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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第1回

リアクション


第三曲 〜The Crusaders〜


『各機へ。間もなく合流地点に到着する』
 F.R.A.G第一部隊隊長ダリア・エルナージはその旨を伝えた。
 鏖殺寺院。
 シャンバラからは自分達もその一員として認識されていた。否、彼らと同じ機体を駆り、シャンバラ勢力と戦いを繰り広げていた以上、それは間違ってはいないのだろう。
 かつての「同類」が敵で、敵だった者が今回は「味方」だ。そう考えると色々と複雑なものがある。
『昨日の敵は今日の友、なんて言葉が向こうの国にはあるみたいだけど、今がまさにそんな感じですよね、隊長』
『そうね。でも、完全に気を許しちゃいけない。今回の共闘はあくまで一時的なものだってことは忘れないように』
『分かってますよ。だけど、よくあんな場所に基地を造ってたものですね』
『あんな場所だから、よ』
 だが、疑問はある。
(しかし、なぜ共闘? 緩衝地帯で慎重にならなきゃいけないのは分かるけど、シャンバラ側との協議しておけば、我々だけで攻めることも可能なはずなのに……)
 ウクライナの鏖殺寺院の拠点は、地球上では最大規模のものらしい。だが、F.R.A.Gから出動しているのは、わずか八機。
 少数精鋭。そう言えば聞こえはいいが、クルキアータの性能を十分に引き出せる人間が決して多くないというのが実情だ。
(いくらこちらが最新鋭の機体を使っているとはいえ、数に不安があるというのは分からなくもない。だけど、本当にそれだけ……?)


(・アスク小隊)


 【アスク小隊】
 アスク1:ズルカルナイン平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)イスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)
 アスク2:アイビス星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)時禰 凜(ときね・りん)
 アスク3:セレーネ・ヘプトゥスローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)
 アスク4:オルタナティヴ13シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)
 アスク5:セレナイト端守 秋穂(はなもり・あいお)ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)

* * *



 作戦に当たり、機体を降りて詳細なブリーフィングを行う時間はない。そのため、機体間での暗号通信によって、方針が決定する。
 敵のイコンの数は最低でも百機と予想されている。そのため、最初の奇襲でどれだけ削れるかが焦点となった。
 共闘はするが、対立する勢力同士。互いに連携するというよりは、臨機応変に援護し合って対応しよう、ということになる。
『お互い、背中には気をつけような。その気がなくても、共同戦線張る相手に撃たれたなんていったら、いい戦争の口実になっちまう。俺達や隊長は無闇に争う気はないが、ここに来た全員がそうではないということは、肝に銘じてくれるとありがたい』
 F.R.A.Gのパイロットの一人からそのようなことがシャンバラ側へと伝わってくる。
『最後に一つ、質問いいかしら?』
 ローザマリア・クライツァールがF.R.A.Gへと暗号通信を送る。
『クリミア半島には黒海におけるロシア、ウクライナ両海軍最大の根拠地セヴァストポリ軍港があるわ。加えて、同地はウクライナ人とロシア系住民との対立が続く微妙な土地柄でもある。その鼻先でシャンバラの技術の結晶たるイコンが派手に戦火を交えるということは、シャンバラを快く思わない人々の気持ちを逆なでするのではないかしら?』
『シャンバラを快く思っていないのは我々とて同じこと。しかしそれ以上に、シャンバラ発祥のテロリストが居座っている現状の方が問題だ。それに、我々もイコンを使っている以上、傍から見ればそちらと大して変わらない。重要なのは、同じような力を持つ勢力で鏖殺寺院が一番の悪だということを示すことにある』
『つまり、シャンバラ――というより、パラミタの負の部分を全て鏖殺寺院に押し付けるってことね?』
『否定はしない』
 F.R.A.G側によれば、シャンバラを快く思っていない人間の大半は、シャンバラを巡る先進諸国へ反発しているということらしい。
 そのため、今回の作戦はむしろ「先進諸国がようやく地球にも目を向けた」として、かえって信頼を得ることに繋がることが示唆される。
(鵜呑みにするのは危険ね)

 質問をしたのはローザマリアだけではなかった。
『なあ、秘匿義務があるなら答えなくて構わないが』
 星渡 智宏が問う。あえて普通に通信を飛ばして。
『あんたの部隊に学生はいるのか?』
 かつて、寺院のパイロットに投げかけたもの。あのときは戦いへの迷いからであったが、今度は相手の覚悟を確かめるためだ。
『今回は来ていない。だが……』
 その声には聞き覚えがあった。
 かつて二度に渡って戦った小隊長の少女。彼女のものによく似ている。
『今は契約者養成のための「アカデミー」と提携し、わずかながら学生も所属している。そちらの学校と大して変わらないものだ』
 口調は厳格な感じだが、やはりそっくりだ。
 そして【アイビス】に対してのみ、暗号通信が送られてきた。
『こんな形でまた会うなんて、奇妙な因縁があったものね』
 海京決戦の後どういういきさつがあったかはまだ分からない。が、まさかこんな形で再会するとは――

