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まほろば大奥譚 第二回/全四回

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第六章 新たな鬼鎧2

 ハイナの命を受け、卍 悠也(まんじ・ゆうや)が探し出した鬼の祠に向けて捜索隊の一行は出発した。
 葦原明倫館水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)は前回での反省を踏まえつつ、新たな鬼鎧について考えていた。
「鬼鎧への興味ばかりで、瑞穂藩が動いてるだなんて思っても見なかったです。今度は絶対に奪われないようにしないといけませんね」
「……」
 睡蓮の側では機晶姫鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が無言のまま立っている。
 彼が何もしゃべらないと言うことは、睡蓮に全て同意しているということだ。
 彼女は安心した。
「それにしても、それは何ですか。まさか……血?」
 睡蓮は蒼空学園桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が大事に抱えている瓶を見て驚いた。
 赤い液体が入っている。
「マホロバの先住民ウダの血だよ。彼が最後に残したこの血、無駄にしたくないんだ」
 忍はハイナに頼み込んで、ウダの血液を持ち出していた。
「それに、ちょっと試したいことがあるんでね。もし、俺の考えている通りなら、これで鬼鎧を動かせるかも知れないし、鬼鎧の謎も解くことができるかもな」
 また、彼にはもう一つ目的があった。
 鬼鎧を守ろうとして命を落としたウダの件である。
 ハイナは現存の鬼鎧やマホロバ先住民を世間に公表するはまだ早いと将軍家から口止めされていたにも関わらず、ウダ殺害の件については公の場でも仇を取ると息巻いていた。
「瑞穂藩の日数谷現示。俺が必ず、ウダの仇をとってやる……!」
 忍もそう自身に誓っていた。



「じゃあ、前回と同じようにマッピングを開始します。でも、気をつけてね。敵は邪鬼だけじゃなく、人間もいるんですから」
 鬼の祠に到着するなり、睡蓮は感覚を解放する。
 裏切りや悪意がないか、確認するためだ。
 やがて彼女の言葉通りに皆が警戒しながら進んでいった。。
 今回はうっそうとした林の中ではあるが、祠の周りはきちんと手入れされ、豪奢な社が立派に奉られていた。
 普段からも参拝者が多いといい、さすがは将軍家ゆかりの土地ではある。
 彼らは祠の管理人を地上に待機させ、奥へと進んでいった。
 途中、邪鬼などが行く手を阻んだが、彼らにとっての真の脅威ではなかった。
「これが……二機目の機体」
 祠の最深部で、木枠が組まれそこに鎮座していたのはまさしく鬼鎧である。
「前よりも少し小さくて形も違うけど、やっぱり鬼鎧ですよね。これ……動くのでしょうか」
 しかし、睡蓮が押しても、引いてもビクともしない。
 またも押して地上まで運ばねばならないかという空気が流れたとき、忍は持っていた赤い瓶を取り出すと、鬼鎧によじ登り叩き割った。
「二千五百年の眠りから目覚めよるその秘めたる想い、今こそ示せ!」
 ガラスの破片とともにウダの血が飛び散る。
 鬼鎧に降りかかった血は、所々にシミのように広がり、やがて全体を覆った。
 表面は黒っぽいものから色を変え、赤く錆び付いたようになる。
「何が……起こっている?」
 忍は体に震動を感じ、やがて手をつかなくては立っていられなくなった。
 鬼鎧は忍を乗せたまま、出口に向かって動いている。
「鬼鎧が勝手に動いているんですか? こんなことなら、マホロバ人の魔夜さんを連れてくれば良かったわ……九頭切丸、お願い!」
 睡蓮の言葉を受けて、九頭切丸は鬼鎧の動きを止めようとするが、力で押さえられるものではない。
 彼の居合いも鬼鎧の装甲表面を僅かに削り取るだけだ。
「……!」
 鬼鎧は速度を上げ、地上へと向かっていく。