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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~

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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~
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リアクション

 
 腰を下ろした三名が互いに向き合い、訓練の反省会を開く。
「二人とも今日は、近接戦を得意とする相手に随分苦戦してたねぇ。
 これに対する対処法は、単純なものなら武術でもなんでもいいから近接戦闘を学ぶことだねぇ。喰い付いてくる相手に距離をとれれば及第点だろうさ」
「武術……うーん、リンネちゃん運動はさっぱりなんだよ〜」
 リンネがあはは、と笑う。……決して胸が邪魔とかそういう事ではなく、単に運動音痴なのである。
「これは手段の一つ。もう一つは、魔法使いらしく魔法で何とかする。
 別に零距離でぶっ放せとは言わんさ。というか武器持った相手に零距離で打てるような近接戦闘の腕前なら、十分強者に分類されるし……っと、話がずれた。
 簡単に言ってみると、相手の足場を崩すとかして離れるか、範囲魔法を自分の周囲に展開して相手に離れてもらう、とかねぇ?」
「なるほど……それなら、氷術が適しているかもしれませんね。一旦展開してしまえば、長い間近付けさせなくすることも出来ます」
 五属性の中では氷結属性が得意らしいフィリップが、少しだけ自信を回復させた表情で答える。
「……とまぁ、こんな感じかねぇ。
 いろんな魔法を撃てるならそれも強みだけども、一つの魔法でいろんなことが出来れば、結果は一緒だろうさ。
 まぁ、どんな強さを求めるのかは個人の自由なんだし、後は自分で決めなされ」
 ある意味で言いたい放題言って、切が満足したとばかりにその場を立ち去る。
「ともかく、近接戦闘を得意とする相手に対する対策は、急務かもしれませんね。
 エリュシオンの龍騎士は、剣の腕が立つばかりでなく、ドラゴンに乗ってくることもあるといいますから」
 フィリップの言う通り、魔法使いにとって近接戦闘は、ある意味鬼門である。しかも問題だと分かったところで、一般人レベルでしかない近接戦闘を学ぶ機会にそうそう恵まれているわけではない。
 
「話は聞かせてもらったぜヒャッハー!」
 
 背後から聞こえてきた声に、リンネとフィリップが振り返ると、そこにはマイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)遠野 歌菜(とおの・かな)の姿があった。
「武術ってのは、実際に身体を動かして覚えるモンだぜヒャッハー!
 というわけで二人も『イルミンスール武術部』に入部しないかヒャッハー!
 イルミンスールにも武闘派がいることを、イルミンスール中、いや、パラミタ中に知らしめるのだヒャッハー!!」
「流石部長! 私も及ばずながら力になります!」
 パラ実スピリットが身についているらしいマイトに感銘を受けた様子で佇む歌菜を、月崎 羽純(つきざき・はすみ)が少し離れた所からやれやれといった様子で見守っていた。
「歌菜、無茶だけはするな。……ん、誰か来たようだ」
 羽純の声に一行が振り向くと、修練場に二つの人影が近付いてくるのが見えた。
「あっ、皆さん、こんにちはですー。皆さんこれから訓練しますか? もしするなら、私も混ぜて欲しいですー」(今日は朝からミリアさんの料理を食べて、涼介さんのチョコの味見をして、摂取カロリーが心配ですからね……)
「ふむ、精進しとるようじゃの。どれ、たまには私が相手を務めてやろう(うっかりパウンドケーキを全部食ってしもうた……ここでカロリーを消費せねば、太ってしまう……それだけは嫌じゃ)
 それぞれ自分の内にだけ動機を秘め、豊美ちゃんとアーデルハイトが訓練に加わる旨を告げる。しかし、メンバーはこれだけではなかった。
「大ババ様が来たって聞いて急いで来てみたけど、本当だった! 大ババ様、ボクと手加減抜きの魔法勝負、お願いします!」
 それまで訓練を続けていたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)すらも置いてくる勢いでやって来て、アーデルハイトに真剣勝負を申し込む。
「おやおや、これは面白そうだ。
 こういう場こそ、俺様の必殺技を習得するに相応しい場……俺様も混ぜてもらおうか」
 なにやら企んでいるような表情を浮かべて、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)も訓練に混ざる旨を申し出る。
「ほう、皆、熱心でよいことじゃ。
 そうじゃのう……ロイヤルガードに任命したカレンの腕前は、私直々に見てみたい。しかし、武術部とやらの働き振りも見てみたい。確かに、魔法使いばかりを相手にするわけではないからの」
 しばし考え、アーデルハイトが提案を口にする。リンネ・フィリップ・ゲドーの魔法使い組にマイトが稽古をつける要領で相手をし、十分以上の働きを見せれば、正式な部活として認可するとのことであった。
「豊美ちゃん、ぜひ私と手合わせしてくださいっ!
 難しいだろうけど、何とか豊美ちゃんをあっと言わせたいです!」
「いいですよー。魔法少女になられた方でしたら、実力も申し分ないと思いますー。
 私も全力でカロリー消費……こほんっ、全力でお相手できますー」
 横では、歌菜が豊美ちゃんに手合わせを申し込み、豊美ちゃんが快諾する。結果、
 
