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リアクション
第5章 装甲列車はしる【1】
ゴーストライダーがほろびの森駅を出てから半刻。
ぶ厚い装甲板に包まれた超重量の破壊兵器、装甲列車とうとうが動き出した。
六両編成、各車両の屋根に砲台と銃座、ほろび森防衛の要とも言うべき鋼鉄の怪物である。
いや、ナラカエクスプレス側からして見れば、ほろびの森駅制圧の最重要攻略点と言ったところか。
ゴーストライダーの一団を引き連れ、ゆっくりとそして確実に線路を進む。
「連中一気にケリをつける気だな……」
隠形の術で草むらの中に潜む夜月 鴉(やづき・からす)は小さく舌打ちをする。
「そろそろ対装甲列車の連中も動き出す頃合いか。ここですこしでも数を減らしとくのが得策だな……」
紫色に発光するカットラス型光条兵器『シン・サペリド』を発現。
先手必勝。爆炎波でゴーストライダー達の横っ腹を叩く。
この爆発を合図に、上空で待機していたアルティナ・ヴァンス(あるてぃな・う゛ぁんす)が強襲をかける。
最大船速の小型飛空艇で急降下すると、地面すれすれでバーストダッシュで飛び出した。
「主、ただいま助太刀します!」
細身の身体に似合わぬグレートソードを振りかぶり、爆発に混乱する騎兵隊を薙ぎ倒していく。
その時、装甲列車の先頭車両、その屋根にある円盤状の蓋が開いた。
「なにごとですの!」
頭を出したカーリー・ユーガは、この参上を目に鼻息を荒げる。
「……なーんたる、なーんたる有様! ぼんやりするんじゃなくってよ、とっとと八つ裂きにしなさい!」
「はっ、できるもんならな」
その言葉と同時に、アグリ・アイフェス(あぐり・あいふぇす)が上空から矢を射かける。
鴉の指示で小型飛空艇を滞空させていた彼女は、セフィロトボウを構えコクマーの矢を次々に放った。
鴉とアルティナはその隙に合流し、背中合わせに武器を構え、戦闘態勢を整える。
そして、彼らの奇襲が周辺に潜んでいた仲間の行動をうながした。
「よし! この好機を逃す手はありません、僕たちも行きましょう!」
風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)宮殿用飛行翼を展開し、暗い木の上から装甲列車に向かって飛びおりた。
ナラカの腐敗した風を切り裂きながら列車直上をかすめるように飛ぶ。
火術と氷術を織り交ぜつつ、砲台と銃座に魔法攻撃を仕掛けた。
パートナーの沖田 総司(おきた・そうじ)も栄光の刀を手に飛び出し、戦場を掻き乱すのに一役買う。
「なにをしていますの! とっととその飛んでる奴を撃ち落としなさい!」
顔を真っ赤にしてカーリーは指示を飛ばす。
「あなたがカーリーさんですか。トリニティさんからお話は伺っていますよ」
上空を旋回しながら優斗は言った。
「なんでもとても高飛車で目立ちたがり、その上大変凶暴な性格をされているとか。僕もこの目で見るまで半信半疑でしたが、なるほど、ナラカにも残念な人と言うのはおられるのですね。アガスティアの管理者を解雇されたのも納得です」
「解雇じゃありません! 辞職ですわ、辞職!」
「そう言えば、トリニティさんはこんなこともおっしゃってましたね……」
ゴーストライダーと大立ち回りを繰り広げながら、総司もカーリーを挑発するように言う。
「破壊や征服に美意識を持っている出来れば近づきたくない人物だと。けれども、お世辞にも優雅とは思えませんね。結局は数に任せる物量戦、古典も言いところ、もっと知略を巡らせた戦いに美意識を置いてるのかと思っていました」
「な、なんですって……!」
「残念です。そのヘンなボディスーツみたいな服も残念です」
「ふ、服は関係ないでしょう! わたくしの美意識にケチをつけないで!」
二人の挑発に、カーリーは完全に気を取られている。
ナラカエクスプレスを出る前に、トリニティからカーリーを刺激する文言を聞いておいて良かった。
優斗と総司は目を合わせ頷く。
元より外から装甲列車を破壊できるとは考えていない、はじめからカーリーの注意を逸らすのが目的だった。
内部に潜入し破壊工作を行うのは諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)の役目である。
「あとは私にお任せください……」
塗装迷彩をほどこし、影から影へと渡り歩く。そして、警戒の薄い側面扉から侵入を試みる。
ところが、取っ手に手をかけた途端、爆風に吹き飛ばされた。
