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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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第四章 決戦前夜1

 旧大老派を中心に幕府の瑞穂討伐軍は、扶桑の都へと出立する。
 「天子拉致未遂」と「大老暗殺」を受けての瑞穂藩の制裁である。
 そして兵を都に配備させたことで、それは決定的となった。
 しかし、幕府・葦原軍とて何の問題がなかった訳ではない。
 実際には不戦派も多数居り、なんといっても討伐軍の総大将を誰にするかでもめた。
 葦原藩や米軍の手前、いまさら退くこともできず、主戦派も結局、肝心なところでは、 病身の貞継将軍を引きずり出すより他なかったのである。
 また、長い平和の間に、旗本を始め兵達の戦闘能力も統率力の低下も懸念された。
 そのような中で、シャンバラからやって来た人々が、己の才を振るっていた。
 幕府・葦原軍は扶桑の都へ攻め寄った。


 扶桑の都へ向けて挙兵した幕府・葦原軍。
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)は、幕府重臣に対し、「戦後」のことも考えるように進言していた。
「瑞穂藩の望みはマホロバでの治世の主導権を取ることだろ? 『相応の才覚』を持った人物が幕閣に入れれば、彼らに希望を与えることもできるだろう?」
 しかし、幕府重臣も、彼らの地位が脅かされるのはやぶさかのようであった。
 ホウ統 士元(ほうとう・しげん)は、城に残り、二千五百年前の扶桑の噴花に関する記録を漁っていた。
「噴花による被害を最小限に抑えることができれば……」
 残された記録には、噴花の直後にマホロバ全土を大地震が襲ったこと。
 扶桑の花片が空と大地を覆い光も射さず、農作物などに多大な影響を及ぼしたこと。
 また、疫病が流行し、多くの死者がでたこと。
 そして――
「人々を食らっていた鬼の中から、人を助ける鬼も現れたこと……か」
 これが、初代将軍鬼城 貞康のことさしているのかと、士元は推理していた。
 鬼が阿修羅と守護の側面を持つことを知る。


 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は、ハイナに直訴していた。
「ハイナさんは鬼鎧を実戦に投入するつもりらしいけど…いや、駄目だ。そんなことさせられない」
「もう決まったことでやんす。鬼鎧を研究して、もっと実用的に改良する必要があるでやんす」
「何のために? この鬼鎧だって元々はマホロバのために戦って、それで眠りについたんだ。それに、この鬼鎧は『マホロバ人と共に戦いたがっている』。コイツはそう願っているのに、マホロバ人同士の殺し合いにその力を駆り出されるなんて、あんまりじゃないか!」
「鬼鎧は鬼鎧でも、昔と今では事情が違うでありんす。この鬼鎧は、現代技術で蘇った新しい鬼鎧でありんす。ならば、わきちらの手で新しい使命を与えてやりんしょう」
 ハイナは冷静に述べた。
 彼女の言う新しい使命とは、『新しい兵器として使えるかどうか』、ということだ。
 もちろん『米軍の』、という意味もある。
 復活したとはいえ、まだ問題も多い。
「鬼鎧を守っていた先住民のウダのことは忘れてないでありんす。でも、もう純粋な鬼もマホロバ人もいない。だからこそ、こうやって有効に活用してやるのがせめてもの餞(はなむけ)でやんすよ」
「いずれ、シャンバラの兵器として使われる鬼鎧の気持ちも、マホロバ先人の気持ちも関係ないってことか?」
 両者は互いに違う立場で述べている。
 ハイナは葦原シャンバラ、アメリカにとっての鬼鎧として。
 佑也はマホロバの鬼鎧として。
 話し合いは一向に平行線を辿ったままだ。
 ハイナが恐ろしく真面目な顔でいった。
「ならば、今、この鬼鎧なくして、幕府は瑞穂を簡単に抑えられんすか? マホロバが諸外国の牽制に使えるカードが他にあるとでも?」
 ハイナは日本文化に傾倒した葦原明倫館総奉行といっても、アメリカ人である。
 時に冷徹な判断を下す。
 しかし、佑也にも譲れない想いがあった。
「みんな立場もあるだろうし、ハイナさんなりの考え方もある。でも、俺にだって、譲れない一線はあるんだ。鬼鎧は元々将軍家と関わり合いのあるものなんだ。だから鬼鎧の処遇は将軍に任せるべきだと思し、鬼鎧自身が将軍の意志に従うというなら、俺達が口を挟むべきじゃないと思う。俺達だけで鬼鎧をどうにかしていいとは思えないんだ」
 佑也は新しく米軍カラーに色を塗られた鬼鎧の装甲を撫でた。
「コイツも、初代将軍に仕えていたのなら、今の将軍に一度くらい御目通りしたいんじゃないかな」
 佑也の気迫にハイナも折れずにはいられなかった。
 渋々ながら頷く。
「分かり申した。貞継将軍も都入りしたら、鬼鎧を見ていただきやしょう……」
 佑也は一応納得したようだったが、まだ心配そうにその場を後にした。



「ボクはこのまま幕府に従うのはどうかと思いますよ。御奉行の、一人の武士としての判断、信じています」
 卍 悠也(まんじ・ゆうや)は、いつの間にかハイナの脇にいた。
「すみません、立ち聞きする気はなかったのですが、現在の幕府という体制そのものが変わらねばならない時が来ている気がしてなりません……それにこのままだとティファニーちゃんも危ないでしょう?」
「ティファニー殿、葦原明倫館分校長の件は、わっちも気にしてるでやんすよ。どうやら 腕の立つ豪傑たちに助けて貰ったらしいとは聞いてやすが、いつ、葦原そのものにもお咎めがくるかわからないでやす」
「ええ。もう幕府の、将軍家の暗部を隠したり、誰かの涙の上に栄華を築くような事を続けるべきじゃないと思います。今は、幕府は大老が居なくなり中心人物を欠いています。変えようと思うなら、今が良い機会だと思うんですがね」
 そう言って、悠也は鬼鎧に乗り込み調整を行っている。
「じゃ、ボクは瑞穂藩のトップを説得してきますね。この鬼鎧、持って行きますよ。大丈夫、この鬼鎧は研究の時から弄ってますから……」
 ハイナは彼らの背を見送りながら小さく呟いていた。
「少々……マホロバに深入りしすぎたようでやんすね」