リアクション
「せんせー達より先に果実を見つけて、見せびらかすんだ〜」
「俺の凄さを思い知らせてやるぜ! ……薔薇学に推薦されちまうかもな〜」
鳥丘 ヨル(とりおか・よる)は、ブラヌ・ラスダーを誘いって、伝説の果実を探しにいてた。
ヨルもスイーツ愛好会、若葉分校分会の一員だ。誘ってみたら、ブラヌや友人達も喜んで入るとのことだった。
「若葉分校分会……若葉組として珍しいもの見つけたいよね。黒崎天音にも見せびらかすんだ〜」
ただ、今回の合宿は契約者向けの合宿なので、若葉分校生も契約者と、契約を望んでいる者数名しか参加していない。
非契約者はブラヌ以外は全員、温泉作りに熱中している。
「張り切るのはいいが、迷子になるなよっと」
ヨルのパートナーのカティ・レイ(かてぃ・れい)は、ヨルの進路にある邪魔な枝を切落す。
「あたしは伝説の果物より温泉のほうが気になるな。清酒と一緒に楽しみたいねー」
「未成年は飲酒ダメだというか、若葉分校は一律禁止されてるよな、こういう時」
ブラヌがカティの言葉にそう返した。
「かてーこと言うなよ、生徒会役員!」
言って、カティはブラヌの背をパシンと叩く。
「よし、俺が生徒会長になった時には、飲酒喫煙は蛮族の法を適用するぜ! ……つまり、法なんてないようなものさ〜」
「よっ、次期生徒会長!」
カティの言葉に、ブラヌは得意気に胸を張る。
「うーん、ダメだよ、飲酒喫煙はー」
ヨルは苦笑しながら先へと進んでいく。
「栗発見! 教えてもらった伝説の果実とは違うけど、これも大事な食料だよね」
ヨルは慎重に栗を掴んで、持って来ていた籠の中へと入れる。
「でも残念。時期終わってるのかな。動物に食べられちゃっているのばかりだね」
落ちてはいるが、殆ど中身は残っていなかった。
「伝説の果実は、大まかな形は聞いたんだけど、どんな風に生ってるのかわからないからなー。栗のように、イガの中に入ってたりしたら、発見しずらいよね」
「それっぽいのは切ってみるに限るぜ!」
ブラヌがナイフをぶんぶん振り回す。
「不用意に刃物を振るな」
「へいへい」
カティに注意をされ、ブラヌは手を止めると先を歩く。
「うお?」
木に手をかけて、緩やかな坂を見下ろしたブラヌが動きを止める。
「ん?」
ヨルはブラヌの横から坂をのぞき見て「うわー」と声を上げる。
「栗が沢山! ここにはあまり動物も下りてないよ、きっと!」
「……栗拾いか、悪くはない。栗はスイーツ以外にも使えるからな」
「じゃ、拾おうぜ〜! 伝説の果実でスイーツ作るにしても、それだけじゃつまんねぇしな!」
ブラヌは紐を取り出して、木に結びつけ、下に垂らした後、足元に気をつけながら、下りていく。
「大丈夫、足場はしっかりしてる。ヨル達も来いよ!」
「うん、勿論!」
ヨルは笑顔で後を追う。
「下まで落ちて、戻ってこれなくなるなよ」
カティは少し心配気にヨルを見守るのだった。
「スイーツ愛好会だっけ? 入ってみるのも良いかな……僕は甘いだけより、少し苦い方が好みだけれどよろしくね、会長」
ファビオに頼まれたからもあり、一緒に歩きながら、天音はゼスタにそう話しかけてみる。
「俺は苦味のない、甘いあまーいものが好きだが、そういうヤツも歓迎だぜ」
彼の言う甘いモノとは、食べ物のことだけを指しているようではなさそうだったが。
その点の指摘はまた次の機会にと思い、天音は伝説の果実探しを手伝っていく。
「果実か……合宿と関係あるのだろうか」
ボソリと呟いたのは北条 御影(ほうじょう・みかげ)だ。
彼は普通に心身を鍛えるために、合宿に参加……したつもりだった。
普通に合宿所の設営を手伝っていたのだが、普通じゃないパートナー達が伝説の果実を探しに行くと言い出したものだから、心配でついて来ざるを得なかった。
勿論、パートナーが心配なのではなく。パートナー達が他人に迷惑をかけるのではないかと、心配して、だ。
「いやぁ本当に、ハニーの悩める姿は絵になるねぇ」
くっついて歩くフォンス・ノスフェラトゥ(ふぉんす・のすふぇらとぅ)はくすくすと笑みを浮かべる。
ハニーとは御影のことだ。御影はため息をつきながら腕を組み、問題のパートナー2人の監視を続ける。
「烏龍様のお告げによると、今日のラッキーアイテムは果物アルよ〜」
マルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)は、光精の指輪で辺りの木々を照らしながら、果実を探している。
「伝説が付く程の果実なら間違いなく高値が付くはずアルよね!? 見つけ出して売りさばくアルー!」
完全に儲け目的だ!
