リアクション
第六章 クィクモ本営 クィクモ本営の動き クィクモ。教導団が使用している施設の上部には、幾つもの塔が立ち並んでいる。各塔を部隊ごとに借り受けており、最上階には隊長室がある。「ふぅ」――その一つからは悩めるため息が度々と聞こえているのだが…… 「あんだけ見栄切って、オレたち獅子の船が不時着という失態を犯したからなぁ。なんとか名誉挽回しなくては」 教導団部隊の雄と言える【鋼鉄の獅子】。しかしヒクーロに近づいた艦隊が砲撃を受けるという事態となり、少々頭を悩ませているその隊長、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)である。 「……と、まずは、救援隊の割り振りだな。我ら獅子には400の兵と隊員の紅月が連れてきた医者が20人いるからっと」 タバコを吸いつつ、頭をぼりぼりと。 「とりあえず、ヒクーロに半分の200人と医者が17人ってところか。医者は助っ人を願い出てくれたひばりんこと土御門候補生に預けてっと、兵は紅月に……」 そこでひと呼吸、いや、ため息まじりのひと息を置いて、 「救援に向かってもらえるロンデハイネ中佐には出発前に頭を下げに行かなくちゃなぁ。オレの責任だし」 タバコをもう一本取り出した。 「あとはクレセントベースにいるルカルカに、紅月がもってきた物資と兵100人に医者3人と後はこっちの現状と今後の予定を書いた手紙を送ってっと……」 更に、もう一本タバコを……というところ、階段をつかつかと上がる足音が二つ。しかし、まだぼうっと考え込むルースには聞こえていない。隊員である月島 悠(つきしま・ゆう)少尉と城 紅月(じょう・こうげつ)がノックをして入ってくる。ルースは気づかないまま、まだ思案しつつ胃が痛い、などとぼやいている。 「こりゃ、ちょっとでも楽しみがないとやってられん。クィクモに残ってもらう兵100は女性とくに美人を多くしてやる。こ、このくらい中尉の権限で、できますよね? ね?」 「ね。なんて言われてもナ。ハァ……兄貴ったら」 紅月の声。それから「……」という月島の冷たい視線を感じ、ルースはぎょっとした。何気ない様子で立ち上がると、 「朝も夜もわからない土地、コンロンか」タバコをふかしつつ窓の外を覗いた。 「そんなこと今更、わかってますって。何をごまかそうと……」紅月は言う。月島は無言だ。 「気が滅入りますね。ただ生活しているだけでも、ね。それが敵に囲まれた場所なら尚更……レーゼ」 友の名を呟く、ルース。 「レーゼ、生きて帰って来てくださいよ。おまえが死んだら、からかえるやつがいなくなるんですから」 「レーゼの兄貴……(不時着だってね! 指揮官が捕まったら獅子の名折れだよ。) 絶対助けるんだからねっ」まだ着いたばかりだが、新隊員の紅月は張り切っている。 「紅月。行けますか?」 「はい……俺が救援の指揮を執ります」 「大丈夫かな?」 ルースは、少し心配ながらも紅月に兵200の指揮権を与えた。 「医療チームの方は今、ひばりんが医務室へ一緒に行って色々、準備しています」 「うむ、ひばりんにも宜しく伝えてくれ。厳しい状況だが、二人にかかっている」 「それにしても、レーゼマンは大丈夫なのか」と、月島。 「レーゼの兄貴……捕まりそうなんて、やっぱりヘタレだね」紅月はにこっと微笑みつつそう付け足しておいた。 「頼みますよ。紅月。では、月島の方ですが――」「うむ。――」 レーゼマンがヒクーロ方面で窮地に陥ったことを聞くや、クィクモの北で守備に就いていた金住 健勝(かなずみ・けんしょう)少尉が当地に赴くことを願い出た。クィクモの国境警備隊も艦を出すと言ってくれた。しかし龍騎士との交戦が予想され、ヒクーロとの状況も良くない。事の重大さを見て、空路第二陣が到着次第、向かうこととなったのであった。武装飛空艇は金住少尉らの隊と合流し、これも戦力に加えた上でヒクーロに向かう。今、飛空艇はクィクモに一時着艦し必要最小限の整備をしているところなのだ。そちらへと目を移してみる前に…… さきほどため息のもれていた獅子塔の隣の塔から、何やら気合の入った声が響いている。 「よいか。金住少尉が持ち場を離れる間、私たち【龍雷連隊】がクィクモの警備を担当するぞ! レイヴ!」 「はっ、はい!」 「貴様をクィクモ北面の守備隊長に任ずる。よいかな? 兵を率いクィクモの北に駐屯せよ。外だけではなく、内にも目を光らせるのだぞ?」 【龍雷連隊】の隊長室。松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が、隊員のレイヴ・リンクス(れいう゛・りんくす)に指示を与えているところだ。 「了解しました! 隊長。 あ、あの。ところで隊長は……?」 「私は、フフ。イコンに乗る!」 「はい。隊長、いよいよですか」 「そうだ。フフ、イコンも今後は大きな重要になっていくから、俺もイコンの出撃準備などに向け、やっていかないとな。フフフフ……熱いぜ?」 「は、はい。松平隊長!」 * 獅子塔を出た月島少尉は、クィクモの軍港を歩いていく。空・内海併せた一大港である。これからヒクーロ方面へ発つ教導団の武装飛空艇。もちろん、クィクモも多くの空・海の戦艦を持つ。それだけではない多くの兵器・重火器や軍事物資が届けられここに集められていく。 「おお、月島ではないか。準備の方はどうか」 「これはパワード・レーヂエ殿。パワードアーマー隊ならば、もういつでも出れる」 パワードアーマー隊もまた、第四師団初の機械化部隊としてこの出兵より戦力に加えられた。陸戦の新戦力・主戦力となるだろう。月島少尉はこれを率い、陸路より北へ向かう。と言っても、ヒクーロにおける戦闘はおそらく対龍騎士戦となるので、飛空艇が担う。月島らパワードアーマー隊は、魔物発生の源を突き止め排除するのが役目だ。クィクモ近海の魔物は掃討したが、ヒクーロ方面からとめどなく涌き出てきている。艦隊はヒクーロに砲撃されてしまったように、空からは近づけない。 「生徒らの中にも、良い指揮官が育ってきたことよのぅ」レーヂエは月島の頭をなでなでしながら、にこやかに言う。レーヂエも、かつては第四師団の名だたる?部隊長であった。「ははは。月島も、偉くなった」 「……(馴れ馴れしいな)」 「それに、」レーヂエは真面目な顔になり、「辺境戦専門の少数精鋭だった第四師団にさえ、重火器や兵器に重点が置かれるようになってきたか。もう、このレーヂエやロンデハイネ中佐の指揮を執ってきた頃とは時代が違うのかもしれぬな」しみじみと言うのであった。 「……レーヂエ。引退するのか。安心するといい、指揮は私が引き継ぐので」 「ウム。そこで、このレーヂエも、パワードアーマーに改良され戻ってきたというわけだ」 「パワードアーマーを装備しているのではなく、パワードアーマーに改良されたのか?」 「ウム」 「……」 「だから、俺は引退しない。安心せい、月島。これからも、よりパワードになった俺が、より洗練された的確な指揮で皆を導いてやるから。ははははは」 「NPC化されると聞いてなかなかされなかったが、アイテム化されていたのか。よし、私がレーヂエを装備して指揮を執る」 「ウワ、ヤ、ヤメテクレ!」 「行くぞ、パワードアーマー隊!」 「月島少尉!」「月島少尉!」「出撃だぁ」 |
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