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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第1回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第1回/全3回)

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●俺たちの住処であるイルミンスールを、
これ以上荒らさせはしない!


 コーラルネットワークに進入した生徒たちをまず最初に出迎えたのは、床に壁に天井に張り付く無数の蛇だった。
 長いもので1mを超える蛇は、身体をくねらせながら時折覗く牙を煌かせ、先に見える『御馳走』を目指して侵攻を続ける。
 
 このままでは、イルミンスールが死んでしまう――。
 
 生徒たちの長い戦いが幕を開けようとしていた。

●転送ホールa付近

 天井から、身体をしならせた蛇が口を大きく開け、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の纏った鎧ごと噛み砕かんとする。
(相手の位置が見えていれば……っ!)
 ロザリンドの掲げた、身体が完全に隠れるほどに大きな盾に阻まれた蛇が、ぶつかった衝撃で態勢を崩し、地上に落下してくる。
(逃しませんっ!)
 地を這って逃げようとする蛇へ、盾から身を覗かせたロザリンドが槍を振るい、蛇の胴体を上から下へ貫く。
 短い断末魔の悲鳴とどす黒い体液をほとばしらせ、蛇が動かなくなったのを確認して、槍を引き抜いたロザリンドが次の目標を探して首を左右に向ける。
「ロザリンド、ここにいたか。……フッ、その格好、俺でなければ気付かなかったかもしれんな」
 転送ホールが光り、閃崎 静麻(せんざき・しずま)クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)閃崎 魅音(せんざき・みおん)が姿を現す。静麻が冗談交じりにそう言ったのは、兜と面で顔を隠したロザリンドが、青い髪以外本人であることを示す物が何もなかったためである。
「……エリュシオンが関与している可能性を、否定出来ませんから。行きましょう、まずは魔法陣の安全の確保を」
「ああ。しかし、ここにいるのは俺たちだけか? 敵を掃討するだけならいけそうだが、後の護りは必要だろ」
 魔法陣Aへの道を進みながら、静麻がロザリンドに言葉をかける。
「私の他にも何名かここに転送されてきましたが、Ir1へ向かっていきました。牙竜さんにこのことを伝え、戦力の再分配をお願いした方がいいでしょうか?」
「そうだな――いや、こっちに向かってくる足音がある。彼ら次第だな」
 ロザリンドと静麻が振り返った先、姿を見せたのはミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)強盗 ヘル(ごうとう・へる)
「私達の他にも、魔法陣へ向かおうとしている方々がいるようですね。ミレイユの感じた違和感は、間違いではなかったようです」
「えっ、ホント!? ワタシってもしかしてスゴイかも?」
「あまり誉められたものではないと思いますが……特に、思い立ったら直ぐに飛び出してしまう所など」
「うう……そんな事言ったってなかなか治らないよ〜」
 自分の予想が的中したことに一旦は顔を綻ばせるミレイユだが、シェイドの突っ込みと光学迷彩で姿を消したデューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)の吐くため息に、しゅん、と縮こまる。
「よし、これで計画が立てやすくなる。ロザリンド、今から立てる計画を纏めて、牙竜に報告してやってくれ」
「分かりました」
 4者とそのパートナーが顔を突き合わせて、周囲の防衛計画を簡潔にまとめていく。
 魔法陣A付近に蔓延る蛇を掃討後、ザカコとヘルはそのまま魔法陣Aの防衛。
 ミレイユたちは転送ホールa付近に待機、怪我や毒などで後退してきた生徒たちの治療。
 ロザリンドはIr1、静麻たちはIr2へ進み、Ir2とl2の交差点で合流。
「よし……行くぞ!」
 それぞれが為すべきことを理解した頷きを返し、一行が駆け出す。直ぐに蛇の大群が、魔法陣Aへ攻撃を加えんとする光景に出くわす。
「えっと、蛇は寒さで冬眠するってファタさんが言ってたよね。それじゃあいっくよ〜!」
 ミレイユが手にした杖が回転を始め、先端に刻まれたルーンが光を放った直後、蛇の集団を氷の嵐が襲う。完全一致とはいかないまでも基本は蛇の生態を有する生物、やはり寒さには弱いと見え、天井や壁に張り付いていた蛇がバタバタと地面に落ちていく。
「続いて行きます! 皆さんは残った蛇の掃討をお願いします!」
 ミレイユのブリザードに続いて、ザカコが炎の嵐、ファイアストームで蛇を包み込む。樹木の表皮のように見える周囲は炎で延焼することなく、そして炎に包まれた蛇が断末魔をあげ、その身を塵と化していった。