「すいーつとは女子に人気の甘味ですじゃな!?」
豊臣 秀吉(とよとみ・ひでよし)は、女の子の姿を思い浮かべながら、木に登って果実を確かめていく。
「ここは是が非でもその果実を入手して、温泉に入る前に女子達に振舞ってあぴーるしておかねばなりますまい!」
こちらは完全にモテ目当てだ!
「ったく……合宿っつったら授業の延長だろ? 遊びじゃねぇってのに、何だってそんなついでの果物探しなんかに無駄な熱意を入れてるんだこいつらは……」
眉間に皺を寄せる御影にフォンスは笑みを向ける。
「青春とは報われないものだよ。潔く諦めてただ流されるのも一つの人生。くよくよしていても仕方が無いだろう?」
「誰が流されるか」
言って睨むようにパートナー達の監視を続ける御影に、フォンスは満足気な笑みを浮かべる。
「そうそう、僕は現状に抗おうと努力する者の方が好きだよ。見ていて面白いからね」
「俺は面白くない。とゆーか……先導してるスイーツ愛好会の会長の目的も、なんだかな……。合宿とスイーツ関係あるのか? 調理実習でもやるんだろうか」
甘い物が苦手なこともあり、御影は果物やスイーツに全く興味がなかった。
とにかく、早くパートナー達が諦めてくれることを願うばかりだ。
手に入ったら入ったで、また面倒なことになりそうだし。
「ゼガルティ会長! これアルかー!」
木に生っていた赤い木の実を採って、マルクスはゼスタに見せる。
「……誰だよそれ」
苦笑しながら、ゼスタは木の実を受け取って、調べようとするがマルクスは決して離さない。
これが伝説の果実ならば、1つたりとも、渡すつもりはないから。
「いや、違うみたいだな……。けどこれも食えると思うぜ」
「違うアルか。売れそうもないアルね〜」
ぽいっとマルクスが捨てた木の実を「もったいないよ」と、天音がキャッチして籠に入れた。
「多分、これはジャムにしても美味しいと思うよ」
天音がそう続けると、秀吉がその木の実が生っている木に飛びついてくる。
「甘い果実のジャム……女の子達が好みそうじゃな! 全て採って帰るのじゃ!!」
秀吉の方は、その果実にも興味津々だった。
御影はイライラと2人を見守り、フォンスは御影を楽しそうに観察しながら、伝説の果物探しは続けられた。
〇 〇 〇
「食材沢山集まってきたね」
合宿所の前に、森で採れた沢山の食材が集められていた。
秋月 葵(あきづき・あおい)は『楽しいキャンプ入門』という本を持って、材料を見て回る。
「芋に山菜、キノコ……果物は入れない方がいいかなぁ」
「うーん、美味しいもの出来るかな?」
「このままやいて、しおとかつけるだけでも、おいしいよ?」
ミルミと
ライナも食材に興味を持ち、見て回っている。
「うん。確かに焼いて味付けしただけでも美味しいけど、今日はカレーにしようと思うの。ほら、キャンプっていったら、カレーでしょ!」
葵は本の中の、キャンプでのカレーの作り方のページを開いて見せた。
そして。
「ミルミちゃん、ライナちゃん。一緒に料理してみない?」
「え? ミルミ料理なんて出来ないよ?」
「大丈夫 失敗は無いよ〜料理上手なエレンも要るんだからね〜☆」
葵が目を向けた先には、パートナーの
エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)の姿がある。
