら〜エイミーですぅ〜。障害物の排除はぁ〜順調ぉ〜、ルートの座標に変更はありません〜」
 パティは通信先のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)へと報告していた。
「妨害者はぁ〜、パラ実生とイルミン生と思われる人たちが何人か潜んでいましたがぁ〜、ええ、エイミーちゃんが、どかあーんって。あ、でもぉ〜、学校生徒にしてはぁ〜……」
「パティ! 報告は簡潔にしろって!」
 エイミーが忠告しつつ、どかあーんとロケットランチャーで目の前の木々を吹っ飛ばす。パティは、はた、と気づいて、エイミーの方へと顔を向けた。
「ごめん〜、私〜、ついゆったりしちゃってぇ〜」
「いやややや、前見ろ! 前!!」
「あ、はい〜」
 パティがのんびりとうなずいてから、ゆっくりと前方へ視界を戻し、よいしょっと軌道を修正する。
「ぅおわっ!?」
 頭をかがめたエイミーのおさげが、パチィン、と短い音をたてて、頭上の太枝を掠めていく。
「た、頼むよ……マジで」
 頭をかがめてパティの肩に額を乗っけた格好のまま、エイミーがひょろひょろとこぼし、パティは、うんっとうなずき笑んだ。
「はいぃ〜、お任せぇあ〜れ〜」
「……不安」
 パティ的には頼もしく答えたつもりだったというのに、エイミーからは返って来たのは呻き声のようなつぶやきだった。

「……配置を少し間違えたかもな」
 クレアは軽く苦笑を落としながら携帯を切った。進んでいるのはエイミーたちが切り開いたルート。そこは中々快適で、時折り、安全にブースト加速を用いる余裕すらあった。
 しかし、そういった道だからこそ――
「妨害者も狙ってくる、というわけか」
 クレアは、茂みに潜んでチャンスを伺っていたらしい妨害者を冷線銃で威嚇しながら、その場を駆け抜けた。


 森の匂いがどんどんと濃くなる。
 日差しが遮られ始めて薄暗さを増しているが、森の奥へ行くほど夏の暑さが幾分抑えられ、呼吸が楽になっていく。
 本郷 翔(ほんごう・かける)は、すぅっと深呼吸をして、ゆったりと微笑んだ。
「気持ちの良い場所ですね――しかし、道に迷わないようにしないと」
 飛空艇を操る手の甲に、ひらひらと落ちているのは揺れる葉の間を抜けた陽の欠片たち。それらは静かに湿った森の地面の上にも降り注いでいた。
 木々の開けたところで、本郷は上昇した。
 腕時計を覗く。『12時』と短針の真ん中を太陽の方向へと向け……『12時』の方へと指先を投げ、
「大体あちらが、南ですから……」
 進行方向に間違いはない。
 小さくうなずいて、本郷は再び森の中へと機体を滑り込ませていった。
 ふと、つぶやく。
「そういえば、そろそろティータイムですね」
 

「やはり、ここでは狙い切れないか」
 良雄(?)たちを退けた葛葉 翔(くずのは・しょう)は、森林内を突き進んでいた。
 本当ならば誰かの後方についてスリップストリームを狙いたかったところだが、こう障害物が多くては、それもままならない。
(ツアンダの街で溜めた分を活かしきれると良いんだが……)
 と、側方の木々の向こうへ、何か大きな物が上空から滑りこんで来るのが見えた。レッサーワイバーンだ。
 カメラを構えた一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)を乗せ、器用にこちらを追って飛んでいる。
「――パラミタならではだよな。ワイバーンで中継撮影ってのは」
 なかなかダイナミックな話だと思う。
 とはいえ、ワイバーンの身体では、この辺りの狭い木々の間を飛び続けるのは大変らしく、抜けられない場所は上空に逃れ、そして、また森の中に戻って、というのを繰り返してるようだった。なんだか頑張っている。
「俺も負けられない、な」
 葛葉は薄く笑って、少しばかり加速した。軽やかな体移動で、立ち並ぶ木々の間を滑っていく。

