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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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第一章 小さな手2

 貞継の居る東光大慈院でも冬支度に追われていた。
 僧侶たちが忙しなく走り回っている。
 大慈院の一室では、貞継が青白い顔をしていた。
 深夜、彼は一人で投影機を見ている。
 貞継の側室樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)の従者土雲 葉莉(つちくも・はり)が送ってきたものだ。
 映像には白姫と白之丞の元気な姿がある。
「何をみているの? 遅いんだから、もう寝なさいよね
 大慈院で将軍付きの女官として付き添っていた水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が心配してやってきた。
 部屋の外では、櫛名田 姫神(くしなだ・ひめ)が寝ずの番をしていた。
ふと緋雨は、いつも将軍の側に居て眠っていた若い男を思いだした。
「そういえば、いつもの彼を見かけないけど。国にでも帰ったの?」
「わからない。アキラは何処かにいってしまった。アキラだけじゃない。鈴鹿もスウェルも、みんな……いなくなってしまった」

 貞継は、度会 鈴鹿(わたらい・すずか)アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)、みんな居なくなってしまったと語る。
「こんな不甲斐ない将軍では、去られて当然だろうがな」
 自嘲気味に笑う貞継。
 緋雨は貞継の隣にちょこんと座った。
「しょうがないわね……じゃあ、今夜だけお姉さんが一緒にいてあげるわよ」
「え」
「別に変な意味はないわよ。急に一人で寝るのも寂しいだろうと思ったからよ。勘違いしないでよね!」



「……もう眠った?」
「いや、まだ起きている」
「早く寝なさいよね」
「……」
 深夜、真っ暗な部屋の中で、二人は横になっていた。
 貞継の返事がないので、緋雨はもう将軍は寝入ったのだろうと自分も目を閉じた。
 しかし、どうにも冴えてしまい、なんとなく尋ねてみた。
「もう、寝ちゃったよね?」
「ああ」
「何よ? 起きてるじゃない……きゃ!?」
 その途端、緋雨は脇から腕を掴まれ、布団の中に引きずり込まれた。
「な、何するの!」
「いつも子供扱いしてくれたからな。これは仕返しだ」
 そういって覆い被さる貞継に、彼女は両手を突っぱねて抵抗した。
 だが、彼女は腕の力を緩め、それもすぐに止めた。
「……わかった、いいわよ。でも私、托卵じゃないと嫌だから。貴方が生き続ける決心してくれてるなら、私も貴方の子を残すわ」
 貞継は動きを止め、ちょっと考えているようだった。
「生きていられるかは約束できない。そのときまでは、生きたいと思っている」
「何のために? 子供のため?自分のため、マホロバのために?」
「……全部だ」
 緋雨は貞継を見上げていた。
 天子の一件以来、思い詰めた様子でいた将軍であったが、その表情には何かを決意したような潔さがあった。
 それが何であるかは緋雨にはまだ思いも寄らないことであったが、彼女は彼を受け入れていた。
「どの選択を選んでも、絶対に後悔しては駄目よ? 何があっても、お姉さんは貞継さんの味方……だからね……」


 翌朝、緋雨を見つけた天津 麻羅(あまつ・まら)が彼女を叱咤する。
「愚か者めが!鍛冶師にとって大事な片目を差し出すとは…じゃが、そこまでの覚悟、師として誇りに思うぞ」
 火軻具土 命(ひのかぐつちの・みこと)は、緋雨の身体を心配していた。
「ほえ〜驚いたどす。お身体、本当にいいんどすか?」
「残った右目が失われる前に、この世で一品の名武器をつくるわ……これは、私の決意なの」
 緋雨は自分自身に誓いを立てていた。

卍卍卍


 にゃーん。にゃーん。

 貞継は朝、顔を洗われているときに、しきりに猫にまとわりつかれていた。
 よく見ると、猫の首に紙切れが巻かれてある。
「誰がこんないたずらを」
 貞継が紙片を取ってやると、そこにはこう書いてあった。

『【死ぬ覚悟をしたのなら、生きていく、生き続ける覚悟もなさい】』

 スウェル・アルト(すうぇる・あると)の字だった。
 貞継は愕然とすると、『八咫烏』の忍者を呼びつけた。
「お前の主は今は、『八咫烏』頭領の武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)だ。こんな使い方をしても、牙竜は怒らないだろうな?」
 『八咫烏』は頭を下げ同意している。
「武神様はそのような方ではありません」
「では、スウェル達を探してくれ。そして、気付かれることがないよう、守ってやれ。姿を消したのも、わざわざこんなものをよこすのも、理由があるだろうから」
 そしてまた、手紙といくつかの品を預けた。
「大奥にも寄ってくれ。そして、出かけたいのだが、手伝ってくれるか?」