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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

リアクション

 
 
「見つけたぞ……!」
 【鋼鉄の獅子】隊との戦闘から離脱した龍騎士1騎と龍騎兵100ほどは、上空からクレセントベース入り口前面に作られた防御陣地をついに発見した。
「こんな所にも居やがったのか!」
「引きずり出して殺っちまえ!」
 龍騎兵たちの間から声が上がる。
「勝手なことをほざきおって……貴様たちの好きにはさせん!」
 クレセントベースの前面で敵を待ち構えていたケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は、後ろに待機しているパートナーたちを振り返った。
「各員、奮闘努力せよ!」
「おうっ!」
 力強い答えが響く。
「おらおら、こいつを食らいな!」
 手始めに、ドラゴニュートのアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)がドラゴンアーツを放つ。
「龍がドラゴニュートに負けたら、恥もいいところだよなぁ!!」
 攻撃を避ける龍騎兵に向かって、哄笑を浴びせる。当然、龍騎兵からも反撃があるが、ケーニッヒが目にも止まらぬ速さで手刀を繰り出して、すべて叩き落した。
「ふ、やはりたいしたことはないな」
 ケーニッヒも鼻で笑ってやると、龍騎兵たちはさすがに怒り心頭で二人に襲い掛かった。
 (かかったな)
 ケーニッヒとザルーガは、敵に判らないように微笑しあった。不自然に見えないよう、敵の攻撃を防ぎながら、空洞の入り口の方へ後退を始める。
「……そろそろよ!」
 階段の一番上の隅の方に身を隠し、外の様子をうかがっていたマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)からの連絡を受けて、大空洞の奥にいた水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は、緊張した表情で入り口の方向を見た。
「……来た!」
 叫ぶマリエッタの目の前を、ケーニッヒとザルーガが全速力で階段を駆け下り、塹壕に飛び込む。それを追って、龍騎兵が大空洞に侵入して来た。しかし、階段を降り切ったすぐ下には、三船 敬一(みふね・けいいち)たちが作った防壁があった。光量が充分でない中、いきなり目の前に現れた壁にふいをつかれて、先頭の龍騎兵がバランスを崩す。
「馬鹿野郎、モタモタしてんじゃねーよ!」
 それを押しのけるように、さらに一騎、そしてもう一騎と敵が突っ込んで来た。尻尾や足の爪で土塁を蹴散らし、足元のタコツボに隠れていた兵が槍や剣で足元に攻撃するのを蹂躙しつつ、奥の方へと進んで来る。
「あああああっ、せっかく作った施設がー!」
 天璋院 篤子(てんしょういん・あつこ)が悲鳴を上げるが、もちろん敵はそんなことにはお構いなしで、邪魔な大空洞内の建造物やら何やらを手当たり次第に破壊しながら、龍騎兵たちはどんどん空洞の中に雪崩れ込んで来る。
 『ガラガラガラガラガラ!!』
 大空洞の奥から伸びる洞窟のひとつから、鍋や釜をひっくり返すような音がした。
「そこに隠れてやがるのかぁ?」
 数騎の龍騎兵が、龍が自由に飛ぶには狭い空洞の中を天井すれすれに滑空し、音のした方へ向かう。
「……来たわっ」
 音がした洞窟の中に隠れていたケーニッヒのパートナーの剣の花嫁天津 麻衣(あまつ・まい)は、敵の気配を感じて、幾つかの鍋を紐で結びあわせたものを引っ張って洞窟の奥へ退避した。本当は兵の足音を録音したものを流す予定であったが、録音再生をする装置の手配が難しかったことと、大空洞が怪獣映画ばりの大騒ぎになってしまい、足音程度では幾ら洞窟の中に音が反響すると言っても、洞窟の外の敵にきちんと聞こえるかどうかが疑問だったため、急遽調理場から鍋を取って来て、投げたり引きずり回したりして音を出すことにしたのである。
 (給養部隊のみんな、ごめんなさいっ。戦闘が終わったらちゃんと洗うし、もし凹んでたら直すからっ)
 心の中で謝りながら、鍋を引きずって麻衣は駆ける。
「こっちっ、こっちだよっ」
 入り口からの光が届かない闇の中、麻衣を誘導するのは、暗視ができる同じくケーニッヒのパートナーの強化人間神矢 美悠(かみや・みゆう)だ。麻衣は鍋に結んだ紐を離し、美悠が姿を隠していた、狭いひび割れのような場所に滑り込んだ。
「どこへ行きやがった……?」
 龍の足音が近付いて来る。美悠はサイコキネシスを使って、あらかじめ軽くひびを入れておいた天井から岩を落とした。岩は龍の脳天に当たった。
「うぎゃあああああ!」
 龍は痛みで暴れ出し、兵士を振り落とし、尻尾で跳ね飛ばしてどたどたと洞窟を出て行った。美悠は龍に跳ね飛ばされて壁に激突し、そのまま気を失った兵士をとりあえず拘束し、腰に吊るしてあったランタンをつけた。
「やったわね!」
 鍋を拾いながら麻衣がにっこりと笑う。
「ちょろいもんだな。次行こうぜ、次」
 拘束されてぐったりと転がっている敵兵に軽く蹴りを入れて、美悠は走り出した。麻衣もそれに続こうとしたその時、ズズン……! と地面が揺れた。
「な、何……?」
 よろけてしまった麻衣は、洞窟の壁に手をついて身体を支えながら、闇の中を見回した。
「相沢の爆薬じゃねえかな。あいつ、自信たっぷりだったけど、やりすぎじゃねぇだろうな?」
 バラバラと落ちて来る岩の破片を手をかざして遮りながら、美悠は眉を寄せる。
 