 ワイバーンの身体は、再び、生い茂る葉を掻き分けて上昇していた。
 森林の天井を抜けて日差しがきつくなる。
「なかなか落ち着きませんね」
 アリーセは独りごちながらも、カメラを眼下の森林の方へと向けていた。
 夏の張りのある葉々が風に揺れ、ひらひらと光を返しながら揺れている。
 その隙間から見えたのは久世 沙幸(くぜ・さゆき)藍玉 美海(あいだま・みうみ)
 彼女たちは妨害者らしき飛空艇に追われているようだった。

「ヒャッハァ、良雄様の弔い合戦だァー!」
 由緒正しきパラ実生といった趣きのモヒカン頭に世紀末スタイルの男が、チェーンをヒュルヒュルと回しながら二人を追って来ていた。
「よく分からないけど、私たちは関係ないと思うよ!」
 沙幸、こちらへと放たれたチェーンの先を避け、ひゅんっと機体を巡らせながら、手裏剣を投げた。
 それが相手の飛空艇を掠めて向こうの木の幹へと突き刺さる。
「こまけぇことぁいいんだよ! どうせ襲うなら女のが良いに決まってるだろうがァー!」
「正直な方というのか、なんというやら」
 相手の側方へ回りこんでいた美海が火術を、彼の鼻先へと掠めて牽制した。目の前を掠めた火球に慌てた男の前へと、沙幸は飛空艇を巡らせ、己の懐に手を入れた。
「しつこいから、しびれ粉でしびれてもらうんだもん!」
 と――
「……あれ? あれれ?」
「どうしたんですの? 沙幸さん」
 美海の言葉に、沙幸は、あは、と笑った。
「持ってくるの忘れたみたい」
「ヒャーーッハッハ、このおっちょこいめェ! もはやテメェが俺にめちゃくちゃにされるのは運命なようだなァー!」
「だから、えいっ」
 沙幸の投げた手裏剣がすこんっと男の額に刺さる。
「…………」
「…………」
 しばし、それぞれの飛空艇が森の中を飛ぶ音だけが響き、
「うぉおお、痛ぇーー!?」
 取り乱した男は、コントロールを誤って張り出した太い枝に顔面を打ち付けて、そのまま飛空艇から地面へと落下した。


『さあ、現在トップは樹月刀真を先頭とした影野、天城の三機! まもなくチェックポイント付近――植物系モンスターの群生地帯へとさしかかります!!』


 樹月 刀真(きづき・とうま)が先頭となり、バスタードソードで邪魔な木枝を切り落として行っている。

「――そろそろか」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)は、前方を行く影野 陽太(かげの・ようた)からのサインに、小さくつぶやいた。
 機体の調子を再度確認してから、なだらかに加速する。
「ユリウス」
「抜かり無い」
 後部座席でタワーシールドを準備したユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が、いつもの剛毅な調子で返してくる。
 一輝は小型飛空艇を片手で繰りながら、機関銃の準備を進めていた。陽太の横を抜ける際に、彼から心配げな表情を向けられているのに気づいて、一輝はそちらに軽く視線をやった。
 陽太が少し複雑そうな顔をしながら、
「本当に……」
「打ち合わせ通り頼む。これで大きくアドヴァンテージを取れるはずだ」
「少々時間がかかっても、共に切り抜ける、という方法もあると思いますが」
 少し先を行く刀真が言って、彼の後ろの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がこちらを向きながらこくこく頷いているのが見えた。
 一輝は、片目を細め、
「確実な方法だ。それに、この先もレースがどう荒れるか分からない」
「温存できるものは温存すべきであろう」
 ユリウスが言葉を続けて、一輝は頷いた。機関銃を、飛空艇を繰りながら扱える位置にガシャリと固定して、一つ間を置くように息をつく。
 覆う木々の向こうに開けているらしい部分の片鱗が見える。それと、うねりと何かが蠢いている気配も。
 一輝は、樹月たちの前へと出ながら続けた。
「シャンバラが分断され、結果的に女王を守れなかった今、我々クイーン・ヴァンガードへの信頼は益々危ういものになっている。微々たる影響かもしれないが、こういった場で少しはアピールをして失地回復を試みておきたい」
 突っ切っていた森の空気の中に生臭さが混じり始めていた。ユリウスが盾を構え、一輝は樹月機と影野機の前へと出た。三機が縦一列になる。
「作戦を始める」
「我らが血路を開く。刀真、陽太、両機は出来うる限り無傷で抜けることを念頭に我らに続け!」
 ユリウスの号令が響いた、その次の瞬間には一輝の機体はモンスター共の群生地へと飛び出していた。
 空中をうねってこちらを狙ってくる無数の蔦。そちらの根元の方へと機関銃の弾丸を注ぎこみながら、一気にその場を突っ切って行く。こちらを叩き落とそうとした蔦の一撃をユリウスの盾が弾き返す。それを陽太の熱線銃が撃ち弾き、他方から彼らに迫っていた蔦を月夜の火術が焼き払った。
「チッ、予想以上にしぶとい!」
 スピードを落とす気は無い。木々の枝にぶら下がり、上下左右から押し寄せる蔦へと銃撃を走らせながら、一輝は後方の二機へとサインを出した。
 うねる蔦の中へとそのまま突っ込んでいき、絡まれ、囚われながら、後続のために機関銃の引き金を引き続けた。
 刀真と陽太が一輝の出したサインの指示通りに、蔦の開かれたラインをすり抜けていくのが見えた。
 後方、ユリウスが蔦に絡まれながら、わずかに安堵の息を吐いたのが聞こえる。
「巧くいったか――後は任せたぞ」
 ユリウスの盾が蔦に弾かれ、蔦に巻き付かれていた機体がギシッと軋みを上げ、動作を止めた。
「潮時だな。ユリウス、無事か? 後はあいつらが着くより早く街へ戻って迎えてやれれば最高なんだが……」
「尽力しよう」
 蔦にしっちゃかめっちゃかに絡まれつつも、ユリウスの声はやはり剛毅さに満ちていた。


