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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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 一方、実戦部隊の方は、作戦の詳細について詰めるべく、香取 翔子(かとり・しょうこ)司令官の元に集まっていた。
「私たち【ノイエ・シュテルン】は、洞窟内での迎撃任務を担当したいと考えています」
 そう申し出たのは、教導団の水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)少尉だ。クレセントベースに居る【ノイエ・シュテルン】のメンバーの中で一番階級が上なのは香取だが、彼女は司令官として基地全体に目を配らなくてはならないし、各部隊を公平に扱わねばならない立場だ。そこで、現在は水原が隊長代行を務めている。
「許可が得られればすぐに準備に取り掛かれるよう、既に全員待機中です」
 水原の説明によると、現在防壁等を建造中の、入り口から降りて来てすぐの広場(以下、「大空洞」とする)のさらに奥、迷路状になった場所のうち、教導団が使用を許されている部分に敵を追い込んで叩くつもりだと言う。
「ちょっと、待ってください!」
 沙 鈴(しゃ・りん)参謀長が発言を求めた。
「長猫族にできるだけ損害を出さぬよう、現在大空洞に建造中の防御陣地で敵を食い止め、それより奥には行かれないようにすべきなのでは? トーチカやタコツボも設置するのですし……」
 そのための防御陣地でしょう、と沙鈴は言う。
「しかし、敵にこちらの戦力を悟られないためには、敵を分断した方が都合がいいでしょう」
 水原も考え抜いた作戦なので、なかなか譲らない。
「はーいっ、ちょっといいかなぁ?」
 【鋼鉄の獅子】隊のルカルカ・ルー(るかるか・るー)少尉が手を挙げる。
「ルカルカたちは、遊撃部隊として地上で龍騎士を迎撃したいんだけど」
 地下戦と方針が決まったところに飛び出した発言に、皆がいっせいにルカルカを見た。
「あっ、もちろん、主力は地下洞窟に配置でいいんだ。ただ、外でも迎撃して、敵の力を削げればいいかなーと思って」
 注目を集めてしまったルカルカは慌てて手を振る。
「そうね……でも、龍騎士が相手では……」
 香取は言葉を濁した。ここでルカルカの意見をあっさり却下すると、【ノイエ・シュテルン】側に重きを置いているように聞こえる可能性がある。しかし、ノイエの隊長代行として相応しい階級を得るために、水原に戦功を立てて欲しいという気持ちもあった(これは、水原自身の気持ちでもある)。
「私は、賛成ですわ」
 と、香取が言葉を継ぐより早く、参謀長として彼女の隣に座っていた沙鈴が言った。
「【鋼鉄の獅子】は高い攻撃力を誇る部隊です。ルカルカ殿くらいの技量があれば、龍騎士とまともに戦える可能性もあるでしょう。少なくとも、むざむざとやられはしない筈。どうせ、こちらの有利になるような形で地下の敵を誘引する役を、誰かがしなくてはいけないですわよね? でしたら、ルカルカ殿たちに、地上で敵の戦力を削ぎつつ、上手く誘導する役をして頂けばよろしいのではありませんか? 遊撃的に動く小部隊なら、うってつけですわ。敵の戦力を分散させるという作戦方針にも合致していると思いますが」
 ながねこたちのために地下での戦闘をできるだけ避けたい沙鈴は、言葉を尽くしてルカルカの案を推した。香取はしばらく考えていたが、絶対にだめだと却下できる理由は見つからない。
「……では、【鋼鉄の獅子】の一部は地上で迎撃、ということにしましょう。ただし、くれぐれも無茶は謹んでちょうだい。相手が出来ないと思ったら、速やかに撤退して」
「了解!」
 ルカルカはちょっと格好をつけて敬礼した。
