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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)
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第5章 装甲列車はしる【4】




 装甲列車・指揮車両。
 仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)は小型飛空艇ヘリファルテで列車と並走する。
 こちらに飛来する砲弾や銃弾を避けながら、火天魔弓ガーンデーヴァを落ち着いた動きで引き絞る。
 狙うのは車輪……と行きたいところだが、先ほど通信があり車輪を目標から外すように頼まれた。
「個人的にはとっとと破壊しておきたいところだが、何か策があるなら協力もやぶさかではない……」
 狙いを第二目標の一両目と二両目の連結部に変える。
「ここを切り離せば、残りはただの箱になる……!」
 弓剣兵の籠手の加護を弓に伝え、衝撃波を伴う魔法の矢を放つ。
 第一射はやや連結部からずれて命中。金属板を思い切り叩いた時の空気を揺らす鈍い音が響いた。
「次……!」
 と構えたところで、磁楠の真横に高速回転するチャクラムが並んだ。
「これは……!」
 二両目、指揮車両の屋根にパルメーラ・アガスティアの姿を見つけた。
 ナラカの伝説武器『スダルサナ』を使い魔のごとく周囲にはべらせ、攻撃を仕掛ける生徒たちの排除に動き出した。
「彼はうまく車輪を外してくれたようだが……、大物が出て来てしまったな」
 屋根の上で人形師レオン・カシミール(れおん・かしみーる)はひとり呟く。
 ちょうど相棒にユビキタスで調べた列車の操縦に関するデータを送ったところだった。
「彼女が出て来た……と言うことは、あそこが操縦室のある車両の可能性が高いな」
「たぶんそうだよ。本当に大事なところはボスが守ってるはずだもんね」
 茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)も同意する。
「それなら行動は迅速に起こせる。作戦通りに騎兵の連中を相手にするぞ」
「ええと……、とにかく敵の気を引きつければいいのよね?」
「ああ、なるべく敵を集めるようにしろ。隙が出来れば、あとは衿栖の仕事になる」
「了解っ」
 そう言って、朱里は大剣レプリカビッグディッパーを軽々持ち上げると、ゴーストナイトに立ち向かった。
 特に戦法などは決めていない。とにかく暴れまくる、頭にあるのはただそれだけ。
「いっくよー!」
 大剣をぶんぶん振り回して敵を薙ぎ払う。
 騎乗では恐ろしい騎兵達も馬を降りると立ち回りが慎重になるのか、闇雲に迫る彼女を警戒して動きが鈍った。
 そこにヘキサポッド・ウォーカーを操るレオンが突っ込んだ。
 無論、鈍足の突進など食らう騎兵ではないが、重要なのは朱里の行動で彼らが一カ所に固まったと言うことだ。
「離れろ、朱里!」
 レオンが飛び降りると同時に、ヘキサポッドが爆発を起こした。
 爆風を背に受けながらも、彼は転がって着地を決める。騎兵達は爆風で車外に吹き飛ばされた。
 そんな彼らを見下ろしながら、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)の乗るワイバーンが空を駆け抜けた。
「パルメーラ……」
 迷いを振り切るように頭を振り、屋根に飛び移る。
 迎撃に迫るゴーストナイトに、先制の正拳を叩き込む。
 ドラゴンアーツで膨らんだ筋肉をヒロイックアサルト『剛鬼』の鬼力で鋼鉄のごとく収束させる。
「悪いがおまえらの相手をしてる時間はねぇんだ……、眠っててくれ」
 刹那、残像を残してラルクの姿は消えた。
 防御を捨てた神速の構えを疾風の覇気がさらに底上げし尋常ならざる速度を生み出す。
 その分、肉体にかかる負担も大きいが、今はそんなことに気を留めるつもりはない。
 一撃必殺、閃光の拳。立ちはだかる鋼鉄の鎧を、柔らかな布と錯覚させるほどに鉄拳が歪ませる。
