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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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第八章 桜の木の下で


 瑞穂藩士を扇動し、都に兵を進めた罪として捕らえられた三道 六黒(みどう・むくろ)の処刑が執り行われることになった。
 彼には切腹が許されず、斬首が決まっていた。
「実際に瑞穂藩の急進派を動かしていたのは、この男と六黒一派と呼ばれる者と思われます。仲間であり『悪役商会』を牛耳るという両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)が、幕府の家臣邸に出入りしているのが目撃され、また、幕府転覆を狙った文書や書状が見つかりました」
 この一件を調査していた幕奉行はこう語った。
 危険を察知したのか、直前になって姿を消した悪路の所在はついには掴めなかった。
 六黒は全ても罪を背負わされ、河川敷で首が落とされた。
 六黒の遺骸には黒い布がかけられて船で運ばれた。
 その間も六黒は扶桑の都を焼いた鬼畜人として、都の人々から石を投げられていた。
「三道六黒の名は、決して忘れられることがないでしょう。もちろん、悪い意味でね」
 悪路は屋形船に乗って優雅に茶を飲んでいた。
「この悪名は、闇の世界においては勲章です。われられ『悪役商会』の地位も上がるというもの」
「ハハ。ま、ダンナはまだ生きててもらわねえとな。擬体を用意してやるのも手間かかってんだからよ。いずれ元は取らして貰うぜ」
 羽皇 冴王(うおう・さおう)がにやにやと笑いながら黒い布ベルフラマントをめくる。
 無骨な男の貌がある。
 六黒が乾いた声で言った。
「現示は未熟だが……だからこそ可能性がある。これからのマホロバにあの男の力が必要だろう……」
 琵琶が音を立てずに鳴っていた。
「もう一度、奴に這い上がる気があればな」
 戦ヶ原  無弦(いくさがはら・むげん)が弦なしに奏でていた。
「六黒もまた、生かされたか。どこまで因果な道を進むやら――」

卍卍卍



 エリュシオン帝国首都ユグドラシル。
 巨大な宮殿にある玉座から、アスコルド大帝はいくつもの目玉を動かして視線を落とした。
 マホロバから瀕死の龍騎士が、赤子を連れて息絶えたという。
 死亡した騎士は漆刀羅 シメオン(うるしばら・しめおん)、赤子の名は穂高(ほだか)と言った。
「マホロバ将軍の血を引く子だと……? 鬼の血か、面白いな」
 アスコルドの言葉は短いものであったが、それだけでも周囲は安堵の息を漏らしていた。
 赤子の命はとりあえず、保証されたらしい。
「では、穂高はここに置かせて頂きます。大帝のお心遣い、感謝申し上げます」
 そういった青年はにこりともせず、深々と頭を下げた。
 感情を失ったかのような端整な顔立ちは、能面のようにも見えた。
「帝国にとって、役立つ者になればよい。ならなければ、殺せ。お前が今までしてきたようにな。七龍騎士の一人――蒼の審問官・正識(あおのもんしんかん・せしる)よ」
「は……」
 若き瑞穂藩藩主、蒼の審問官と呼ばれた男は顔を上げる。
 彼は長い間エリュシオンで暮らしており、瑞穂の家督嫁いでまだ数年であった。
「ところで、マホロバはどうなったのだ。お前が手に入れるのはいつだ」
「我が藩のことでご心配をおかけしましたか。いえ……極小の島国のことで、大帝のお手を煩わせることはありません。マホロバへの龍騎師団の出兵をお認めくだされば、それで十分です」
 アスコルドの眼がぎょろりと動く。
「これから勝手な振る舞いをした瑞穂家臣の処分と、藩内の強化を行います。そのあとで、マホロバ幕府を潰せばよいでしょう。きけば、扶桑の噴花は失敗したとか。わざわざ手を下さなくとも、そう長くは保たないでしょうが」
 正識は、七龍騎士を示す豪奢な布衣を翻した。
「当初の予定とは変わりましたが、私が清浄して参ります」

