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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
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リアクション

 
●イルミンスールとニーズヘッグの間
 
「ほれ、男ならしゃんとせえブランカ。背筋を伸ばして顔を上げろ。ここが正念場や」
「わ、分かってるよオウロ……本気で死ぬかと思ったんだ、ちょっとくらいいいじゃんか」
 まだ少し青さの残る顔のブランカ・エレミール(ぶらんか・えれみーる)が、コウ オウロ(こう・おうろ)と共に辺りの警戒に目を光らせる。
(ラタトスクがせっかくくれたチャンスや、無駄にさせるわけにはいかんねん。
 終夏やるるや未憂達の声を、言葉を、邪魔するような無粋なもんは、わしらが止めたる。
 ……せやから、思い切りぶつけてこい)
 オウロが掌に狐火のような炎を浮かばせ、パシッ、と拳を握ってそれを消す。
(ユグドラシルの願いと、ニーズヘッグがやろうとしている事は別のものかもしれないけれど……その為に一生懸命になれるニーズヘッグは、悪い奴じゃないと思う。
 だから……るるちゃん、未憂ちゃん、終夏……それ以外にもたくさんの想いをぶつけたら、きっと、ニーズヘッグにだって届く)
 ――最初は、ほんの一音。
 その一つ一つはバラバラで、何だかよく分からないけれど、人はそれを『音楽』として、感情や思想を音で表現することが出来る――。
(音楽と一緒さ。強い想いが込められたものが、相手の心に届かないはずがない)
 リュートを弾いてやりたい思いに駆られつつ、ブランカも周囲の警戒に当たる。
 
 
「ユグドラシルの出会いをありがとう、ニーズヘッグ」
 
 最初に切り出したのは、五月葉 終夏(さつきば・おりが)
 真っ直ぐにニーズヘッグを見つめ、自分のありったけの想いを言葉に込めて、ニーズヘッグに伝える。
 
「私の夢は、世界樹をめぐる事だった。
 その夢の一つを、そんなつもりはなかっただろうけど、君は叶えてくれた。
 ……だから、今度は私達が、君の夢を、想いを、叶える手伝いをする番だよ」
『……オレに、夢だと!? 想いだと!?
 バカ言ってんじゃねぇ!! オレにテメェが言うようなものはねぇ!!』
 
 はっきりと聞こえてくるニーズヘッグの声に、終夏は嬉しくなる。
 そのまま箒を走らせ、終夏は自分の身体以上もあるニーズヘッグの頭に触れる。
 ザラザラとした感触は冷たさのみを返してくるが、構わず終夏は言葉を発する。
 
「君は、『生きて』いる。
 叶えたい『想い』の為に動く君は、私達と同じようにこんなにも『あたたかい』」
『…………』
 
 ニーズヘッグの言葉で、『どんな想いでここへ来たのか』を聞きたい。
 その為には、まず自分から想いを伝えよう――。
 
 
「助けてくださって、ありがとうございます」
 
 続いて切り出したのは、関谷 未憂(せきや・みゆう)
 どうして助けてくれたのか、どうしてユグドラシルの言う事を聞いているのか。
 他にも言っておきたいこと、聞いておきたいことを胸の内に秘めながら、未憂は次の一言をそっ、と口にする。
 
「友達になりに来ました」
『…………あぁ!?』
 
 何を言っているんだ、と叫ばん限りのニーズヘッグの声を受けて、未憂がすっ、と手を差し出す。
 自分の気持ちに偽りのないことを、全身で表現するように。
 
「死なないあなたにとって、100年にも満たない人間の寿命は瞬きよりも短いものでしょう。
 その短い間だけでも、あなたの友人として過ごさせてください」
『…………』
 
 あなただけが、あの景色を見ていないのは、不公平です。
 だから今度は一緒に、お弁当を持って、ユグドラシルの天辺に行きましょう――。
 
「この純粋さ……聞いてて心地いい。愚弟、終わったら礼を言うのを忘れるなよ」
「ああ、分かっているさ」
 彼女たちの言葉を、穏やかな表情で聞き入っていた雅が牙竜に告げ、それに頷いた牙竜はエリザベートに視線を向ける。
 リン・リーファ(りん・りーふぁ)から届けられた言葉は、きっと彼女の力になっているだろうと思いながら。
 
