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リアクション
「……来たか」
侵攻を続けるニーズヘッグを視界に収め、防御陣地ではなく樹上に布陣していたフリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)が戦闘準備に入る。
(ニーズヘッグ、ここは止めさせてもらう!)
後で合流する約束の鷹野 栗(たかの・まろん)に負担はかけられないとばかりに、集中により高めた魔力を光の矢に変換し、射程ギリギリから狙いを定めて撃ち込まんとする。
「リヒト!」
掛け声と共に放たれた矢は、人間で言えば眉間の辺りを撃ち抜くものの、目に見える範囲ではそこまで。
(もちろん、この程度で止められる相手だとは思ってない……! いくぞ、これが僕の、全力全開!)
フリードリッヒが背中に提げていた箒を手に、華麗な筆さばきを空中のキャンバスに披露する。
「……。爆炎よ!」
箒に魔力を込め、最後に目の部分に箒を突き入れ、絵を完成させる。宙に描かれた鶏の絵は、魔力を帯びて炎の鶏に変化し、羽ばたいてニーズヘッグに突っ込んでいく。たちまちその全身が炎に包まれ、殻の表面を焦がしていく。
「来たわね……さーて、ここら辺で止まってもらおうかなー?」
イリス・ラーヴェイン(いりす・らーう゛ぇいん)の駆る軍用バイクのサイドカーに乗る如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が、迫るニーズヘッグを見据えて言い放つ。まずは作戦の第一段階とばかりに、玲奈が邪悪な者を払う力を発動させる。光はニーズヘッグを包み込むだけで特別ダメージを与えたように見えなかったが、反撃として降り注ぐ毒液は、イリスの運転するバイクを狙っていた。
(まずは成功って所ね……二人とも、頼んだわよ)
サイドカーの中で、槍を手に玲奈が二人、レーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)とレーヴェ著 インフィニティー(れーう゛ぇちょ・いんふぃにてぃー)に作戦の第二段階を託す。
「行きますよ、フィー。振り落とされないようにしてください」
「はい、マスター」
インフィニティーを乗せ、レーヴェが飛空艇を操作し、ニーズヘッグの頭上に位置取る。張り付くバイクに注意が向いている分、彼らへの迎撃は大分弱められていた。
「……この霧なら、きっと……!」
高められた魔力を、強力な酸を含む霧に変換し、インフィニティーがニーズヘッグの殻に覆われた顔を包み込むように発動させる。酸の霧はジワリ、と殻を侵食し、ニーズヘッグの防御力を一時的に低下させることに成功する。
「……まだ、足は止まりませんか。では、作戦の最終段階に入りましょう。フィー、掴まってください」
「はい、マスター」
飛空艇を飛ばし、ニーズヘッグを追い越した先で飛空艇をホバリング状態にして、レーヴェとインフィニティーが同時に魔法の詠唱に入る。その前方にイリスがバイクを滑り込ませ、投擲の姿勢を取った玲奈が精神を集中させ、先程酸の霧が覆った箇所を槍が貫くイメージを頭に描きつつ、槍を投擲する。
(進めっ……! そして、貫けっ……!)
宙を進む槍は途中で何かに引かれるように進み、同時に炎を纏い空間を割いて進む。そして、玲奈のイメージ通りに槍が霧の覆った箇所を貫き、尻の部分を残してニーズヘッグに埋没する。
「発動、サンダーブラスト!」
「続いていきます、マスター!」
影響を避けるためバイクが後方に退いたとほぼ同タイミングで、詠唱を完了したレーヴェとインフィニティーの呼び出した雷が、突き刺さった槍目がけて着弾する。全長150mの身体に電撃が走り、ほんの僅か、巨体が震えたかに見えた。しかも心なしか、侵攻速度が低下したようにも見える。
「ま、今ので大分足止めにはなったでしょー。後は……そうね、一旦態勢を整えて再出撃、って所ね」
空中を駆ける飛空艇の存在を確認しつつ、サイドカーから身を乗り出して玲奈が様子を確認する。自分たちが攻撃を加えている間に数を増した生徒たちが、それぞれ思うものを胸に戦いを繰り広げていた。
「……今の攻撃は、全身を硬い殻で覆われているニーズヘッグにとって、突破口を開く一撃であったと結論付けられます。皆様、可能であればあの箇所を目標に定めるのが、より効果的であるとワタシは推測します」
一行の最後方で、情報収集に動いていたソプラノ・レコーダー(そぷらの・れこーだー)の導き出した回答を、同じく後衛で魔法による支援に当たる東雲 いちる(しののめ・いちる)、前衛としてニーズヘッグの迎撃に向かったギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)とクー・フーリン(くー・ふーりん)が胸に刻み、それぞれ行動を起こしていた。
(ニーズヘッグに最も効果的で、かつ周りの木々を傷付けない魔法……これなら!)
