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リアクション
第六章 天子拉致計画3
「あいつらやっぱり生きていたな。あんときやっとけばよかったかな」
派手に暴れる透乃たちに気がついた現示だったが、歩は止めなかった。
「ここは俺達だけでも先に行こう。天子様の確保が先なんだろ」
現示と共に行動していた霧島 玖朔(きりしま・くざく)は、パートナーの英霊伊吹 九十九(いぶき・つくも)が、突破を狙う。
「今、頭上からハヅキが誘導してくれるハズ……こっちよ!」
九十九は教導団で培った軍事訓練を活かして、比較的守備が薄いところから狙っていた。
彼女たちに続い銃声が鳴っている。
御門側の連なる屋敷の屋根上からは、機晶姫ハヅキ・イェルネフェルト(はづき・いぇるねふぇると)が、銃器による狙撃の援護を行っており、ハヅキは戦況も見守っていた。
「今のところ……どっちも押し合ってるって感じですけど……あ、あれは!」
ハヅキの視線の先に、不審な動きをする人物が居る。
まるで、現示達を誘いこんでいるかのように道をあけた。
「待ってください、その先は……いっちゃ駄目です!」
ハヅキは玖朔に合図を送ったが、彼らは敵味方乱れての混戦状態であり、すぐに対応できなかった。
「何だ……罠か!?」
現示が叫んだが遅かった。
棗 絃弥(なつめ・げんや)が、源 義経(みなもと・よしつね)とアナスタシア・ボールドウィン(あなすたしあ・ぼーるどうぃん)たちと共に、事前に仕掛けていたトラッパーが作動する。
煙幕が彼らの視界を遮った。
「ハイナお嬢のこと、ド派手なせいで丸わかりって言ってたけど、お前らも相当なもんだぜ。お陰で、罠を仕掛ける時間が持てたよ!」
絃弥はそう言って斬り込んいでいた。
義経やアナスタシアも瑞穂の同士討ちを狙うかのように、声を上げるなど攪乱している。
「くそ……!」
「またこんな手に引っかかったのか、現示。いつか、本当に足下救われるぞ」
波羅密多実業高等学校酒杜 陽一(さかもり・よういち)が、煙幕をかいくぐって現れた。
陽一の手には大剣が握られている。
「まあ、お前がそこまで必死な気持ちもわからんではない。自分が生まれ育った国や世界を守りたいと思うのは当然だ。だから――」と、陽一は大剣を構えた。
「俺と一騎打ちの勝負をしろ。敬意をもって殺らせてもらう」
現示はその姿を見て、この間の陽一の瑞穂 睦姫(みずほの・ちかひめ)への侮辱を思い出した。
「そっちこそ、全然反省してねえように見えるがな。わざわざ殺されに来たんなら、手間かかんなくていいやな」
現示が刀を抜く。
側に居た八神 誠一(やがみ・せいいち)に素早く言った。
「おめえは先に行ってくれ。こいつは俺が直々にやる。葦原の連中に先を越されんな」
「……駄目だ。こっちにだって都合がある。俺はお前を引きずってでも、扶桑の……葦原の前に立たせなくてはならん。こんなところで、もしもがあっては困る!」
普段は穏やかな口調の誠一が変わり、彼はパートナーの剣の花嫁オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)と強化人間シャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)に、先行しようとする白百合学園メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)と彼女たちセシリア・ライト(せしりあ・らいと)、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)、ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)を止めるように命じた。
「俺様はせ〜ちゃんと一緒に、現示守らなくて良いのか?」と、オフィーリア。
「まあ、あの怠け者があんなにやる気モードなんだから、こっちもいっちょやってろうぜ!」
シャロンは嬉々として、メイベルたちを追いかけた。
オフィーリアもそれに続く。
「はやく邪魔者は消えろ。日数谷現示、いざ尋常に勝負!」
陽一は言いながら間合いを詰める。
現示はにやりと笑った。
「あんた、本職は違うんだろ? それを、そんななまくらで俺に勝負を挑むとは、いい度胸だな。それとも俺がなめられてるのか……」
「……言ったはずだ。俺なりに敬意は払ってると」
二人はにらみ合ったまま、距離を縮める。
そして現示の片足が一歩前に踏み出したとき、陽一は大剣を投げだし、そのまま低姿勢で現示の足にタックルを食らわせた。
陽一の予想だにしない動きに、現示がバランスを崩す。
「てめ……汚ねえぞ! 真剣勝負じゃねえのかよ!」
「お前は今まで卑怯なことはやらなかったか?」
陽一が転倒した現示に懐から出した拳銃を向けたとき、誠一がとっさに二人の間に入り、陽一に刀を向けた。
「サシの勝負に邪魔をするな!」
「奴と殺りたいなら、平和になってからにしてくれ。ここで、犬死にさせる訳にはいかないからな」
誠一の凄んだセリフに、陽一もふと笑い顔を伏せる。
「……わかってる。こっちも殺す気はない。ケリを付けたかっただけだ」と、陽一。
「こいつと俺は……似たもの同士だからな」
現示は本気ではないという陽一にプライドを傷つけられたのか、声を荒げた。
「ふざけるな! てめえ、殺す気でかかってきやがれ!」
「お前もだ、現示。冷静になれ。扶桑は、天子はすぐそこなんだろ?」
誠一は御所の奥にそびえる扶桑を見遣る。
『扶桑』に仕える神職たちが、戦に慌てふためきながら御所から逃げ惑っているのが見えた。
「ああ、そうだよ! 行くしかねえよ!」
現示は地面に突き刺して立ち上がると、『扶桑』に向けて走り出した。