卍卍卍


「都が……扶桑が……泣いている」
 シャンバラ教導団天 黒龍(てぃえん・へいろん)は、パートナーの黄泉耶 大姫(よみや・おおひめ)から、マホロバで戦があるときいてやってきた。
「妾は美しいマホロバを守りたいだけなのじゃ」
 大姫は悔し涙を浮かべながら都を歩く。
 彼女たちが聞いていたのは、秋には金色の稲穂を付け、緑の山々が連なる美しい国だということだった。
 しかし、そこで見たものは、焼けた街と扶桑が枯れ行くという希望を失った現実だった。
 途中、親と離れた子を見つけ、保護していた。
 子をパラミタ虎の背にのせ、町中を歩く。
「……何も手掛かりが無ければ、このままマホロバの大半が滅びるだけなのだ…何かあるはず…!」
 黒龍は、扶桑の木を探索して、扶桑の『死』の進行を少しでも遅らせられる手掛かりが無いか調べようとしていた。
 ふと、目の前を一人の男が通った。
「私ができることは何か……扶桑の滅びを食い止める手立てをみつけることが、使命というのか……」
 波羅密多実業高等学校ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は扶桑の都を彷徨っていた。
「扶桑が枯れることで、鬼も抑制もなくなり、力もなくなり……何が残されるというのか。死屍累々しかないのであれば……もし、滅びを求める存在であるなら、たとえ国家神としても根本から断たなければならないだろう」
 ウィングは立ち入り禁止にされている柵を乗り越えて、扶桑の木の前に立っていた。
 黒龍たちもそれに続く。
「おまえも、その答えを探しているのか?」
 黒龍に声をかけられ、ウィングが驚いたような顔をしたが、すぐに目を伏せた。
「ああ、戦争で国家神という存在と古代種が滅びた。なぜ、それぞれの国には、国家神という存在が必要なのだろうか。それには、過去を知ることが手がかりになるのではないだろうか?」
 ウィングはうずくまって、手で土を掘り起こす。
 深く、深く――過去を掘り起こすように。
 彼女たちはしばらくそれを見つめていた。
 どれほど深く掘ったのか。
 ナラカまで続くのか。
 何故、そうしたのか。
 彼はただ迷信を確かめてみただけだった。
 それなのに、彼は見つけてしまった。
 もう一人の扶桑を……。
 眠るように、静かに。
 彼女は死んでもなお祈り続けていた。
「桜の下に埋められた死体……か。これはあまりにも出来過ぎじゃ……ないですか」
 数千年前に扶桑に己を捧げ、天子として一つになっていた少女が、そこに埋まっていた。

卍卍卍


 マホロバ――
 小さな美しき島国。
 そこで生きる人々の物語はまだ始まったばかりだった。
 龍の黒い背が、天空にはためいていた。



 マホロバ城では、新しい将軍の就任式が行われていた。。
 次の将軍の名は白之丞(はくのじょう)から、鬼城 白継(きじょう・しろつぐ)となった。

「桜……きれいだ」
 前将軍鬼城 貞継(きじょう・さだつぐ)は、何もない空を見上げて呟いていた。
 彼の目には何も映ってはいない。
 ただ風が、彼の黒髪を揺らしているだけだった――


担当マスターより

▼担当マスター

かの

▼マスターコメント

 こんにちは「かの」です。
 どのアクションも最終回に相応しく、素晴らしく、どう採用するか七転八倒の苦しみでした。
 いろいろな条件と、皆さんのアクションの積み重ねの結果、このようになりましたが、どのエンディングがベストであったかは……わかりません。
 答えはそれぞれ皆さんの中にあるように思います。
 シャンバラでもない極地ありながら、マホロバのことを真剣に考えて、行動してくださったことを心より感謝いたします。
 マホロバの物語はこれからも続いていくことになりますが、またお目にかかる機会がございましたらよろしくお願いいたします。
 またご参加頂けることを心よりお待ちしています。
 ありがとうございました!