「これ以上先へは、行かせません!」
 シェイドが抜き放った刀に冷気が宿り、振り抜けば、範囲魔法を免れた蛇を瞬時に凍り付かせ、粉々に砕く。
 なおも追撃から逃れ、魔法陣Aへ向かおうとする蛇は、デューイとヘルの拳銃から放たれる無数の弾丸に貫かれ、事切れる。
「……よし、ひとまずこの場の敵は掃討出来たな。計画の第二段階へ移行だ」
 周囲に敵の気配が消えたのを確認して、ザカコとヘルを魔法陣Aの守りに配置し、一行は今来た道を逆に辿る。
「みんな、辛くなったら無理しないでワタシの所に来てね!」
 転送ホールa付近に来た所で、ミレイユがロザリンドと静麻たちを見送り、前方で戦いを続ける生徒たちに声をかける。
「私たちはミレイユの守護を。デューイはあちらをお願いします」
 シェイドとデューイが両脇に布陣し、不意討ちを受けぬよう警戒の目を張る。
「じゃ、また会おう」
「はい、静麻さん。お気をつけて」
 静麻たちがl1へ進むのを見送り、ロザリンドがIr1を先に進む。直ぐに、先行していた生徒たちの後ろ姿が見えた。
「くっそ〜、コレ結構重いじゃんよ〜。「突撃ぃ〜どけどけぇ!」ってやりたかったのにさぁ〜」
「こら! 血煙爪を引きずらないの! 床に傷が付くでしょう?」
「何だよ、リリィのくせにあたいに指示すんな。ってかただの休憩だし」
 明らかに身に余る武器を引きずっていた所を、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)に注意されてマリィ・ファナ・ホームグロウ(まりぃ・ふぁなほーむぐろう)が反抗しつつ、持っていた血煙爪(ちぇーんそー)を持ち上げて先に進む。流石に世界樹に傷をつけるのは良くないと思ったようだ。
 そこへ、生徒の攻撃の手をかいくぐって数匹の蛇が二人に襲いかかろうとする。
「マリィ、来ましたわよ!」
「いちいち言わなくたって分かってる! ……えっと、これを引っ張ってエンジンをかけて……」
 血煙爪のエンジンを切ってここまで来たため、攻撃の準備に手間取るマリィ。
 そこをわざわざ敵が待ってくれるはずもなく、無防備なマリィに蛇が鋭い牙を突き立てる。
「痛あっ! いったぁーい!」
「今ですわ!」
 マリィが悲鳴を上げた直後、リリィのキュアポイゾンがマリィに施される。
「ちょっと! 痛いって言ってんじゃん! キュアポイゾンよりヒール寄越せばかー!」
「噛まれたらだいたい毒ですわ。早くしないと次が来ますわよ」
 リリィの言う通り、次々と蛇の数が増えていく。
「……だ、だから言わなくたって分かってるってば!」
 口では反抗するマリィだが、やはり不慣れな分どうしても作業に手間取ってしまう。
 そこへ別の蛇が飛びかかる射程内にマリィを捉え、牙を煌かせて噛み付かんとする――。
「やらせませんっ!」
 青い髪をなびかせ、駆けてきたロザリンドがマリィと蛇の間に滑り込み、手にした盾を突き立てる。
「今の内に準備を――あら?」
 振り向いたロザリンドの視界に、しかしマリィの姿はなかった。
「……逃げましたか。まぁいいでしょう」
 まるで、マリィが戦闘を放棄して逃げ出すことを予測していたように、リリィが呟く。
「わたくし達の目標は、多くの蛇を殺めることではありません。出来るだけ多くの人数でユグドラシルの根に辿り着くこと……そうですわね?」
「え、ええ、そうです。済みません、援護をお願いできますか?」
 リリィが頷くのを確認して、地面から盾を外し、正面にやって来た蛇を槍の一撃で絶命させ、戦線を徐々に押し上げていく。
「ちくしょう……この程度の怪我で、オレは諦めないぞ……!」
 声が聞こえ、そちらへロザリンドとリリィが振り向くと、身体のあちこちに傷を負ったニナ・ドラード(にな・どらーど)が膝を着き、数匹の蛇がニナをこの場で捕食せんと、大きな口を開けて襲いかかろうとする光景が映る。
「私が彼女を守ります、治療は頼みます!」
「貴重な戦力を失うわけには行きませんものね」
 即座にロザリンドが間に割って入り、蛇の攻撃を盾で防ぐ。ニナへはキュアポイゾンとヒールが施され、ニナが一旦態勢を立て直すべく退いたのを見計らって、ロザリンドも後方へ下がる。
「ありがとう、助かった。一撃くらって……油断した」
「大事に至らなくて何よりです。……あの、一人ですか?」
 悔しがる表情のニナへ、ロザリンドが気になったことを問いかける。
「ここへはオレ一人で来た! 父上は校長室にいる!」
 ニナの話では、パートナーであるゲイル・ドラード(げいる・どらーど)は『ニーズヘッグは何か事を為すための囮なのではないか』と予測し、校長室に残って監視をしているとのことであった。
「……事情は分かりました。私の信頼する仲間が、不測の事態に備えられるよう手を尽くしてくれています。この場には一人でも多くの人手が必要です。出来るのでしたら、その方にこちらへ来ていただくよう言ってもらえませんか?」
「お、おう、分かったぞ。先輩の言う事は聞けって言ってたもんな!」
 頷いたニナがゲイルと連絡を取るのを見遣って、ロザリンドはこれまでの状況を牙竜率いる【アルマゲスト】のメンバーに報告するのであった。