 マイトVSリンネ・フィリップ・ゲドー
 アーデルハイトVSカレン
 豊美ちゃんVS歌菜
 
 の三組の模擬戦が決定した――。
 
 
「歌菜さんは、どのように戦われますかー? 実は、私も近接戦闘を得意とされる方とお相手してみたかったので、出来ればそちらの方がいいのですけどー……」
「あの、いいんですか? だったら私、本気で行きますよ!」
 言って歌菜が、両手にそれぞれ槍を携え、構えを取る。
「魔法を撃たれる前に……潰させていただきますっ!」
 確か豊美ちゃんの得意魔法は、直線放射型。ならば、懐に飛び込んでしまえば――。その思いで、歌菜が地を蹴り、『ヒノ』を構えた豊美ちゃんに突っ込んでいく。
「私もこの前、新しい魔法を覚えたんですよー。『陽乃光鋭射』、行きまーす」
 その、歌菜を前にして、豊美ちゃんが慌てた様子もなく『ヒノ』の先端に光を集め、直後、球状の光弾が複数生成され、それぞれ独立して歌菜を襲う。
「全方位放射型!? ……でも、一つ一つ見極めていけば……!」
 一瞬驚かされる歌菜だが、動じることなく二本の槍も駆使して、光弾を弾く、逸らす、避ける。
「わ、凄いですー。じゃあ二回目、行きますよー」
 攻撃を防がれたことを、それでもどこか嬉しそうに、豊美ちゃんが次の光弾を生成して発射する。
「豊美ちゃん、二度同じ手は通じませんよ!
 ……私の全力の力、今日こそ豊美ちゃんに届け!」
 合計八つ生成された光弾の、二つを槍で貫くように打ち砕き、二つを避け、
「はああぁぁぁ!」
 残る四つを、それぞれ手にした槍の一振りで破砕させる。残すは、魔法を撃ち切って隙を晒す豊美ちゃんのみ。
 足を踏み出し、槍の一撃を届かせる――その思いは、直後覆されることになる。
「戻って来てくださいー」
「えっ? ……きゃっ!?」
 背中を押される衝撃に、歌菜が悲鳴をあげる。豊美ちゃんが放ち、歌菜が先程避けた光弾がターンして戻って来たのだ。
「いたっ!!」
 体勢を崩した歌菜の頭部から、残す一つの光弾が直撃する。地面に顔をつける無様な真似は、歌菜の驚異的な身体能力で免れたものの、起き上がろうとした歌菜の視界に、『ヒノ』の先端が突き付けられる。
「私の勝ち、ですねー」
「……はぁ、今日こそ届けられるって思ったのになぁ」
 
 
「ヒャッハー! イルミンスール武術を見せてやるぜ!」
 地を蹴り、マイトがリンネとフィリップに襲いかかる。手足には相手が怪我をしないようにと柔らかい甲をつけての攻撃だが、それでも振り抜かれる拳や脚は鋭く、普通に当たっただけで何らかの衝撃を負いそうである。
「フィリップくん、さっき教わったことを実践する時だよ!」
「そ、そうですね。……氷塊よ、我の下に集え!
 フィリップが自らの周囲に氷塊を呼び出し、うちいくつかはマイトへと飛び荒ぶ。
「この程度の攻撃で、俺を止められると思うなぁ!」
 それらを自らの身体で打ち砕いていくマイト。しかしそれに手間を割くため、どうしても隙が生じる。
「ファイア・イクス・アロー!」
 そこを、リンネの高速炎熱魔法が射抜かんとする。直撃を免れたのは、ひとえにマイトの類稀な運動神経に他ならないだろう。
 