* * *


 クリミア半島の都市ケルチ。
 前世紀においてはゲリラ活動の拠点ともなっていたこの地に鏖殺寺院がいるとは、なんとも皮肉な話だ。今再び、ここが争いの舞台となってしまうのだから。
『アスク小隊、これより状況を開始する』
 レーダーには二十機以上の反応がある。平等院鳳凰堂 レオはそれを確認した。
「レオ、間もなく射程距離に入るぞ」
 魔鎧としてレオに纏われている告死幻装 ヴィクウェキオール(こくしげんそう・う゛ぃくうぇきおーる)が彼に知らせる。
大型ビームキャノンの射線を敵機へと合わせ、射程に入った瞬間、攻撃を担うイスカ・アレクサンドロスがトリガーを引く。
 その砲撃が奇襲の合図となった。

 コームラント、【ズルカルナイン】の光条を追うようにして、【オルタナティブ13】は敵機へと向かっていく。
「うん、悪くない」
 操縦桿を握り、サビク・オルタナティヴが呟く。加速、操作性に関しては十分だ。
 ビーム式の汎用機関銃で牽制しながら、敵機との距離を詰めていく。コームラントによる長距離支援だけではなく、【セレーネ・ヘプトゥス】のスナイパーライフルによる中距離支援もある。
 後衛二機、前衛三機の連携を持って、敵の第一陣を叩く。
 機動力を生かして【オルタナティブ13】は敵機の側面へと回り込み、マジックソードで一閃する。
 背後に回り込まないのは、まだ後方から敵の第二陣、第三陣が控えている可能性があるからだ。
 最大拠点と目されているだけあって、敵機もたかが二十、三十程度の数とは思えない。
 ヒット・アンド・アウェー。基本は一撃離脱で攻めていく。
「まずは奇襲成功、ってところか?」
 レーダーを確認しながら、シリウス・バイナリスタは周囲の様子を窺う。
(F.R.A.Gの連中は……)
 クルキアータを目視する。
 武装はシンプルなものだ。シールドを全機が装備しており、隊長機は実体剣、副隊長は剣の代わりにランス。他、六機の赤い機体はアサルトライフルだ。
「サビク、右だ!」
 敵機の動きを確認し、メインパイロットのサビクに指示を送る。クルキアータの情報も集めるが、あくまでもサブパイロットとしてのオペレーションを行いながらだ。
『援護する』
 クルキアータの一機が射撃支援を行ってきた。それに乗じ、敵の間合いへと飛び込む。
『感謝するぜ』
 敵機を引き離してもらっている間に、目標に定めたシュメッターリンクへと斬撃を繰り出す。
 一方のクルキアータは、シリウスが一機墜としている間に、三機ほど撃墜していた。アサルトライフルの威力は、寺院製イコンのコックピットを撃ち抜けるだけの威力を誇っているらしい。
 だが、高速で飛び交うイコンを射撃武器で確実に狙うのは相当な技術を要する。相手の行動を正確に予測する必要があるからだ。
 観察している間に、さらに二機のイコンを撃墜していた。弾はそれぞれに一発ずつしか使用していない。そこから見ても、F.R.A.Gのパイロットは、一般機でも天学のエリート教官クラスの実力はあるだろう。
『なあ、向こうは大丈夫なのか?』
『隊長達なら問題ない。見ていれば分かるさ』
 ランスを構えた紫色の機体をシリウスとサビクは見やった。
「アレは、援護は余計かな?」
 敵陣の中で、次々とランスでシュメッターリンクを薙ぎ払っている。さらに、クルキアータのシールドは寺院イコンの機関銃ではほとんど傷つかない強度を誇っているようだ。
 驚くべきは、イーグリット並みの機動性に加えて、至近距離からの銃撃さえかわすほどの瞬発力と反射速度――その回避性能だ。
(まったく、なんて性能だ。シャンバラや帝国のイコンでさえオモチャに見えるレベルだぜ。それにしても、一体連中はどこからイコン技術を手に入れたんだ?)

