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薄闇の温泉合宿(第1回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第1回/全3回)

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第2章 銀髪の女

 契約者達が合宿を行っている場所付近は、川の幅も狭く、水の量も少ない。
 盗賊のアジトの探索に出た者達は、ヴァイシャリー湖から流れている川が、2つに分かれている場所まで上ってきていた。
 その辺りにも人里や人が建てた建物は見当たらず、自然だけが溢れていた。
「ユリアナ・シャバノフという人物だが」
 西ロイヤルガードのクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、ユリアナについて集めた情報を仲間達に話していく。
 金 鋭峰(じん・るいふぉん)の思惑といい、色々と裏がありそうな事件だ。
 東シャンバラ側に諸々の事情を話して協力を仰ぐことが適当かどうかは、慎重に見定めるべきとクレアは考えていた。
 また、作戦の代表者である李 梅琳(り・めいりん)もクレアと同意見だった。
「パートナー以外の親しい友人はおらず、寡黙な女性だったらしい。パイロットとしての素質と腕も大したものだが、魔法の能力にも秀でていたようだ」
 ユリアナはパラミタで暮らすことを望んでおり、できれば空京ではなく、大陸にいきたいと願っていたようだ。
 今年の初春。優秀な人材を求めていた御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が彼女に目をつけて、蒼空学園に招いたらしい。
「彼女には両親はおらず、孤児院の出ということだ。孤児院の方には蒼空学園に進学することになったという連絡もしていないらしい」
 更にクレアは、銀髪、青色の瞳など、ユリアナの外見の特徴を説明していく。
「それ以上のことは分からないが、噂を聞く限り、彼女は賊に拘束されているわけではないようだ。自発的に盗賊団に与していることもありえる」
「どのような理由があったとしても、なんとしても連れて帰らなければなりませんね」
 クレアのパートナーハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)がそう言い、梅琳が頷く。
「そうね。場合によっては拘束して連行することになるわ」
 梅琳が集まっている西シャンバラの面々にそう言った。
「それと……他に、何か目的があるか」
 空京大学生の如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が梅琳に問う。
「ユリアナに関しては彼女とパートナーを保護することが目的よ。でも合宿の参加に関しては、別の理由もあるかもね。ユリアナがこちらに協力的だった場合は、そのまま一緒に合宿に参加することになるかもしれないわ」
 瞳を煌かせて、梅琳は曖昧にそう言った。
「賊の討伐については、東側に協力する形でいいですかぁ〜。ユリアナさんのことはどの程度説明しましょう〜?」
 皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が梅琳に尋ねる。
「行方不明の蒼空学園の生徒を保護しに来たってことと、彼女の外見的特長、優れた能力を持つ契約者であること……概ね全て説明しましょう。だた、わかっているとは思うけれど」
 梅琳は一旦言葉を切って、自分の指揮下の西シャンバラのメンバー達にこう話す。
「最悪の結果は、東シャンバラのロイヤルガードに捕らえられてしまい、東シャンバラでの犯罪を理由に東シャンバラの政府に連れていかれてしまうこと、だと思ってる。彼女がどんな理由で動いているにせよ、彼女が攻撃したきた場合、その攻撃はこちらが受けること、そして必ず保護すること」
 梅琳の言葉に、一同頷いていく。
「アジトがどこにあるのか、果たしてあるのかどうかも定かではないが、オレはアジトの偵察に動こうと思う。そっちにユリアナがいる可能性もあるからな」
 橘 カオル(たちばな・かおる)の言葉に、梅琳が頷く。
「東シャンバラの方達に話しておくわ。多分彼らも探索に動いていると思うから。互いに賊と間違えないようにね」
「了解」
 カオルは空飛ぶ箒に乗り、まずは空から探してみることにした。