 とその時、息を切らせるラルクの元にスダルサナが飛んで来た。
「……っ!」
 鋭い金属音。
 間一髪、相棒の秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)の繰り出した疾風突きがスダルサナを弾き返した。
 通常の武器なら破壊されるか、もしくは回転を失って落下してるところだが、この円盤は変らず飛び続けている。
 これが伝説の武器たる所以か……。
「ったく、とんでもねぇ武器だな。一発で刀がガタガタになっちまったぜ」
 渋い顔で闘神の書は刃を見つめる。
「すまねぇ……」
「いいってことよ。おぬしが焦るのもわからなくはねぇ。嬢ちゃんの変わりぶりにゃ、こっちも驚いてんだ」
 そう言って、暗い瞳を向けるパルメーラを見る。
「おしえてくれ、パルメーラ……。本当におまえがこんなことをしてるのか……?」
 意を決してラルクは言った。
「ラルクくんはもうすこし自分の目を信じたほうがいいよ。飛んでくる円盤見たんでしょ。じゃあ、それが真実だよ」
「ろくりんピックで見せてくれたあの笑顔も……チャクラムに襲われてたのも演技だったって言うのか……!?」
「ん?」
 彼女は大きく目を見開き、そして大きな声で笑った。
「キャハハハハッ! あれあれー? もしかして騙されのショックだったのかなぁ?」
「おまえ……」
「やーい騙されてやんのー。ラルクくん、かっこわるー」
「……うぜぇ!」
 声に重なるようにして、炎が屋根の上で吹き上がった。
 焼き払ったゴーストナイトを踏み分けて炎から顔を出したのは、七枷 陣(ななかせ・じん)
 嫌悪を貼付けたような顔で、パルメーラを睨み付ける。
「おまえ、本当にパルメーラ本人か?」
「へ?」
「タクシャカみたいに変化する奴が化けとるんやないだろうな?」
「うーん……、疑り深い人もいるんだねぇ。それとも……、他の誰かなら良いのに……なんて思ってるのかな?」
 陣は眉を寄せる。
「うふふ、淡い期待なんて持たないほうが幸せだよ。いつだって本当のことは受け止めるには辛いことばかりだもん」
「どうしてこんなことを……」
 ラルクは言った。
「んー……世界をめちゃめちゃにしたいって言うから」
「言うから……? 誰が言ったんだ?」
「誰だっていいじゃない。あたしが世界を壊しても、誰かが壊しても同じことだよ。誰が、なんて重要じゃないんだ」
「その口ぶりだと……、アクリトに累を及ぼしても構わないってことか?」
「そう聞こえた?」
「ああ。と言うか、おまえ地球側鏖殺寺院の一派だろうjk」
 はっきりと言い切った。
「デ校長殺して能力奪って得する奴なんて、エリュシオンと寺院以外いねぇ。中東周辺は寺院連中の温床だって話だからな。おまえ……、いや、アクリトも一枚噛んでても不思議じゃねぇ。むしろ、あの高い才能からして十人評議会とか言う厨二病から抜け出せない大人が作ったような名前の組織の一員じゃねぇの?」
「へぇ、おもしろいこと考えるんだね」
「正解か?」
「おしえてあげないよ、ジャン」
「うぜぇ……」
「……誰がなんてあんまり重要じゃないんだ。重要なのはあたしに『するべきこと』をくれたってことなんだよ。今まで誰もあたしに何もさせてくれなかったんだもん。何もしちゃダメだって、トリニティが言うんだもん。でも『あの人』はおしえてくれたの。あたしにもできることがあるんだって。すごいチカラがあるんだって。チカラを貸してほしいって」
「なんの話をしてるんだ……?」
「あたしがここにいる『動機』の話だよ」
 怪しく微笑む。
 スダルサナがパルメーラを囲うようにして旋回を始めた。
「そろそろ、舞台も次のステージに進むね」
 気が付けば、線路の先に切り替えポイントが見えていた。
 今、装甲列車がぐるぐる回っているのは、駅のまわりに巡る環状線、そしてこの先からほろびの森ローカル線になる。
 ナラカエクスプレスと同じ線路に侵入し、重装甲の体当たりでもって冥界急行を粉砕するつもりなのだ。
「間に合ってくれよ、刹貴……」
 陣は冷たい汗を流し、小さな声で呟いた。