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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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第三章 龍騎士シオメンの襲撃4

「将軍継嗣を待っていても、何年待たされるかわからん。
「『天鬼神の力』は、血を引いたものただ一人生き残れば、それで確定する。そして、この血なくして、マホロバ統治はありえない。ならば、そのただ一人を作り上げればよい。簡単なことだ」
 漆刃羅 シオメン(うるしばら・しおめん)は、マホロバ城の上空で大奥を眺めていた。
「情報では、大奥に居る子は二人。そして、東光大慈院に一人。他にまだ生まれていないものもいる。御花実も含めて、全て排除してしまうか」
 シオメンは槍を片手に特攻を開始した。
「建物ごと吹き飛ばしてやる!」
 大奥の屋根が、轟音とともに破壊されていく。

卍卍卍


「……大奥が!」
 逃げる途中で、房姫は思わず叫んでいた。
「房姫様、振り返ってはダメ。このまま一気に、東光大寺院まで逃げて!」
東光大慈院では、大奥から逃れた者の受け入れを行っていた。
{SFM0017273#篠宮  悠}の実姉、百合園女学院篠宮 真奈(しのみや・まな)が中心となって、東光大慈院へ先導している。
「折角、大奥から逃れても、受け入れ先がないんじゃしょうがないわ」
 真奈はちゃっちゃと仕事をこなしている。
 彼女はいざとなれば、自分が出ていって戦う気でいた。
「また、あの子ったら勇み足を……まあ、それだけの威勢があれば、多少の敵を追い払うことはできるでしょう」
 英霊モリガン・バイヴ・カハ(もりがん・まいぶかは)は真奈を補佐している。
 モリガンこそ表には出さないが、戦闘となれば自らその場に身を置くことを彼女自身が良くわかっている。
「できれば、穏便に済ませられるといいんですけどね……」
「院内のほうも騒がしくなってきたみたい、まあ、確かにいきなりに大勢が避難してきちゃあね」
 魔道書著者不明 エリン来寇の書(ちょしゃふめい・えりんらいこうのしょ)が、屋根の上から状況をうかがっていた。
 糸目になりながら耳をふさいでいる。
「それにしても……あーうるさい。私も護衛に回ろうかしら」
 エリン来寇の書が屋根から飛び降りたのと同時に、衝撃が彼女を遅い、体重の軽い彼女は飛ばされた。
「エリン!」
 真奈が気付き駆け寄ってくる。エリンを抱き起こした。
「私は大丈夫。それより……」と、エリン。
 彼女たちは上空を見上げていた。
 モリガンが唇を噛む。
「殿方の……時代を動かす果報を寝て待つ……という訳にもいかないようですね」
「ふむ、この程度の護衛とは。マホロバの幕府はいよいよ人材不足と見える」
 シオメンは眼下を見下ろしていた。
 右往左往している人々の姿がある。
「誰が誰と一々、把握はできない。死んでしまったものは、そういう運命だったということだ」
 シオメンは再び、槍を構えて衝撃波を打つ。

卍卍卍


「御花実様……大丈夫ですかぁ。とりあえず、お茶でも飲んで落ち着いてくださいです〜」
 魔鎧サージュ・ソルセルリー(さーじゅ・そるせるりー)は、秋葉 つかさ(あきば・つかさ)と共にいた。
 つかさは乳飲み子を抱えている。
 貞継との間にできた子だ。
「龍騎士はそのお子さんを狙ってるです〜。注意しなきゃです。一人でお外を出歩いたらダメですよお」
「はい。牙竜様の所から『八咫烏』が来ました。私達の子供が狙われるようだ、と……」
 つかさは事前にそのことを伝えられていたとはいえ、実際にそのような目にあうと、不安が募る。
「貞継様も居られない今、あの方に助けを求めるべきなのでしょうか。きいてくださるでしょうか……」
「それ誰なんですか〜?」
「……アルコリア様に助けを求めましょう……」
つかさが戸口に立つと、控えていた『八咫烏』の忍者がどこからともなく現れた。
「あの方にお伝えください。龍騎士から貞継様のお子をお救いくださいと」
 忍者は再び、どこからともなく去っていく。


「……というわけですよ。人肌脱いで欲しいんだけどなあ」
 蒼空学園八神 誠一(やがみ・せいいち)は瑞穂藩側に付いていた人物であったが、彼はこの度、瑞穂藩の参謀として、百合園女学院牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)たちに傭兵としての依頼していた。
誠一のパートナーである強化人間シャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)が龍騎士暗殺計画について説明する。
「龍騎士は漆刃羅シオメンという名で、男。マホロバ城で襲撃を行い、被害が出た模様。その後、東光大寺院へ向かっている。どうやら将軍家の子供と御花実を狙っているらしい。つまり――このヤバイ野郎を早急に始末してくれてことだ」
「……了解しました。殺すだけでいいんですね」
「ん? 他に何かあるか」
「別に……」
 シャロンの乱暴な物言いにも、アルコリアは嬉しそうだ。
 どうやらこのやり取りも含めて楽しんでいるらしい。
「まさか、シオメンも瑞穂側から命を狙われるとは思ってもないでしょうけどねえ。それとなく日数谷 現示(ひかずや・げんじ)にも伝えておきましたけどね、どうも戦前でそれどころじゃないといったようで。僕に任せるってね。まあ、それで好きにやらせてもらいますよ」
 誠一はのんびりした口調で言っているが、内容は暗殺だ。
 彼は、シオメンはマホロバにとって邪魔であると考えていた。
「帝国がマホロバ乗っ取りを企むのは、危険極まりないですからね。シオメンが、というより、帝国の龍騎士がやっかいなんですよ。瑞穂にとってみれば、目の上のたんこぶです。彼らができないというなら、ボクたちでとってあげないと。後々、瑞穂と幕府を結ぶ障害になりますからねえ」
「瑞穂と幕府を……? そんなことを考えてる人が瑞穂にいたんですね。マホロバのこと、私はそれほど詳しくは知りませんけど……ね」
 アルコリアは冷たい視線を光らせる。
「私は依頼されただけ、それを実行するだけ。さあ、参りましょうか……ふふ」
アルコリアは快諾し、機昌姫シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)、魔道書ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)、魔鎧ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)を連れて、シオメンの姿を追った。
 彼女たちを見送りながら、誠一は呟く。
「ここまでお膳だてしたんだ。後は丁と出るか、半と出るか……?」