▼現在の順位

1位:【西】樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)(ヘビー)
2位:【西】影野 陽太(かげの・ようた)(ノーマル)
3位:【西】七枷 陣(ななかせ・じん)リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)(ライト)
4位:【西】棗 絃弥(なつめ・げんや)源 義経(みなもと・よしつね)(ノーマル)
5位:【西】ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)(ノーマル)
6位:【西】葛葉 翔(くずのは・しょう)(ライト)
7位:【西】天海 総司(あまみ・そうじ)(ノーマル)
8位:【西】エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)(ヘビー)
9位:【西】久世 沙幸(くぜ・さゆき)(ノーマル)
10位:【西】藍玉 美海(あいだま・みうみ)(ノーマル)
11位:【東】ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)(ノーマル)
12位:【西】アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)(ヘビー)
13位:【東】カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)(ノーマル)
14位:【東】黒崎 天音(くろさき・あまね)(ノーマル)
15位:【東】ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)(ヘビー)
16位:【西】クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)(ノーマル)
17位:【東】咲夜 由宇(さくや・ゆう)アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)(ライト)
18位:【西】瀬島 壮太(せじま・そうた)ミミ・マリー(みみ・まりー)(ノーマル)
19位:【東】佐々良 縁(ささら・よすが)天達 優雨(あまたつ・ゆう)(ノーマル仕様)
20位:【西】アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)(ノーマル)
21位:【西】ローラ・アディソン(ろーら・あでぃそん)(ヘビー)
22位:【西】本郷 翔(ほんごう・かける)(ヘビー)


リタイア:【東】ヒルデガルド・ゲメツェル(ひるでがるど・げめつぇる)(ライト)
リタイア:【西】天城 一輝(あまぎ・いっき)ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)(ノーマル)
リタイア:【東】御人 良雄(おひと・よしお)(ヘビー)
リタイア:【東】志位 大地(しい・だいち)(ヘビー)


 会場――
「ね、ねぇ、オヤブン、一輝たち大丈夫かな?」
 コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)はスクリーンを見上げながら、おろおろとローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)の方へと言った……つもりだった。
 が、気づいたらローゼの姿が見当たらない。
「え? あれ? オヤブンーッ!」
 人混みの中をキョロキョロとしていたコレットの携帯が鳴って、彼女はそれを取り出した。着信はローゼから。
「オヤブン! どこいっちゃったの!」
『今、バイクを取りに行っている途中ですわ。貴様は、会場の外で待機していなさい。Bの3番出口で落ち合いましょう』
「ふぇ? え、えっと」
『迎えに行きますわよ。二人を』
「うんっ!」
 コレットは強く頷いて、人混みをかき分けながら会場の出口へと向かった。