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リアクション
「このまま敵さんの目を釘付けに出来たら、作戦成功なのですよ。……でも、イルミンスールを食べちゃうなんて、お腹壊さないのです?」
「それは我も気になっとった。魔力を有する物を食することで力を得るという例自体は珍しくはないが、ここはそういう物とは違うと思うのだの」
「確かニーズヘッグは、世界樹ユグドラシルの根に取り付き、フヴェルゲルミルの周りで数多くの蛇達と共に根を囓り続ける黒き竜の名前のはずです。その通りであるなら、同じ世界樹であるイルミンスールに通ずるこれらを食した所で、何の影響もないのでしょう」
「おお、投げ込まれた死骸を喰らい尽くし、フレースヴェルグと喧嘩をしているというあやつのことかの。であるならば納得だの」
「……って、話振った僕が言うのもおかしいですけど、今はそんな話してる場合じゃないですー!」
戦いの最中にうっかり脱線しかけた所を、慌てて土方 伊織(ひじかた・いおり)が引き戻してサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)とサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)を再び戦いの場に呼び戻す。
前方では、戦力を回復した蛇が群れを作り、突破を図ろうとしていた。
「はわわ、1匹が1メートルも有る蛇さんが、たくさん集まってますぅ。うねうねがうねうね集まって気持ち悪いのですよ」
「じゃが、群れを為しとるのはある意味好都合だの。伊織、ウィール遺跡での戦い、覚えておるか?」
「ふぇ? えとあの、僕何もやましいことしてないですよっ」
「馬鹿者、それはもう十分ネタにしてからかったわ。我が言っとるのはセリシアと撃った魔法のことじゃ。セリシアに出来て、我に出来ぬはずがない! というわけで伊織、あれをやるだの」
「ぼ、僕はずっとからかわれてたんですかー……」
「お嬢様のそういう所が素敵ですわ。……では、私はお二人の準備が整う間、お二人をお守りいたします」
ベディヴィエールがふふ、と微笑んで、盾を掲げて二人の前に立ちはだかる。
「そういう所ってどういう所ですかー!?」
「これ、集中せい伊織。集中が乱れては術が行使出来ぬぞ」
「はうぅ……すっかりサティナさんが主役な感じですぅ」
「当然じゃ、我もたまには良い所を見せぬとな……ほれ、準備出来たぞ」
「はわわ、ま、待ってくださいですぅ」
先に詠唱を終えたサティナに続いて、伊織も詠唱を完了する。
無数に分裂したかに見える槍の一突きで蛇の一群の動きを止めたベディヴィエールが進路を空けると同時、伊織とサティナの魔法が同時に発動する。
「「響け雷鳴! 貫け雷光!
サンダーテンペスト!!」」
放たれた無数の雷撃は蛇の一群を四方八方に貫き、ボロボロと剥がれ落ちるようにして蛇が死滅していく。
「ふむ、こんなものだの。この調子でニーズヘッグの下まで辿り着き、我が封印の神子の力を味あわせてやろう」
「お嬢様、ニーズヘッグに効果はあるのでしょうか?」
「はわわ、ニーズヘッグさんも竜さんらしいので、ちょっとは効果あるかもしれないのです。うまくいけばいい子になってくれるかもしれないのです」
「ニーズヘッグがいい子……ちょっと私には想像できませんね。ですが、お嬢様がお望みでしたら私はどこまでもお供いたします」
「うむ。我もどこまでも行こうぞ」
ベディヴィエールとサティナの言葉に伊織が頷いて、そして三人は継続して蛇の迎撃に当たる。
他で戦う生徒たちの奮闘もあって、戦線は左端から、弧を描くようにして奥へ広がり、また収束して右端へ戻るような形を築いていた。左端側と右端側で蛇を引き付け、真ん中からユグドラシルの『根』へ向かう生徒を通そうという算段である。
「ユグドラシルにニーズヘッグ……といえば」
「ん? どうしましたか、ウォーデンくん?」
大鎌の刃を持つハルバードで蛇を叩き切ったウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)の呟きに、重装備で身を固め自ら盾となって戦いを続けていた月詠 司(つくよみ・つかさ)が振り向いて答える。
「あの口煩いげっ歯類を忘れてはならんな」
