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リアクション
第一章 小さな手1
一年もあとひと月で終わりを迎えようとする頃。
大奥の一室では、御花実様の葛葉 明(くずのは・めい)が貞継に宛てて手紙を書いていた。
奥医師達本郷 翔(ほんごう・かける)とソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)が明の検診に訪れる。
「順調そうで何よりです。ちょっとでも異変を感じたら、すぐに言ってくださいね」
翔が優しく微笑みかける。
明は、ほっとしたように言った。
「そう言ってくれて嬉しいわ。なんせ、初めてのことだし。でも、周りの人が色々とやってくれるから、助かってるの。あたしは、今、生まれてくる子供の名前を考えてるところよ」
「そうですか。私でよければ、いつでも明様の話相手になって差し上げますよ。それが、執事たる私の役目です」
「執事?」
「え……いや。執事のように思ってくださって結構です、ということですよ」
彼(彼女)らは、御花実や子供達のことを心底あんじている。
見た目は男だが、女の身体を持つ者として、純粋に心配している。
「ま、『天鬼神』の血を引いた子だ。いつ、鬼になるかもわからないんだからな。用心するに越したことはない」
ソールは、聴診器を外しながら言った。
「心配するな。俺がしっかり看てやるよ」
「本当かしら」
「あのな、こういうときに冗談は言わないよ。出産が女性にとってどんなに大事なイベントか……分かってるつもりだ」
ソールははじめ、大奥に入る目的で奥医師というまねごとを始めたのだったが、今ではすっかり大奥の女性の健康維持管理を尽くすことにやりがいも感じていた。
いつしか、本物の医師になっていたのだ。
明も疑う余地はなかった。
「そう、じゃあ、ついでに頼まれ事お願いしていいかな。将軍様に渡して欲しいの」
彼女はそう言って、ごそごそと用意をする。
そこにはこう書いてあった。
『拝啓 師走の候、お元気でしょうか。
生まれてくる子の名前ですが、
男児だった場合は両親から一文字ずつ取り
「明継」という名前にするつもりです。
最初に会ったときからずっと「お前」と呼んでましたが、
が私の名前は『葛葉 明』です。
私は生まれてくる赤子と一緒に大奥で貞継さんの
お帰りをお待ちしております。
次にお会いした時には子供と私の名前を呼んでください。
追伸:
女児だった場合は貞継さんの方が考えてください。敬具』
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