いちるが、自ら高めた魔力を光の矢に変換し、何発かに分けて穴の開いた箇所へと撃ち込む。既にアーデルハイトの解析結果は生徒たちの知るところとなっており、それによれば光輝属性の攻撃が最も効果的とのことであった。
事実、一発の威力はさほどではないはずの光の矢を、どこか気にするような素振りをニーズヘッグが見せる。それがたとえ、トゲが刺さった程度の認識であったとしても、効果として現れていることは確かであった。
「あれほど弱小だ何だと言っておきながら、こうしてまたやってくるとはな。よほど気に入らない要素があるというのだろうか」
「それが何かは分かりませんが、ともかく再び攻撃する意味を見つけた、と思うべきでしょう。今は我が君を守ることを念頭に置かなければ」
「……ああ、分かっている。いちるが守るというのであれば、俺はなんであろうと叶える……行くぞ!」
剣を抜き、ギルベルトが刀身に冷気を宿らせる。危機を感じ取ったニーズヘッグが毒液を噴射して近寄らせないようにするが、チクチクと刺さる光の矢に気を取られているのか、いまいち狙いが定まらない。広範囲に噴射されるものもあるが、ギルベルトはギリギリ届かない位置でそれらを回避し、隙を見るや否や猛然と、攻撃の間合いへと飛び込む。
「……凍りつくがいい!」
剣から放たれた冷気が、氷の刃となってニーズヘッグの開いた傷口へと突き刺さる。光輝属性の次に弱点とされている氷結属性の攻撃は、巨体を一瞬にして葬るほどの威力はないにせよ、確実に抵抗力を減じているように思われた。
(騎士は、守るために戦うのです。我が君、必ずお守りいたします)
自ら盾となるべく積極的に前に出るクーは、これより前にいちると交わした言葉を思い返す。いちるも、ギルベルトもソプラノも守る、と言ったクーに対し、いちるはこう言ったのだ。
「クーさんは?」
その言葉にクーは一瞬考え込み、そして次には微笑を浮かべ、「ええ、私自身もです」と告げたのであった。
(そう約束したからには……この戦い、必ず生きて帰らなければなりませんね)
噴射される毒液を、クーが華麗な身のこなしで避ける。これだけ肉薄している現状で、毒液を浴びて身体の自由を奪われれば、たちまち突進に巻き込まれる。そうなれば負傷どころではないだろう。
それでも、守りたいもののため。
二人は、剣を振るい、危険に身を晒すのであった。
(ヴォルカニックシャワー……少なくとも威力は、個々が出せるそれを遥かに上回るようね。流石に連射は出来ないようだけど)
ニーズヘッグの接近を、設けられた防御陣地の中で待つ美鷺 潮(みさぎ・うしお)が、自らの上空を過ぎてニーズヘッグに直撃したと思われる集光の様子を思い返して心に呟く。
あの後、二発目が飛んでくる気配もなければ報告もない。もしかしたらもう一発くらいは撃てるのかもしれないが、どのみちそれまではニーズヘッグを食い止める必要があるだろう、そう結論付ける。
(……しかし、何故こうも『雑草』如きにここまで執拗になる? 次第に依っては敵愾心を増幅させる要因になること、世界樹だって知らないはずないでしょうに)
相手が何を考えているのか、それについてはいくら考えた所で推測でしかない。暇であれば考えてしまったかもしれないが、幸いというか何というか、地面を揺るがす震動に潮は思考を切り替える。
「あのさ、私事情をよく知らないまま連れてこられた気がするんだけど、これから何が始まるの?」
「……第三次大戦、かしらね。来るわよ」
隣に控える皇 鼎(すめらぎ・かなえ)に答えて、潮がこの震動を引き起こしている張本人を視界に捉える。地面の溝に沿って、全長150mの黒い巨体が前進を続けていた。
(あれほど大きければ、大した狙いをつけずとも当たる。威力重視……加減は、しない)
高めた魔力を、最低限の方向制御以外全て威力に回した魔法をニーズヘッグに見舞う。呼び出された雷がニーズヘッグの硬い殻、その表面を貫いて焦がす。
「これほど正確に通って来るんだったら、罠でも仕掛けておけば引っ掛かったのかな。それとももう誰かが仕掛けてて、発動したけどあれってことなのかな?」
鼎の言葉に、潮は言葉を返さず表情で応える。黙って撃て、と。
「はいはい、勿論そうするつもりだよっ!」
鼎の抜いた銃から弾丸が放たれ、ニーズヘッグを襲う。通常ハンドガンで使用されている弾より強力な弾を撃ち出せる銃を、鼎は自らの超能力を駆使して制御し、攻撃を続けていく。
(私も、私も戦わなきゃ……!)
