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リアクション
アジトから回収した魔道書を預かっている隼人は、パートナーのホウ統 士元(ほうとう・しげん)とともに、厳重に昼夜問わず、警戒を払っていた。
勿論、預かっているだけなので自由に出来るわけではなかった。常時、レストの指示で隼人達自身も従龍騎士により監視をされている。
更に、従龍騎士を監視する意味で、契約者達も注意を払っており……身動きの出来ない状態だった。
「もうすぐ分隊がこちらに到着する。魔道書を渡してもらおか」
テントの中の隼人に従龍騎士の低い声が届く。
「こちらが提示した、誓約を守る気がない者には渡すつもりはない」
「我等の物を返却してもらうために、何故貴様個人の誓約を飲まねばならんのだ」
ついに、従龍騎士は強引にテントの中へと入ってきた。
隼人はすぐに、あらかじめ作っておいた脱出口から脱出する。
こちらの魔道書は人型になることはないため、魔道書に対しての警戒は必要なかった。
隼人がユリアナや、魔道書の引渡しを要求してきた者に提示した誓約は以下3点だった。
(1)どんな理由があろうとも、魔道書の力を振るい人を傷つけたりしない(戦いに利用しない)事。
(2)金輪際、盗賊等の犯罪組織に属したり、力を貸したりしない事。
(3)魔道書を他者へ渡す際には、譲渡対象者に(1)と(2)を約束させる事。
その誓約に了承する者は誰もいなかった。
そのため、隼人は無論所有権を主張したりはしなかったが。引渡しは断固拒否し続けていた。
「おおっとこれは渡せない」
士元も本を抱えて、従龍騎士を突破して外へと走り出る。しかし、すぐに腕を掴まれて拘束されてしまう。
「なんだこれは……」
強引に士元の手から本を奪った従龍騎士の顔が険しくなっていく。
それは偽者の魔道書だった。中身は現代のシャンバラの書物だ。
「あれ? もしかして魔道書じゃない? 中の確認、してなかったからなー」
士元はとぼけてみせる。
勿論、これは作っておいた偽者の魔道書だ。
従龍騎士が惑わされているうちに、本物の魔道書を持つ隼人は、ユリアナが軟禁されているテントの方へ向かっていた。
本に呼びかけてもみたのだが、こちらの魔道書が人の姿をとることはやはりなかった。
「残念ですけど……」
途中、合流をした優斗からユリアナが条件を飲まなかったということを知る。
「龍騎士が到着したそうよ。会議を行うから魔道書をこちらに」
続いて、梅琳が隼人に近づいて手を差し出した。
「条件がある」
隼人は険しい顔つきで、ユリアナと龍騎士に提示した条件をそのまま梅琳に話すが……。
「気持ちは解るけど、その条件を提示する権利はあなたにはないわ。預かっていることを理由に、強引に自分の意見を通そうという、あなたの行動の方が問題よ?」
そして、意見があるのなら皆と同じように、会議に出席をして皆の立場や思いを聞いた上で、理を持って皆を説得しなければならないのだと、梅琳は隼人に話していく。
それはとても難しく、自分にも自分の意見を通すことは恐らくできないだろうと。
どれだけ力を貸してくれる人がいるかわからないけれど、目的を果たすために、自分は出来る限りのことはするつもりだと、梅琳は話す。
「……」
ロイヤルガードで、教導団員の大尉――軍人である彼女達が魔道書を手に入れたのなら、隼人の思いは通らない。
魔道書を持ったまま、隼人は迷っていた。
「渡してもらうぞ!」
「私が持っていくわ」
駆けつけた従龍騎士、そして梅琳が隼人に迫る。
「く……っ」
隼人は魔道書を持ったまま、振り切ろうとする。
条件を飲まないというのなら、どんな立場の者にも渡すつもりはなかった。ユリアナと、もう一度交渉をしてみたいとも思っていた。
「逃しはしない」
従龍騎士が武器を抜いた。
その時。
「っ!?」
隼人の手が、赤く染まった。
何者かが彼の手元を打ち、魔道書を弾いた。
弾かれた魔道書は――呼雪の足元に落ちた。
即座に彼は魔道書を拾い上げる。
隼人はそのまま、従龍騎士に拘束される。
「会議室のテーブルの中央に置いておくか?」