草むらに転がった彼は、そのままピクリとも動けなくなった。
泥のように濁る視界、遠のく周囲の音、全身を貫く激痛が致命的なダメージを負ったことを知らせた。
力を振り絞り握ったままの取っ手を見る。
取っ手の裏には、つまり内側部分には、爆薬に繋がっていたと思しき配線があった。
「こ、これはトラッパーで仕掛けられた……」
しかし、孔明の意識はそこで途切れた。
「おやおや、ねずみが一匹、ねずみ取りにかかったようですね」
計画通りとばかりに、闇に魅入られた男東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)は呟いた。
装甲列車の屋根で慇懃無礼に鴉や優斗達にお辞儀をする。紳士的な物腰とは裏腹に底知れぬ何かを感じさせる。
「あ、あなたが罠を……?」
「ええ」
優斗の言葉にためらいなく答える。
「そちら側につこうと言うのですか……一体何のためにです?」
「素晴らしい力ですよね。勝利の塔は」
「?」
「これだけの物を建築出来るパルメーラ様はきっと素晴らしい知識をお持ちなのでしょう。それこそ、私では到底及び付かないような物のね。私は、そんな彼女のお手伝いがしたくなりました。どちらにしろ、シャンバラが傷つけばエリュシオンにとって有利になるのには変わりませんし、ね」
「あなたはエリュシオン側の人間、と言うことですか……」
雄軒はパンと手を鳴らす。
「無駄話はこの辺にしましょう。信用を得るためには相応の仕事をしなければなりません」
「仕事?」
「奈落の軍勢に加えてくださったパルメーラ様に誠意をお見せするのです」
次の瞬間、装甲列車から二つの影が飛び立った。
ひとつは鉄塊を思わせる全身鎧の機晶姫、バルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)である。
機晶姫用フライトユニットで上昇すると、加速ブースターに点火し、上空にいるアグリに攻撃を仕掛ける。
「敵……!?」
迎え撃つため弓を構える。
彼女の目的はあくまで敵を戦闘不能にすること、命までとる気はない。
急所から狙いを外し、ポイズンアローに轟雷閃を纏わせ矢を放つ。
しかし、バルトは龍鱗化で直撃をしのぐと、この程度は些細な傷だ……とばかりにそのまま突っ込んだ。
腕に仕込まれた腕力強化用アーム『ヘビーアームズ』の出力を上げ、さらに金剛力を使う。
「主が為に」
裂天牙を振りかぶり渾身の疾風突きを繰り出す。
「きゃあああ!!」
槍は豆腐のように飛空艇の底部を引き裂き、制御不能となったアグリは森のほうに落ちていった。
バルトはそのまま旋回し、地上にいる鴉とアルティナに狙いを定める。
「下がってください、主!」
急降下の速度すらも味方にした槍の一閃を、アルティナは大剣の腹で受ける。
「くっ……!」
その一撃は稲妻。威力を殺しきれず、彼女は大きく後方に弾き飛ばされた。
「ティナ……! ちっ……デカイ図体のくせに素早いじゃねーか、てめえ」
「……むぅ!」
返す刃で鴉にも襲いかかる……しかしその刹那、彼は超感覚を発揮し、薙ぎ払われた槍を紙一重で避けた。
それからすかさずアルテマトゥーレを放ち巨体を真一文字に斬る。
鎧と龍鱗化した身体をも貫いたのだろう。バルトは動きを鈍らせ、地面に叩き付けられた。
「おまえが強いのはわかったけどよ。あんまり甘く見てると痛い目に合うぜ、デッカイの」
「……忠告など無用」
二人の間に緊迫した空気が流れる。
そして、もうひとつの影ドゥムカ・ウェムカ(どぅむか・うぇむか)とは優斗と総司が戦闘を始めていた。
「あーあ、メンドくせェなァ。でもまぁダンナとバルトの為にも殺るかねェ」
バルトと似た鎧型機晶姫だが、性格は真逆。実直なバルトとは違い、残忍で狡猾な性格をしている。
当てる……と言うより場を掻き乱すのを目的に、機晶キャノンを乱れ撃つ。
「とっととくたばれ。あんまり俺に面倒かけさすんじゃねェ」
「そう言われると、抵抗したくなるのが人の性です」
優斗の魔法攻撃の援護を背に、総司がドゥムカに向かって斬り込む。
「おお、こええ、こええ」
あざ笑うドゥムカ。
近接攻撃主体の総司と直接ぶつかることを避け、距離をとっての遠距離戦で応戦する。
そもそも性格的に危ない橋を渡ろうと言う気もない。バルトの戦いに邪魔が入らないようにできれば上出来だ。
「しばらく俺と踊ってもらうぜェ……!」
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