校長室
薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)
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第3章 終了テストで試されたのは 龍騎士達を見送った後も、変わらず合宿は続けられていた。 大きな出来事があり、世界情勢に大きな変化があったけれど。 この場だけは、変わりなく、ゆるやかに時が流れていた。 契約者達は、学園や立場に必要以上に拘ることなく、助け合って共同生活を送っている。 そんな合宿も、そろそろ終わりを迎えようとしていた。 「さて、これから終了テストを始めるぞ」 ゼスタは受験を希望していた者達を集めて、説明を始めた。 テストが行われることについては数日前から話が出ていた。 しかし日時の説明はなく、今も普通に温泉は生徒達に利用されている。 ゼスタは袋の中から金と銀のコインを取り出して皆に見せる。 「今は男女別の時間になったばかりだな。いいか、この金のコインを男子用の川側に。銀のコインを女子用の山側の温泉に入るよう、俺がここから投げる。テストの内容は、そのコインを俺の元に持ってくることだ」 男子は銀のコイン。女子は金のコインを持ってこなければならない。 「ルールさえ守れば、どんな手段を使ってもいい。コインは1人何枚持ってきてもいいが、減点がなければ1枚で合格だ。また、質問は一切受け付けない。これは皆の身体能力を見るテストってわけじゃないからだ。勿論、優れた身体能力でゲットしてもいいわけだが」 ルールとして、このテストを受けるのは、地球人のみ。 パラミタ人(強化人間を含む)に協力してもらった場合は減点。 他人に骨折などの大怪我をさせたら減点。 この時間帯は、温泉の中にタオルや湯着などの、身体以外のものは一切入れてはいけない。 「投入するコインの数は、見ての通り、テスト参加者の数よりやや少ない。監督として、山側にはリーア・エルレン。川側にはグレイス・マラリィン先生に入ってもらっている。2人とも素っ裸だ」 ゼスタの説明に、おー、とか、えー、など声が上がっていく。 「……というのは、冗談で、監督の2人は湯着を着用している。けど、脱がしてもいいぞ。湯着の中にコインを隠し持ってる可能性もあるからな。寧ろ、湯着の中目かげて俺は投げるぞー。2人とも、胸の谷間とかないから狙い難いけどな〜。いや、リーアチャンはそれも含めて可愛いけどな」 笑いを交えながら一通り説明をした後、位置に付くようにゼスタは指示を出した。 「龍騎士団も西の人達も、ユリアナって子だって、一緒にテスト受ければ良かったんだ」 不満を口にしながら、鬼院 尋人(きいん・ひろと)はこの場で服を脱いでいく。 尋人は精神的にまだ幼く、情勢や難しい話を理解することが出来ずにいた。 せっかく仲間達と合宿に参加したのに、情勢に振り回されて、心から楽しめないことが多かった。 遊ぶために来ていたわけじゃないのはわかってはいたけれど。 積極的に解決に動かなければならないはずのゼスタは、会議で何も発言しなかったというし、護送にも参加をしなかった。アジト突入にも同行していない。 そして、結局ユリアナは教導団に連れていかれてしまったという。 尋人は服を脱ぎ捨てながら、ゼスタを睨み付ける。 生まれつき味覚に異常があるために、彼や皆のようにスイーツの美味しさを想像したり、理解することが出来ないことも、苛立ちの原因だった。 「いいのか、こんなところで脱いで。撮影してるやつもいるぞ?」 「構うものか。授業の一環なんだろ」 そのまま、尋人は下着も脱ぎ捨て、全裸になった。ただし、超感覚を発動しているため、雪豹の耳と長い尻尾が生えており、尻尾で大事なところは隠している。 「よしそれじゃ、スタートだ」 ゼスタが崖に近づいて、コインを温泉へそれぞれ投げ入れた。 「行くぜ!」 