騒ぎを聞きつけ、ゼスタが近づいてきた。
彼の護衛をしていたブルーズは、木陰に目を向けた後……軽く息をつき目を逸らした。
「……そうだな」
呼雪は魔道書を抱えながら、戸惑いを見せる。
呼雪は情勢に振り回されて精神的に酷く疲れていた。
ゼスタと同じく、薔薇の学舎のロイヤルガードのメンバーである彼には、西側からの協力要請も届いていた。
地球勢力が利権を欲しい侭にしている西政府の犬に成り下がる気は更々なかった。
しかし、新たな国家神の擁立がシャンバラの民の望みなら――戴冠式に協力しなければならないかと悩んでもいた。
そしてこのユリアナを取り巻く問題についても。
どの勢力に協力することが、良いのか――。
ユリアナが何処に行ったら本当の意味で幸せなのかという意味で、迷っていた。答えが出せなかった。
「会議室までは、俺が運ぼう」
呼雪はじっとこちらを……魔道書を見ているユリアナに軽く目を向けた後、合宿所へと歩き始める。
「出て来い。こそこそやりとりする必要はないだろう」
合宿所前に到着をしたレストの下に、小人が手紙を運んできた。
レストは手紙を拾い上げてざっと目を通した後、そう言ったのだった。
少しして、姿を現したのは諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)と沖田 総司(おきた・そうじ)だった。
「お返事を聞かせていただけますか?」
「状況からして実現するとは思えない。どのような方法をとるつもりなのかを、先に教えてもうらおうか」
孔明にレストはそう答えた。
孔明は優斗に協力をし、ユリアナが意中の人――恐らく、このレストという男性――と望む形で再会できるよう、取り計らおうとしていた。
「彼女から注意が逸れるような混乱を起こします」
「彼女のことは私がヴァイシャリーに連れて行くのだから、それでいいのでは?」
「会議でそのご主張が通るとは限りません」
「しかし、そのようなことをしたのなら、お前は勿論、私もユリアナの立場も悪くなるだろう? だから、こちらに任せてくれ」
「……わかりました」
少し考えた後、孔明は首を縦に振った。
「見守らせていただきます」
総司は注意深くレストを見ていた。
ユリアナの大切な人はやはりレストであり、彼も彼女のことを知っている。
レストの反応から、孔明と総司はそう確信したのだった。
そして、彼と別れて優斗の元に戻っていく。
○ ○ ○
「この写真を見る限り、レスト・シフェウナって男はどう見ても、あのレスト・フレグアムって男です……」
合宿所の中で、
ルア・イルプラッセル(るあ・いるぷらっせる)は写真と外にいる龍騎士の姿を交互に眺めている。
「にも関わらず、それを黙りつつ、私たちの前に現れ、平然としていられるなんて、大した役者さんですね」
ルアは写真を
緋桜 ケイ(ひおう・けい)に返す。
「んー、シフェウナって聞いたことがあるんだよな。百合園女学院に潜入していた少女が、確かそんな苗字だったような。いや、同じ苗字の人なんて、ごまんといるけど」
ケイは写真の中の少年を見ながら考え込む。
シフェウナは、そう聞く名ではない。
レスト・フレグアムがイルミンスールに潜入していたレスト・シフェウナと同一人物であるとしたら――例えば、2人は兄妹などということはないだろうか。
「うーん、本人に聞いてた確かめてみたいところだよな」
「連絡する手段があれば、生徒会に聞いてみたいんだけど……」
ルプス・アウレリア(るぷす・あうれりあ)は携帯電話をみて、ため息をつく。
やはりここにはシャンバラの電波は届いておらず、地球の電波が届いたとしても、ヴァイシャリーに地球の電波は届かないため、連絡の手段がないのだ。
「ま、あのチャラ男――ゼスタ・レイランを通して連絡は入れてあるから、そのうち返事がくるでしょう」
合宿所の中へ、龍騎士団が入ってくる。
ケイ達は会議室の出口の方で待機をし、会議が終わった後、レストに問いかけてみるつもりだった。
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