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まほろば大奥譚 第三回/全四回

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まほろば大奥譚 第三回/全四回

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第六章 天子拉致計画2

 扶桑の都(ふそうのみやこ)では、多くの藩士が見かけられようになっていた。
 中でも瑞穂藩士は金払いも良く、都の茶屋にも良く出入りをしている。
 茶屋街にある伊勢屋二階では、男達が神妙な顔つきで膝を合わせていた。
 彼らの耳にもマホロバ城下の瑞穂弘道館分校の火災は耳に入っている。
 それが、彼らをますます過激な行動へを向かわせていた。
「扶桑の『噴花』のとき、天子様が現れる。その時にお連れするんだ」
 藩士の一人がの言葉に、シャンバラ教導団霧島 玖朔(きりしま・くざく)が問い返した。
「お連れするって、どうやって?」
「『噴花』が起こったときマホロバ中が大揺れに揺れるって話だ。その隙にお連れする」
 瑞穂藩士日数谷 現示(ひかずや・げんじ)が腕を組んだまま答える。
「そんな大ざっぱな案で大丈夫か」
「問題ねえ。いざとなったら、火を放って逃げおおすさ」
 それに対し、蒼空学園八神 誠一(やがみ・せいいち)が異を唱えた。
「そんなことしたら、街が燃えてしまう。都の人々を巻きこむ気か」
「それでも、幕府には……鬼城には渡せねえからな」
「それでもだよ」
「もし、この次も鬼城が扶桑の力を授かるようなことがあれば、俺達はまた二千五百年待たなきゃならねえ。もう、待てねんだよ。一回きりだ、失敗は出来ねえ」
 誠一はマホロバの内戦を避けるため瑞穂に付いたが、常々瑞穂の暴走には気を張っていた。
 今、瑞穂の急進派を押さえているのは現示だが、この男が倒れればどう暴発するかわからない。
 逆を言えば、現示さえ押さえていれば、瑞穂の急進派を止められるのだ。
「後々のことを考えろ。都を敵に回して良いことなんかないだろ」と、誠一。
「じゃあ、そうならねえように、頭巡らして協力してくれ」
 現示が手を叩くと、艶やかな衣装の芸妓舞妓が座敷に上がってきた。
 饗宴が始まり、玖朔や誠一にも酒が振る舞まれる。
「まあ、今夜は呑もうや。せっかく都に来たんだ。いつ命散るか知れん身だし。てめえらもちっとはマホロバの遊びを経験しといたほうがいいぜ」
 美しい舞妓たちの芸を眺めながら、彼らは酔いに浸った。


卍卍卍


 扶桑の都は『扶桑』桜の木の周りを取り囲み、守るかのように発展している。
 市街の路地裏は狭く、まるで迷路のように入り組んでいた。
 瑞穂藩の天子強奪計画は、以前都に潜入していた者の手で、葦原明倫館分校や総奉行{SNM9998935#ハイナ・ウィルソン}にも伝わっていた。
 この驚くほど大胆な手口にを阻止するべく、扶桑・天子守備隊が組織され、都へと向かっていた。


「さすが扶桑の都っていうだけあって、美しい街だな」
 葦原明倫館棗 絃弥(なつめ・げんや)一足早く都入りしていた。
 瑞穂藩に対してどう対抗するか、町並みと扶桑への道を調べている。
「瑞穂藩士を油断させるためにも、ある程度引き入れて罠を仕掛けるのが有効だと思います」
 パートナーの精霊源 義経(みなもと・よしつね)は罠を仕掛けて同士討ちを誘い込むことを考えていた。
「彼らに勝ち戦と思わせることですわ。そこを狙うんですの」
 剣の花嫁アナスタシア・ボールドウィン(あなすたしあ・ぼーるどうぃん)も、罠の仕掛けに余念がない。
 『扶桑』の周辺とそこのに続く道を入念に調べていた。
 『扶桑』は神聖なものとされ、巨大な桜の木は都の至る所からでもその姿を拝むことはできたが、容易に近づくことは禁じられている。
 桜木を守るための御門と大神殿のさらに奥にあった。
「瑞穂が天子様をお連れしようというなら、この御門を押さえなきゃならないわけね。だったら、任せてよ。瑞穂藩士は盛大にぶっ殺してあげるから」

 葦原明倫館霧雨 透乃(きりさめ・とうの)はふつふつとした怒りを胸に、指をならしていた。
「この間は、日数谷現示さんには酷い目に遭わされましたけど、とどめを刺さないなんて甘いですわ。生かしておけば、いずれ報復されるのは分かってらっしゃるはずですのに」 透乃の恋人である剣の花嫁緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)もユニコーンの背上に乗り、待機している。
「彼は一度、死者になってみたらいいのよ。私のような英霊に。生き返るためなら何でもやる……ね」
 エリザベート・バートリーの英霊月美 芽美(つきみ・めいみ)が、ふと、人が騒がしく動くのに気付いた。
 何やら望遠鏡を片手に、神職たちが扶桑を見ている。
「桜の開花……? 『噴花』が始まったの?!」
 そのとき、太鼓の音とともに御門への侵入を試みる瑞穂藩士が現れた。
 乾いた銃声が響き渡る。
「来たわね……瑞穂。日数谷現示は後回しよ。奴の配下から片付けていくわ!」
 透乃たちは瑞穂藩士に狙い定めてユニコーンで突進した。
 不意を突かれた敵は、隊列を崩していく。
 透乃は頃合いを見てユニコーンから飛び降りると、拳を構えた。
 彼女の激しい気性そのままのように、熱波がまとわりつき、爆炎を放つ。
 炎熱が幾人かの瑞穂藩士に襲いかかり、炎に巻かれながら吹き飛んでいった。
「逃がさないわよ。もっと、もっと苦しめてあげる!」
 芽美は爆炎から逃げる藩士を逃さず、なぶり殺しにするように轟雷を放つ。
 まばゆい光とともに、電雷が瑞穂藩士を黒焦げにしていた。
「ふふ……焼いてしまうと血が見られないのが残念だわあ」
「透乃ちゃん、芽美ちゃん! うまく避けてくださいね!」
 陽子が魔法を使い、二人に加勢する。
 炎は柱となり、さらにその勢いは増していった。