※次回キャンペーンシナリオは年明け以降を予定しています。
詳細が決まりましたら、マスターページでご報告します。
※扶桑はこうしている間にも桜木に取り込まれている三人の巫女(SFL0000661 木花 開耶)、(SNL9998864 封印の巫女 白花)、(SFL0003468 リース・バーロット)の生命を吸って生きながらえています。
上記LCは、次回作のシナリオでは扶桑の木からのスタートとなります。
他のシナリオにはご自由に参加されて結構です。
※アクション結果により『天鬼神の血』のリスクが解消されなかったため、托卵を受けたキャラクターの身体的ペナルティは継続しています。
こちらも、私の担当する今作と次作シナリオ限定で、他のシナリオに参加される場合は、とくに制限等はございません。

 貞継と交わりを持った女性キャラクターは托卵されたか否か、出産するか否かを次回作アクションに記入してください。
 ゲーム時間内において約一ヶ月後に出産となります。また、托卵者は捧げる身体の一部を指定してください。
 托卵による出産は、このシナリオのおいてのみ身体的ペナルティを負います。
※これらは、特に指定がなかったときは、マスターの方で判定します。
※ペナルティはシステム上キャラクターデータには反映されてませんが、このシナリオに参加される方は私の方でチェックを入れてます。
※托卵者は所属が葦原明倫館生に限ります。その他の学校生は寵愛のみの対象となります。
※(追加)托卵以外の普通の妊娠・出産も可能です。その場合『天鬼神の血』によるリスクや『力』がない代わりに、将軍継承権もありません。システムの関係で年齢設定などの問題はありますが、LC登録は可能です。
※(追加)将軍継承権のある子供は現時点ではNPC扱いとなっているため、今のところLC登録はできません。ご了承ください。



【NPC一覧】
鬼城貞継(きじょうさだつぐ)……マホロバ将軍
房姫(ふさひめ)……葦原藩姫
睦姫(ちかひめ)……瑞穂藩姫

ハイナ・ウィルソン……葦原明倫館総奉行(=校長)。房姫のパートナー
ティファニー……葦原葦原明倫館・分校長 大奥入り
楠山……大老
御糸……大奥総取締役

白之丞(はくのじょう)……貞継と(SFM0033439) 樹龍院 白姫の子。将軍名:白継(しろつぐ)
穂高(ほだか)……貞継と(SFM0034290) ファトラ・シャクティモーネの子
明継(あきつぐ)……貞継と(SFM0015871)葛葉 明の子
貞嗣(さだつぐ)……貞継と(SFM0002869)秋葉 つかさの子
(出産前につき名前未決定)……貞継と(SFM0016822)度会 鈴鹿の子
雪千架(ゆきちか)……貞継と睦姫の子


日数谷現示(ひかずやげんじ)……瑞穂藩士
瑞穂弘道館分校……葦原明倫館分校と同じで、マホロバ内作られた瑞穂藩分校

漆刃羅シオメン(うるしばらしおめん)……エリュシオン帰りの龍騎士

蒼の審問官・正識(あおのもんしんかん・せしる)……七龍騎士の一人。瑞穂藩主

【付録】
●大奥内部構造
マホロバ城……表、中奥、大奥の三つの空間に分かれる。
表は職務など行う公的な場所、中奥は将軍の居住空間、大奥は将軍に仕える女性たちの居住空間
根の口……中奥との通用門
花の実……将軍が大奥で過ごす場所
繭の間……寵愛を望む女官の住まい
広敷……大奥の入口部分で、警備・事務の男性役人の詰所

緑水の間……房姫の部屋
紫光の間……睦姫の部屋

●大奥の身分
大奥取締役(おおおくとりしまりやく)……大奥を取り仕切る女官の最高権力者
御花実(おはなみ)……将軍や姫の世話役。大奥取締役から選ばれた娘たち。将軍はこの中から手をつける。手付けとなったのもは他の女官から嫉妬や皮肉から御花実様と呼ばれる
御繭(おまゆ)……御膳の用意や献上品の管理、対面所の掃除などを担当する。ここから御花実様になる者もいる
御根口(おねくち)……大奥の出入り口である錠の管理を担当

●大奥の男性
役人……警護や事務で広敷にいるが中には入れない(老中や上級官吏は入れる)
警護……大奥周辺や庭を警護するが中には入れない
医者……奥医師として大奥に入って診察を行う
雑用係……上級女官に雇われた使用人。勝手口までで奥には入れない
その他、上級女官の親類や九歳以下の男児は特別に許される

●表、中奥
御従人……将軍の警護など行う親衛隊

●東光大慈院……マホロバ城から東に少し離れた将軍家の菩提寺。療養などにも使用される