同時に、姫宮 和希(ひめみや・かずき)もぱぱぱぱっと服を脱ぎ捨てて、飛び降りるように、温泉に走りこむ。 「女子扱いなら、男湯のコインを拾うなんて、楽勝じゃねぇか!」 和希は見かけも実性別も女なのだが、精神的には男なため、女湯の方が苦手なのだ。 女湯に突撃する男は女子の手厚い歓迎(もしくは誘惑)を受けるだろう。 だけれど、男湯に素っ裸で普通に入れる自分には何の問題もないテストだ。 「俺に運は向いているぜ!!」 「……のぅわーーーー!???」 大声を上げながら、男湯に突入してきた女体に、入浴中の男子が驚きの声を上げる。 「なんだ? あ、もしかしてテスト始まったのか〜。頑張れよ、生徒会長!」 ただ、和希だと気づくと大抵のパラ実生は納得して、声をかけていく。 「任せとけ! 若葉分校のヤツらもよろしくな〜。俺、そっちの分校にも通うことにしたぜー」 裸で手を振った後、和希は湯船にダイビングした。 「ねー、皆もこっちにおいでよ。テスト受けなくていいの?」 朝野 未沙(あさの・みさ)も、すっぽんぽんの全裸の生まれたままの姿で、男性用となっている川側の温泉に乱入してくる。 一人ではさびしいので、山側の少女達に声をかけてみるが、一緒に来てくれる娘はいなかった。 「おおっ、そこにコインあるな!」 ばしゃばしゃと和希がコインの沈んでいそうな方へ移動していく。 確かに体は女の子なのだが、和希行動はやっぱり男で、未沙とわいわい楽しく探索というわけにはいかなそうだった。 「気を取り直して、あたしもコイン探すよー!」 「ガンバレ〜」 口笛や応援の声が未沙に飛ぶ。 視線が集まっていき、既に温泉からあがった者も、再び現れだす。 「よーし、未沙ちゃんの為に一緒に探してやるぜー」 「うわ、そこどいて〜。下が見えないよ」 そうして、わらわら男共が近づいてくるものだから、却って邪魔で仕方がなかった。 もぐってみても、見えるのは彼等の下半身とかあんなのとかそんなのばかりで、肝心の湯底が見えない。 「わわわわ。何故か男の子増えちゃったよ……くしゅっ」 岩陰に隠れていた久世 沙幸(くぜ・さゆき)が小さなくしゃみをした。 だけれど、未沙に夢中な男子達は沙幸の存在に気づきはしなかった。 沙幸は混浴の時間からこちらの川側の温泉に入っておき、裸になってこっそり岩の陰に隠れていたのだ。いつ試験が行われるかわからないので、毎日そんなことを繰り返していた。 (温泉に入ってないのに素っ裸になって様子を見てると……なんか変な気分に……なったりしてない、してないもん) 沙幸は首をぶんぶんと横に振る。 隠形の術と隠れ身で、完璧に隠れていたけれど、寒さはしのげない。 沙幸は可愛らしくもう一度くしゃみをしてしまう。 「ううっ、でも、今チャンスだよね。他の子に視線集まってるし……」 がたがた震えながら、沙幸は岩陰から出て、湯船の端に足を伸ばした。 「やった、ゲットだ!」 和希がコインを掴んでバシャンと飛び出た音にまぎれて、沙幸は湯の中に入って、湯底を探していく。 (むぐ……あった、あったよ……っ) 人の多い場所を避けて探し、金色に光るものを発見する。 急いで手にとると、すぐに湯から上がり、仕切りの木を飛び越えて女性用の山側へと飛び降りた。 「それじゃ、また後でな!」 「おおー、また後でな〜! 裸の付き合いしようぜぇ!」 若葉分校生のブラヌ・ラスダーが、さわやかな笑顔で、和希を見送る。 それから、まだ温泉に残っている未沙に目を向ける。彼女もようやくコインを発見したところだった。 勿論パラ実生達は彼女があがることを阻止するために、コインを踏んで隠す! 「あー! 足どけて、どけてよ〜」 「おおっと、こっちにもあるな、これも隠……いや、堪能してる場合じゃなったぜっ!」 女の子達に目を奪われていたブラヌだが、山側から響いてきた「ブラヌ頑張れー」の声に我に返り、コインを拾い上げた。 「それじゃ、また入りにくるな〜」 そして、更衣室の方へと走っていく。