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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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第5章 チャンドラマハルの死闘【紅蓮編】(1)



 御神楽環菜救出の報は、暗闇の中の一筋の光だ。
 しかし、まだ助けなくてはならない人が残っている。それと同時に倒さねばならない敵も存在する。
 チャンドラマハル本殿を後にしようとする一行の目に、ボロボロに崩れた石像の残骸やその隙間に身を埋める死人戦士たちが映った。足止めに残った仲間やハヌマーン率いるスーパーモンキーズとの戦いの激しさを物語っている。
 ちょうどエントランスに差し掛かった時、先頭を走っていた仲間の足が止まった。
 周囲を既に死人戦士達が取り囲んでいる。
 そしてその奥から、骸の山河を踏み越えてガルーダ・ガルトマーンが姿を現した。
「随分、頑張ったようだがそこまでだ。投降しろとは言わん……、死ね」
 手を閃かせると、灼熱の熱波が周囲を覆った。
 冥界の炎の使い手にして未来を視る奈落人……、ルミーナの奥にある本性は、暗く燃える太陽のようだ。
「……隊が疲弊するのを待っていたようね。セコイ真似してくれるじゃない」
 環菜は言った。
「あるものを有効に使っただけだ。初めからタクシャカとクベーラで押さえられる相手とは思っていない」
「その姿でそんな態度はして欲しくないわね……。ルミーナは返してもらうわ……、あなたが望まなくてもね」
 向かって行こうとする彼女を、橘 恭司(たちばな・きょうじ)が止める。
「そんな身体じゃ無理ですよ。ここは俺たちがなんとかします、校長は先に列車に行ってください」
「ルミーナはオレ達で取り戻してみせるさ。そのためにここに来たんだからな……」
 そう言ったのは、薔薇学からの協力者鬼院 尋人(きいん・ひろと)
 目配せすると、隠形の術で潜んでいた呀 雷號(が・らいごう)が出現し、退路を塞ぐ敵を威嚇し始めた。
「ナラカと言えどパラミタの国……、そこに入り込んで秩序を乱す存在は見過ごすべきではない……。我々もまた、ナラカにとっては侵入者……、秩序を乱すつもりはないが……、それでも立ちはだかるなら容赦は出来んぞ……」
 鬼眼を向けると、死人達はじりじりと後退した。
「お互い余計な怪我はしたくないでしょう。すみませんが、そこを通してもらえませんかね……?」
 同じく尋人の相棒の吸血鬼西条 霧神(さいじょう・きりがみ)も不気味に輝かせ退路を切り開く。


 ◇◇◇


 彼らに任せておけば向こうはなんとかなるな……。
 恭司は横目にそう思い、気を引きつけるためガルーダに向かって行った。
「なぁ、キミ……、今の意識は本当にルミーナ先輩じゃないんだろうな?」
「どういう意味だ……?」
「ルミーナ先輩を傷つけたとあっては目覚めが悪いんでね……。違うなら問題ない、全力で行かせてもらう……!」
 精神を集中し、辺りに散らばる柱の残骸をサイコキネシスで操る。
 変則に飛び交う残骸だったが、ガルーダは天眼で見渡し、軌道を見切ってなんなく回避する。
「やるようだが……、俺が勝つ。またカレーにして喰ってやんよ!」
「カレーだと……?」
 それは完全なるNGワード、ガルーダの顔に憤怒と憎悪が表出する。
「やはり気にしてるようだな……!」
 恭司は光術で目くらましをかける。通ったかを確認する間はない。すかさずバーストダッシュで間合いを詰める。
 その瞬間、閃光を貫いて噴き上がった炎に飲み込まれた。
「な、なに……!?」 
 天眼の前に奇襲は通用しない。目くらましが来るのを事前に察知出来れば、目を閉じるなり逸らすなり間合いを取るなり、如何様にも防ぎようがある。光術で道を切り開く前に、如何に光術を通すかが天眼に対する課題となるだろう。
「霧神……!」
「はいはい、わかってますとも……」
 霧神は氷術を放ち炎を勢いを殺す。
 そこにヴァーチャーシールドを持った尋人が、オートバリアー&オートガードを使い、残った炎を完全に押さえる。
 危なく焼却されかけた恭司は煙を上げるスーツを払い、尋人に礼を言う。
「すまない、助かった」
「気にしなくていいさ。でも、本当に未来を読んでるんだな。光術と同時に炎を繰り出すのを見た」
「……ふん、オレの能力を知ったところで、貴様らはどうすることも出来ん」
 浴びせられた業火を再び盾で防ぐ。
 凌いだあとも戦いを長引かせるため、尋人はあえて反撃をしようとはしなかった。
「長期戦になれば、ガルーダが黒幕と連絡を取るかもしれない。真実を引き出すまで耐えてみせる……!」
 しかし、彼は何かとても重要なことを見落としている気がする。戦いを長引かせてはいけない大きな理由を。
「……あとは邪魔さえ入らなければ持ちこたえられるはずだ」
 その時、超感覚が周囲の異常を感じ取った。
 相棒の異変に気付いたのか霧神が問う。
「どうしました? 私のディテクトエビルには何の反応もありませんが……?」
「この近くからじゃない……、風の音が変化した……、遠くから……、何かがこっちに飛んできてる……!?」
 突然、尋人はガルーダに向かって駆け出した。
 霧神は困惑しながらも、冥府の瘴気を得て闇術で援護をする。
 ナラカの穢れを直接取り込んだためだろう、現世で使うよりも闇術の効果が格段に上昇しているのがわかる。
 だがしかし、そこで常時活動している奈落人に通用するかと言うと別の問題だ。
「暗闇はそよ風も同じ……、無駄なことを……」
 紫炎を纏った腕を払うと炎が波打ち、突っ込んでくる尋人を食い尽くそうと迫る。
 ところが何を思ったか、彼は炎を前にしてガルーダに背を向け、あさっての方角に盾を構えた。
 刹那、衝撃音と共に盾の半分が吹き飛び、それと同時に炎が獲物を飲み込んだ。
「伏兵がいるようだな……」
 石畳を砕いた跳弾の痕を見、ガルーダは銃弾の来た方角に目を向ける。


 ◇◇◇


 宮殿に隣接するアブディール市街の建物屋上で、狙撃者は静かにスナイパーライフルを下ろした。
「気付かれたか……」
 暗殺を謀ったロイ・グラード(ろい・ぐらーど)は目を細める。
 おそらく今回の一件はエリュシオンが一枚噛んでいる……、直感がそう訴えていた。
 それならば、これはエリュシオンに名を売る絶好の機会。手土産にルミーナの首を持ち帰ろうと企てたのだ。消すのは環菜でもどちらでも良かったが、あちらは護衛を突破するのが難しいと考え、乱戦で隙が生じ易いルミーナに狙いを絞った。どちらにせよルミーナを殺害出来れば、パートナーロスト状態、例え復活したところで死人と同じだ。
 大いなる野望のため、ガルーダの能力圏外からのスナイプを行ったのだが……。
 スコープを覗き込むと、ガルーダが部下に指示を出しているのが見えた。
「どうやら長居は出来ないらしいな……。しかし、完全に心臓を捉えていたのに、あの小僧……」
 倒れた尋人を遠目に見る。
「奴らの中にも、第三者の攻撃に注意を払える奴がいたと言うことか……。先に始末すべきは奴だったな……」
 ふん、と鼻を鳴らし、暗闇に消える。
 暗殺は失敗したが、ロイに失うものは何もない。
 この時代、名を売る機会は幾らでも回ってくる……、蜘蛛のようにその時がやって来るのを待てばいいのだ。