〇     〇     〇


 東シャンバラのロイヤルガードを中心としたメンバー達は、川近くの木陰に集まり作戦会議を行っていた。
「冒険屋のレン・オズワルドだ。双方に協力させてもらう」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は現在空京大学に通っており、行方不明の女性ユリアナを、西シャンバラのロイヤルガードが探していることを知っていた。
 今回は冒険屋として梅琳に協力を申し出ている。
 梅琳には東に隠しておきたいこともあるだろうが……下手な隠し事は却って仕事に支障をきたす可能性が高いため、レンは全てロイヤルガード隊長の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)に相談するつもりだったが、優子はこの作戦や合宿に同行していなかった。
「ノア・セイブレムです。私達はどちらの所属というわけではなく、皆さんの仲介をさせていただきたいと思います。東西のロイヤルガードで協力することで、親睦を深めることができたらと思います。よろしくお願いいたします」
 レンのパートナーノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が、東シャンバラのメンバー。そして、合流した梅琳を中心とした西シャンバラのメンバー、双方に頭を下げた。
 そしてもう一組。
「蒼空学園の樹月刀真です」
 西のロイヤルガードの隊員でもある、樹月 刀真(きづき・とうま)とパートナー達も訪れていた。
「環菜が蒼空学園の大学へ特待生として招いていた女性が盗賊グループにいるらしくて、それの確認と可能なら保護が俺の目的です……」
 刀真がそう説明をする。
「髪は銀、目は青。年齢は19歳。色白の女性だ」
「魔道書を持っているはずです。その魔道書は彼女のパートナーでもあるそうです」
 レンとノアが引継ぎ、容姿など、把握していること全てを集まった皆に話していく。
「彼女を目撃したり何か情報を得たら是非教えて下さい、よろしくお願いします」
 刀真は軽く頭を下げる。
「こちらも賊の討伐に全面的に協力させていただきます」
 梅琳がここにメンバーを集めた東ロイヤルガードの隊員、 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)にそう申し出る。
「わかりました。どうぞよろしくお願いいたします」
 ロザリンドが右手を差し出し、梅琳、それから刀真とも握手を交わした。
「賊についての情報ですが」
 それから、ロザリンドは確認してきた情報を皆に話していく。
 正確な規模などはわかっていないが、船はさほど大きくはなく、乗組員の数は数十人といったところと思われる。
 手口は、一般の商船の振りをして、商船や客船に近づき襲い、あらかじめ潜入していた仲間がその間に客室や倉庫を回り、金目の物を盗んでいくらしい。
 ロザリンドはこの辺りを描いた、手書きの地図を皆に見せる。
「賊が川を下ってこちらに来た場合、どの辺りで待ち伏せすると良いでしょうか」
 ロザリンドは教導団員に意見を求める。
「逆にこちらから誘いたいところね。賊船かどうか判断できないもの」
 梅琳がそう言うと、伽羅が地図に描かれている川を指でなぞる。
「ここからこの辺りに、船を運航させたらどうでしょう〜」
 小舟を仕立てて、近隣からの物資の買出し船として荷物を乗せて航行させるという案だった。
「そうですね。手を出してくるかもしれません」
 ロザリンドがそう答え、伽羅とパートナー達が船の運航を担当することになった。
「ただ、アジトを特定して一気に叩いた方が効率は良いだろう。すぐには攻撃をせず、後を付けたいところだが、この作戦だと敵の攻撃を誘うことになるな」
 東ロイヤルガード隊員の早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は腕を組んで考え込む。
「アジト探索には多くの人が動いているようですので、発見できなかった場合は、捕らえた賊から聞き出すという方法をとってはどうでしょう?」
 ロザリンドの提案に、呼雪は「そうだな」と頷く。
「付近に人員を配置しておき、賊船が判明したら合図を出していただきます。その後、舵を奪うなどして船の動きを止めること、相手の戦闘力を殺ぐことを主に、少しでも安全性、確実性が増すような行動を心がけていきましょう」
「わかりました」
 友人の真口 悠希(まぐち・ゆき)がロザリンドの方針に頷いた。
「それじゃ、そのほーしん、亜璃珠にはなしておくよ?」
 伝達の為に作戦に加わっていた崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)のパートナーの崩城 ちび亜璃珠(くずしろ・ちびありす)がロザリンドに確認をとる。
「ええ、お願いします。ところで、ゼスタ・レイランさんはこちらの作戦には加わらないのでしょうか……?」
「んーとたしか『見回りした後、果実狩りに行くからむり、てきとーにやっちゃってって』とか言ってたらしいよ」
「そうですか……」
 ロザリンドは軽く眉を顰める。
「俺も協力させてもらうよ」
 と、その時。
 空から、男性が舞い降りてくる――薔薇の学舎の生徒となったファビオ・ヴィベルディだ。
「あ……ファビオ様」
 呼雪のパートナーのユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が、ファビオに近付き「こんにちは」と挨拶をする。
 薔薇の学舎の生徒となったことは、知っており、遠目で見たことはあったけれど、こうして行動を共にする機会は、ユニコルノも薔薇学の生徒である呼雪もこれまでなかった。
「ヴァイシャリーを騒がせていた怪盗舞士と肩を並べるというのも不思議な気分ではありますが……目的の達成の為、よろしくお願い致します」
 そう、ユニコルノは頭を下げる。
「ロイヤルガードに志願するつもりなのか?」
 呼雪が問いかける。
「いや、そういうわけじゃない。けれど、少し気になることがあってね。うん、よろしく」
 くすりと笑みを浮かべ、ファビオはそうとだけ言った。
「ありがとうございます。それでは作戦を開始しましょう」
 ロザリンドが言い、頷き合うと皆準備に動き出す。

「これ、お守りです……」
 封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)は少し心配そうな顔で、禁猟区をかけた銀の飾り鎖を刀真に渡した。
「そして、これはおまじない」
 彼にそっと触れて、パワーブレスをかける。
「ありがとうございます」
 刀真の言葉に頷いて、白花は停めてある小型飛空艇の方へと向かう。
 刀真と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)を護りたくてついてきたのだけれど、傍で戦うより上空から状況を伝えた方が役立てると思うから。
「ご武運を」
 そう言って、最近の2人の様子を不安に思いながらも、白花は小型飛空艇を発進させた。