「ひゃっはっは!! 俺様の必殺技の実験台になりやがれ〜!」
 
 しかし、リンネ・フィリップ組優勢で進められた模擬戦は、ゲドーの介入によって大きく混乱させられる。
 放たれた光弾がリンネを吹き飛ばし、助けに入ろうとしたフィリップを、闇が包み込む。
「し、視界がきかない……!」
 懸命に相手の位置を探ろうとするフィリップだが、ゲドーの性格を反映するように、闇は深くしつこく纏わり付く。
「これでトドメだぁ〜! リンネちゃんに出来て、俺様に出来ないはずがない〜!」
 ゲドーが、右手に光弾を、左手に闇を生み出し、それを『ファイア・イクスプロージョン』の要領で一つに合わせる。
「くらえ、カオス・イクスプロ――ぎゃほーーー!!」
 ……ところまではよかったが、やはり相反する属性を無理やりくっつけようとしたのは無理があったのか、生じた反動でゲドーが宙を舞う。
「ぬぅ……組み合わせるところまではいったのだ、後は発動させるだけ――ん?」
 埃だらけになりながら起き上がろうとしたゲドーは、自分を見下ろす影に気付いて視線を上げる。
「仲間割れはよくねぇなあ……テメェには正しい力の使い方をその身体に刻みこんでやるぜぇ!」
「な、なにをする、気安く俺様に触るんじゃねぇ――」
 
「俺の拳が熱く激って燃ゆる!
 敵を燃やせと揺らめき燃える!
 俺の魂が只管燃える! ヒャッハー!」

「ぎゃほーーー!!」
 
 マイトの一撃を食らったゲドーが、修練場の外へと吹き飛んでいく――。
 
 
「ほれほれ、ちょこまかと逃げ回っているだけでは私には勝てぬぞ?」
「た、確かにそうですけど、これは逃げざるを得ないよ!!」
 
 そして、アーデルハイトとカレンの模擬戦は、現時点では一方的な展開になっていた。箒で逃げ回るカレンを、頭ほどの大きさの炎弾が飛び荒び、地上空中構わず爆砕する。リンネの『ファイア・イクスプロージョン』のやや小さい版を、連射している感じである。魔法を放つアーデルハイトは一歩も動かない。まさに固定砲台の如く、途切れることなく炎弾を撃ち続ける。
(こうしてカロリーを消化せねば、私のこれまでの苦労が……! させぬ、それだけはさせぬぞ!)
 
(むぅ……これはカレン一人では厳しかろう。我がここに参戦すれば、遠距離からの狙撃で注意をそらすことが出来ようが……これほどの弾幕を掻い潜り、詠唱に必要な時間と空間を確保するなど……)
 二人の戦いを応援していたジュレールは、カレン不利を悟りつつも、もし自分がこの場に入ったとしたらどのような動きをするか、頭の中でイメージを始めていた。今は同じ学校の先達であるアーデルハイトが相手故、全力相手とはいいつつも多少の手加減は存在していよう、しかしもしエリュシオンの熟練の魔術師と対峙でもすれば、その限りではない。
 倒すか倒されるかの真剣勝負に、ミスは許されない。その覚悟を胸に、ジュレールが何度もイメージトレーニングを繰り返す。
 
(……でも確かに、逃げ回っているだけでは、大ババ様に勝てない! 負けることを恐れちゃダメなんだ!
 失敗を恐れてやらないよりは、やった方が絶対にいい!)
 覚悟を決めたカレンが、機動力をシールドと詠唱に振り分ける。
(カレンも、覚悟を決めたようじゃの。どれ、おまえの成果、私に見せてみよ)
 表情は生徒の成長を見守る母のようでありながら、アーデルハイトは杖を振りかざし、カレンの未来軌道へ炎弾を撃ち込む。機動力の落ちた、かつ単調な軌道ではアーデルハイトが相手では、すぐに見切られてしまう。
「っ!!」
 一発はなんとかシールドで防いだ、しかし二発目はない。
(これで、少しでも大ババ様に隙ができなければ、ボクはまだまだ実力不足……!)
 詠唱を終えたカレンの、前方を氷の嵐が包み込む。今出せる全力を注ぎ込んだ魔法は、果たしてアーデルハイトに届くだろうか――。
(ほう、これはなかなか……精進しとるようじゃの)
 心の中で感心するアーデルハイトが、攻撃の手を緩め、シールド維持に意識を傾注する。
(……届い、た!? 攻撃の手が緩まった……行くなら今しかない!)
 箒の上で、カレンが右手に炎術で生み出した炎を、左手に氷術で生み出した氷塊を生じさせ、それらを一つに合わせる。
 
……燃え盛る炎と絶対零度の冷気よ。
 今ここに手を取り合い、
 立ちはだかる敵を貫け!

 ファイス・イクス・ランス!!
 
 鋭く伸びた、氷のような炎を前方に生じさせ、カレンが箒に乗ったままそれをアーデルハイトへぶつける。
 シールド展開の魔力とそれとがぶつかり合い、大きな衝撃を生じさせる――。