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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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第五章 燃ゆる扶桑の都2

「敵を迎え撃つための、罠と攪乱作戦はすでに準備を整えました」
 瑞穂陣営では、機晶姫ハヅキ・イェルネフェルト(はづき・いぇるねふぇると)が事務的に淡々と説明していた。
「ああ、ご苦労さん」
 霧島 玖朔(きりしま・くざく)はハヅキのほうは見ずに、先ほどから扶桑の都の街図が描かれた攻防戦地図に緻密な書き込みを行っている。
「そんなに熱心に、珍しいですね。言ってくだされば、データに取り込んでプロジェクターに映して差し上げたのに」
「いや、いいんだ。たまにはこうやって頭と手を動かすのが……それより悪かったな、お前らをこんなことに最後まで付き合わせちまった」
「気にしないでよ。私たちも自分の意思でここに残ったんだから。それに、例え追い払われても玖朔と共に居るつもりだったわ」
 英霊伊吹 九十九(いぶき・つくも)が答えると、玖朔は笑っていた。
「そうか、俺も良いパートナーを持ったもんだ。さ、できたぞ」
 彼は立ち上がり、攻防戦地図を両手に広げた。
「まずは、葦原の鬼鎧を止める。それと、街の被害を抑えるように兵の配置をし直した。あとは現示には注意してやってくれ。十中八九狙われるだろうのに、あの馬鹿は考え無しのところがあるからな」
 九十九は頷き、ハヅキは玖朔の描いたデータを取り込んだ。
 再度、瑞穂藩士の幻影を投影させるための位置情報などを照合し直している。
「よし、行くぜ」
 黒いアサルトライフル担いで、玖朔は戦場へ向かう。

卍卍卍


 葦原明倫館と米軍、天御柱学院が参加して共同研究した鬼鎧は、試作機完成以後、より実践的に改良が加えられる一方で、量産化できないかという動きがあった。
 しかし、鬼鎧の元となる『オリジナルの鬼鎧』がなくては、一から作るというのは到底不可能である。
 マホロバに眠る他の鬼鎧を探しながら、当面はこの試作機一機を投入することとなった。
 搭乗者に志願した者は三組六名であったが、それぞれ年齢も種族もクラスも異なる。
 研究員達はこぞって彼らのデータを欲しがっていた。
「順番に乗って、『鬼の血』を入れ替えるときに交代するしかないな。問題は『鬼の血』による稼働時間だ。一回注入したからって、永久に持続する訳じゃないから、その都度必要になるしな」
 これまで兄卍 悠也(まんじ・ゆうや)の調査を補佐してきた機晶姫卍 神楽(まんじ・かぐら)がため息をついた。
 マホロバ人黒妖 魔夜(こくよう・まや)が不満の声を上げる。
「えー、魔夜には必要ないよ〜。魔夜、鬼鎧の考えてること分かるもん」
「仕方ないだろう。汎用性を持たせるために、人間が手を加えたんだから。良いこともあれば、悪いこともある。しかし……兄様も無茶される。自ら実験台になろうとされるとは」
 そんな神楽の心配をよそに、魔夜は鬼鎧によじ登って何やら弄っている。
「ふふふ……万が一ってことがあるし、敵さんに鬼鎧を渡さないもんねー」
 小さな光が点滅する怪しげな小型爆弾をとりつけ、不敵に笑っている。
「変なことしようとしたら、ドカン! だよ……ふふ」



「瑞穂のみなさん! 幕府から政権を奪取して……それで満足しても、何の意味もないですよ。もしマホロバを守るため、平和を作るためなら志は一緒なはずです!」
交渉の結果、一番手に鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)と共に鬼鎧に乗り込んだ水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が、瑞穂陣営を目指していた。
  鬼鎧の力は生身の人間相手には圧倒的だ。
 次々に向かってくる瑞穂藩士を迎え討つ。
 睡蓮は一方的に敵を蹂躙することは望んでいない。
 しかし、攻撃を仕掛けてくる瑞穂藩士は後を絶たない。
 その中で、ある人に似た人影を見たような気がした。
「え……玖朔さん!?」
 彼女は鬼鎧が気がかりで葦原へ転校してきたが、実はもう一つあった。
 鬼鎧に気を取られている間に、彼氏がマホロバの女に取られそうになっていた。
 彼氏とは瑞穂藩の副将に付いた霧島 玖朔(きりしま・くざく)のことである。
 実際に浮気の証拠はないのだが、玖朔が瑞穂藩士と茶屋通いをしているという噂を聞きつけていた。
「玖朔さん!私が勝ったら、浮気禁止ですからね!」
 鬼鎧は、元は鬼という『いきもの』だ。
 操縦においてイコンほどの高度な知識や専門的技術は必要ないが、搭乗者の意思や感情に左右されやすい。
 九頭切丸はなんとか制御していたが、次第に睡蓮に引きずられるようになっていた。
 鬼鎧が周囲の木々をなぎ倒し、都の街壁を壊していく。