次々と撃ち込まれていく攻撃を目の当たりにして、伊礼 悠(いらい・ゆう)も負けじと詠唱を終え、生じさせた氷の刃をニーズヘッグにぶつける。だが、自分が一発撃つ間に二発三発、しかも自分より威力の高い攻撃が繰り出される事実に、悠は無意識に焦りを感じていた。
そして気付くと悠は、掘られた塹壕から飛び出し、より近い場所から攻撃を繰り出そうとしていた。
「どうした、悠。少し落ち着くんだ。焦った所で良い結果が得られるとは限らない」
悠の行動を、焦りから生じたものであると感づいたディートハルト・ゾルガー(でぃーとはると・ぞるがー)に宥められ、振り返った悠がその例えようのない想いをぶつけるように口を開く。
「私、焦ってなんか――」
瞬間、悠を攻撃対象として捉えたか、噴射口から毒液が悠目がけて放たれる。
「悠!」
突き飛ばされ、元いた塹壕に半ば落ちる形で飛び込んだ悠、その傍を黒い液体が弾け、鼻につく嫌な匂いを漂わせる。
(っ…………あっ! ディートさん!?)
混乱していた思考を何とか回復させ、悠は自分を庇ってくれたディートハルトの様子を伺うべく塹壕から再び飛び出す。すぐに、毒液塗れで地面に倒れ伏すディートの姿が視界に入った。
「ディートさんっ!!」
「待て、迂闊に触れればキミも毒に侵されかねない。今、解毒を試みよう」
慌てて駆け寄ろうとする悠を制し、相田 なぶら(あいだ・なぶら)がキュアポイゾンで解毒を行う。魔法の力がディートの全身に行き渡り、彼を染めていた黒い液体がスッ、と消えていく。
「……これで、ひとまずは安心だろう。後はそこの陣地に運んで、回復を待てばいい」
「は、はい、あの、ありがとうございますっ」
自分の行為でディートを傷付けてしまったことに動揺を隠せず、悠がただそれだけを口にして陣地へと引っ込んでいく。
(……少しでも、被害を食い止めないと。戦いはここで終わりじゃないはずだ……!)
皆を守るという意思を胸に、なぶらが箒に乗り、味方のサポートへ向かう。一方、ニーズヘッグに肉薄していたフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)は、ニーズヘッグの所々に穴の開いた箇所を発見する。
(毒液の噴出口を狙うのもアリかと思いましたが、そちらを狙う方が危険も少ないでしょうか。隙が出来れば是非とも……)
直後、ニーズヘッグに炎弾と鋼鉄の弾丸が炸裂し、反撃にと毒液の噴射が行われる。
(今です!)
刀を抜き、刀身に冷気を纏わせ、フィアナが箒を蹴って宙に飛び、爆発的な加速力を以てニーズヘッグの穴の開いた箇所に接近、刀を振り抜く。飛び荒ぶ冷気は氷の刃となって穴を穿ち、ニーズヘッグに取り込まれるように消えていく。新たな敵の存在に気付いたニーズヘッグが迎撃を行なおうとする頃には、再び箒に乗って距離を開けたフィアナは射程外であった。
(上手くやれば、一方的に攻撃を加えられますね。どれほどダメージを与えられているか分かりませんが、出来るだけやってみましょう)
痛がりもしなければ、足も止めないニーズヘッグの様子に、果たして自分の攻撃がどれほど効果があるか分からないながらも、自らの役目を果たすため、フィアナが積極的にニーズヘッグに接近を図り、痛打を与えていく――。
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