「げっ歯類……あぁ、確かラタトスク、でしたか? フレースヴェルグとニーズヘッグの喧嘩を煽り立てて遊んでいたという……」
「そうじゃ。もしアヤツがこの場におったとすれば、此方の動きを偵察される可能性がある。そうなっては厄介じゃ」
「なるほど、確かに厄介ですね……では、余裕があれば探して……いえ、注意しつつ余裕があれば捕まえておく様に、皆さんにお願いしておきましょうか……」
思い立ち、司がすぐ近くで戦っていた九条 イチル(くじょう・いちる)に今話したことを伝える。
「分かりました、ではその情報、皆さんが共有できるようにしておきますね」
頷いたイチルが、HCを用いて【アルマゲスト】のメンバーと連絡を取り、伝え聞いたことを共有情報として参照できるように手配する。
「さて、これでひとまず仕事は終わり……あれ? ウォーデンくん?」
連絡を済ませた司が戻ってみれば、先程までそこにいたはずのウォーデンの姿がない。
「えぇい忌々しい、ぬけぬけとラグナロクを生き延びおって! 我なぞ何処ぞの犬に噛まれて死んでしまったというに!」
司が振り向いた前方に、まるで憂さ晴らしをするかのようにハルバードを振るうウォーデンの姿があった。
「ちょ、ウォーデンくん! 無茶な特攻は……あぁ〜、聞こえるはずありませんよね……」
はぁ、とため息をつきながら、司はしばしどうしようかと悩んだ末、もう一度ため息をつく。
「……放って置くわけには、行きませんよねぇ……」
マスクの内側で苦笑いを浮かべつつ、司もウォーデンの後を追って前線へ足を進めていく。
「……うん、これでこっちは終わり。それじゃ、俺たちも行こっか!」
一方、【アルマゲスト】のメンバーと連絡を済ませたイチルも、ここまで共に付いてきたルツ・ヴィオレッタ(るつ・びおれった)とハイエル・アルカンジェリ(はいえる・あるかんじぇり)に呼びかけて前線へ飛び込もうとする。
「これ、待つのだ」
そこを、ルツが服の裾を引っ張って引き止める。
「ここに入った時から気になっていたが、お前、このような時に何という物を……まったく、縁起が悪いとは思わないのか?」
諌めるような表情でルツが示すのは、イチルが回復アイテムとして持ってきた『枕団子』。本来の用途はお供え用であり、つまりこの団子を手にしているということは、既に死んでいることを意味しているとも取れる。
「分かってるよ、だけど……先輩達と比べたら俺、まだまだだし、ほら、備えあれば憂いなし、って言うじゃない?」
「下らないことを言っている場合ではない!」
「まーまー、ちょう落ち着いて……ええか、イチル」
声を荒げるルツを宥めて、ハイエルが真面目な表情を浮かべてイチルに問う。
「前線に出るっちゅーことは、その分危険も多くなる。そこでもし失敗すれば、おまえも無事では済まんかもしれんで」
「……それでも、俺は俺とみんなを信じてる。たとえ足手まといでも、どれだけ疲労しても、最後まで持てる力のギリギリまで先輩達を支援する。
……それが俺の、戦いだから」
イチルの、真っ直ぐな眼差しと言葉を受けて、ハイエルもそしてルツも呆れるようにため息をつく。
「ま、おまえならそう言うと思っとったわ。……そんなだから、俺はおまえに付いて行こうと思ったんやけどな」
手にした拳銃の具合を確かめ、ハイエルが告げる。
「……一つ、言わせてもらう。くだらない自己犠牲精神はやめておけ。おまえにその気がなかろうと、わらわはお前が傷つくのは見たくないぞ」
言い終えたルツがつい、と視線を逸らし、自らの内に湧き起こる得体の知れない感情に思慮を巡らせる。
(わらわはお前のことが……なんなのだろう……この感情はなんと呼ぶのだろうな)
「まー、アレだ! もしおまえがぶっ倒れても、俺たちが必ず連れ帰ったる! おまえはおまえの道を行け!」
「……ああ!」
大きく頷いて、イチルとルツ、ハイエルが前線へ向かっていく。
進軍の邪魔になりそうな蛇はハイエルの射撃で怯ませ、その間に詠唱を済ませたルツの生じさせた酸の霧で散らさせる。崩れかけた戦列が、イチルの癒しの力で再び勢いを取り戻していく。
そして、弧を描いた部分の先端が、ついにIr3を抜け、l2との交差部分に到達する。
「こ、これが、ユグドラシルの根……?」
根への攻撃を目指す生徒たちと共にやって来たイチルは、目の前に広がる異様な光景に思わずたじろいだ――。
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