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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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第一章 小さな手3


 扶桑の都へ発つ前、貞継はマホロバ城へは入場せず、葦原明倫館分校にてハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)と逢う。
 ハイナと貞継は二人きりで話をするとこは、これが初めてであったかもしれない。
 なぜ自分が呼ばれたのかハイナは推することができず、緊張した面持ちでマホロバの将軍に対峙していた。
「総奉行、頼みがある」
 貞継はアメリカ人の総奉行に神妙な面持ちで言った。
「そなたの国が持つ科学技術というもので、救ってくれないか。托卵で母を失う苦しみを子に与えたくない」
「人工心臓を……作るということでやんすか?」
「鬼鎧も復活させられたのだ。できぬこともないだろう? 金はいくらかかっても構わん」
 貞継は、他の御花実たちも同様に助けてやって欲しいといった。
「……本国にそれだけの医者や技術者がいるか、当たってみますが……しかし」
「何だ」
「わっちは正直、将軍は建前上は葦原を重用しても、葦原に地球人が……アメリカが付いているのを快く思ってはいないのではないかと思ってやりやした」
 将軍家が葦原の協力があって鬼鎧を手中に収めて天下を統一したものの、その葦原が現在、地球人側と結びつき、マホロバ幕府をしのぐほどの力を持ちつつあることを、ハイナも貞継も知らぬはずではない。
 両者が互いに別々の方向を向けば、マホロバも葦原も二つに割れる。
 貞継もハイナもそのことには触れないようにしてきた。
「そうならないようにして欲しい。そなたの国も持つ技術力には目を見張るばかりだ。しかし兵器が――武器が、マホロバに標準が向くようなことがあれば、全力で立ち向かわざるを得ない」
 ハイナは短く「承知」と答えた。
 鬼鎧の復活は新たな希望を呼び覚ます一方、別の暗雲も呼び寄せるものだった。



「抱かせてくれ」
 貞継は初めて白之丞と対面した。
 『八咫烏』の忍者に言って、連れてこさせたものだ。
 小さく暖かく柔らかく……彼は戸惑いながら、赤ん坊を腕に抱いた。
「こんなに軽いのか」
「頭を肘で支えてあげてください。両手のひらは身体を包み込むようにして」
「これで……いいのか。壊してしまいそうだ」
 すっかり母親らしくなった樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)に貞継は微笑みかけた。
 貞継は白之丞の小さな手を取る。
「ずっと、この手を守ることができれば……どんなに良いか」
 扶桑の噴花が頭をよぎった。
 マホロバの繁栄の為には『死』は避けて通れない。
 そのために今を生きる多くのものの犠牲が必要であり、その中に、この小さな命も含まれるかも知れない。
 貞継の表情が曇る。
 白姫は何も言わず、二人をただ優しく見つめている。
「痛っ」
 白之丞は父親の手をしっかりと握り返していた。
「力の強い子だな、やはり鬼の血は争えないか」
 将軍は苦笑いを浮かべながら、赤ん坊を抱きしめていた。
白姫はその上から自分の手を重ねる。
「貞継様、母の思いは、喜びは、きっとお母上も同じであったと思うのです。この身でお伝えすることができれば、貞継様の心の重荷を軽くすることができれば……良いのですが」
「それは……もういい。お前達が無事であればそれで良い」
「白姫が亡き後も、房姫様がおられます。きっと、白之丞を良きように取りはからってくださるに違いありません」
 貞継は白姫を見た。
 彼女は本気でそう思っているようだった。
 将軍は珍しく語気を荒げた。
「そうはさせん。房姫は房姫。お前はお前だ、白姫。この子にはお前が必要だ」

卍卍卍


「私があなたのママよ」
 大奥では、葛葉 明(くずのは・めい)が生まれたばかりの子をあやしていた。
「あなたは生まれたばかりの命……噴花だか何だか知らないけど、絶対に死なせないんだから」
 その明の元に、貞継からという手紙の返信と祝いの品々が届いていた。