「ねーねー、校長せんせー知ってるー? 『好き』の反対は『嫌い』じゃなくて『無関心』なんだって。
 ユグドラシルがイルミンスールにちょっかい出すのは、なんだか子供が好きな子の気を惹こうと意地悪してるみたいだねー。
 イルミンスールはまだちっちゃいけど、これから大きくなればいいと思うよー。
 だって、こんなにせんせーとイルミンスールを好きな子がいっぱいいるんだから。
 一人じゃ無理なら、みんなで一緒にがんばろー!」
 
 
「最初に助けられた時から、俺は人間に驚かされてきたような気がする。……そして今も、彼らには驚かされているよ。
 何故これほどまでに、胸を打つ言葉を人間は紡げるのだろうか、とね」
「そうですわね。……そして、わたくしたち精霊も、彼らに合わせるように成長していますわ」
 精霊塔を介して聞こえてくる彼女たちの言葉に、イナテミスの住民が、ケイオースとセイランが耳を傾ける。
(プリム……あなたもちゃんと、一緒に歩むと決めた方のために、力になろうとしているのですね)
 少し前、コーラルネットワークでニーズヘッグに助けてもらったこと、そのお礼を言いたいことを伝えてきたプリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)を想い、セイランがふふ、と微笑みを浮かべる。
 
「……みゆうたちを……食べないでいてくれて……ありがとう……」
 
 
「ニーズヘッグさーん! ほら、空を見て!」
 
 最後に立川 るる(たちかわ・るる)が、蒼く澄み渡る空を見上げて、その一点を指差す。
 ニーズヘッグと空の天辺まで飛んでいく、そんな光景を想像しながら、るるが言葉を伝える。
 
「あのね、るるはお星様が好きなの。
 もうすぐ空が暗くなって夜になると、星がきらきら瞬き始めるんだよ。
 るるはね、誰も見つけていない星を見つけて、そこに自分の名前をつけるの!
 ……ねえ、空にはワクワクすることがたっくさんあるって、そう思わない?」
『……思わねぇよ。だいたいなんだよ、ワクワクすることって。知らねぇよそんなの』
 
 吐き捨てるように言葉を紡ぐニーズヘッグに、一つ一つ教えていくように、るるが言葉を続ける。
 
「るる達が地上にいたときは、空の上にこの大陸があったんだ。
 ここにはね、見たことないもの、聞いたことないもの、知らなかったものがたくさんあるの。
 ここに来れば、見たかったもの、聞きたかったもの、知りたかったもの、全部出会えるって思った。
 ワクワクするもの、ドキドキするものに、いーっぱい、巡り会えるって思った!
 
 皆も、きっとそう思った!
 だから皆集まってきたんだよ、この『蒼空のフロンティア』に!

 
 『蒼空のフロンティア』、聞き慣れない言葉。
 しかし、その言葉はこのような情景を自らに思い浮かばせないだろうか。
 
 ――蒼い空に浮かぶ、まっさらな大地。
 生い茂る緑を動物が駆け、流れる川で魚が跳ねる。
 見たことないもの、聞いたことないもの、知らなかったものに胸を踊らせ、
 見たかったもの、聞きたかったもの、知りたかったものに巡り会えた喜びに、心を満たす。
 そんな、ワクワクするもの、ドキドキするものに触れたくて、一歩を踏み出した自分の背中を――。
 
 るるが正面を向き、空を指していた手をすっ、とニーズヘッグへ差し出す。
 
「このパラミタの空にも、きっと何かあると思うの。
 ニーズヘッグさんも、一緒に行く?」
 
 
 
 
イルミンスールの大冒険〜ニーズヘッグ襲撃〜
 最終回 黒き竜は蒼き空を見上げ、何を思う――。