 
 その頃、大空洞では。
「えいっ、えいっ、あっちへ行ってくださいませっ!」
 乃木坂 みと(のぎさか・みと)は、龍騎士に対して懸命に火術で攻撃をしていた。龍はバサバサと翼を動かして、炎を振り払う。熱気が周囲に立ち込め、宿舎に使っていたテントなど、可燃物の焦げる匂いがし始めた。
「うう、ギャザリングヘクスも使っているのに、まだ火力が足らないのですか……」
 みとは覚悟を決め、龍騎士の足元を駆け抜けてた。鋭い爪を持った足での蹴りが飛んで来るのを紙一重でかわして、相沢 洋(あいざわ・ひろし)が爆弾のスイッチを持って待ち構えている横穴へ転がり込む。
「洋さま、これ以上は無理ですー」
「おう、良くやった! 来るぞ!」
 洋は座り込んでしまったみとを引っ張って穴の奥に退避する。龍騎士が穴に入って来たところで、タイミングを見計らってスイッチを押す。ひときわ大きい爆発と共に、大量の岩の破片が龍騎士の上に落ちて来た。
「……やった、か?」
 洋は薄暗がりの中、もうもうと立つ土ぼこりの向こうを透かし見た。がら、がら、と岩の破片が崩れ転がる音がして、破片の山の下から龍が起き上がって来た。
「うわああ、まだ生きていたでありますか!?」
「洋さま、敵の様子がおかしいです!」
 みとが叫んだ。その背に龍騎士の姿がない。どうやら、龍だけが生き残ったようだ。
 乗り手を失った上に傷ついた龍が、本能のままに暴れ始める。爆発でひびが入った洞窟の天井が、大規模な崩落を始めた。
 
 
「これは、避難した方が良さそうだねぇ。ほらほらみんな、こっちだよー」
 大空洞から少し奥に入った場所でながねこたちと一緒にいた曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)は、壁や天井から石が落ち始めたのを見て、作ってあった地図を確認しつつ、戦闘に加わらないながねこたちを安全な場所まで避難させるべく誘導を始めた。
「……腑抜けてもふもふしているように見えて、一応ちゃんとやってたんですねー……」
 パートナーのマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)が意外そうに呟く。
「んー? 俺だってやる時はやるよ?」
 曖浜が首を傾げたその時、ズシン! とひときわ大きな振動があった。壁や天井から剥がれ落ちた土砂や岩のかけらが、ばらばらとながねこたちにふりかかる。
「うわ、いよいよ危なそうですよー」
 鼻先を拳くらいの大きさのかけらがかすめたのを見て、マティエが言った。
「みんな、焦らなくていいから、落ち着いて移動するんだよ。また絡まって団子になったら大変だからねー」
「にゃー!」
 瑠樹の忠告に、ながねこたちは手を挙げて答えた。
 
 
「な、何なの? 何が起きたの!?」
 大空洞のやや後方で龍騎兵を狙撃していた水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は、洞窟の奥から聞こえて来る地鳴りに気付いて、思わず振り向いた。龍騎士が乗っていた大きな龍が、暴れながら大空洞の方へ戻って来る。一瞬それに気を取られた水原の背後に、龍騎兵が迫る。
「危ないッ!」
 水原の頭が龍の足に吹き飛ばされるかと思った瞬間。マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)の放ったファイアーストームが龍の身体を包んだ。水原は熱気と生物の焦げる臭気に咳込みながら、断末魔の悲鳴と共にのたうちまわる龍騎兵から離れた。
「大丈夫!?」
 マリエッタが駆け寄って来る。水原はまだ咳込みつつうなずいた。大きく息を吸い込んで呼吸を整え、叫ぶ。
 「龍騎士の龍に集中攻撃! 敵は手負いです、あと一歩ですよ!!」
 水原の叫びは、敵を明らかに怯ませた。やがて、暴れる龍に乗り手が居ないことがわかると、士気は一気に崩壊した。逃げ出す龍騎兵には構わず、生徒たちは龍騎士の龍に一斉攻撃を仕掛け、ついにこれを斃したのだった。
 
 
 一方、残りの龍騎士と戦っていたルカルカは、パートナーたちが魔法を駆使して援護してくれたおかげで、やっと、二騎の龍騎士を少し引き離すことに成功した。
 「龍飛翔突!!」
 好機を逃さず、レッサーワイバーンの背からさらに飛び上がって、二本の槍を繰り出す。一本はうろこに弾かれたが、もう一本は龍の腰のあたりに突き刺さった。龍は空中でのたうち、乗り手を振り落とす。
「てええええええいっ!!」
 乗騎の背にみごとに着地したルカルカは、手元に残ったもう1本の槍を構え、裂帛の気合いと共に龍に向かって突進した。ルカルカとレッサーワイバーン、両方の力を乗せた槍は、見事に龍の胸をつらぬいた。龍の翼が力を失い、地上へ落下するのを、ルカルカは肩で息をしながら見ていたが、顔を上げ、きっと最後に残った龍騎士を見た。
「まだ、戦う?」
 そこへ、クレセントベースに向かった帝国兵たちが逃げ帰ってきた。その中に龍騎士の姿はない。これ以上犠牲を出すことをおそれたのか、龍騎士は手勢をまとめ、戦場を離脱して行った。