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リアクション
第六章 新たな鬼鎧3
「な、んだ?鬼の祠から音が聞こえる」
地上で待機していた葦原明倫館棗 絃弥(なつめ・げんや)は、この光景を見て驚いた。
赤い鬼鎧が、彼の頭をかすり抜け、祠から勢いよく飛び出たのだ。
しかも、鬼鎧には人影があり、しがみついているのが見える。
「九郎、奴を追ってくれ!見失うなよ」
「承知!」
絃弥に頼まれて、パートナーの中でも一番足の速い源 義経(みなもと・よしつね)が鬼鎧を追った。
「ここで鬼鎧に逃げられちゃあ、またくたびれ損だぜ……日数谷……!?」
「よ、元気だったか。相変わらずてめえら、鬼鎧探しになるといい仕事しやがるな。職業鞍替えしたらどうだ」
林の中から現れたのは、瑞穂藩士と日数谷現示だ。
「そっちこそ、人の後をつけてくることしかやらないくせに。毎回、どうやってんだよ」
「それはこっちがききてえな。あの御奉行、人気のある花魁か亜米利加さんかしらねえが、あんなど派手、やることどっからでも丸わかりだろ。それに瑞穂の考えを聞きたがる奴は居るが、戦略を読むような軍師様はそちらさんにはいなさそうだ」
「そいつはどうかな」
絃弥は魔鎧罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)を纏い、パートナーの剣の花嫁
アナスタシア・ボールドウィン(あなすたしあ・ぼーるどうぃん)に合図を送る。
アナスタシアは散開し、現示の側面から斬りかかった。
「鬼鎧を渡す訳にはいきません!」
「悪りぃが長剣なんざ、当たらなけりゃ、意味ねえよ!……!?」
現示が素早く身を翻すが、彼の地面の足下が崩れた。
絃弥が巧妙に張った罠が、現示の動きを止める。
「かかったな、日数谷! トラッパーの餌食になれ!」
絃弥が一太刀浴びせる。
顔面の急所である人中を狙っている。
当たれば、顔面から裂けることだろう。
しかし、そのとき冷たい冷気が彼らを襲い、吹き飛ばされた。
頭上から仮面の男の声がする。
「まだ生きてはいるようだな、現示。遅れて悪かったな」
彼らが仰ぎ見た先には、鬼鎧に乗り込んだ蒼空学園トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)の姿がある。
トライブのパートナーである強化人間王城 綾瀬(おうじょう・あやせ)が鎧の上からけたたましく笑い出した。
「あらあら、そんなちゃちな罠にはまるなんて。睦姫様に見られたら格好悪いわよお。お揃いのロザリオが泣いちゃうわぁ!」
「てめ……それ以上いったら、ひーひー泣かすぞ。さっさと奴らを殺れ!」
「言われなくても、殺るわよ。ちょうど血が足りなくなった所だしね!」
綾瀬は鬼鎧の背から飛び降りると、百合園所女学院メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)に襲いかかった。
「そんな攻撃、私には通用しないですぅ!」
メイベルは受け流し、パートナーの剣の花嫁セシリア・ライト(せしりあ・らいと)、英霊フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)と共に反撃に出る。
「トライブ、お前はさっきの赤い鬼鎧を追ってくれ。あれも持ち帰りたい」
現示は罠から立ち直ると、トライブに新しい鬼鎧の情報を伝えた。
「やってはみるが、期待はするなよ。こいつはとんだじゃじゃ馬だぜ。ウダの返り血でかろうじて動いてはいるが、俺はマホロバ人じゃねえからな。言うことをきかねえよ」
イコンは二人乗りが前提だが、鬼鎧は腹の部分は空洞になっており、人が一人座れるような空間がある。
中心部では鏡のような輝く円盤があり、それに触れると操作できるようだ。
トライブはこの中で鬼鎧を動かすあらゆる方法を試みるたが、自由自在とまでは行かなかった。
「じゃあ、さっきの赤い奴は何で動いてたんだ。マホロバ人が動かしてたのか」
「わからんな。これと同じように、鬼の血を使ったのではないか?」
「鬼の血だと……?」
「日数谷現示!隙あり!」
銃声が響く。
銃弾は現示の頬をかすめた。
波羅密多実業高等学校酒杜 陽一(さかもり・よういち)が再度、拳銃を構える。
「さっきのは脅しだ。大人しく投降しろ。下手に動けば間違いなく頭を狙うぜ」
「おめえ、そんなもんは効かねえよ。撃つより早く、俺の刀がお前の腕を切り飛ばすからな」
「まあ、威勢だけはいいよな。瑞穂の雌犬姫の使いっぱにしちゃあ、腕も立つようだしな」
「何だと」
現示が乗ってきたのをみて、陽一はさらに挑発を続けた。
「瑞穂 睦姫(みずほの・ちかひめ)はエリュシオンに媚びて尻尾を振る雌犬姫様って有名だからな。強い相手には恥も外聞もなくなびく。見苦しいったらないね。今頃は布団の中で、マホロバの将軍にも尻尾を振っているんだろうけどよ」
「てめえ……」
現示は何かが切れたらしく、ものすごい形相で睨んでいる。
瑞穂藩士の間で「あいつ殺されるぞ」と、ざわめきが起こっていた。
「俺のことはいいが、あの方を悪く言うんじゃねえよ。てめえみたいな下衆野郎が、おいそれと口にしていい御名じゃねえんだよ」
現示は刀を構えると、鋭い叫び声を上げて突いてきた。
一撃必殺の初手であり、鋭い斬撃が陽一を襲う。
彼は衝撃で身体ごとはじき飛ばされ、手にしていた拳銃は真っ二つになって転がった。「殺す! てめえの皮一枚づつ剥いでぶっ殺してやる……!」
「はは……本当に単純なんだな。こんな挑発に簡単に乗ってくるなんて」
口から血を流しながら現示を指さす。
「だがそれは人間らしい感情だ。俺は、化け物でも機械でもない、人間を相手にしてるんだって思えたよ。俺も、自分の命を省みず、影武者なんぞやる人間だからな。お前の気持ちもわからなくはない……」
「言いたいことはそれだけか。楽に死ねると思うなよ」
「ああ、綺麗ごとばかりが通る訳じゃないからな。お前とは違うところで出会えば、友となれるような気がしただけだ……」
陽一の台詞に、現示が一瞬ためらったときだった。
轟音を上げて、赤い鬼鎧と氷の鬼鎧がもつれ合うように彼らの元へ突っ込んできた。
義経は鬼鎧から放り出された忍を抱えている。
氷の鬼鎧からはトライブが顔を見せた。
「悪いな、やっぱりこいつは素じゃ無理みたいだ。それに燃料が切れたみたいに、うんとも寸ともいわなくなった」
「おま……壊すんじゃねーよ、エリュシオンの手土産にできなくなるだろうが……!」
現示は歯がみすると、瑞穂藩士にトライブと氷の鬼鎧の回収を命じて撤退を始めた。
残された赤い鬼鎧はまだガタガタと動いていたが、壊れたオモチャのように手足を動かすだけだった。
「これなら、鬼鎧を持って帰って調べられそうだぜ」
天御柱学院御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が掛けよって鬼鎧を見上げる。
彼女のパートナー強化人間綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)も装甲を見つめていた。
「そうどすなあ。でも、葦原明倫館が許してくれはるやろか」
「データだけなら何とかなるじゃろうか」
魔道書アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)、魔鎧アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)は、天御柱学院に鬼鎧のデータ提供を呼びかけを葦原明倫館総奉行に提案することした。