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リアクション
第5章 装甲列車はしる【6】
装甲列車・指揮車両。
戦闘のドサクサに紛れ、七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)は内部への潜入に成功していた。
と言うより、相棒の七枷陣がパルメーラの気を引いていたのは、彼の行動をサポートするためでもあったのだ。
指揮車両は列車の脳とも言える部分。
操縦関係の装置や情報通信のための装置、他にも用途不明の機械があって外から見たより狭いように感じる。
「全部で5人か……」
気配を殺し刹貴は様子を窺う。
彼らもゴーストナイトだが、見たところ武器は槍ではなく短剣。それは室内での戦闘を想定している証拠だ。
どれほど使うのかは不明だが、外での戦闘を見る限り刹貴が手こずるレベルの腕はあるだろう。
「となれば、速攻で片付けるしかないね」
足音もなく近付き、兜と鎧の隙間に短刀を滑らせ、騎士の首を断ち切る。
「潔く無為に散れ……ってね」
噴き出した血が計器を染める。
「ひとり……」
次の獲物に移ろうとした時、次の獲物は壁後と吹き飛ばされて、反対側の壁に激突したところだった。
「!?」
壁を突き破る派手な突入を決めたのは、茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)だ。
彼女もまた最後尾に突撃した誰かと同じく装甲列車の装甲を甘く見ていたのだろう。激突の衝撃と爆発で小型飛空艇ヘリファルテはバラバラに吹っ飛んだ。彼女自身はなんとか内部に入れたものの、全身ボロボロで目を回している。
「はらひれほろはれ……」
「なんだか知らないけど、おい起きたほうがいいぞ」
刹貴につま先で突かれ、衿栖は頭を抱えながら立ち上がった。
「頭がガンガンします……」
「あれでガンガンで済むならまだマシなほうだね」
衿栖は部屋の中を見回す。まだ健在の騎士が三名、短剣をこちらに向けて立っている。
「なるほど……、思いのほか数が少なくて済みました。人が多いと勘づかれる可能性がありますからね」
そう言った途端、列車に衝撃が走った。列車が急減速をかけたために生じるものだ。
見れば、操縦席には衿栖の従者である文官の姿があった。物質化・非物質化の能力を使って回り込んだのである。
「このまま止まってくれれば……!」
激しく揺れる車内から騎兵達は転がり落ちていく。
だが、激しく揺れているのはなにも急減速だけのせいではない。
操縦桿を握った文官が列車を操縦しきれていないのだ。
操縦法のデータを受け取った衿栖ならまだ対応できたかもしれないが、従者では複雑な操作に対応出来ない。
曲りくねる線路に対し、速度を調節しなければ脱線してしまう。
ところが、衿栖や刹貴は部屋の中にしがみつくので精一杯だった。
「た、大変……!」
とその時、大型騎狼に乗って並走するドロシー・レッドフード(どろしー・れっどふーど)が破れた壁から見えた。
「ゲー、そこです! その車両が操縦室です!」
「!?」
その直後、ゲー・オルコット(げー・おるこっと)が中に飛び込んで来た。
今の今までどこにも姿を見かけなかった彼であるが、実は最後尾からこっそりと操縦室を目指していたのだ。
ただ、その行動が描写されないレベルで慎重だったため、ここまで来るのに時間がかかってしまったのである。
描写されないレベルでの彼のこの数時間の冒険は語り尽くせないほどのドラマに満ちたものだった。
……が、とっとと列車をなんとかしないと全滅のおそれがあるので、語るのはまたの機会にとっておこう。
「ちょっとどいてくれ」
文官を押しのけて席に着くと、ゲーは目を輝かせて計器を眺めた。
「だ、大丈夫なんですか? ちゃんと操縦出来ますか?」
「ああ、心配しないでくれ。こう見えても地球で随分列車の運転はしたもんさ」
「そ、それなら安心……」
「ゲームで……だけどな」
「え?」
ゲーは操縦桿を握り、絶妙の加減でブレーキをかけた。
カーブで脱線しない程度に、ナラカエクスプレスに突っ込まないように。
「うぬぬぬぬ……! 止まれーっ!!」
車輪がカナキリ声を上げ、火花を散らす。
ナラカエクスプレスまであと1000メートル……、500メートル……、300メートル……。
そして、列車はナラカエクスプレスまであと100メートルのところで止まった。
「と、止まっ……」
なんと安堵の息を漏らした瞬間、目の前でナラカエクスプレスが脱線して横転した。
ゲーはあんぐりと口を開けた。
「い……、言っておくけど、自分はぶつけてないからな……!」
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