 前衛では、【アイビス】がビームライフルの二挺拳銃で援護射撃を行っている。
 出撃前に「ライフルに銃剣かビーム発振機を付けてもらうって依頼、忘れないで下さいね」と時禰 凜に言われ、星渡 智宏は根回しをしておいたが、整備科との兼ね合いもあり、今回の出撃までには間に合わなかった。
 そのため、これまで同様のスタイルを基本として戦うことになる。
(しかし、このことは伝えるべきか?)
 F.R.A.Gの隊長が、海京を攻めてきた勢力の一員であるということ。おそらく、それを知っているのは今のところ智宏だけだ。
「智宏さん、敵機の死角へ回り込みます」
 凛の声ではっとする。
 その事実があれ、少なくとも「今は」協力関係にある。知っている以上、絶対にクルキアータに誤射するような事態があってはならない。
 そのため、二挺のライフルの狙いはしっかりと定める。同一軸上で、左右のトリガーは数瞬の差をつけて引く。
 軌道逸らし対策の意味もあるが、今回の敵はその技術をもっていないようだ。
 こちらに注意を向けた機体に対し、【セレーネ・ヘプトゥス】がスナイパーライフルで狙撃を行うことで、確実にダメージを与えていく。
 既に、F.R.A.Gとの連携で第一陣の大半は墜としている。だが、ここからが本当の戦いだった。
『F.R.A.G各位、および天御柱学院各機へ。敵の本隊が出てくるぞ』
 地上の基地から次々と上空へ向かってシュバルツ・フリーゲとシュメッターリンクが出てくる。
『我々は基地を直接叩く。上空の部隊は任せる』
 F.R.A.Gの八機が地上への攻撃を開始した。
 こちらはこちらで、彼らの突入がスムーズに行くように援護する。F.R.A.Gよりわずかに前に出て、ビームライフルで本隊を崩す。
「その防御は崩せます!」
 上昇してくる敵機の、武器を持っていない手の側に回りこみ、本隊の連携を崩す。
 F.R.A.Gがそこへ近付いてきたら、誤射を避けるためにも一旦離脱。
『あとは頼む』
 百機以上の寺院イコンがいくつかのグループに分断される。クルキアータは低高度の機体との交戦に入った。
 
 この状況は、むしろ好都合だった。高高度で戦っている限り、よほどのことがなければF.R.A.Gを誤射する心配はない。
(数は多いけど、これまでの敵ほど強くない)
 【セレナイト】の端守 秋穂は射撃支援を受け、ビームランスを構えて敵機との戦闘に臨む。
 リーチがビームサーベルより長いとはいえ、近付くまでは実弾式のアサルトライフルで牽制を行う。
(ユメミ、後衛の射線に誘導するよ)
(うん、わかったー)
 数が多いとなれば、撹乱のやり方次第でまとめて墜とすことも可能だ。
 機動力を生かして、機関銃の射程ギリギリをキープする。また、味方の射程範囲はユメミがレーダーを見て確認する。
(ユメミ、合わせて!)
(合わせ、了解ー)
 ここで撹乱するため、一時的に『覚醒』を行う。
(セレナイトも合わせて、一つに……行きます!)
 リスクも考え、瞬間的なものだ。
 機関銃の弾幕の間を潜り抜け、ビームランスで薙ぎ、すぐに離脱する。そして覚醒を解く。
 その一挙動を敵は追いきれていなかったらしく、慌てたように【セレナイト】へと銃口を向ける。
 だが、もう遅かった。
 後衛の【ズルカルナイン】による大型ビームキャノンからの砲撃に二機が飲み込まれ、別の二機は【セレーネ・ヘプトゥス】による狙撃で機関銃を持つ右腕と頭部センサーを破壊された。
 その隙をついて、再び【セレナイト】が距離を詰め、ビームランスでフローターを破壊する。
 一小隊分の敵機を撃破したものの、すぐに別の敵が攻めてくる。
 同じ要領で、後方からの射撃支援を受け、接近戦で斬り払う。もちろん、前衛だからといって突出し過ぎないように注意して。
 引く際はコームラントの援護を受ける。トリガーを引くイスカがシャープシューターで狙いを定めている分、後衛は頼りになる存在だ。
 連携を密に取ることで、敵の数を徐々に減らしていく。
 しかし、いくら錬度が低い相手とはいえ、海京決戦のときよりも敵は多い。一瞬の気の緩みが命取りになりかねない。
 そのため、周囲の状況に気を配りつつ、独断で踏み込むようなことはなるべく避ける。
 下方で戦闘を行っているF.R.A.Gのクルキアータを一瞬見る。
 向こうも向こうで連携を取って戦っているが、単機で敵の一個小隊分の戦力を削ぐその強さには驚かされる。
 今回は共闘だからいいものの、彼らは反シャンバラ勢力だ。敵対することになったら、相当厄介な相手になるだろう。
(最悪の事態だけは避けないといけませんね)
 今後も仲良くしていければそれに越したことはない。それも、おそらくこの戦いの結果にかかっているのだろう。