 この作戦会議の結果、結局、【鋼鉄の獅子】はルカルカを統括指揮に、橘 カオル(たちばな・かおる)が獅子の牙隊を、鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)少尉が現地兵を率いて、地上に出ることになった。
「だったらやっぱり、地上にも防御陣地が要るよにゃ!、じゃなくて要るよねっ!」
 現地兵を率いているため微妙ーに猫口調がうつってきた黒乃 音子(くろの・ねこ)少尉が勢い込んで手を挙げた。
「ながねこたちは、こういう場所に住んでるだけあって、工兵に向いてると思うんだ。ボクが率いる【長猫中隊】で、訓練を兼ねて地上の防御陣地の構築を担当するよ」
「地上に出城みたいなものを作って、そっちに敵の注意を引き付けておけば、敵の戦力を分散させやすいでしょうし」
 【黒豹中隊】隊員のロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)が頷く。
「じゃあ、俺も、戦闘が始まるまではそっちに参加させてもらおうかな」
 ルカルカのパートナーの剣の花嫁ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の申し出に、黒乃は頷いた。
「洞窟内に置く部隊についてはどうします?」
 水原が香取に尋ねた。
 「奥の横穴の内部での戦闘は、あまり派手にやらない方がいいかも知れないわね。区域全体で崩落や落盤が起きたりしたら味方も危険に巻き込むし、その奥の長猫族の使っている部分にも影響が出るわ。爆発物を多量に使う場合は、くれぐれも安全に留意して」
 基地はまだ、もともと存在している空間をほぼそのまま利用している状態だし、内部で戦闘を行うことは考慮に入れていなかったので、地盤が激しい爆発に耐えるかどうかまでは調べていないのだ。
「今度こそ、他に意見はないかしら? ……では、各員、迎撃準備!」
 香取の指令に従って、生徒たちは我先にと持ち場に向かって散って行く。そんな中、沙鈴はルカルカを呼び止めた。
「やる気満々ですわね、ルカルカさん。ここで戦功を上げれば昇進もありえるかも知れませんから、頑張ってくださいね」
「本当ですか!?」
 ルカルカは表情を輝かせ、沙鈴と香取を見比べる。
「あくまでも、『頑張れば』という話ですわよ?」
 沙鈴はにっこりと微笑む。対照的に、沙鈴を凝視する香取と水原の表情は固い。それに気付いて、沙鈴は二人に言った。
「別に、ルカルカさんだけがと言うわけではありませんわ。他の方が成果を上げれば、もちろんその方に昇進のチャンスがあるわけです。わたくしは参謀長として、特定の方に肩入れするつもりはありません」
「……ありがとうございます、頑張ります!」
 ルカルカは深々とおじぎをして、足取り軽く駆けて行った。
「どういうつもり?」
 香取はやや棘のある口調で沙鈴に問い質す。
「表立って競わせた方が、後にしこりが残らなくて良いかと思ったのですわ。……そうしてしまった方が、司令官も楽になるかと思いましたの」
 沙鈴は微笑して答えた。
「ああ、そういうこと……」
 香取は大きく息を吐いて、片手で目のあたりを覆った。確かに、最初から『手柄を立てた者を昇進させる』と言ってしまった方が、昇進を希望する者たちのモチベーションも上がるし、香取が裏であれこれ気を回す必要も減るだろう。
「ありがとう、沙鈴さん」
「わたくしはただ、ここの業務や作戦を円滑に回したいだけですわ」
 沙鈴は軽く敬礼し、資料を抱えて部屋を出て行く。
「水原さん」
 最後に残った水原に、翔子は少し済まなそうに声をかけた。
 そんな香取に向かって、水原は微笑んで見せた。
「司令官の立場も、気持ちも、私は判っているつもりです。今はただ、私は私の持ち場で、自分に出来る限りのことをするのみです。結果は、それについて来るでしょう」
「……そうね」
 香取はむしろ自分を納得させるように頷いた。
「あなたのことだから、無茶はしないだろうと思うけど、でも、手柄を焦るようなことはしないでね」
 水原の肩を軽く叩く。
「はい」
 水原は敬礼を返して、駆け出した。