「手伝いますよ」
エレンディラは優しくそう言った。
「私、やりたい……っ」
ライナは元気に手を上げる。
「それじゃ、ライナちゃんを助けてあげないとね、ミルミ……」
少し不安げながらも、ミルミもそう言い、カレー作りを行うことにした。
このメンバーだけで全員分を作るのは無理があるため、白百合団員や皆にも声をかけて手伝ってもらうことにする。
「ふむ、皆で楽しめそうだな。食材は限られているが、明日からは栄養面も考え、献立を決めていこう。手に入る食材も概ね判明するだろうしな」
「教導団の合宿とは随分違うのだな」
玲、
イングリッドも手伝いに訪れ、食器の準備をしていく。
「うん、軍人の合宿ってわけじゃないからね。教導団の合宿って厳しいんだろうな……」
「そうだな。部活動の合宿と、軍隊の合宿くらいの違いはあるように感じる」
玲はそう答えた。
担当も仕事も訓練内容も曖昧で、皆自分のしたいことに従事している。
キャンプを楽しみにきたという意識の者も多いようだ。
「どう纏まっていくのか……興味深くもあるな」
そう言い、作業に勤しむ契約者達を見ながら、玲はイングリッドと共に食器類をテーブルの傍へと運んでいく。
「確かにキャンプにカレーって良く聞きますね」
ルーはエレンディラが用意してあった。葵が辛いものが苦手ということもあり、甘口だ。
肉は狩りに出た
ウィング達に捌いてもらってから、持って来てもらった。
野菜類は湧き水で洗ってきてもらい、組み立て式テーブルの上に並べて、入れるものと、違う料理に使う物を決めていく。
「みんな、沢山食べそうだよね〜張りきっていっぱい作っちゃおう〜」
葵は張り切って料理を始める……だけど、何から始めたらいいのかは、本を見なければまだわからない。
少しは料理、出来るようになったけれど。
まだまだ、上手に、美味しく作ることは出来なかった。
「葵ちゃん気をつけて下さいね」
エレンディラが包丁を葵に渡す。
「うん」
自分ひとりでは美味しく作れなくても、エレンディラがいれば大丈夫なはずだ。
「包丁を使うときは真剣に。でないと怪我をしますよ」
「うん」
「はーい!」
エレンディラの言葉に、葵とミルミが返事をする。
そしてミルミも包丁を受け取って、葵と一緒に野菜の皮むきから始める。
「調理実習でやったことあるよー」
そう言いながら、ミルミは皮をざくざく剥く……というより切っていき、実が殆ど残らない。
「おさかなくれたよー」
ライナが、釣りをしていた
レキ達から魚を貰って持ってきた。
「沢山材料もあることですし、少し保存できる薫製も作って置きましょう」
エレンディラは皆を指導する傍ら、保存の利く燻製つくりをしておくことにした。
「これ、炒めるんだよね? 油はねるかもしれないから、ミルミさがっておくよ!」
「それじゃ、料理できないよ〜。ミルミちゃんも、一緒やろ?」
「私やりたいやりたいー!」
ミルミ、葵、ライナは楽しそうに、カレー作りを続けていく。
微笑ましげに、エレンディラは3人を見つめていた。
こういう日々がずっと続けばいいのに……と、思いながら。
まだ夜までは随分時間がある。
今晩は、新鮮な食材のじっくり煮込んだカレーを楽しめそうだった。