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リアクション
第4章 支配者の憂鬱【2】
「……では、パルメーラさんのために戦うつもりはないと?」
コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)が言った。
あれからしばらく経ち、ガルーダを追跡していた生徒たちも遅れて広間に集まった。
「こうしてお会いするのは初めてですね。コトノハと言います」
「……ルオシンと言う。我々は戦いに来たわけではない。話を聞いてほしい」
身重の彼女の手を引きながら、ルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)も挨拶をする。
「駅での様子をこっそり見ていましたが、パルメーラさんを気に入らない様子でしたね」
「当たり前だ。復活の借りを返すため 前回は奴に力を貸したが、奴らの領土拡大の手助けなどする理由がない」
「それで単独行動を……?」
コトノハは辺りを見回す。
「あの、信頼の置ける仲間はいらっしゃらないのですか?」
「奴隷都市での地位を失ったオレが兵を集まられると思うか?」
「あれ? でも……【羅刹兄弟】さんとかいませんでしたっけ?」
「知らん。まだ奴隷都市にいるんだろう。まあ、ここにいたところで大して役に立つとは思えんがな……」
「そうなのですか……」
「なんだ? 手下に見放されたオレを笑いに来たのか?」
向けられた鋭い視線に、ルオシンはコトノハを庇う。
「我からもひとつ訊きたい。何故、エリュシオンや混乱中のカナンをではなく、ツァンダを狙う?」
「む?」
「パルメーラ達は大帝を恐れているのか?」
「……大帝?」
その名に聞き覚えがないようだ。
「貴様の言うことはよくわからん……、だが、奴らにすれば攻撃目標はどこでもいいのだろう。全土を手中におさめる計画なら、どこから侵略をはじめても同じことだ。邪魔な勢力がいたとしても、あとから幾らでも滅ぼすことができる」
「なるほど……、あれほどの兵器を持っていればそう考えてもおかしくないか……」
「ところで、ガルーダ様」
眼鏡を怪しく光らせ、横から湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は言った。
「先ほど話にのぼりましたが、我々に協力して頂けるのでしょうか?」
「…………」
「あなたは勝利の塔と建設者を快く思ってないと言いました。僕としてもアレには壊れてもらいたいんです」
皆の手前、御神楽環菜の才能が二度と戻らないようにね、と言う言葉は飲み込んだ。
……おかしい。
計画通り! のはずなんだが……なんで力を失って僕に泣きついて許しを請いに来ないんだ!
おのれ御神楽環菜!!
かくなる上はもっと弱みを……!
ガルーダに一つ仕掛けてみるか。奴はルミーナの体をもっている。うまくすれば……。
そんなことを思ったのが、数時間前のこと。
環菜への感情が紆余曲折の果て、塩基配列のごとくひねくれてしまった凶司なのだ。
きっと彼の心をなんとかするには、最高難度の知恵の輪を解く以上の根気が必要になるに違いない。
「……貴様とは会ったことがあったな?」
「ええ、先日はどうも。うちの姉妹を随分遊んでくれまして。アレの飼い主の湯上です」
パートナーが……だが、ガルーダとは一度刃を交えた間だった。
「話を戻しますが、無論、協力して頂けるなら報酬はお支払いします」
そう言って、パートナーのエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)の腕を掴んだ。
「え?」
「報酬は……正体のバレていない新しい体、でどうですか?」
「なっ、ふざけないでよ!?」
「そういうわけだ、エクス、眠ってくれ」
ジタバタする彼女を完全無視ですかさず当て身。
「う、嘘でしょ……、キョウジ……?」
気絶した彼女を抱えガルーダに問う。
「如何でしょう?」
「……今、その身体に移るメリットがあるとは思えんな。身元不明の肉体を得たからと言ってなんの得がある?」
「ダメですか……」
「やっぱりルミーナさんの身体が気に入ってるんですか?」
コトノハが尋ねた。
「女性の身体は月一回生理が来たり、それに伴う生理痛が大変です。それでも手放さないのは……」
「……そうかもしれんな」
「?」
「オレとて感傷にふける時もある。この数千年探し求めた面影をまだ忘れられずにいるのだからな……」
その言葉の真意を読み取れない。
しかし、そう言ったガルーダの表情は今まで見せたことのない寂しげなものだった。
壁にもたれ、黙って聞いていた風祭 隼人(かざまつり・はやと)は怪訝な顔を浮かべる。
「よくわからないが……、まだルミーナさんを解放する気はないってことか……」
一見冷静に見えるが、ルミーナを想う彼を思えば、心中穏やかではないだろう。
「パルメーラに付く気がないのはわかった。だが、本当に奴と切れてるならルミーナさんを解放してもいいはずだ」
「違うな」
「む?」
「奴と切れたからこそ、この身体を容易く手放せなくなった」
「なぜそうなる? パルメーラと戦うのにルミーナさんの身体が必要と言うことか?」
「戦うのには必要ない。だが、貴様らと交渉するのには必要なものだろう……?」
「なに……」
「実際問題、オレはこの身体にこだわる必要はない。現世に出るならともかく、ナラカにいる分には生身の身体など不要だ。むしろ不都合のほうが多い。パルメーラにとって意味のある身体なら、狙われる危険性のほうが高いからな」
一同を見回す。
「貴様らがオレに同調すると言うなら拒む理由はない。オレも情報を提供しよう」
「具体的にあなたの目的をおしえてもらえますか?」
ホウ統士元(ほうとう・しげん)は尋ねた。
「トリシューラの奪取と塔の停止。奪われた領土の回復。そして、目障りなパルメーラの始末だ」
「奪われた領土とは?」
「言葉通りの意味だ。千年前までこの森はオレの領土だった。ガネーシャに破れるまではな」
「なるほど、この地を取り戻したいと。しかし、ルミーナさんの身体がどう関係するのです?」
「身体を解放した途端、貴様らが裏切るかもしれん。娘の身体は全てが終わるまで預からせてもらう」
「ならば、いつ解放する?」
隼人は指を突きつけた。
「結果がどうあれ、オレに協力するならば最後には解放してやる」
「……信用していいのか?」
「約束を違えるほどオレは堕ちたつもりはない。だが、信じろとは言わない。信用するかどうかは自分で決めろ」
「信用するしかないでしょうね……、どうやらそれがルミーナさんを取り戻す一番の近道のようですから」
ホウ統はそう言って、携帯電話をガルーダに渡した。
「一時的とは言え、仲間になるんです。連絡手段は必要でしょう?」
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