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リアクション
第三章 龍騎士シオメンの襲撃2
大奥でもマホロバ内戦を受けて楽観している者はいなかった。
大奥取締役のお糸(おいと)が大奥を去り、代理として七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が大奥を取り切っていたが、思わぬ事態に彼女も手探り状態であった。
「あたしがこんな役を任されるなんて、でも自信がないなんていってられない……大奥がやらなければならないのは、勢力関係なく、将軍家の子供たちをお育てすることなんだから」
歩はまず、瑞穂睦姫(みずほの・ちかひめ)の子がどうなったのかの情報を得た。
「友人の情報で、睦姫様とその子は都の瑞穂藩邸にいるそうです、ひとまず安心はしたけど、大奥にいるお子達をどうしたらよいか……」
彼女が考えたのは御花実たちの健康のこともあった。
「乳母を付けてあげたいんだけど……どうでしょう?」
葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)に相談すると、房姫は良い案だと答えた。
「もともと大奥にはそのような制度がありますしね。大奥のものが将軍のお子をお守りするのは当然の務めです」
「はい……それと。気になることがあって。睦姫様ですが、信仰が違うからって捕まえなきゃというのはあんまりだと思うのです。自由に認めてあげても良いのではないでしょうか」
「それについては、私から申し上げることではないけれど、幕府の政治的なこともあるでしょう。こうして大奥を維持していられるのも、将軍家の力があってこそです。その力を保ち続けるために、難しい問題もあるのです」
「それは……将軍家は色んなものを引き継いで、マホロバを守ってきたものと思います。でも、もっと良くすることもできると思うんです」
「そうですね。では、まず私たちにできることから始めましょう。子供たちを御花実様を守ること。これは大奥にいるものしかできないことです」
房姫の言葉に歩は力強く頷いた。
こうして、房姫に味方になってもらえるのは何よりも心強い。
「私もお手伝いしますよ。歩さんとは同期だし、遠慮なく言ってくださいね!」
房姫の女官リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)が申し出る。
リースは房姫を信頼しているようだった。
「房姫様の将軍家への決意、しかと承りました。私も僭越ながら、力の限り房姫様の……いえ、鬼城を守るために尽くさせていただきます。……とはいえ、今のマホロバの現状は酷いものです。内戦が始まろうとしているし、もう止められないのでしょうか?」
彼女も他の女官同様に不安を隠せないでいる。
「この状況を打破して、幕府、瑞穂、葦原とが力を合わせて、鬼城を……将軍家を守っていくことができると良いんですけど」
リースはそのために房姫にも立ち上がって欲しいといった。
「私が……ですか?」
「ええ、そうです。鬼城家の立場から、葦原やマホロバに住む人へ力を貸して欲しいんです。貴女はその架け橋になることができる……マホロバの『絆』を作ることができます」
「私にそのようなことができるのでしょうか」
房姫が戸惑っていると、大奥女官透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)が「心配しないように」と言った。
「不安なのは、房姫様だけではない。私とてそうだ。瑞穂側の女官は睦姫様がいなくなった途端、大奥から暇を取って国に帰ったが、このまま何も起こさないとも限るまい」
透玻は以前にも増して警戒心を強めていた。
何も根拠がないわけではない。
「将軍継嗣をこのまま簡単に諦めるとは思えん」
透玻の心の中では疑問・不安などがぐるぐると渦を巻いていた。
その不安が的中したかのように、急に大奥内が騒然となる。
「透玻様! どこに居られるのです!? ここから避難してください!」
透玻のパートナーであるヴァルキリー璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)が、彼女を探していた。
突然現れた男性の姿に、一瞬にして大奥の女官たちの間で騒ぎになる。
「璃央!? 一体、どうしたというのだ? そもそも、良くこんなところまで入れたものだな!」
「申し訳ありません、透玻様。ここへは事情を察し、御根口で錠の管理をされている鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)様と竹中 姫華(たけなか・ひめか)様が通してくださいました。さあ、早くお逃げください」
「待て、事情を説明しろ。何がなんだかわからんではないか」
「瑞穂が……龍騎士が攻めてきたのですよ」
これには透玻を始め、皆が息を呑んだ。
「マホロバ城へ真っ直ぐ向かっているとの情報です。幕府軍、葦原とともにすでに扶桑の都へ向けて出発している。留守を狙ってのことです。龍騎士の機動力があれば、あっという間に到達できてしまうでしょう。しかも、マホロバ城には空に対する備えはない……!」
この大事に、璃央も他にもこちらへ助けに向かっているとのことだった。
「さあ、早く!」
着の身着のまま、逃げる準備をする。
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